75話 新生ワタル隊、出動せよ④
魔鉄鉱石は確かにあった。
あったが俺が最後に確認した時より増えたのか減ったのかそれは分からなかった。
何故なら元の大きさが分からないからだ。
元々、魔鉄鉱石が増えたか減ったかは最初に魔鉄鉱石を埋めた際に同じ大きさの岩を作って、それを基準に大きさを見ていた。
最後に大きさを確認した時はメイス用の魔鉄鉱石を採ったとはいえ、最初に埋めた分くらいは残っていたはずだ。
だから今回の魔鉄鉱石の大きさはその岩を見れば増えたか減ったかは分かる。
分かるのだがそんな岩はもうない。何故なら邪魔だから。
魔鉄鉱石を埋めた直後くらいはその岩を持って帰っていたがメイス分を採った後はその辺に置いておいた。
理由は邪魔だから。
どうせこんな岩だれも持っていかないだからここに置いておいて、必要になった時に使えばいいや。
そう思ってた。そう思っていた時期が私にもありました。
当たり前だが時間が経ってしまいどれがその測量用の岩か分からなくなってしまった。
だから現状、増えたのか減ったのか分からない。
なんかさっきまで増えるのか減るのかのガチャを引く感じで自分の中で凄く盛り上がっていたが急激に冷静になってきた。
そして冷静になると「シュレーディンガーの石だ」とか「増えている世界線を引き当てるんだ」とか言っていたのが恥ずかしくなってきた。
大体、ガチャ的な物を引くときはテンション上がってあんなような事を口走るけど、終わって賢者モードになると何言ってんだこいつになるよな。
そもそもシュレーディンガーの猫の事がフワッとしか知らないから、あの使い方であってるかも分からないし。
まあとにかく魔鉄鉱石はあった。
それも杖を注文する分には十分な量はあると思う。
ただ問題は杖の分を確保するとほとんど魔鉄鉱石を使ってしまう事になると思う。それくらい微妙な量だ。
考えられる案は2つだ
案1はこのまま全部、魔鉄鉱石を持っていって杖を作って貰う。
これをすると魔鉄鉱石鉱床はなくなり、作るには新たに魔鉄鉱石を掘らなくてはならない。
案2は以前のように魔鉄鉱石を増やす。
魔鉄鉱石を増やす方法は確立しているので、また魔鉄鉱石を増やして十分な量になったところで杖を作って貰う。
これをすると増やす時間が掛かるので杖が出来る時間がただでさえ10日かかるのに、更に遅くなってしまう事だ。
さてどうしたもんか。
まあ簡単には決められないし取り敢えず飯を食べながら考えるか。
穴の外に出て、みんなを集める。
みんな集まったら穴の近くの地面に座って、前に買っておいた保存食を皆で食べる。
ちなみにドンだけは専用の餌だ。
ゴブリンやギンそしてドンなんかも途中で魔物の死体を食べているはずだが普通に一杯食う。
そんなにおいしい物でもないのだがこいつらには別腹らしい。
サチも食べているが表情を見ているとそんなに美味しいという感じではないし、いつもみたいに沢山は食べていない。
最近、食欲が出て来たのかサチは沢山食べるようになっている。このままサチには美味しい物を沢山食べて大きくなって欲しい。
ただ今回は保存食だから仕方ないか。
そんなこんなで味気ない食事が終わる。
食事が終わったからには決断をしなければならい。
採るか増やすか。どっち?どっち?
