95話 クレアさんと行く、嬉し恥ずかしダンジョン旅行 なんかのポロリもあるよ①
クレアさんの準備は怪しいが、こっちの準備は万端なのでダンジョンに行きますか。
と言いたいところだが、いくつかやらなきゃいけない事がある。
まずは回復薬を売るために薬屋に行こう。
「じゃあそろそろ行きますけど、クレアさん大丈夫ですか?」
「・・・はい。大丈夫です」
大分小さい声だがこっちの呼びかけにも答えてくれるようになった。これで以前のようにろくに話せないような状態だったらかなりまずい事になってたと思うが、これならまだ大丈夫かな。
じゃあ、出発。
そうして、お屋敷を出て薬屋に行く。
出るとき、クレアさんが何か言いかけたが結局何も言わずについて来る。
俺達の集団の中というよりか、ちょっと後ろの方からついて来る形だ。
街の中なら別段、問題ないがダンジョン内だと少し離れているだけで、何かあった時に対処できなくなってしまうのでこの形は良くない。
と言う訳でサチ隊員、君に任務を与えよう。
サチに耳打ちをして任務を与える。任務内容を聞いたサチは一回頷くと、クレアさんの方に近づいて行って手を差し出す。手を繋ごうという意思表示だ。
クレアさんは驚きながらもすぐさまサチの手を掴んでがっちり手をつないだ。
クレアさんはそれはそれは見事な笑顔だ。サチと手をつなぐことが嬉しいらしい。
良し、作戦の第1段階成功だな。
第2フェーズに以降せよ。サチに目で合図をする。
サチはもう一度、頷くと強引に手を引いてクレアさんを俺達の一団の中に引っ張ってくる。
クレアさんは少し抵抗したが、すぐに諦めて手を引かれるままこちらに来た。
流石、サチ隊員。見事、ミッションコンプリートだな。
そう思っているとサチはそのままクレアさんを引っ張って俺の隣まで来る。そして開いている方の手を俺に差し出してきた。
俺にも手を繋げという事か。まあいいか、見事任務を達成したサチ隊員に報酬をあげなきゃな。
そう思いサチの手を握る。サチは俺とクレアさんに挟まれて手を繋いている状態だ。捕まった宇宙人状態といってもいい。
さあ、これで行きますかと歩き出したところクレアさんがなかなか歩き出さない。
俺が何歩か歩き出した後に歩き出す。どうやら俺と距離を取りたいらしい。
もしかしたら嫌われているのでは?とは思っていたが、ここまで露骨にやられるとかなり傷つく。
しかし人間どうしても嫌という事はある。距離を取りたいのはしょうがない。
でもクレアさんが距離を取ろうとするせいで真ん中のサチの手が伸びきって両方から引っ張られるような状態になっている。完全に子供を取り合っている親状態だ。
離した方が勝ちだな。そう思い、サチの手を離そうとするが、サチが頑なに手を離さない。
しょうがないのでこのまま歩いてみる。サチは完全に横を向いて両手を広げなら横歩きの状態だ。これはあれだ、ダブルラリアットをしている最中に丁度いいタイミングでポーズボタンを押して正面を向いたままのロシア人の体勢だ。
そんな事を考えたら少し面白くなってきた。
じゃなかった。この体勢はいくら何でもサチが辛すぎるだろう。
「クレアさんもう少しこっちに来ないと、サチが・・・」
「・・・はい。すみません」
そう言ってクレアさんは少しこっちに寄ってくる。
これでサチの体勢もずいぶん楽になった。横向きの宇宙人くらいにはなった。
「クレアさん横に来ないとサチが大変です」
更にクレアさんに注文を付ける。
「・・・はい」
そう言ってクレアさんは意を決したのか俺の横に並んでくる。
横にはなったが、相変わらずクレアさんは俺に近づきたくないのか自分の手を目いっぱい広げて距離を取ろうとしている。
それでもいい。距離はそれなりに離れていてピッタリ横とはならないがそれでも今まで一番、クレアさんに近づいた。
それにこれはあれだ。この形は完全に買い物帰りで子供を連れて歩く夫婦の図だ。
恋人をすっ飛ばして夫婦の関係まで進んでしまった。皆すまんな。幸せ、掴んじまったよ。
そんな事を考えながら歩いていたら、薬屋に着いた。
皆には表で待っていて貰って、自分だけ中に入り回復薬を売る。
売るときに店主のおばあさんに一日来なかった事を軽く叱られた。
叱られはしたが軽くだったので泣きそうになるだけで済んだ。良かった。致命傷で済んだぜ。
次に冒険者ギルドの販売店に行く。
目的はクレアさんの防具を貸してもらうためだ。
流石に完全にメイド服だけだと何かあった時に困るから、レンタルしている革の防具を装備してもらおう。
店員さんにクレアさんの為の革装備一式を出してもらう。
この汚い革装備は数だけはあるからすぐに用意してもらえた。
「クレアさん、服の上からでいいのでこれを装備してください」
「分かりました。あ、これ皆さんとおそろいのデザインなんですね」
「そうです。皆、ここで買いました」
「なるほど」
そう言ってクレアさんが革装備一式を受け取る。
そこで何かに気が付いたのかサチがニヤッと邪悪な笑みをこぼしたかと思うと、クレアさんに革の装備を指さして匂いを嗅ぐようにジェスチャーをしている。
