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絶対異世界無双したいマンが欠陥チート『スキル強奪』をつかまされた時に出来ること全部  作者: 立花 一


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87話 とある見習いメイドが見た風景

 ウォーレン家のアルスターにある別宅で働くようになってもうそろそろ1か月が過ぎようとしている。

 こちらの生活にも大分慣れた。


 最初は知らない男の人のお世話係という事でとても緊張した。緊張しすぎて自分がどんな行動をとったかも覚えていない。


 初めて会ったあの人、ワタルさんの印象は、何と言うか普通の何処にでもいる青年といった感じだった。

 お嬢様が最重要人物として扱うよう指示されたようには見えなかった。

 ただあんなに大きなゴブリンを3匹も従えていたり、この辺では珍しい犬やロバなんかの従魔がいたりして普通ではない事は分かった。

 後はサチちゃんっていう、歳が離れていてとてもかわいい妹の事を大事にしているのは分かった。

 同じく妹を持つ身として、妹を可愛がる気持ちはよくわかる。


 ワタルさんのお世話係をする上での問題はただ一つ。

 それは私が男の人の傍に行けない。そして男の人の前でうまく喋れない事だ。


 これらの問題はお世話係として致命的といってもいい。

 お嬢様は私が男の人に近づけない事も上手く会話出来ない事もご存じだ。それなのに私を指名した。何故私なんだ、他にもっとふさわしい人がいるのではないか。私を選ぶ理由が何かあるのだろうか。そう考えたが答えは出なかった。

 あのお嬢様の事だ私を選んだのには深い訳があるのだろう。私には分からない深い理由が。それなら私はただお嬢様の信頼に応えるために一生懸命この仕事をやり遂げるまでだ。

 あんな事があり何の価値もなくなったこの私を外に連れ出してくれて、仕事も与えてくれたお嬢様の恩に報いる為にも。


 その為に頑張った。頑張ったのだがやっぱり駄目だった。どうしても恐怖心が勝って身がすくんで声もでなくなってしまう。

 碌に会話も出来ず、近づけず、給仕もできない私を見て、あの人、ワタルさんはどう思ったのだろうか。

 一緒に来たアマンダさんがうまい事、間に入ってくれるので何とか仕事はこなせているが不満は出ていないのだろうか。このままではお嬢様の好意をあだで返してしまうのではないか。いつも不安になる。 


 駄目だ。考えが悪い方、悪い方に向かっている。

 もっとしっかりしなくちゃ。お嬢様の為にも。妹の為にも。家族の為にも。


 今日やるべきこれからの仕事の事を考える。

 ドンさんへの餌やりなんかの世話も終わったので次の事をしよう。


 今はまだお昼前だ。この時間ならそろそろサチちゃんが起きているかもしれない。そう思いワタルさん達が使用している部屋に行く。


 少し控えめにノックをする。

 普通であれば声が帰ってくるまで待っているのだがこの時間、ワタルさんはまだ寝ているので返事は返ってこない。

 だから、少し待って部屋に入る。


 中に入ると想像通りワタルさんは寝ていた。だが他の面々はもう起きていた。

 イチ、ニー、サンと呼ばれるゴブリンさん達、それにギンとよばれる犬さん。そしてワタルさんの横で寝転がっているサチちゃんだ。

 この中ではワタルさんが一番ねぼすけさんなのだ。


 私が入ってきたのを見て皆さんベットから起きて用意をしだす。

 サチちゃんもこちらに来てぺこりと頭を下げてくれた。おはようの挨拶だ。かわいい。


 サチちゃんの着替えを手伝ったらそのまま皆さんを連れて中庭に行く。

 ちょっと前からワタルさんが起きるまで皆で中庭で遊ぶのが習慣になっているのだ。


 皆さんはワタルさんが起きる少し前には起きているのだが、ワタルさんが起きるまでやる事がないのか暇を持て余している。

 前はワタルさんが起きるまで皆さん部屋の中で遊びながら待っていたのだが、ゴムボールと呼ばれるものを投げたりして結構激しい事をしていたので中庭に連れ出すことにしたのだ。


 最初は部屋を離れる事を嫌がっていたが今では一緒に中庭にいってくれる。


 中庭に着くと早速、ゴブリンさん達がギンさんと一緒にボール遊びをしている。結構な勢いでボールをぶつけあったりしているがあれは痛くないのだろうか。

 そんなゴブリンさん達をよそに、サチちゃんはいつもの日課をしている。


 サチちゃんは目印の置いてある地面を掘り始める。

 そして穴の中から薄茶色い石のような物を取り出したら手に取ってじっと見ている。何か魔物の一部なのかもしれない。少しの間、見てると満足するのか頷きながらまた穴の中に入れていく。

 石っぽい物を戻したら、今度はポケットから色んなものを取り出して、一緒に穴の中に入れていく。

 入れる物はその日によって違うが本当に色々だ。なんかの骨だったり、皮だったり、殻だったり、それこそ石もいれている。

 それらを入れたら、再び土で埋めて、その後に水をかける。


 サチちゃんではまだ井戸から水を汲むのが大変なのでここはお手伝いする。

 かける水も何かこだわりがあるのか汲んできた水の中にいくつか小石をいれて混ぜる。少し混ぜたら完成したのか一回頷いた後、水をもっていく。


 最後に埋めた箇所に水をかけるとサチちゃんは満足そうにうなずいた。

 後は目印を再び置いて本日の日課は終了だ。


 このダンジョン都市では植物を植えることには許可が必要で、許可なしに植物の栽培をしていると捕まってしまう。

 サチちゃんの行為も一歩間違えば犯罪だ。ただサチちゃんの場合、知ってか知らずか分からないが植えているのは石なのでまあ、問題はないだろう。

 

