82話 盛るぜぇ~超盛るぜぇ~
盛土、堤、土塁いろいろな呼び方があると思うが、要するに土を盛って固めた物だ。
それを今から作る。
もちろん亀の突進を受け止めるための物だ。
無い物は作ればいいの精神で岩に代わり土の壁を作る事にした。
今回の目的は敵の突撃を止める事にあるから、土塁という言い方が俺の中でしっくりくるな。
以後、土塁としよう。
と言う訳で早速、土塁作りを始める。
まずは場所の選定だ。
条件は湖にそこそこ近くて、尚且つ部屋の入り口に近い所だ。
これはさほど厳しい条件にしなくていいので難しく考えず適当に決めよう。あまり考えすぎると場所を決めるだけで凄い時間が掛かってしまうからな。
と言う訳で直ぐに決める。
俺達が入り口からまっすぐ歩いてきて出た場所の近くで、湖の岸から少し離れた所を選んだ。
ただし位置的には入り口と湖の間ではなく、地図上での部屋の下の壁との間にした。
これは土塁が入り口の方向にならないようにするためだ。
もし土塁に上手く誘導できずに。そのまま亀が土塁の横を抜けて突進した先が入り口では、たまたま入ってきた人を巻き込んでしまうかもしれない。
それを防ぐために最悪、反れても部屋の下の方に行くよう位置を決める。
では早速、工事に入る。
今回の工事担当大臣のギン君。まずはここからあっちまで穴を掘っていこう。
穴を掘って出た土はここに盛って山にしていってくれ。
穴はそんなに深くなくていい。まずはおおよその形を作っていって後からどんどん深く、そして高くしよう。
そうやって指示を出しながらギンと穴を掘って行く。穴の淵には穴からでた土を盛っていく。
土壁の高さが2メートル、安全を見ると3メートルくらいは欲しい。
ただそんな高さの物を作るのは一苦労なので地面を1メートル50センチ掘ってその分出た土で1メートル50盛るという作戦だ。
所謂、掘りと土塁のハッピーセットだ。戦国時代の人も愛用した由緒正しきセットメニューだ。なんか正式名称があると思うが忘れた。
とにかくその土塁セットをギンと一緒に作る。
大分大きく穴が掘れてきた。深さはそれほどないがまずは全体の大まかな形だけなのでこれでいい。
作業を始めて1時間半くらい。ギンも全然疲れた様子もないので続きをしたいところだが、今日はもう時間が無い。帰りの移動時間を考えるともう帰らなくてはならない時間なのだ。
と言う訳で続きはまた明日にして今日は撤収しよう。
しかし、工事途中のまま帰るが明日になって謎のダンジョン修正力によりもとに戻ったらどうしよう。その時はいっぱい泣いて、また別の方法を考えよう。
とにかく今日はここまで解散。帰ります。
次の日、また寄り道もせず3階に来た。
休憩なしで全力で来たがやはり遠すぎて3時間ほど掛かった。
この移動時間がなんとかならないかと考えたが何にも思いつかなかった。
しょうがないこの時間は割り切っていこう。
休憩を少ししたら湖に行って土塁作りを再開する。
昨日、ギンが掘った穴と盛った土は見事に残っていた。ありがたやありがたや。
実はここが一番の悩みどころで昨日からずっと心配してた。良かった良かった。
じゃあ土塁作成の続きやりますか。
昨日で大体の土塁全体の縁取りというか、大まかな形を作る事ができた。
今回の土塁は完全に一直線ではなく緩く弧を描いて作っている。
理由?理由はない。何となく直線で作ってると思ったら曲がっていただけだ。素人が作ったのでしょうがない。
まあ考えた限り問題はなさそうなのでこれで行く。修正するのが面倒くさいともいう。
