88話 決意
亀を安定的に狩りだしてから10日経った。
今日も俺は亀を狩る。というかもう狩った。
最初は超高難易度ボスかと思ったが今じゃただの作業だ。おびき寄せて、一回攻撃をかわして、薬品かけたら後はメイスでボコるだけ。簡単なお仕事だ。
簡単すぎるのが逆に良くない。ぶっちゃけ飽きた。この作業は単調で簡単すぎるのでもう飽きました。
ドロップ品もそんなに美味しくなくなってるし、やる気が全然上がらない。モチベーション駄々下がりなのである。
そりゃ最初は『水魔術』も上がるし甲羅の素材は売れるしでうっはうっはのボロ儲けでしたよ。
甲羅なんて1000万とかいう破格な値段がついたもんだから、つい目立たずの誓いを破って2回目の回収してもらったら、買取価格が一気に500万まで大暴落してたよ。しまいには当分の間は買い取れないからなみたいな事言われるし、そんなのってある?
あっ、甲羅で思い出した。解体料に40万も払って甲羅の一部を受け取ったのにその後きちんと処理しないと媒体として使えないとか言われた。しょうがないから加工費を払って加工して貰ったけど30万もしたうえに「解体料と加工料を払ったのにこの量しか取らないなら買った方が安かったのに」と言われてしまった。
それ言わなくても良くない?気づいても言わないでよ。仮に本当に買った方が安かったとしても言わないでくださいよ。おかげで凄い損した気分になった。
何に使うか決まってない、取り敢えず保険で一部貰っておくかの気軽な感じで分けてもらっただけの素材。それも最終的にちょっと茶色い石を10個貰っただけなのに、凄いブルーな気分になってしまった。
素材自体は茶色いのにねブルーになっただって。ふふ、愚かな男と笑いなさい・・・
まあ、亀の素材は凄く興味深々で見ていたサチに1個あげたら物凄く喜んでいたのでそれでいいんですけどね。本当ですよ。サチの笑顔でいってこいです。
まあ、亀の甲羅の話はいいや。
今日は今倒して得た『水魔術』に重大な意味があるのだ。
この10日間で倒した亀の数10。手にした『水魔術』のスキル量は33。今日狩ったこの亀の『水魔術』3.2から1.1ほど抜き出して杖に入れるとこれで杖の『水魔術』は4.0になる。
そう俺の『水魔術』が4.0になるのだ。
この『水魔術』を4.0にするためにどれだけ苦労したか。
毎日毎日、通勤時間6時間、作業時間4時間でずっと亀を狩っていたのだ。それも1日1体限定だ。
何度止めようと思った事か。
しかし俺はやりきった。泣く子も黙る13連勤というブラックスケジュールをクリアし、ようやく4.0分のスキルを集めきった。
もしかしたら『水魔術』が4.0になるとどうなるの?という疑問を持たれるかもしれない。
知らんのか。次の5.0へのスキル石集めが始まる。
という冗談はおいておいて、スキルの3.9と4.0ではそれはもう天と地ほどの差があると言ってもいい。
『剣術』や『棍棒術』などでその事を学んだのだが、4.0から新しい技が使えるようになる。そう必殺技だ。
『剣術』や『棍棒術』は4.0から突如として飛ぶ斬撃が使えるようになる。思うに何かの壁を超えるのだろう。俺はこれを昇華と呼んでいる。嘘。今思いついた事言ってる。
とにかく4.0になればスキルとして一つ先の領域へ行き、新しい可能性を見せてくれるのだ。
だから俺は辛く苦しい作業を耐え抜いたのだ。そして今、『水魔術』を4.0にするスキル量が集まったのだ。
よし実際に作ってみよう。
まず『水魔術』1.1を作り出し、それを杖に入れていく。見事計算通り『水魔術』は4.0に至った。
これで俺は神レベルの『水魔術』使いになったと言っても過言ではないだろう。
では早速、『水魔術』4.0の力を試してみよう。
