召喚される
地球を離れたおれは、一瞬、ほんの一瞬だけ意識が途切れたように感じた。
どうやら仰向けで寝ているようだ。
異世界に召喚されて来たことは理解できているし、意識もしっかりしている。
先ほど立てた誓いも忘れていない。
手足の感覚を試しつつ周りを見渡すと、石造りの教会の壮大な吹き抜けと、ステンドグラス、壁画が見える。
中世ヨーロッパ……転生に付きものの世界観の想像通りのものだった。
起き上がろうとすると「そのまま、そのまま」と声を掛けられた。
聞きなれない言葉もスムーズに理解できる。
神様に貰った知識は完全におれのものになっているようで、パニックにならずに済みそうだ。
先ほど声を掛けてくれた人が、にっこり笑いかけてくれている。
おれも笑顔を返した。
無理に起き上がる理由もないので、仰向けのまましばらくこれからのおれの活躍の空想にふける。
まずは力を付けること。
魔王を倒すことができる力量がどの程度なのか、今は全く想像できない。
でも、剣と魔法で倒すのことはわかる。
であれば、体を鍛え、剣技と魔法を磨く。
剣でさらに大ダメージを与えるために、魔法を剣に乗せるのも有効だろう。
回復魔法も欲しい。
うん、魔力の増大と魔力制御も鍛えなければ。
苦しいであろう修行を経て、立派な勇者になったおれが想像できる。
剣を振り上げ、魔王と対峙する。
カッコいいおれ・・・顔が思わずニヤケてくるのがわかる。
にやけを我慢する、しかし、魔王を倒し英雄として凱旋するさまも想像してしまうと、ダメだニヤケが止まらない。
上から覗き込まないで……ニヤケ顔を見られたら恥ずかしいよ。
そんな妄想をしていると「ゆっくり起き上がってください」と、声を掛けられた。
先ほどから声を掛けてくれたのは神官と思われる。
背中を支え起き上がるのを手伝ってくれた。
周りを見ると、おれと同じく召喚された勇者達が見えた。
子供だ。
全員子供のようだ。
手術着のような格好だ。
続いて、「大丈夫ですか? 立ち上がれますか?」と聞かれた。
どこにも違和感が無かったので「はい」と答え、立ち上がり我が手や足を見る。
おれも他の勇者同様に子供だった。
前世の記憶はそのままあるので、体のみ若返ったようだ。
いや、きっと若返っただけでなく頑強にもなっているのだろう。
子供の体だが、手足を動かすと今までにないパワーを感じる……いや、気がするだけなのだが。
全力で走っても、脳と体のギャップでこけてしまうこともきっと無いのであろう。召喚とは、そして神様とはすごいものだと思ってしまう。
「勇者の皆様、ようこそ我がフランギル王国へ。
皆様を歓迎いたします。
そして、どうぞ我が世界をお救いください。
お願いいたします。」
良く通る大きな声の歓待の言葉が聞こえた。
「今回も滞りなく勇者召喚が出来た。喜ばしいことだ。」
「これで平和な世界が維持される。神に感謝を。」
「神のご加護を。」
周りを取り巻く神官達から安堵と喜びの声が聞こえる。
おれもひと安心だ。神様のことは信じていたが、小心者のおれは実はとても心配していたのだ。
「よかった。。。」
ボソッとつぶやいてしまう。
先ほど立ち上がるのを手伝ってくれた神官から「こちらへどうぞ」と先へ進む案内をされた。
他の勇者たちも案内の指示に従って進み始めている。
召喚は無事に済んだ。
おれの体も頭も問題ない。
これからのスケジュールがわからないので若干の不安があるが、本当に勇者として召喚されという事実に胸が躍る。
「はい」と力強く返事をして、おれも歩き出した。
どこに行くのか、ちょっとは教えてくれると嬉しいのになぁ。と思いつつ皆に付いていった。