ともかく今作っている土塁の幅は約20メートルくらい。高さは50センチもないだろう。深さも同じくらいだ。今日はこれを深く、高くしていく。
そして穴の方は深くもするがその範囲も広げたい。今は土塁の手前だけ穴が開いているが、完成形は土塁の結構手前から緩やかに下っていき最終的に土塁の手前で一番深くなるようにしたい。
それは土塁の手前で動き回らなきゃいけないので動ける所を広くするためと、急激に下がっていると一気に加速がついて突撃がかわせなくなってしまうからだ。
だから入り口は広く浅くしたい。
と言う訳でギンさん頼みます。穴を深く広くして行ってください。
「わん!」
そう返事をするとギンが穴を掘り始めた。ギン頼んだぞ。
ギンが頑張って穴を広げている間に俺もやれる事を探す。
そう言えば、この盛ってあるだけの土だがこれだけで大丈夫なんだろうか。
見るからに衝撃で直ぐに崩れそうだ。このままって自然に任せていれば自重で完成するわけでもないだろう。
じゃあ、これの強度を上げる方法を考えるか。
パッと思いつくのはギンに土魔術で強度を上げて貰うだ。土の性質を変えてコンクリートみたいに固めて貰ったり、土を操作してギュッとしてもらうのもいいだろう。
州都に行く時の道がコンクリートみたいに固められていて、それが土魔術で作ったと聞いたのでそういう事も出来るはずだ。
ただ問題は今ギンは忙しい。誰かさんに穴を掘れと言われて一生懸命掘っているので超忙しい。そんなギンさんの手を煩わせるわけにもいかない。
となると他の方法で俺が出来そうなのは・・・まあ、単純に上から大きな力をかけて固める事だな。
幸い俺には叩く事に特化している武器がある。そうメイスだ。こんな事もあろうかとメイスを用意していたのだ。
すみません、嘘つきました。偶然です。
早速、作業に取り掛かる。
盛られた土の前に立ち、メイスを構えて魔力を込めていく。
これでもくらいやがれ。どっせい。
気合を入れて盛られた土に上からメイスを振り下ろす。
ドーン。
ズズズッ。
あっ。しまった崩れた。土砂崩れだ。
今俺が叩いたところが衝撃に耐えられなかったのか、上に有った土もろとも地面が穴の下の方に流れていってしまった。
綺麗に自分の叩いたところが欠けてしまったのを見ているとギンが走って来て崩れた所でクルクル回っている。
なんだろう。怒ってるのかな。正直すまんかった。
穴の下に降りてギンを撫でてご機嫌をとる。
表情を見ると怒っているようには見えないが一応念のため。とにかく撫でまわす。
ギンさんすみませんでした。私が軽率でした。つきましてはこの崩れた土を元に戻してはいただけないでしょうか。
「わん!」
ギンにお願いして土を再び盛ってもらう。
結構な量の土が崩れてしまったので多少時間が掛かったが何とか元に戻してもらった。
ギンさんありがとう。
土を元に戻してもらった後、ギンには元の作業に戻ってもらう。
俺も再び土を叩き固める作業に戻る。
いきなり上からは崩れる事が分かったので今度は横から叩いてみるか。後もっと弱い力でやろう。
穴の下に立って、土塁に向かう。
メイスに魔力を込めて軽く叩く。
ボコッ。
パラパラ。
少し土が落ちてきたがまあこんなもんだろう。後はこれを繰り返して固めていこう。
黙々と壁を叩いてく。
すると傍で見ていたゴブリンとサチも同じように壁を叩き始めた。
手伝ってくれているのか、ただ面白がっているのか。まあ皆でやりますか。
そうやって皆で壁を叩く作業をしていく。
しかしこの方法で本当に強度は上がるのだろうか?