実は前々から『水魔術』を使うにあたりやってみたい大技があったのだ。
数々の水魔術を使う物語の主人公たちが使ってきた大技。その名もウォーターカッター。
大量の水を出し続けることでなんでか知れないけど金属をも切断してしまうという禁断の大技、それがウォーターカッターだ。
今までは水を出し続けるが出来ず、再現することは不可能だったのだが、『水魔術』が4.0になったこの流れなら出来る。そんな気がする。
良し、いくぞ。
大岩の前で杖を構える。
杖に魔力を集める。体から杖に魔力がぐんぐん入っていく。ぐんぐんぐーん。
杖に魔力が溜まっていくのだがいつもより明らかに入る量が多い。段違いと言ってもいい。勘違いだったらごめん。
そして自分の手から杖を介して制御する魔力の反応も凄くいい。桁違いと言ってもいい。気のせいだったらごめん。
これならいける。杖に溜まった魔力を水の魔力に変えていく。久しぶりの感触だ。無色の魔力が水の色に変わっていく。そんなイメージだ。これは明らかに変化のスピードが早い。異次元と言ってもいい。間違ってたら――、違っててもいい今なら出来る。
ここだ。
「大いなる我が水よ。虚無よりいでし我が水よ。すべてを穿つ矛となれ」
ここ一番の時の為に用意しておいた、とっておきの詠唱を口ずさむ。
テンションマックス。いくぞ。
「今、必殺のウォーターカッター!!」
杖の魔力を目標の岩めがけて解き放つ。
バシュウウウウ
勢いよく杖の先端から出た水はその勢いのまま岩へとぶつかる。
やったか!?
確かに手ごたえがある。
が、徐々に杖から出ている水の勢いが弱くなる。
嘘だろ。まだだ。まだこんなもんじゃない。杖に込める魔力の量を増やす。
どんどん込めろどんどん魔力を込めるんだ。どんどんどーん。
もう二度と『水魔術』が使えなくなってもいい。それ程の決意と覚悟がある。
いっけー。
駄目でした。
普通に一瞬、勢いが強くなっただけでした。
何が二度と『水魔術』が使えなくなってもいいだ。そんなわけあるか。
俺の放った渾身のウォーターカッター(仮)は完全に勢いがなくなり止まってしまった。
でも落胆するのはまだ早い、あそこまで水を出したんだ結構切れてるだろ。貫通くらいしてるよな。絶対してるはずだ。
駄目でした。
ちょっと岩がへこんでるかな?くらいの変化しかなかった。
当然、地面はビショビショ。あんだけやって地面を濡らしただけ。
俺は涙で地面を濡らしそうになった。
だがまだあきらめるのは早い。まだだ。まだチャンスは残っている。
新しい領域に挑戦という事で敢えて難しい道を選んだのだ。
まだ他にも方法は考えてある。もっと簡単な方法を。まだ俺のウォーターカッターの道は途絶えていないのだ。
水袋を3つ用意する。そしてそこから全ての水を自分のコントロール下に置くとそのまま一塊にする。
結構な量だ6リットルはあるだろう。だが今の『水魔術』なら簡単に扱える。
まあ、前から扱えるんですが。
とにかくこの水を使う。
ただこれを普通に打ち出したとしても単純にさっきの二の舞になるだけだろう。
ここからが『水魔術』の本領発揮だ。
この水を元に水を増やすのだ。いわば種水となるこの水を増やして増やして、それをどんどん打ち込んでいくという作戦だ。
『水魔術』の場合、何もない所から水を作りだすよりも、こうして種水から水を増やした方が簡単に水を作り出すことが出来るのだ。前にアマンダさん達に教えて貰った『水魔術』の放出というやつだ。
こうすれば先ほどのようにすぐ水が無くなるなんて事もなく、ずっと水を出し続けることが出来るだろう。
何て便利なんだ種水。凄いぞ種水。そして響きがちょっとエロい。
種水を自分の足元に配置しそのまま変形させていく。
