96話 クレアさんと行く、嬉し恥ずかしダンジョン旅行 なんかのポロリもあるよ②
クレアさんと一緒にダンジョンの2階を歩く事、1時間半、ようやく3階へ続く通路まで来る。
いつものペースよりは大分遅く、かなり時間かかっている。その為、ここは休まずに一気に行きたい。
行きたいところだが、やはりクレアさんが辛そうだ。
また休憩を取る事にする。
今度も長めの休憩だ。この分だといつもより1時間、へたをしたら2時間くらい余計にかかってしまうかもしれない。
まあ、しょうがないか。今は4階で泊る事も出来るんだし、前みたいに狩りの時間が大幅になくなるわけでもない。気長に行こう。
良し、休憩も大分、長くとったし次にいきますか。
そう思い、出発しようとする。
しかしクレアさんの様子がおかしい。立ち上がり何とか歩こうとするが、凄くゆっくりだ。
なんか足を凄く気にしている。なんだろう何かあったのかも。
「クレアさん大丈夫ですか?何かありました?」
「いえ。何でもないです。大丈夫です」
うーん大丈夫じゃなさそうなんだよな。良しサチ隊員行け。クレアさんの秘密を暴け。
そう目で合図をする。サチは近づいていくとおもむろにクレアさんの足首や足を触る。
「きゃっ、サチちゃんそこは駄目」
そういって足元のサチを何とかしようとするが、そのまま力なく座りこんでしまう。
サチのお触りがどこかにクリーンヒットしたのかもしれない。
「クレアさんどうしたんですか。怪我ですか?」
「・・・実は――」
クレアさんが観念したのか事情を話してくれる。
どうやら足に出来た血豆が潰れたらしい。我慢して歩いてはいたが痛みがかなりひどくなっているとのこと。
なるほどね。そういうことね。
「クレアさんこれを使ってください。飲むのでもいいし、直接かけるのでもいいです」
荷物から回復薬を取り出して、クレアさんに渡す。
最初は遠慮していたクレアさんだが強引に受け取らせ使わせる。
本当は俺が「足を見せてごらん」とか言って靴を脱がせて強引に回復薬をかけるみたいなモテ男ムーブをしたかったんだが、まあ出来るはずないよね。
普通にクレアさんが自分で靴を脱いで回復薬をつけている。
ちらっと見えた感じだとかなり痛そうな感じで豆がいくつも潰れていた。
回復薬を使ったといってもそんなに直ぐに治るものでもないので、今は少し良くなるまでまた待ち状態だ。
なんかクレアさんがさっきからずっと下を向いたままだ。なんだろう?お腹でも空いたのかな。
「どうしたんですか?」
思い切って聞いてみる。
「・・・いえ、私って何も出来てないのに足を引っ張っているなと」
そっちね。そういうやつね。どうやって返していいか分からない。返し方、返し方、ちょっと笑いが起きるくらいの返し方。降りて来い。来た!!
「そうですね。足怪我してますし。足で足を引っ張る。なんちゃって」
「・・・・・・・・・」
滑った。うまい事言えたと思ったのに。ウィットに富んだアカデミックな笑いを提供できたと思ったのに。滑った上にますますクレアさんを落ち込ませてしまった。そういうとこだぞ俺。
「大丈夫ですよ。これは足手まといが居ても問題なくダンジョンに入れるかのテストですし」
「・・・すみません。冒険者の事なんて、ダンジョンの事なんて何も知らないのに、生意気な事を言ってしまって」
やばい、雰囲気を和ませようとフォローすればするほど、落ち込ませてしまう。だからそういう所だっていっただろ。うるせえ、そんな直ぐに出来るかよ。
完全に会話が途切れてしまった。気まずい沈黙が流れる。雰囲気、最悪。
どうしよう。どうしよう。誰か、こんな状況でうまく場が明るくなるような話題、そんな話題はいないのか。
何処にもないぞ!!
