86話 戦利品
よし、勝利の儀式も終わったし事後処理を始めよう。
まずは亀の死体に近づいてスキル石を回収する。
落ちてたスキル石は『水魔術』3.6と『硬化』2.3で。前回に比べて少し数値が低い。
だが苦労に苦労を重ねて手に入れた念願の『水魔術』だ文句はない。では早速、楽しい楽しいスキル付与タイムだ。わくわくしながら『水魔術』のスキル石を杖に入れてみる。
結果、杖のスキルは『水魔術』1.1から1.7に進化した。
うん。1.7なのね。2も超えないのね。まあ、3分の1パターンだから計算するとあってはいるんだが、何かもっと派手に上がってくれるような気がしてた。なんでだろ。
とにかく気を取り直して、新しい杖の性能を試そう。0.6も上がっていれば、そりゃもう、こう派手に変化しているはず。
杖を水袋にかざして、中の水に対して試してみる。
変化はある。確実に操作しやすい。リンクを張るときの速度も操作した時の操作性も上がっている。
上がっているのだが、まあ0.6分だよねって感じだった。
知ってた。知ってましたよ。そんなに急激に上がらない事は今までの経験即で知ってましたよ。でも夢を見るくらいいいじゃない。あの強敵、亀を倒して得た物だよ。1か月振りの勝利の証だよ。もっと期待してもいいじゃないか。ちくしょう。ちくしょう。
すみません。取り乱しました。ちょっとだけ戦利品がしょぼく感じたので愚痴ってしまいました。申し訳ありません。
よし切り替えよう。楽しい事だけ考えていこう。今日はもう遅いから帰るけど、明日からは亀狩りたい放題なのだ。『水魔術』取り放題。『水魔術』スキル上げ放題。水かけたい放題。はい楽しい。
後半やけくそだったけどこれで明るい未来は見えたな。明日から明日から。
じゃあ、後片付けの続きしますか。
亀がぶつかった壁がどうなったか確認しよう。崩れては無い事は遠目で分かるが結構な衝撃だったのだ、それなりにダメージは入っているだろう。
近づいてみると、ここにぶつかったのだとはっきり分かるほどひび割れていた。結構おおきなひびでビビる。これはもう一度同じところにぶつかったら壊れそうだ。
これは直すしかない。直すしかないがどう直せばいいんだろうか。ここだけ取り除いてまた新しく作り直すとかそんな感じか。うわ面倒くさい。『硬化』スキル石もその分必要だし。亀と戦うたび、毎回これだとすごい効率が悪い。
なんとかならないだろうか。何かちょちょいのちょいと簡単に。
そうだ。ギンさんどうにかなりませんか。得意の『土魔術』でいい感じにちょちょいのちょいで。
まあ無理だよな。ああ作り直しか。
「わん!」
ダメもとでギンにお願いしてみる。
するとギンの掛け声とともに壁の表面が波打ったと思ったら一瞬でまっさらな傷一つない壁に戻ってしまった。
嘘でしょ。ちょっと簡単すぎじゃない?
壁のスキルを確認するが『硬化』0.7のままでなくなるどころか下がってもいない。
えっ、ちょっとチート過ぎない。『土魔術』どうなってるんだよ。
というかこれ『土魔術』持ってる敵が来たら簡単に壊されちゃうとかそんな事ないよな。
なんか嫌な事、想像してしまった。
考えれば考えるほどその可能性が否定できなくなってしまったので考えない事にする。幸いこの階には『土魔術』が使える魔物はいないのだ。大丈夫という事にしよう。
うん?なんか嫌な事、思いついてしまった。同じ魔術つながりで『水魔術』でも少し干渉したり操作出来たりしないよな。そうしたら亀に簡単に壊されてしまう。
やばい、やな予感が止まらない。ちょっと試してみよう。
杖に魔力を込め、土壁にリンクを通す。がうまく通らない。当然、操作することも出来なかった。
良かった。『水魔術』では土は操作できないんだね。良かった良かった。
けど、ちょっと悔しい。少しくらい操作出来たってよくね?同じ魔術でしょ。
まあそれはともかく、とりあえず壁の修繕も終わったので後は亀をどうするかだな。
前は埋めていったが今回はあれをしたいと思う。
そう冒険者ギルドに依頼して回収してもらうのだ。
自分で持ち帰れない素材があった場合、冒険者ギルドカードを置いて行って自分の所有権を主張しておいて、後で回収しに行っていいらしい。
しかもその回収はギルドに頼んでお金を払うと自分でやらなくてもいいらしい。なんてすばらしいシステムなんだ。今回はこれを行いたい。
目立つところに自分の冒険者ギルドカードを置けと言っていたので、甲羅の真ん中にギルドカードを置いておく。
後は帰ってギルドに報告するだけ。簡単簡単。
