81話 戦闘がしたいんじゃない、狩りがしたいのだ
朝、というか昼。
いつもと同じ時間に目を覚ます。
昨日の狩りの成功で気を良くした俺は一つの計画を立てた。
その計画を今日実行に移す。
その名も「いともたやすく行われるえげつない狩り」略して亀狩りだ。
そう、亀を狩りたいのだ。それも簡単に。何の危険もなく。その上で超一杯狩りたい。
何故ならドロップアイテムが超欲しいからだ。
当然、亀から取れる素材も欲しい。
俺の杖にも使われている魔術用の媒体もこの亀の素材らしいので持っておくと後々、色んな物が作れて便利だろう。
それに亀の素材は高値で取引されているらしいのでお金もガッポガッポだ。
だがそんなのは副産物に過ぎない。俺が今、欲して欲してやまないドロップアイテムは『水魔術』のスキル石だ。
昨日の実戦でも証明されたように水魔術は大変有用なのだ。
だから俺はこのスキルを伸ばしたい。いっぱいレベルを上げたいのだ。
というか、ぶっちゃけ有用だろうと有用じゃなかろうと最強の魔法剣士にならなくてはならない俺には必須なスキルなのだ。
それも1や2じゃない。最大級のスキル値、つまり5の『水魔術』スキルが必要なのだ。
だから俺はこのスキルをガンガン手に入れて、ガンガン杖に入れて、ガンガンスキルレベルを上げたいのだ。
だがしかし、このスキルは現状亀からしか手に入らない。しかしその亀が気軽に倒せない。
きっと頑張ればなんとか倒せるのだろうが、それにはかなりのリスクを伴う。最悪、誰か死んでしまうかもしれない。
だから今まで亀に挑めなかった。そのため『水魔術』のスキル上げは大変難航していた。
しかしこの詰んだ状態にも光明が見えた。
麻痺毒薬だ。麻痺毒薬を使えばいいのだ。
それも頭を出している状態でかける事が出来れば、弱点狙いたい放題のボーナスタイムだ。後は頭を潰すだけ。
麻痺からのヘッドショット。このコンボの発明により亀とは最早、戦闘にならないだろう。完全に安全な狩りへ移行できるのだ。
どちらがやられてもおかしくない、そんな対等な勝負がしたいのではない。こちらだけが一方的に相手を殺す。そんな狩りをしたいのだ。
よし、じゃああの宿命のライバルをただの餌にしに行きますか。
と恰好をつけて見たが今回の作戦にはいくつか不確定事項があるので、それがクリアされない限り戦わない事にする。
亀は本当に危険な相手なので、準備が整わなければ戦わないし、もし戦った場合でも無理だと思ったらすぐに作戦を中止する。そう決めておく。
だから恐らくだが、今日は下調べと準備をするだけで終わる気がする。
まあ考えていても仕方がないので、まずは現地、地下3階の地底湖に行って昨日考えた作戦が実施できるか確認しに行こう。
いつもと同じ支度をして3階へ向かう。
3階へはかなり時間が掛かる。最近行っていないが前は3時間以上かかっていた。
だから今日は、いつも行く回復ゴケ農場にも魔鉄鉱石鉱床などへの寄り道はなしだ。
道すがら、改めて今回の作戦について考える。
今回の作戦で絶対に確保するものが2つある。
1つは亀の突進を止めるための壁だ。
前回、亀はいきなり湖から突進してきた。そして大きな岩にぶつかった時に亀の突進が止まり。方向転換した後に再びこちらに向かって突進してくると言うのが向こうの行動パターンだ。
突進中は亀を狙うという事が出来ず、方向転換している時が狙い目だ。実際、前回はここで一撃いれている。
今回はこの亀が止まる場所を固定したい。亀が止まる場所さえあらかじめ分かっていれば麻痺毒薬を当てることは簡単になるはずだ。
だから亀を止めるための壁をあらかじめ決めておきたい。理想は横と縦に広くて上に上るのが簡単な岩があればいいのだがそんな岩はあるのだろうか。
2つ目は逃げ道だ。
無理そうな場合、いつでも逃げだせるように逃げ道と安全に逃げるための手段を用意しておきたい。
これも亀を止めるための岩と岩の間に人が一人通れる分だけの隙間があったりするところがあればいい。
この2つの条件がそろわなきゃ今回は亀と戦わない。
そう心に決めた。この条件が緩いのか厳しいのかは現地に行ってみないとなんとも言えないがもし難しそうでも必ず中止にしてくれ。頼むぜ未来の俺、妥協するなよ。
今回の作戦事項を考えながら歩く事、3時間強。
ようやく地下3階に着いた。
ここまでずっと歩き詰めだったのでここで一旦休憩をとる。
しかし久しぶりに3階に来たがやっぱり遠い。帰り道の分も合わせるとダンジョンに居る時間の半分以上をここに使う事になる。たまにならいいがこれが毎日となると凄い時間を無駄にしている気がする。
やはり、洞窟内で泊まり込むことも考えなければならないのだろうか。
そうなると道具も必要だし、なによりもっと人数が必要な気がする。今の俺には無理だな。
まあ、そんな先の事より今は亀の事を考えるか。
そいういえば思い出したが、条件には含めなかったが確かめておかなきゃいけない事があるんだった。
それは水がある場所で麻痺毒薬の塊を維持したまま操作できるのかという事だ。
亀が通った跡には必ず水でビショビショになっていた。
これは亀がその前まで湖に居たから全身ビショビショで「通った跡、みな水付ける」みたいな事ではなさそうだ。
おそらくだが亀の移動方法は水魔術を使い水に乗って移動しているのではなかろうか。