何も思いつかなったので違う事を考えて時間つぶそ。
しかし普段からずっと立ち仕事をしているようなクレアさんでも、慣れないダンジョンで歩いているとこうなってしまうのか。
でもサチは別に普通に大丈夫だったよな。かなり疲れてはいたがあんな感じで足を痛めるような事はなかった。
そう思いサチを見て気が付く。ああそうか、サチには再生を付けてたんだった。だから何ともなかったのか。なるほどね。
じゃあ、クレアさんにも付けるか。そのうち大丈夫になるとは思うけど、何度もあんな感じになるのは可哀想だしな。とりあえず『再生』を1.0くらい付ければ大丈夫だろう。
あとは、ついでだし『抗病魔』を1.0くらい付けておくか。病気は怖いからな。
「クレアさんちょっといいですか?」
「・・・はい、なんでしょう」
「籠手を取って貰ってもらえますか」
「?これでいいですか」
クレアさんは不思議がりながらも籠手を外す。
「じゃあ、次に手を差し出してもらっていいですか」
「分かりました」
そういってクレアさんがおずおずと手を差し出してくる。
俺は右手に『再生』4.0のスキル石と『抗病魔』2.0のスキル石を右手に握り込む。この2つがあれば両方とも1.0のスキルが付くはずだ。
スキルを付けようとクレアさんの手に触れようとした。その刹那。
「きゃっ」
クレアさんが手を引っ込めてしまう。それどころか大きく後ろに飛びずさって距離を取られてしまった。
くっ、そのリアクションは俺に効く。手に触れるのも嫌ですか。近づかれたくないですか。そうですか。
嫌、挫けるな。ここは押す所だ。こっちには医療行為という大義名分があるのだ。合法的に女性の手にお触りすることが出来るのだ。今を逃すな。明日に逃げるな。今を生きろ。
「だ、大丈夫です。変な事はしません。ただスキルを・・・じゃなかった。何と言うか医療行為というか・・・そう、おまじないです。足が丈夫になるおまじないがあるのです。これをすれば、もう何も怖くない」
何か、テンパり過ぎて変な事、口走ってる気がする。だがもう遅い、この医療行為的おまじないで通すしかない。通らばリーチ。
「・・・おまじないですか」
「そうです。何にでも効くおまじないです。これをすれば無病息災、家内安全、良縁成就、悪霊退散です。副作用なしのとっても健康的なおまじないです。本当に怪しくありません。大丈夫!ワタルのおまじないだよ!」
やばい、喋れば喋るほど意味分からなくなってきた。何だよ良縁成就って。彼女出来るなら俺にしてくれよ。俺によ。
「ワタルさんはその・・・私の事というか・・・これについてはどう思いますか?」
そう言ってクレアさんが自分の顔を指さす。その先にはクレアさんがいつも付けている仮面がある。
仮面。仮面かあ。まあいいとは思う。人の趣味はそれぞれだし、そういう仮面とか、しかも片方しかないような奴に憧れるという事は分からなくもない。そういう趣味があるという事も理解している。
だから俺はその人が厨二病の罹患であるとしても指をさして笑わないだろう。何故なら俺もその昔、罹っていたから。そしてそれはまだ根治してはいないから。
ただ人生の先輩としての言えることはある。
「そうですね。格好いいですよね。いいと思います。」
それは、否定しない事だ。
この病気のだいたいの患者は反骨心がある。少数派でいる事になれているといってもいい。
だから否定されると、頑なになったり、逆に俺にしか分からないものを好きな俺格好いいとなって、病気のやばい状態が長引いたりする。
だから、否定しない。大まかに肯定する。
「いや・・・そうじゃなくて、仮面のしたというか、傷というか・・・」
2段構えの方でしたか。話したがりの方でしたか。
これはかなり本格的なやり口だ。仮面を付けて奇をてらう。そしてそれに食いついた瞬間に本命の傷の話をする。こういった手の込んだ事をするタイプは必ずストーリーを作っているものだ。何故、傷があるのか。誰それとの因縁とか前世の記憶とか世界の選択とかそういう奴だ。
こういった輩の一番いい対処方法はこれだ。
「まあ、そういう事もありますよね。そうだ喉渇いてないですか?」
ふんわりと誤魔化す。そしてその話に触れないだ。
この手のストーリーはとにかく長い、うんざりするくらい長い。ソースは俺、ノート1冊丸まる使って書いた物語。今はもう燃やしたアレだよ。
あの手の物語は語っている本人は楽しいが、聞いている方は専門用語連発で何言っているか分からないから凄い大変だ、ととある方が申しておりました。
とにかく、この手の物語は聞きたくない。
聞きたくはないのだが相手は語りたい。今、目の前にいる方は小道具の仮面まで用意して、しかもその仮面を常時付けてまでこの物語を語りたいのだ。
それは絶対に阻止しなくてはならない。だから誤魔化すしかない。決して興味がある素振りを見せてはいけない。食いつかれるぞ。
「お水は大丈夫です。さっき貰いましたし、それであの・・・」
「大丈夫ですか。それは良かった」
「・・・・・・・・・」
お、クレアさんが黙った。これは勝ったか?
