78話 先ず隗より始めよ
水魔術を初めて使った次の日、あまりテンションが上がらないまま目が覚めた。
夢だったらよかったのに。
念願の水の魔術師になったというのに一向にやる気がでない。
昨日、一日やって分かったことがある。このまま練習してもあれ以上は無理だ。
練習していて気が付いたのだが力の溜め方や変換の仕方なんかはどんどんスムーズになっていくのだが、肝心の威力に関しては少し上がったきり、ずっと横ばいだった。
このまま、練習を続ければ少しは威力が上がるかもしれないが、少しだけだ。戦闘で使い、相手を倒すことなど夢のまた夢だ。
今思いつく限り、この水魔術の威力を上げる方法は2つある。
1つは杖に更に『水魔術』を入れてスキルレベルを上げることだ。
『水魔術』が1.2と低いため、威力が低い。そういう事と仮定した場合、この方法が一番確実だ。
だが現状、『水魔術』スキルを手に入れるには亀を倒すしかない。
前回の亀との戦いは控えめに言っても死闘だった。下手したら誰か死んでてもおかしくない、それくらい亀は強かった。
だから出来ればもう少し俺達が強くなるか、亀を簡単に狩る事が出来る方法を編み出すまでは手を出したくない。
もう1つの方法はこのスキルレベルのまま俺自身が水魔術をうまく扱えるようになるだ。
今まであった中で魔術系のスキルを持っている人たちは大体、1~3くらいだった。それも圧倒的に1台が多い。2が珍しく、3に至ってはほとんどいない。
だからこの世界ではスキルレベルが1でもそれなりに戦えるはずなのだ。
あんな水鉄砲みたいな威力でどう戦うか想像できないが何かやり方があるはず。
だからまずは一旦この世界での魔術を習うそういう方法もあるはずだ。
問題は・・・。
コンコン
ドアがノックされる。
「失礼します」
メイドさん達が食事を持ってきてくれた。ここ10日ほどはいつもこのパターンだ。
俺が起きて少し経ったころ合いを見て食事が運び込まれる。至れり尽くせりな感じだ。
まあ、まずは食事をしよう話はそれからだ。
机の上に運ばれた食事を皆で食べる。
もちろん、メイドさんとクレアさんは控えて給仕をしてくれる。
この10日間でクレアさんも大分慣れたのか声をかけながらお世話をしてくれる。サチ相手に。もちろん俺は話しかけられない。
もちろん俺のお世話もしてくれるが基本距離が遠い。サチとの距離は近い。ちょっと傷つく。
だが俺だって何もしていなかったわけではない。俺からだって距離を詰める努力をした、その結果最初と比べてかなり仲良くなった。もう一人のメイドさんと。
いつもクレアさんと一緒にお世話してくれるメイドさん、アマンダさんと俺は仲良くなったのだ。
うん、クレアさんとは全然です。
そんな事もあって自然にクレアさんはサチの方に、俺の方はアマンダさんが担当という形になっていた。
いいもんいいもん、アマンダさんも美人だしいい匂いがするからいいもん。
そんな感じでいつものように食事を淡々ととっていると思考はさっきの続きになる。
水魔術を習うとして、問題は何処で習えるのか。
お金はどれくらいかかるのか。
高度な事は教えてくれるのか。
俺自身が魔術を使えなくても教えてくれるのか。
もし実践となった時に杖を使って魔術を使っていたら怪しまれないか。
そんな事が頭を駆け巡る。
「何か悩み事ですか?」
傍にいたアマンダさんにそう聞かれる。
どうやら顔に出ていたようだ。
この人はかなり物知りでこの屋敷や街の事は大体、この人に聞いていた。
だから魔術関係の事もアマンダさんなら知っているかも。
こういう悩み事は大抵、マリーさんに相談していたのだがアマンダさんにも聞いてみるか。いい匂いがするし。
「魔術を習いたいんですけど、どこで習えるのかと思いまして」
「魔術ですか?それはワタル様がですか?」
「あ、はいそうです。」
「それはどの程度の事でしょうか?」
「程度と言われても・・・」
「基本的な知識なのか。ゼロから使えるようになるのか。あるいはもっと深い技術的なことなのか」
うーん、なんて答えよう。
正直に言えば、今上げた全部なのだが。
「全部で」
考えるのがめんどくさくなったので正直ベースで答える。
「ワタルさんはどの程度、魔術が使えるのですか?」
これも答えにくい。
「全然使えません」
いつだって俺は正直さ。