叩いて固めた後を見てそう思う。
試してみる気はないが叩き固めた後でも俺がメイスで本気で殴れば簡単に崩れてしまいそうだ。
亀の突進を受け止めて動きを止めるのが目的なのでその後は崩れてしまってもいいと言えばいい。
しかし俺は大量に亀が狩りたいのだ。それもちょっとドン引きするくらいの数を。
そのため、土塁は1度限りの物ではなく、何度も何度も使いたいのだ。だから受け止めるたびに壊れてしまうようではダメなのだ。
まあ、それは今考えても仕方がない。今は自分でやれる事をやろう。前の状態よりは硬くはなっているはずだ。
本番はギンが今の穴掘りが終わってからだ。ギンの『土魔術』でどれくらい硬くなるのか。それが分かってからだな。駄目そうならまた考えよう。
休憩を何度かはさみつつ4時間ほど作業をしてひとまずギンの穴掘り作業が終了した。
おおよそ思い描いてた通りに穴を掘れて土塁の前は完成した。
次は土塁だ。今は穴の側面を俺達で叩いて固めたが大した強度は得られず、大きな衝撃があれば崩れてしまう状態だ。
しかもその形も不満がある。当初、思い描いてたのは完全に垂直にそびえる土の壁だったが、土の強度が無いせいか垂直には出来なかった。精々、45度の傾斜の山が出来ただけだった。
これも何とかしたい。理想は垂直あるいは上のほうが返しになっている奴だ。最悪でも70度くらいは欲しい。
という訳でギンさん、お疲れのところすみませんが次の作業をお願いします。
なに、簡単な作業ですよ。目の前の土の塊をちょちょいとコンクリみたいに硬くして壁みたいにしてくれればいいだけです。ギンさんならきっと簡単な作業です。ちょちょいとやってみてください。
休憩が終わったギンにお願いする。
まずは穴の上に積まれている土を操作して垂直な壁にしてもらう。流石です、ギン様。
後はそれを硬くしてくれ、前に外で見た道みたいなやつだ。硬くてツルツルしてるやつ。
「わん!」
元気よく、ギンが返事をして何やら力を込めている。頑張れ頑張れ。
どうやら終わったみたいだ。
目の間には垂直にそびえる壁がある。やったか!?
そう思い、手で目前の壁を触ってみる。感触はその辺の土とかわらないが。
どうなんだ?大丈夫なのか?そう思い、少し叩いてみる。
バンッ。
ズズッ。
あ、これはやばい。そう思った瞬間。
ドサドサドサ。
上から土が降ってきた。
慌てて逃げだす。
ドサドサズサア。
先ほどギンが作ってくれた垂直の壁が完全に崩れてしまった。
崩れるスピードが遅いかったので直撃は避けられたので生き埋めになったりはしなかった。
しかし崩壊をもろに受けてしまった俺は見事に土まみれになってしまった。
俺以外の皆はちゃっかり避難していたようで土まみれになっているのは俺だけだった。
土塁の方も先に作っていた山なりの部分は無事なので傷は浅い。が俺の心の傷が深い。大地の味がする。
何かとてもいやな予感がするが今は考えないようにする。
とりあえず、もう1回だ。もう1回ギンに土壁を作れるか試してもらわないと。
いきなり大きな物を作ろうとしたから駄目なのだ。もっと小さなものからやってみよう。
そう思い今、落ちて来た土を使って壁を作って貰う。今度は先ほどより狭い範囲ででも高さは同じ物を作るよう指示を出す。
結果はやはり崩れてしまう。
やばい。嫌な予感がドンドン増えていく。
土を移動させるのはもうベテランだが、土を硬く変化させるのは初めてだからな。初めてだからこそ上手くいかなかったんだ。
そうと分かればやる事は簡単だ。練習すればいいのだ。
土をコンクリみたいに固めるもしくは変化させる事を練習させればいい。それできっと出来るはず。頼む出来てくれ。
結果、何度か練習したがギンには土を変化させる事もとんでもなく硬くすることも出来なかった。
まずい、これは心配していたが一番起きて欲しくないパターンの奴だ。
ギンが土を固められず、壁が作れない。
つまり、亀を倒すための条件の一つが満たせない。
まずい。まずい。いやまだ慌てる時間じゃない。まだどうにかして壁を作る方法の1つや2つあるはずだ。
考えろ。考えるんだ。
しかしいくら考えても何も思い浮かばず、この日は失意のまま屋敷に帰るのであった。