 しかしこの毎日やっているサチちゃんの遊びは何なのだろうか。

 もしかしたら植物の栽培ごっこなんだろうか。昔は違う所で家族で農家をやっていたとか。その時の事を思い出してのごっこ遊びなのだろうか。

 それとも別の意味がある遊びなのだろうか。疑問は尽きない。


 まあ、あの満足そうなサチちゃんの顔を見ていれば何でもいいかという気持ちになる。そんな天使の顔だ。


 そんな天使の顔を眺めているとちょっと前髪を気にしているように見える。ちょっと伸びてきたかな。

 「サチちゃん前みたいに髪切る?」


 そう聞くとサチちゃんは首を横に振った。まだいいらしい。

 もう少し伸びてからでもいいか。


 そう言えば少し前に切った時はサチちゃんはウキウキしながらワタルさんの前に行って見せてたのに、ワタルさんは少しも気が付かなかった。

 サチちゃんが凄く気づいてオーラを出しているのに、気づかずに「今日もかわいいよ」とか見当違いな事を言っていた。サチちゃんはそれでも嬉しそうだったがあれは無い。


 男の人は一体何を見ているのだろうか。前髪だけとはいえ切ったら普通気づくだろう。普段何処を見て生きているのだろうか。体や胸しか見ていないのだろうか。

 この胸が大きくなってからというもの、会う人、会う人ずっと胸ばかり見ている。

 そんなに胸が見たいか。そんなに胸に触りたいのか。

 そのくせ、少しでも何かあるとすぐ、キズモノキズモノとさげすんでくる。全くなんて嫌な生き物なのだ。あの時も・・・。


 嫌な過去を思い出しかけた瞬間、手をぎゅっと握られた。

 サチちゃんだ。

 私が暗い顔をしているので心配してくれたのかもしれない。ありがとうもう大丈夫だよ。サチちゃんの頭をなでる。

 少し頭をなでさせてくれるとサチちゃんは別の遊びをするために離れていってしまた。

 もう少しなでさせてくれても良かったのに。


 先ほどの栽培ごっこ遊びとは違う遊びをサチちゃんが始める。


 この遊びもサチちゃんのお気に入りだ。

 何処からか持ってきた木の棒を手に持って、先ほど汲んできた水の残りに棒の先端をつける。

 そして水をバシャバシャしたら、濡れた棒を振りまわす。棒の先から水しぶきが飛ぶのを見てとても得意げな顔をしている。なんだかその顔がとても可愛らしくて私も笑ってしまう。

 これも何の意味があるのか分からないがとにかく、水しぶきを出してはしゃいでいるのを見ていると凄くほっこりする。本当に天使のようだ。さっきの暗い気持ちもどっかに行ってしまうようだ。


 こんなサチちゃん私の妹だったらどんなにいいか。

 うちのエルザも小さい頃は可愛かったのだけれどちょっと見ない間にすっかり生意気になってしまった。昔はお姉ちゃんお姉ちゃんと言ってくれたのに今ではクレアと呼ぶようになってしまった。お姉ちゃんちょっと寂しい。


 サチちゃんの声を聞いた事はないけど、サチちゃんにお姉ちゃんと言ってもらえたら。考えるだけで素敵だ。

 どうしたらお姉ちゃんと言って貰えるのだろうか。お願いしたら呼んでくれるかな。もうちょっと仲良くならないとダメかな。最初に比べると結構仲良くなれたと思うんだけど。

 それともやはり本当の姉妹にならないと呼んでもらえないのだろうか。

 どうしたら本当の姉妹に・・・そうだワタルさんと私がけっ――――

 途中まで考えて現実に引き戻される。

 そんな事は起きない。私みたいなキズモノが結婚できるはずないのだ。

 そうかそうだった。身の程を思い出してしまった。

 また思考が暗い方へ暗い方へと引きずりこまれていく。

 

 「ゲギャ!」

 そんな時、ゴブリンさん達がやって来て何かを言ってくる。

 ゴブリンさん達がこんな感じで騒ぐという事はもう部屋に戻る時間だ。もう少しするとワタルさんが起きる、その前に皆で部屋に帰るのだ。

 どうやってワタルさんが起きるのを知るのか分からないが、いつも帰って少し経つとワタルさんが起きるのでとても正確な情報だ。

 じゃあもう帰らなきゃ急いでサチちゃんの出した水瓶を片付ける。

 ゴブリンさん達はもうすっかり帰り支度は出来ているみたいだった。


 戻ろう。そう自分に強く言い聞かせる。今日はあそこに、男の人がいる場所に戻るのは少し気合が必要だ。そう思った時、私の手が誰かに握られる。


 サチちゃんだ。

 この子は本当にいい子だ。よく気が利くしとてもおりこうさんだ。

 おかげで気合が入った。


 良し戻るぞ。そして今日もこの慌ただしい一日をやり切るのだ。

 そうやって私たちはあの人がいる部屋に帰るのであった。


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