あとは忘れものないな。よし帰るぞ。
亀をつまみ食いしている従魔達を引き離して帰った。
帰り道はずっと『水魔術』の練習をしながらだったがこれは単純に『水魔術』が練習したかったからだ。決して新たな力に目覚めた『水魔術』があるんじゃないかと未練がましく使っていたわけではない。あくまで日々の鍛錬だ。
そんな感じでダンジョンから帰ってきた後はまっすぐ冒険者ギルドの受付に行った。
話しかける受付嬢は勿論、マリーさん。
「ワタルさん。今日はどうしました?」
「すみません。亀を倒してギルドカードを置いて来たんですけど回収の依頼って出来ますか?」
「えっ、亀倒したんですか?ワタルさんが」
「そうです」
ふふふ驚いているぜ。なんせあの強敵の亀だからな。無理もないぜ。でもこれからはいつでも何度でも倒せちまうんだぜ。ワイルドだろ。
「それは凄いですね。じゃあ回収の依頼出しておきますね。今から依頼書作るんで、冒険者が集まるか微妙ですね。2,3日はかかりますけど大丈夫ですか?」
2,3日そんなにかかるのか。1日で運べるのかと思った。まああの重さのものを運ぶんだからそりゃそうか。
「大丈夫です」
「後は費用ですがおおよそ60万くらいですね」
高っ。そう言えば亀の値段ていくらくらいなんだろう赤字ってことはないと思うけど。まあいいか。
「大丈夫です。それでお願いします」
「分かりました。ではこの書類にサインを。それとこの地図に亀を置いてきた場所を書いてください」
「はい。分かりました。」
書類にサインをする。本当に名前を書くだけだった。
あとは置いてきた場所だけど・・・大体の場所は分かるんだけどな正確なのはな。
「大体の場所でいいですか」
「いいですよ。でもあまり離れてると見つけられないかもしれないですね。まあ亀なら大丈夫だと思いますけど」
「なるほど」
自分の持っている地図のメモと照らし合わせ、おおよその位置を〇する。たしか壁を作ったのがこのあたりだからあってるはず。
「出来ました」
「はい。ではこのご依頼は受理しました。早ければ今日の昼前くらいに募集をかけて運ぶのに2日はかかりますね。運び込むのは冒険者ギルドの素材センターになります。解体して売却でよろしいでしょうか?」
「あ、解体はお願いします。一部素材についてはこっちでも欲しいんですけど。あの魔術の媒体になる部分なんですけど」
「ああ、甲羅ですね。大丈夫ですけど、それだと解体料がかかっちゃいますね。全部売却だとサービスなんですけど」
そういうシステムだったのか。いつも全部売ってるから知らなかった。
「それでいいです」
「では依頼料と解体料で全部で100万ですね。前金は5分の1でいいので20万ですね」
高い。解体料めっちゃ高い。それなら媒体売ってから買った方が安い気がする。まあいいかもうそれでいいって言っちゃったし。
「わかりました」
そう言って20万ディールをマリーさんに渡した。
「確かに承りました。依頼が完了しましたらお伝えしますので2、3日後に受付に来て下さい」
「はい。分かりました」
これで回収依頼は終了。
後は素材買取所に行って今日狩った蟹の素材を置いて行ったら今日は終了。
ギルドからの帰り道で飯食べてたら、お屋敷に帰って直ぐに寝た。
次の日。
いつもの日課と買取所から蟹素材の料金を貰ったり等のもろもろの用事を済ませたらダンジョンに入る。
今日から毎日亀を狩って、毎日『水魔術』の真理に近づくのだ。ワクワクするぜ。
そう思い、ダンジョンの入り口がある建物の中に入る。
すると中では今ダンジョンから出て来た冒険者で溢れかえっていた。10人以上いるんじゃないだろうか。こんなに多くの冒険者と鉢合わせたのは初めてだ。もっと遅くに来ればよかった。
「ワタルじゃないか。久しぶりだな」
そんな事を考えていたら、その集団の中の一人の男に声をかけられた。
誰だっけと一瞬思うがその男の後ろにいた女性を見て思い出した。
冒険者の初心者講習会を一緒に受けた奴だ。こいつ。
「あ、本当だワタル君。おひさー」
「おワタルじゃん」
「おお、久ぶりじゃん」
ニナさんとその他の2人にも声をかけられた。こいつらもいたのか。
この流れでこの4人と話をした。
何でも亀の回収依頼を引き受けたらしい。他にも6人いるのでこいつらだけで依頼をこなすわけではないのだが結構、実入りのよい仕事だと言っていた。
亀を倒したのは依頼人の名前から俺だという事が分かっていたらしい。亀を倒したことを凄く褒めてもらった。
いいぞもっと褒めてくれ。俺は褒めて伸ばすタイプなんだ。