しかし、俺程度のコミュニケーション能力に後れを取るとは、この物語は一生披露できないだろうな。
「すみません。ワタルさんもこんな話したくないですよね」
しまった。最終兵器、同情を誘うパターンだ。
これはまずい。「そんな事を無いですよ」と言えば話は始まるし。「はい、興味ないです」とはっきり言えば最悪の空気になってしまう。
そんな絶望的な空気の中、この先一緒に行動していくのは大変難しい。
コミュニケーション能力が高ければ、その後にも相手の気分を徐々に上げていくような話題を振って気分を少しずつ盛り上げていく事が出来るのだろうが。俺には無理だ。
絶対に気まずい空気の中、何も言えずにずっと過ごすだけになるに決まっている。
大ピンチだ。どうすればいいんだ。
やはり俺ごときのコミュニケーション能力ではこの危機を回避することはできないのか。
そうやって俺が悩んで一言も発せないでいると、サチがクレアさんに近づいていき仮面をなでるように触る。
そして仮面を撫で終わると、そのままクレアさんの手を両手で包み込む。
「だいじょうぶ。おまじない。すごい」
そう、クレアさんに言った。
サチが突然、喋りだしたので俺もクレアさんもビックリしてサチの事を見る。
サチが話しているのを見るのはこれで2度目だ。
1度目の時は喉が治ってなかったのか、ひどくしゃがれた声だった。
でも今度のは少しハスキーだったけど、凄くきれいな声だった。
良かった。もう喉は治っていたんだね。全然、話してくれないから治らないじゃないかとずっと心配してたんだ。
でも良かった。本当に良かった。
少し涙ぐんでいると、サチが俺の手を握ってくる。
片方はクレアさんの手を握ったままなので、さっきのように思いっきり手を伸ばして引っ張られている子供のような体勢になっている。
「クレアさんそっちに行ってもいいですか?これだとサチが大変です」
「・・・はい」
その言葉を聞いて一歩、二歩と近づいていく。
段々、近づいて行ってサチの腕も全く延ばさなくて良くなった。
それどころか、既にサチの手によって俺の手とクレアさんの手が振れている。
触れた瞬間、クレアさんは一瞬ビクッとしたがさっきのように悲鳴を上げず、そのまま手がふれたままでいてくれた。
「じゃあ、クレアさん。おまじないしますね」
そう言って、クレアさんの返事を聞かないまま、クレアさんの手に触れそのまま両方の手で包み込む。
そしてそのまま右手に握り込んでいたスキル石をクレアさんに入れる。
一瞬、クレアさんがビクッとしたが、そのまま手を握られた状態でいてくれる。
クレアさんのスキルを見るとちゃんと『再生』と『抗病魔』がそれぞれ1.0になっているのを確認した。
良し、ミッションコンプリート。
いやあ、それにしてもクレアさんの手はスベスベして柔らかくて気持ちいいな。最高かよ。
「・・・あのいつまでかかるのでしょうか?」
しばらく、クレアさんの手の感触を楽しんでいたらそんな事を言われてしまった。しまった剥がしが来ないからじっくり堪能してしまった。
「すみません。もう終わってます。直ぐ離れます」
そう言って飛びのく。
クレアさんはさっきまで俺が触れていた手をじっと見ている。
じゃあ、俺も自分の手をじっと見よう。感触よ、温もりよ、甦れ。
そんな事をしてたらサチが俺の手を握ってきた。
おお、今回のMVPのサチさんじゃないか。ありがたや。ありがたや。
サチの手もにぎにぎしておく。
いやあそれにしても良かった。最初はどうなるかと思ったが結果は大成功だ。
サチの声も聞けたし、クレアさんの手は握れるし、何より長大な物語を聞かずうやむやに出来た。
これも全てうちの天使のおかげだ。有難うサチ。これからもよろしくお願いします。
よし、大分長い休憩になってしまったがそろそろ行きますか。
このまま休憩し続けると4階に着けないかもしれないし、何よりクレアさんが傷物語を思い出してしまうかもしれない。
と言う訳で立ち上がり、皆を促して歩き出す。
クレアさんも回復薬が効いたのか足を痛がる素振りはない。
後は『再生』が仕事をして再発しないことを願うばかりだ。
こうして長い休憩を終え、改めて4階へと続く通路を目指すのであった。