俺が作る水の塊の大きい奴を作ってそれに乗ってきているという予想だ。
水タイプだし波乗りくらい覚えられるだろうという安易な考えだ。
ただ自分も少し試したことがあるがあの水は触ったら普通に中に手が入ってしまうので、何かを乗せるという事は出来そうにない。
水魔術のスキルレベルを上げれば可能なのかもしれないし、他の水の使い方もあるのかもしれない。
少し話がずれた。
要するに亀の近くにはいつも水があり、麻痺毒薬をぶつける場合に障害にならないかという事を検証しなけらばならない。
もし他に水が流れているような場所に麻痺毒薬を突っ込ませた場合、麻痺毒薬が水の中に溶け込んでそのまま流されてしまうといった事が起きてしまうと話にならない。
理想は混ざらない。最低でも混ざった状態でも麻痺毒薬を操れて対象まで移動させてぶつけることが出来るかどうか確認したい。
考え事をしていたら大分時間が経っていた。
これで休憩は十分だな。
次はいよいよ、決戦の地。地底湖の調査だ。
一気に湖のある3-3と名付けた部屋まで行く。
その部屋はかなり広く湖まであるため、地下という事を忘れそうになる。
10分くらい歩くとようやく湖に到着した。周りには魔物もおらず、誰にも邪魔はされないので、入念に地形の確認が出来る。
亀は今の所、こっちが湖にメイスの衝撃を放ってうるさくしない限り、出てきたことがないので今は戦う事を考えなくていいはずだ。まあ当然、警戒はしておく。主にうちの警戒班の2匹がだが。
湖を見る。相変わらず湖は真っ黒で中がよく分からない。
覗いていると引きずり込まれそうで怖い。底もどれくらい深いかわからないので近づかない方がいい。
いいに決まってるのだが、ゴブリン達やギンは前と同じようにはしゃいで湖の方に近づいていく。
お前たち、水に触れるのはいいが絶対に入るなよ。これは振りじゃないからな絶対だぞ。
そんな注意をしながら、仕方ないので俺も近づいていく。
ゴブリン達が湖の中に手を突っ込んでいるのを見てサチも興味を持ったのか、しゃがんで手を入れようとしている。
その時、俺の中の悪魔が目を覚ました。
後ろから、サチに近づくと両手で肩を掴んで一気に前後に揺らした。
すると、サチはビックリして体が思いっきりはねた。
高所とか水辺とかでやる定番の悪戯だ。
誰でも良かった。後ろ姿を見てたらムラムラしたからやった。今も反省はしていない。
あまりの事に固まっていたサチだったが何をされたのか理解できたのか、こっちを向いて掴みかかってきた。怒っている。超おこだ。
ごめん、ごめん。なんとか許して貰おうと謝罪するが怒りが一向に収まらない。
まあ、俺がやられても切れるだろうけどね。
あ、後、そこで真似しようとしているゴブリン。絶対やめろ。絶対落ちるから。
とりあえず、なんとかサチを宥めたので気を取り直して調査を再開する。
湖の周りの地面は、今まで歩いてきた洞窟と同じで土や石混じりの地面だ。草が少し生えていたりもする。
そして、所々に大きな岩が地面からこんにちわしている。
岩がある間隔はかなり広く、見渡す限り壁みたいに横幅があるものや、複数の岩が密にあって亀が完全に通ってこれないような理想的な場所がない。
まあ、いきなり見つかるとは思っていない。
こんだけ湖は広いのだ。湖の周りを一周して来れば、それっぽい所もあるだろう。と言うかあれ。
そんな事を考えながら湖の周りを一周した。
かなり入念に探しながら歩いた。
かなり湖から離れていてもいいと思って割と遠くまで行っていた。
が見つからない。壁も連続した岩の檻も見つかりませんでした。
一応、この部屋の端は当たり前だが壁になっているのだが、そこは湖から遠く。そこに誘導してる頃には追い付かれて轢かれてしまうだろう。だからなし。
後は、大きな岩をいくつか見繕って来たがどれも横幅が大きくない。
大きい岩の前で待ち構えて直前で真横にずれる。そんなシミュレーションしてみたが上手くいかなかった。何故なら亀役のギンが俺が逃げた方に向かって急カーブしてくるのだからそりゃ無理だ。
ギンの急カーブは参考にはならないが、前回亀から逃げ回っていた時の経験からすると、やつは直線的ではあるがちょっとずつこっちに向かって進路を変更しているように感じた。
当然、必死に逃げ回っていたのでそいう風に感じただけかもしれないが。
とにかく、こっちは相手の突進を見てから全力で横に逃げているのに、俺の横を通りすぎる時は、思ったより近くを通っているのだ。
だから、直前まで待機しておいて寸前でかわそうなんて言うのはかなり危険だ。
じゃあ余裕を持てばどうなるかと言えば、狙った岩にぶつけられず、どっか遠くの壁にぶつかって遠くで止まってしまう。
だから前回と同じように全力で逃げ回る際に横幅が広い壁の傍であれば、壁のどこかに当たって止まってくれると思っていたのだが、そんな壁はなかった。
さあどうするか。前回は必死に逃げ回り、何とかメイスの飛び衝撃波を当てることが出来たが今回もそれを期待してやってみるか?
いやだめだ。さっき俺が「壁が無きゃやらない、絶対やらないもん」と言ってたからそれは駄目だな。
ではどうするか。亀を諦めるか。
それも嫌だ。俺は『水魔術』スキルを極めて最強の魔法剣士になるのだ。
じゃやるしかないな。
無ければ作ればいい。
そう壁を作るのだ。