それはまるで水の塊が立ち上がるように高く高く隆起させていく。
そして自分の構えている杖の前に水の先端が行くように変形させたら準備完了。覚悟完了だ。
よしじゃあウォーターカッター第二弾いくぞ。
杖を通して水に込めた魔力をばんばん増やしていく。ばんばんばーん。ばんばばーん。
水の体積が増えていくのを感じる。
そのまま水を増やしながら水を前に飛ばす力を溜める。水に圧力をかけるのだ。イメージ的には水鉄砲でシャカシャカするやつだ。あれは空気をシャカシャカしているから違うか。
とにかく勢いよく飛ぶように力を溜めさせる。
水の量、水圧全てが整った。ではいくぞ。
「水から生まれし水よ・・・えーと・・・・・・」
だめだ、咄嗟に言葉が出てこない。さっきの詠唱は前々から考えていたものだが今回は即興だ。なんとかなるかと思ったが何ともならなかった。
ええい。ままよ。
「以下省略。行け無詠唱ウォーターカッター」
水に込めた圧力を解放し前に飛ばす。
バシュウウウウ
杖の先端から出た水はさっきよりも勢いよく岩にぶつかっている。はず。俺にはそう見える。
そのまま勢いを止めることなく、水を増やしながら水を放出していく。
今度こそ、やったか!?
かなりの長い間、水を出し続けることが出来た。さっきよりも全然、手ごたえありだ。
意気揚々と先ほどまでウォーターカッターに当たっていた岩の表面を見る。
うん。変わってないね。あっ、ここちょっとへこんでるかも。
嘘だろ。あんなに水を出したんだぜ。貫通していてもおかしくないだろう。なんだそれ。
念入りに岩を確認するがどこも穴が開いていない。
あんなに水を出したのに。辺り一面水びだしなのに。俺の従魔やサチは大興奮で手を叩いて喜んでいるのに。
それなのにビショビショにしただけ。地面を濡らしただけ。俺の瞳を潤ませただけかよ。
あんまりだ。あんなに頑張ったのに。頑張って『水魔術』4.0にしたのに。その結果がこれなんてあんまりだ。
すみません。ちょっと取り乱しました。
あまりのショックに錯乱してしまいました。
しかしこれで分かった事がある。それは『水魔術』4.0になってもウォーターカッターは使えないという事だ。
『水魔術』4.0を使用してみた感触としては『水魔術』の3.9と比べ確かに凄くなっている。扱える水の量も質も精度も大違いだ。だがそれだけだ。凄く扱いやすくなっているだけだった。何か特別に変わった手ごたえはなかった。
『棍棒術』や『剣術』の時は・・・あれどうだっけ?そいえば段階的に試してなかったわ。
とにかく『棍棒術』や『剣術』の飛ばす斬撃のように新しい何かは感じられなかった。
そして『棍棒術』と『剣術』の比較になってしまうが5.0と4.0の違いはその飛ばせる範囲が長く広くなっただけで別の何か新しい領域にいく感じはなかった。
つまり『水魔術』が4.0から5.0になったところでウォーターカッターが使えるとは思えないという事だ。
もう俺には『水魔術』を5.0にするための意義が見いだせない。
つまりギブアップ。亀狩りはギブアップです。これ以上は狩りません。すくなくとも俺の心の傷が癒えるまでは。
だって。4.0から5.0にするのに必要なスキル量は48.昨日までせっせと溜めたスキル量は47.1。つまりまた同じくらい時間が掛かるという事だ。
もう無理だ。もうモチベーションが保てない。後15日くらい毎日、亀を狩り続けことは出来ない。
明確に強くなれるという確証があれば、それも出来たかもしれない。でもその確証も今はなくなってしまった。もしかしたら出来るかもでやるほどの気力はもうない。
だからもう俺は亀狩りを止めるよ。
じゃあ、明日から何をするのかって?
知らんのか。4階へ行く。




