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Godspeed 星継ぎ物語 勇者のつもりだったのに編  作者: まとあし
勇者のつもりだったのに
4/15

謁見

陛下の謁見の前に着替えを行った。


今のフランギル王国王都は暑くもなく寒くもない気温だ。王都は王国内でも一番過ごしやすい地域に建てられており湿気もなく窓から穏やかな風が入ってきてとても過ごしやすい。


俺たちは男女に別れ、着替えが用意された部屋に向かった。

まずは用意されていた絹の下着を身に着け、上に厚手で丈夫な木綿の白いシャツと茶系のズボンを履いた。更にシャツの上に革製の上着を羽織った。革は良く鞣されており動きを邪魔することがない。この上着は特別に耐久性の高い魔物の革で作られているそうだ。

あとはブーツを履き着替えは完成だ。

この他に帽子と手袋、背負いのバック、腰に巻くポーチ、水筒、小型ナイフなども後から渡されるそうだ。剣や杖、本格的な防具などは学園に用意されているらしい。


それにしても過ごしやすい気候だ。春なのかもしれない。

上着を着ると少し暑いが、汗が出てくるほどでもないので我慢できる。



全員が着がえ終わるころ、謁見の手順の説明を受けた。


1.謁見の間に入り、陛下の前に横3列で並ぶ。陛下の前では顔を上げてはいけない。

2.陛下から依頼の言葉を掛けられる。

3.言葉が終わったら、跪く。

4.前列左から順次返礼の言葉を述べるように。

5.再度、陛下からお言葉がある。

6.言葉が終わったら、「ははっ!」と短く返事をする。

7.立ち上がり退席する。


陛下への返礼の言葉を書いたカンニングペーパーもその時にジレス司教から貰った。


なになに……まずは片膝をつく。

右手は胸の前に。

視線は膝に。


返礼は、少し顔を上げ陛下の足元を見ながら述べる。顔を見てはならないと。


『ミノル・サトウです。

 招きに応じ(さん)じました。

 フランギル王に忠誠を誓い、

 フランギル王の剣となり魔王を倒してご覧にいれます』と。


王国だけあって王に忠誠を誓わないといけないのか。ちょっと納得がいかないけど儀式であれば仕方ないのかな……。異論を唱える勇気もないし。


そしてまた視線は膝にと。


難しくはない。

型通りの形式的なお目通りなので緊張する必要もないとのことだ。


とりあえず、言われた通りに。

でも、謁見の想像をしていたら、早くも緊張してきた……部屋を出るのが一番遅くなっちゃったし。



謁見に剣などを持って行くことは無いので、手ぶらで謁見の間に向かう。

返礼の言葉を反復して口になじませる。



「勇者さまご一行、ただいま到着いたしました」

案内役から、先ぶれが発せられる。



謁見の間に「王」である陛下が居た。


小太りの体型を想像していたのだが。 見るからに精悍な王だな。

座らず立ち上がって、おれたち勇者を待ってくれたようだ。


先ぶれが行われたのでその時に立ち上がったのか。それでも、立ち上がって迎えられるとは、勇者はそれほど大切にされているのか。


謁見の間には多くの人が居る。

大臣や文官らしき人たち。

将軍や近衛兵といった人たち。

王妃様などの女性は見当たらない。


多い。ざっと見ても100人ほど居るようだ。

勇者への期待からか、みな食い入るようにこちらを見ている。


すごい人数だ。こんなに注目されてしまうと、緊張で頭が真っ白になる。うまく言葉を述べられるか自信がなくなるよ。



「勇者諸君!

 よくぞ招きに応じられた。朕は嬉しく思う。協力をお願いする」


最後に列に並んだおれは、慌てて片膝を付く。


「ジェノス・ハイ殿!」

宰相らしき人物から声が掛かる。


一人目が答える。

「ジェノス・ハイです。

 招きに応じ(さん)じました。

 フランギル王に忠誠を誓い、

 フランギル王の剣となり魔王を倒してご覧にいれます」


始まった。注目を浴びながら上手くできるか心配だ。心の中で何度も口上を繰り返して練習しておこう。


並んだ順番に声が掛かる。


「ミノル・サトウ殿!」

いよいよおれの番だ。

(『ミノル! 応えちゃダメ!』)

いきなり頭の中に響く声。隣のメアリが目を見開いてこちらを見ている。何が何だかわからない。さっきの声はなんだ?


誰も言葉も物音も発しない。

とても静かだ。


やばい……。


「勇者ミノル・サトウ殿、返礼を述べられよ」

陛下の近くの誰かから声が掛かった。


(『ダメだ!』)

まただ。切羽詰まっている声の感じだ。どうしよう。返事をしなくて大変なことになっても困る。


「陛下、お恐れながら、ミノル・サトウはどうやら気が動転していてうまく答えられないようです」

ジレス司教が救いの手を差し伸べてくれた。

宰相から陛下に耳打ちをしている。

「そうか、勇者といえど気が動転することもあろう。

 さしずめ沈黙のミノルと呼ぶことにしよう。ハハハ!

 勇者ミノルよ、良い良い、気にする出ないぞ」


本来なら大変なことになるのだろうが、勇者ということでお咎めなしのようだ。しかし、変な二つ名が付いてしまった。皆の注目も浴びてしまったが、とりえず大事にならずに良かった。

しかし、あの声はいったい?



「勇者諸君。期待をしているぞ。

 精進せよ!」


「「「ははっ!」」」


陛下の言葉とともに、大きな拍手を受けた。

それを合図にジレス司教から促され、謁見の間を後にした。



おれは歩きながら、何が起こったのかを考える。

いきなり頭に中に響いたあの声。あれは陛下への応答の邪魔をしたかったんだよな?他の人には聞こえてなかったようだし。

しかしあのおれの対応は……みんなにどう思われたのか。不安だ。


おれはどんな態度を取れば良いのかわからない。顔も顔を上げられず俯いたままだ。


しかも、やはりと言うか、誰も声を掛けてこない。

勇者仲間にも王城や教会の人々にも最低の評価を受けただろう。


あー、どうしよう。あの声のせいだよ。もー、おれのせいじゃないのになぁ。

おれはどうすれば良いのかわからない不安のまま廊下をみんなの後について歩いた。


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