76話 激怒相
怒りの形相でクレアさんが近づいてくる。
やばい怒られる。そう思い直立不動になる。
「・・・・・・・・・」
が来ない。
思っていたドカーンという奴が来ない。
助かったか?
そう思いクレアさんの方を見るが怒りの形相は変わらない。
完全に怒りモードだ。全くモードゲージが下がっていない。
心なしかクレアさんの顔半分を覆い隠すように付けられた仮面さえも怒っているように見える。
もしかして怒りモードでグラが変わった?
そんな攻撃力増加中のクレアさんと対峙する。
「・・・・・・・・・」
相手の沈黙が気まずい。
というか少し冷静になって見てみるとクレアさんとの距離が思ったより遠かった。
3,4メートルはある。
もっと迫ってきたイメージだったが怒気で大きく見えた的なやつだった。
「・・・・・・・・・」
どうしようクレアさんは何も言って来ない。
でも怒っている。
これは俺が自衛的先制謝罪を行うべきなんだろうか。
何だか分からないがとにかく謝って謝り通す奴。それもなるべく派手な技がいい。ジャンピング土下座とか。
よく「何を怒られているのか分からないのに謝られてもムカつくだけ」と言う人がいるが、それにはまず俺の誠意あるジャンピング土下座を見てからにしてもらいたい。
皆もよく想像して欲しい。怒っている時に相手が突然飛び上がってそのまま空中で土下座の姿勢になる。そしてそのまま着地するのだ。それも額を地面にぶつけながら。
どうだろうか?
俺なら怒りゲージが上昇するね。
なぜなら、ふざけてる感じがするから。
だめだ。
シミュレーションの結果、謝罪はうまくいきませんでした。
どうしよう。どうしよう。
「ばかぁ!」
そんな風におろおろとしていると突然クレアさんがそう言って走り去っていった。
今のは何だったのだろうか。
クレアさんは何に怒っていたのだろうか。
今ので怒りはゲージは全部なくなったのだろうか。
これから俺はどうすればいいのだろうか
そんな疑問が頭の中で渦巻く。
渦巻くが一向に答えが分からず悶々としてしまう。
この後、何も考えずに寝る予定だったが寝れなくなるんだろうな。そんな風に考えながら部屋に入る。
サチも寝れないかもしれないけど、これから寝る時間だからベットに入って一緒に横になろう。
と言う訳で寝れないと思いつつベットで横になるのであった。
もぞもぞと隣が動く気配がする。
まだ眠くなくても横になってなさい。まだベットに入ったばかりだろ。
そう思い抱きしめて落ち着かせようとするが隣の動きは激しくなるばかりだ。
しょうがないので目を開け辺りを見回す。
そしたら辺りはもう明るく太陽も相当高い位置にある。
完全に昼だ。目を閉じたばかりと思ったらもう昼。寝れないかもとは何だったのだろうか。
隣のサチは完全に起きていてベットの上でボールを投げてゴブリンやギンたちと遊んでいた。
俺がサチを離さなかったので仕方なくベットの上で遊んでいたらしい。
正直すまんかった。
とにかくベットを降りて朝の身支度をする。
そんな事をやっていると何故気づいたのかは分からないがメイドさん達が入って来て朝食になった。
昨日と同じように美味しそうな食事が出されているが全然味が分からない。
何故ならクレアさんがいるから。
心なしかこっちを睨んでいるような気もして非常に気まずい。
「昨日はどちらに行っていたんですか?」
給仕をしていたメイドさんに声をかけられる。
もちろんクレアさんではない方だ。
「えーと。冒険者ギルドに行って色々用事を済ませて。それからダンジョンに行きました」
「ダンジョンに?それは夜の間も?ダンジョンで一夜を過ごしたんですか?」
「そうです。自分がいつもダンジョンに入る時はそうですね」
「そうですか」
そういえばこの世界の人はあまり夜にはダンジョンに入らないんだった。
「今度からそのような時は事前に言ってもらわないと困ります」
まあそうだよな夕飯の事とかあるし。
「ダンジョンに行くともおっしゃってなかったので、何かあったのかと・・・」
そう言えばダンジョンに行くとも言ってなかったわ。
「クレアなどは心配で一晩中」
「アマンダさん!」
クレアさんの声でメイドさんの言葉が遮られる。
「とまあそんな訳で、夜に戻られないとこちらとしても何かあったのではないかと心配してしまいます。このまま戻らなければ人を出して捜索するところでした」
そうかそこまで話は大きくなっていたのか。
それにクレアさんには悪いことをしてしまった。一晩中起きてるほど心配させてしまうとは。
そりゃ怒りゲージも溜まるわ。
「それだったら今後とも夕方くらいにダンジョンに入って朝帰ってくる予定です」
「そうですか・・・。それはそちらの子も一緒でしょうか?」
そう言ってメイドさんがサチの方を見る。
「一応、そのつもりですが」
「・・・そうですか。あまり遅い時間では小さな子では大変だと思いまして。ましてやダンジョンですし」
もっともな意見だった。昨日俺も痛感したし。
メイドさんの隣でクレアさんも大きく頷いている。
そうだよな子供にとって夜は寝る時間だしダンジョンも危ないからな。サチにはここでお留守番してもらっていた方がいいのかも。