どうやらクレアさんに匂いをかがせたいらしい。革装備くさいもんな。昔、不意打ちで匂いを嗅いで臭かったからクレアさんにもお見舞いしたいらしい。
しかしどう見てもボロボロで臭そうな革の防具だ。普通は嗅がないだろう。サチのは新品だったから油断してただけで、ここまで使い込んでいるとさすがに。
「くさぃ。なんですかこれ。凄く、くさいです。」
嗅いでた。やっぱクレアさんってどっかずれてる。
サチは匂いにやられているクレアさんを見て大喜びだ。手を叩いて喜んでいる。
「ちょっとサチちゃん。知ってたの?知ってて嗅げってやったの?ひどいよ」
それを見たクレアさんはサチに抗議をしている。
サチ、なんかクレアさんと仲いいね。ちょっとジェラる。
そんなひと悶着ありつつ、クレアさんは革装備を一式装備する。
「よし、サイズは問題ないね。なら10日で10000だ。最低でも10日から。で何日借りる?」
「えっ、お金必要なんですか?」
「そりゃそうだろ。で何日借りる?」
「お金は・・・持ってきてないです」
「クレアさんお金は僕がだしますよ。10日でお願いします。」
そう言って、10000ディールを店員さんに払う。
支払いは俺に任せろ。バリバリ。バリバリ。バリバリ払うぜ。
「ワタルさんすみません。ダンジョンに行くって聞いてたのでお金は要らないかと」
なるほど、ダンジョンにはお金は必要ないよな。
「いいえ、大丈夫ですよ。元々僕が言い出した事ですし」
「駄目です。帰ったらちゃんとお支払いしますから」
そんな、感じでどっちが払うかひと悶着あり、結局帰ってくるまで俺が立て替える事になった。
なんかこのどっちが払うかのやり取りがデートみたいでいい。皆すまんな。デート気分、味わっちまったよ。
良し、本当に準備も終わったのでいよいよダンジョンに入ろう。
早速、ダンジョンの入り口から中に入っていく。
入り口を入る際には、そこで待機している顔なじみの冒険者に「また別の女を連れているのか」とか「よ、色男」なんてヤジられた。
少し、恥ずかしかったが悪い気はしない。むしろいい。いいぞもっと言ってくれ。なんか本当にモテてる気になるじゃないか。
そんな感じでダンジョンに入った後は、普通だ。
普通にダンジョンの1階を最短で通って2階へと続く通路に行く。大体1時間くらいで着く。何時もと同じペースだ。
ただいつもと違ったのはここで、休憩を入れた事だ。
クレアさんがかなり疲れていたため、ここで休憩を入れた。
ダンジョンは足場は悪いし、坂もあるから普通に歩くよりかなりきつい。慣れないと直ぐ疲れてしまう。
そういった意味ではクレアさんが疲れてしまうのも無理はない。
そういえば、サチを連れてダンジョンに入りたての頃は、サチがすぐに疲れてしまうので結構休憩を取っていたことを思い出した。
全然、意識してなかったけど、いつのまにかサチと一緒に居てもそれまで通りのペースで移動できるようになってたな。
気が付かないうちにサチも成長していたらしい。やるじゃん。
それなりに休憩したら移動を再開する。
寄り道なしで2階から3階へと続く通路へ向かう。
1階では出て来る魔物を全て無視して、全く戦闘せずに来たが2階からは違う。やつらがいるからだ。敵と見れば誰彼構わず喧嘩を吹っかけて来る魔物、そうゴブリンだ。
敵のゴブリン達だけは無視することができないので迎撃していく。とはいっても相手はかなり弱いのでうちのゴブリン達が出会い頭に倒していって終わりだ。
死体の処理もちゃちゃっとギンにやってもらい一瞬で埋めてもらう。
皆、慣れたもので完全に流れ作業でかなりの速度で出来る。ほとんど立ち止まっている時間はないんじゃないかと思うほど早い。
これが毎日、毎日ダンジョンに潜っている事の成果の一つだ。
どうですかクレアさんこれが俺達のチームワークです。クレアさんを見ながらドヤる。もちろん声にはださない。だが渾身のドヤだ。気づいてください、このチームワーク。褒めて下さい。このチームワーク。言わないけど。
しかし、どうもクレアさんのリアクションは薄い。全然、キャー素敵にならないし、全く褒める素振りもない。逆にちょっと引いている感もある。
何だろうか。ゴブリン達が叫びながら近づいていくのが良くないのだろうか?それとも1匹の敵に対して3匹で滅多刺しにしているのが悪いのだろうか?勢いあまってお腹を裂いて内臓とかがポロリしているのがいけないのだろうか?それともそのポロリした内臓を嬉々としてつまみ食いをしているのがいけないのだろうか?
うん、よく考えればゴブリン達の戦い方はやばいな、下品だな。レディでなくても普通にドン引きだわ。俺の感覚がマヒしすぎてた。
しかし大丈夫、まだあきらめる時間じゃない。こんなのは序の口だ。本命は他にある。
そう強い魔法戦士ワタルこと、俺は戦って無いのだ。俺の強く華麗な戦いを見ればクレアさんもキャー素敵モードになるだろう。きっとそうに違いない。そうであれ。
そんな事を妄想しながらダンジョンの4階を目指して歩くのであった。