その後もどうやって亀を倒したのか、その時の話をせがまれたが「いや、普通に倒しただけです」と答えたらなんか白けていた。
ちょっとムカッと来たので壁にぶつけてひるんだところをメイスで叩いて倒したと結構正直ベースに話してしまった。
するとこっちの話を聞いてたらしい他の冒険者が壁をべた褒めしながら「急に立派な防御壁が出来てびっくりした」とか「あんなものどうやって作ったんだ」とか言ってきたから、「いや、普通に作っただけです」と答えたらやっぱり白けていた。
やっぱりムカッとしたので、「うちのギンが一晩でやってくれました」と言い切ってしまった。
するとギンが滅茶苦茶、褒められていた。口々に凄いとか俺達も欲しいとか言っているのを見て一晩は言いすぎだったなとちょっと後悔した。
亀の回収の進捗状況も聞いた。何でも2階の途中まで亀を運んで今日は終わったらしい。明日にはギルドに運び込めるそうだ。よしよし。
その後も少し話をして別れたので,そのまま一気に3階を目指して歩いた。
3階に行く途中に話していた通り亀が置いてあり俺のギルドカードの代わりに何かの紋章が甲羅に貼られていた。これも亀の所有権を示す何かなのだろう。
3階の湖に着いたら早速、亀狩りを始める。
その前に昨日の戦った時に思った逃げるときの距離感が分かりづらい点を改善しようと思う。
昨日はどのくらい迫ったら亀から逃げるのかこれを決めていなかったのでかなり迷った。そして何処まで近づいているのかが分かりづらかった。
それを改善するため、壁の50メートル離れた所から壁まで10メートル刻みでラインを引いていく。
ラインは『発光』を地面に埋めて作った物で遠くからみても薄ぼんやり見えた。距離は自分が1メートルと思う歩幅で測定したものなので割とアバウトだ。
このラインを引くことで何処まで亀が迫ってきているのか。どのくらいで逃げればいいのかが割り出せるはずだ。
昨日の感じからすると40から30メートル手前くらいで逃げだしたように思う。まあ今日はラインを見ながら調節していこう。
じゃあ、準備も出来た所で亀狩り始めますか。
そうして意気揚々と湖をバシャバシャしたところやってきたのは蟹だった。うん知ってたけどね。忘れてなかったし。本当だし。ただ蟹の用意をしてなかっただけだし。
そんな感じで蟹を2回狩った後、本命の亀を狩った。
亀はそれはもう驚くほど簡単に倒せた。ラインを引いたことで亀の位置が分かるのは心理的にとても良かった。壁にぶつかった後も昨日と同じように何も問題なく狩れた。実にあっけない。ちょっと拍子抜けするくらいだ。
本当にただの作業になってしまった。
その後も亀を倒そうと湖をバシャバシャしてたが出て来るのは蟹ばかりで亀は出てこない。もしかしたら1日1回しかでない敵なのかもしれない。
亀を倒して手に入れた『水魔術』のスキル石は3.5で、杖の『水魔術』は2.1になった。
早速試してみたがかなり使いやすくはなっている。操作速度、操作量、そして反応の良さはかなり向上している。だがそれだけだった。俺が期待している水がどばーと出てウォーターカッターだのタイダルウェーブ的なのはどうやっても無理だ。
しょうがないコツコツ行こう。俺の水魔術師の道は始まったばかりなのだ。毎日亀を倒せばすぐに良くなる。はず。
時間が来たのでこの日はこれで帰る事にする。
亀の素材については今日もギルドカードを置いていこうかと思ったが、なんか今日の騒ぎを見てるとあまり連続で持っていかない方がいいかもしれない。
あんまり目立ちすぎると変なのに狙われるかもしれないし。州都の時のやつで結構こりた。回収費用も結構かかるしな。
と言う訳で今日は持って帰らないのでギンに穴を掘って埋めてもらった。
後始末も終わったので帰る。
帰り道で今日の事を考える。亀が1日に1回しか出ないのであれば『水魔術』の獲得はかなり少ない。
このままのペースで行けば5.0のマックスにするのに相当な時間がかかるだろう。計算すると心が折れそうになるので計算しないが、まあ1か月はかかるだろう。
そう思うと気が滅入ってくる。
しかしそう考えると贅沢になった物だ。この前までは亀を狩るのは命がけ、『水魔術』を少しでも上げるのは相当なリスクを考えなければならなかった。それが今では時間がかかるので面倒くさいにまでなったのだから相当贅沢だ。
まあ時間がかかるのはしょうがないと思おう。気長にやろう。気長に。あせる必要はない。とにかく毎日コツコツやろう。一歩ずつ一歩ずつ強くなればいいのだ。そう自分に言い聞かせながら帰るのであった。