アマンダさんが少し考えている。魔術を習うのは難しい事なんだろうか、そして俺の正直回答はどう影響するんだ。
「それでしたらこちらで簡単な魔術を教えましょうか」
「えっ」
そんな意外な答えが返って来て驚いてしまった。
魔術のドキドキ個人レッスンそういうのもあるのか。
「基礎知識と少しの魔術を使う程度で良ければ」
「あ、はい。それで全然かまいません」
やった。美人家庭教師ゲットだぜ。
「時間は食事の後でよろしいでしょうか?」
「はい。大丈夫です」
この後すぐにやってくれるらしい。至れり尽くせりだな。
食事を済ませると一度、アマンダさんとクレアさんが下がる。
向こうも色々と仕事があるのだ。直ぐに始めるという訳にもいかない。
仕方ないのでこちらも回復薬を作ったりなど色々と用事を済ませながら過ごす。
コンコン
ドアがノックされたあと、クレアさんとアマンダさんが再び入ってきた。
いよいよ授業が始まるみたいだ。
場所はここでやるらしい。食事をとる時に使っている机に座る。
ゴブリンやサチたちも座ってくる。もしかしたら食事と勘違いしているのかもしれない。お前たち食事はさっき食べたでしょ。
まあ、きっと飽きたら各々で勝手な事をするだろう。とりあえず放置しておこう。
「魔術について教えて欲しいとの事なので、まずは基本的な事から説明させて頂きます」
よろしくお願いします。
「ではクレアよろしくお願いします。」
え、クレアさんが教師なの?
確かにクレアさんのスキル構成は魔術関連のスキルがいっぱいだ。
対してアマンダさんには一つもない。
だから魔術の事を教わるならクレアさんなんだろうが、その人選はどうなんだ。
何故ならクレアさんはかなりの人見知りだ、あまり人と話しているのを見たことがない。
そんな人が教師なんて出来るのだろうか。
「・・・・・・・・・・・・」
かすかに何か言っているのは分からないが内容が分からない。
もっとよく聞くために体を乗り出しクレアさんに近づく。
「ひぃ」
短く悲鳴を上げクレアさんが後ずさる。
くっ、どうやら近づくのは駄目らしい。
「すみませんワタルさん少々お待ちください」
そう言うとアマンダさんがクレアさんを連れて部屋の隅に移動する。
二人で何事か話している。
テクニカルチャージドタイムアウトだな。意味は分からないけど。
相談が終わったのか二人が机の前に戻ってくる。
「すみません、お待たせしました。クレアの説明を私がワタルさんに伝える。この形で行きたいと思います」
そういうとクレアさんの前にアマンダさんが立つフォーメーションになった。
そしてそのまま、クレアさんが何事かアマンダさんに囁いた後、アマンダさんが喋りだした。
何それ、外国人助っ人のヒーローインタビューみたいじゃん。なんか、かっこいい。
と言う訳で変則的な魔術の授業が始まった。
まずは初歩の魔術とは何ぞやという所から始まった。
そしてその瞬間、頭の中にこの世界の魔術の知識を思い出した。
この感覚は久しぶりだ。この世界に来た直後にはよくなっていたが、なんかのきっかけが急にこの世界の知識を突然思い出すあれだ。
魔術の知識は思い出した。思い出したが今さらもういいですとも言えない。
まあ、折角だし、今思い出した知識と比較しながら授業を聞いていく。
また何か思い出すかもしれないし。
今、教わっている内容はこうだ。
魔術とは、自分の中の魔力や外にある魔力を使って起こす現象のことらしい。
ちょっと分かりにくいが魔力を使って水をだしたり火を出したりするという事らしい。
ここから分かるのは俺がなんかの力と思っていたのは魔力だったという事だ。
そしてこの世界では火、水、地、風の4つの属性が主要な属性で魔術師は必ずこのどれかを習得している。
その他には怪我や病気の治療をする聖属性、生物の精神に作用する闇なんかがあるらしい。
この2つの属性はどっかの宗教団体が独占していたりなどという事もなく、普通に教わる事も可能らしい。ただし、使い手は少なく教えてくれる人を見つけるだけでも大変な属性らしい。
あとはこの6つのどれにも属さない魔術もあるのだが、それらはひとまとめにその他とか無属性とか呼ばれている。これを専門に扱っている人はほとんどいないらしい。
これが魔術の基礎知識だ。
俺の記憶にある知識とほとんど同じだ。