「そうだなサチにはダンジョンに行かずここでお留守番してもらうか」
その言葉を聞いて朝食をとっていたサチの手が止まる。
そしてこちらを見た表情は絶望の顔だ。
一生懸命首を横に振る。それはもう必死だ。
それも分かる。こんな誰一人知り合いのいない家に一人でお留守番。どうしていいか分からないし不安だよな。
考えただけでゾッとする。そりゃ嫌だ。俺だって嫌だよ。
とはいえサチの将来の事を考えるとここに預けて勉強の一つでも教えて過ごした方がいいに決まっている。さてどうしたもんか。
そう考えているとサチに手をギュッと握られ潤んだ瞳で見つめられる。
その目で見られると弱い。というか無理だ。
「分かったよ。置いてかない。一緒に行こう」
その言葉を聞いてほっとしたのか、サチは手を離し自分の食事に戻った。
メイドさんとクレアさんは不満顔だ。
「・・・そうですか。でしたらこちらからは何もありません」
メイドさんがそう言って会話は終わってしまった。
その後は会話もなく、もくもくと食事をするだけだった。
食事が終わるとメイドさんとクレアさんが食器を片付けて部屋を出ていって俺達だけになった。
よし、やっと人目が無くなったので俺達の資金源である回復薬作りを始める。
とはいえやる事は簡単で井戸から水を頂戴してきてそこに『薬効』のスキル石を入れるだけ。
簡単に水瓶一つ分の回復薬が出来た。
これでここで出来る事も終わったので皆の装備を着けたら外に出る事にした。
まずは回復薬を売りに行く。
場所はいつもの薬屋だ。
いつもと違う道順なのと久しぶりなせいもあって少し迷ったがなんとか薬屋に着いた。
扉を開けて店の中に入る。
店に入ると独特な薬品の匂いがする。そういえばこんな感じの店だった。
店主のおばあさんと目が合った。
お久しぶりです。そう言いかけた瞬間。
「あんた。今まで何してたんだい!!」
滅茶苦茶大きな声で怒鳴られた。
顔も憤怒の表情だ。
これこれこういうのが正しい怒り方ってやつなんだよ。
こういうのでいいんだよ。
「ちょっと!ちゃんと聞いてんのか」
すみません嘘つきました。
全然、こういうので良くないです。
ちょっと現実逃避してました。
この後、ひたすら謝った。
謝り倒して、向こうの怒りゲージが下がってきたのを見計らって回復薬を売り、すぐさま逃げるように店を出た。
滅茶苦茶怖かった。
何も言わずに街を出て行ったから怒ってたらしい。
やっぱ報連相って大事だ。俺覚えた。魂に刻んだ。
傍にいて一緒におばあさんの怒りに触れてしまったサチは、可哀想に顔面蒼白だ。
流れ激怒被弾とかこの世で一番理不尽な目に遭わせてしまった。
すまん。怖かっただろう。俺も怖かった。
よく見たらゴブリン達もギンも元気がない。みんなみんな流れ激怒が当たってしまったんだね。
すまん。不甲斐ない主人を許してくれ。
そんな感じで皆でしょんぼりしながら冒険者ギルドに行く。
冒険者ギルドに着いたら魔鉄鉱石が入っている荷物を持って販売店に向かった。
魔鉄鉱石の塊を全て店員さんに渡す。
店員さんは店の奥に下がって魔鉄鉱石の品質や量の確認をするらしい。
この待っている間が一番、怒気怒気する。じゃなかったドキドキする。
まだおばあさんの怒気に当てられているようだ。
暫くして店員さんが戻ってきた。
結果は合格。これで杖の発注は出来るらいしい。
早速、前金を渡して発注してもらう。
これで後は10日待つだけだ。
10日待てば魔鉄鋼製の杖が手に入る。
そしてその杖に『水魔術』のスキルを入れれば、いよいよ念願の魔術、水魔術が使えるようになるのだ。
これで憧れの魔術師、ひいては魔法剣士になれるということだ。
こんなのワクワクが止まらない。
とはいえこれで完全に魔鉄鋼製の杖が俺の物になったかと言えばそうではない。
何故ならまだ料金の半分くらいしか払ってないのだ。完全に俺の物にするには残りの120万ディールを用意しなければならない。
と言う訳でこれからは120万ディールを目標にダンジョンでお金稼ぎだ。
まあ、10日もあれば回復薬を売るだけで達成できるのだが・・・。
しかし人生何が起きるか分からない。
ある日突然、回復薬が売れなくなるかもしれない。
例えば、突然おばあさんの逆鱗に触れるとか、突然おばあさんに会いに行くのが嫌になるとか。
そう言う突然があってもおかしくないのだ。
なんか想像しただけで気が滅入ってきた。さっき怒られたのがまだ後を引いてるのかもしれない。
考えただけでテンションが下がってきた。
頭を切り替えろ、楽しい事だけ考えるのだ。
とにかくダンジョンだ。ダンジョンで魔物を倒してお金を稼ぐのだ。
それにやる事はそれ以外にもある。
例えば、水魔術でくり出す技を考えるとか。
剣術と水魔術のコンボとか。
水魔術の詠唱を考えるのもありかもしれない。
とにかくやる事はてんこ盛りだ。テンション上がってきた。
そうしてダンジョンに入る日々を過ごし、10日経った。
今、俺の手の中には杖がある。
正真正銘、魔鉄鋼製の杖だ。
異世界に来て4か月半、ようやく俺は魔術師となった瞬間だった。




