検出できず
前回の続き。
若い刑事は大統領官邸に急行して、
戦没者追悼式の当日に大統領が身に着けていた
ワイシャツ、背広、ハンカチ、スラックスを確保した。
大統領の健康状態について秘書官に聞いたところ、
「問題はまったくなかったと思います。
あの方は陸軍に在籍していた頃にオリンピックに出て、5位になっています。
走りながらハードルを飛ぶレースですね。
それから陸軍でスピード出世して、陸上競技からは離れたようです。
この官邸にはトレーニングルームがあり、
大統領は毎日使っていました。
ランニング、縄跳び、重量あげなどで汗を流していました。
私も業務命令で付き合わされたことがありましたが、
すぐバテてしまい、しかられてばかりいました」
刑事はクルマに戻り、警察本部鑑識課に電話した。
「これからブツを持って行く。すぐにやってくれ。
きょうはそれが終わるまで帰るな」
鑑識課では全力を尽くしたが、
ハンカチと、背広右下のポケット内部に、
「何かの液体がしみた跡」を発見。
ただし、それ以上は進まなかった。
「追悼式の直後だと、具体的な物質まで検出できた可能性はありますが、
ハンカチもポケットも体温で乾いてしまい、しみた跡だけを検出するのがやっとでした」
警部は警察犬訓練所に電話した。