次に魔術の基本的な動作を教えて貰う。
4大属性では基本的に操作、放出、変化の3つの動作がある。
今そこにある物を動かすのが操作。これが一番簡単らしい
対象の物を集めたり増やしたりするが放出。これが二番。
今あるものの性質を変化させ別の物にするのが変化。これが三番目つまり一番難しい。
操作、放出、変化と来たら強化、具現化、特質じゃねえの?と思ったけど後ろの三つは無いらしい。
当然コップに葉っぱを浮かべてやる判定方法もない。残念。
この辺の動作の話になるとほとんど俺の中には無い知識だった。俺の中の知識浅すぎ。
というか良かった。授業が始まった時に「先生そこはもう知ってます」とか生意気な事を言わなくて。
生意気な事を言ったくせに極々初歩の事しか知らないという事態になる所だった。危ない危ない。
「大まかな概念は以上です。後は各属性の細かい話になりますがどうしますか?クレアが知っている事を全部話すとなると時間がかかりますし、専門以外の事は知らない事も多いので・・・」
どうしよう。新しい事も知れたのだが、まだ水魔術をどうやって戦闘に使えばいいかわかってない。
その辺が聞けないだろうか。
「水魔術について。特に戦闘について知っている事は無いですか?」
「水魔術ですか?どうです?」
アマンダさんがクレアさんに聞いてくれる。
クレアさんが少し考えた後、話始めた。
水魔術も基本動作は同じで、操作、放出、変化らしい。
なので基本的にやる事は水を操作して相手の動きを阻害したり、野営の際に水を出したりする事らしい。まあ、そうだろうな。
だからレベルの低い水魔術師は基本的には支援担当だなのだそうだ。
ちくしょう、所詮レベルの低い水魔術は宴会芸にしかならないて事かよ。
これからも俺はゴブリンの顔に水をかけてキャッキャウフフするマンって事かよ。
「ただ水魔術の恐ろしさは別の所にあります。ワタルさんはどの魔術が一番人を殺してきたと思いますか?」
単純に考えれば火だろ。
しかし、その流れでその聞き方はよくない。
俺くらい捻くれているとそんな素直な答えはしないのだ。
「水魔術です」
ドヤ。
「そうです。ご存じだったのですね」
ドヤドヤ。
「そうです。知っての通りその特性上、もっとも人を殺したのは水魔術でした。なので高位の水魔術師はとても恐れられています」
やばい、うっかり知ったかぶりをしてしまったから知ってる体で話が進んでしまった。
まずい、今更「なんで水魔術で人を殺せるんですか?」とか聞けない。
「ですから高位の水魔術師は嫌われる反面、いないと対策も出来ないため引く手はあまたです。ですのでワタルさんも水魔術師には十分注意してください。クレアが説明できそうな事は以上です」
駄目だ。本格的においてかれた上に説明が終わってしまった。
ここで勇気を出さないと取り返しがつかないぞ。行け勇気を出すんだ。
「すみません、なんで水魔術が人を殺せるのか分かってないです。その辺をもう一度、教えてください」
そう俺が切り出すと、クレアさんとアマンダさんの授業が止まる。
そして二人でひそひそと何やら話し合っている。
すみません、知ったかぶりをした私が悪いんです。許して下さい。
「では改めて水魔術でどうやって人を殺すのかについて説明します」
良かった話が戻ってきた。有難う。有難う。
何故、水魔術が人を殺すのかというと答えは簡単だった。
毒を使うのだ。
水溶性の毒を水に混ぜてそれを操る。
それを直接かけたり、こっそり飲み込ませたりするらしい。こわっ。
要するに水魔術と毒を使った暗殺がこの世の中で一番人を殺したという考えらしい。
高位の魔術師だとただの水を毒に変化させたりするので発見が容易ではないらしい。
対抗手段は同じ水魔術師が常におかしな魔力の水が無いか見張ったり、相手が操作してくる毒水を普通の水で洗い流したりするものらしい。凄い地味だ。
しかし、この話を聞いて閃くものがあった。
俺でも出来そうな事がある。
「以上です。他に説明して欲しい事はありますか?」
「大丈夫です。有難うございました大変参考になりました。」
こうして魔術の授業が終わった。
次は実践だ。今思いついたことを早く試してみたい。
ならばダンジョンだ。ダンジョンで俺の新技を試してやる。
そうして俺達は新たな水魔術を試すためにダンジョンへと向かうのであった。