どっちもだよ。
どっちも決められないので第3の案、プランCにする。
プランCは魔鉄鉱石を一旦全部掘り出した後に魔鉄鉱石のほんの一部だけ削り取って、それを再びこの穴に埋めて増やしていく作戦だ。
つまりこれは杖を作るのは絶対に遅らせたくないが、魔鉄鉱石の鉱床も完全には無くしたくないという思いから立案された作戦だ。
魔鉄鉱石の鉱床を完全になくすと、新たに魔鉄鉱石鉱床を作るために魔鉄鉱石を掘る所からやらないといけないのでそれは面倒くさい。
だから残す。ほんのちょっとでも残せば徐々に増やしていくことは出来るはず。きっと。メイビー。
一見、案1と案2のいいとこどりで非の付け所がない作戦のように見えるが実は違う。この作戦ではこの魔鉄鉱石で削りだす量がかなりシビアになるはずだ。
あまり多くの量を削りだすと杖に必要な分が足りなくなってしまうだろうし、かといって少ないと増やすのに凄い時間が掛かるのと下手したらなくなってしまう可能性がある。
だからとてもリスキーでテクニカルな作戦なのだ。
もしかしたら両方とも駄目になってしまう、そんなリスキーな作戦だが俺はやると決めた。
何故ならもう魔鉄鉱石を掘りをしたくないからだ。あれをしなくてもいいならいくらでもリスクをとる。
と言う訳で早速、魔鉄鉱石を全部掘りだす。
そして、次はいよいよ残す部分を削りだす。
荷物からピッケルを取り出し構える。
削りだすと言っても何か専用の道具があるわけではない。
使うのはこのピッケルだけだ。ピッケルで端の部分を叩いて小さな破片を作るそれだけの作業。
だがそれだけの事が緊張する。
あまり端を叩きすぎてもちょっとしか取れないし、かといって中心の方をやったら大きな破片になってしまう。
大きな破片ならまたそこにピッケルを入れて小さな破片を作ればいい気がするけど、絶対に気に入る大きさが出来なくて気が付けば沢山の破片が出来てどうしようもなくなってしまう。そうに決まっている。
だからなるべく一回で出来るように慎重に慎重に。
だめだ。そんな事を考えてたら全然、ピッケルを振り下ろせない。勇気が出ない。
一度、失敗したらバラバラになってしまう。そんな事がずっと頭をよぎる。
バラバラ。バラバラ。バラバラ。
バラバラ?
よく考えたらバラバラでも良くない?
元々、鉄鉱石てバラバラの奴を集めて持っていくわけだし、そういえば思い出したけど鉄鉱石を売ってた時はバラバラのまま売ってたし、それで一回も文句言われなかった。
何か知らないけど塊じゃなきゃダメな気がしてたけど、そんな注意一回もされた事なかったわ。
というかむしろ塊で持っていく方が稀な気がする。
という事でバラバラになっても気にしない事にした。
一気に肩の力が抜けた。
気軽にピッケルを持って無造作に魔鉄鉱石を叩く。
何度か叩いていくつかの破片が取れた。
どれくらい残す必要があるか分からないけど二つくらい入れておけばいいか。
なんかさっきまで悩んでいたのが嘘みたいに適当になっていく。
掘り出した魔鉄鉱石を荷物に入れてドンに括り付けたら、穴の中心に魔鉄鉱石の欠片を二つ入れて埋めていく。
埋めると言っても少し土をかける程度だ。
次にこの上に魔物の死体を置いて埋める必要があるので穴はそのままでいい。
よし後は養分用の魔物を狩るだけだな。
この辺の獲物ならカエルがいい。あいつらは無駄に図体がでかいから良い養分になるはずだ。
今までは倒しても荷物になるから無視してきたがこうなったら手加減は要らない。殲滅してやる。
それにサチはカエルをまだ見たことが無いからな、あいつの擬態は見事で急に地面や岩が動いたと思ったら舌を出してくるのだ。これには絶対ビックリするだろう。
サチがビックリする表情を想像しながら穴を出る。
すると目に入ってきた光景にぎょっとする。
サチが倒れていているのだ。
まさか。何で。
もしかして、さっきネズミにやられた傷か。『抗病魔』や『再生』があるからって何もしなかったのがまずかったか。
「サチ!」
そんな事を考えながら慌ててサチに駆け寄る。
するとサチは目を一回あけ、俺の事を確認するとまた再び目を閉じた。
そうしてサチは安らかな眠りにつくのであった。
うん。単純に寝てるだけだね。
そういや、今何時か分からないけどきっと深夜と言って差し支えない時間だ。
今までギンもゴブリン達もドンも全然支障がなかったから忘れてたけど、今は夜で良い子は寝る時間だ。
何も考えずにいつも通り夕方にダンジョンに入ってしまったが、サチの事を考えれば時間をずらすべきだったかもしれない。
まあ、反省は後にして今はやるべきことをやろう。
サチには可哀想だがこのままここで寝ていて貰おう。
荷物の中には布団はないが布やタオルみたいなものはいくつかあるので、地面に敷きそこにサチを寝かせる。
魔鉄鉱石を増やす用の養分は必ず欲しいので狩りは続行する。
そのためサチを護衛するチームとカエルやゴブリンを狩りに行くチームに分けた。
護衛チームはドンとギンだ。
このダンジョンでは急に魔物が地面から湧いて出るような事はないので壁を背にして動き回らなければそんなに危険はないはず。
だからドンにサチの傍にいてもらえれば大丈夫だとは思うが、もし万が一の事があったら困るのでギンをつける。
ギンには何かあったら俺達を呼びに来るように言い聞かせる。
これで俺達が何処にいてもギンがその鼻で俺達を見つけて呼びに来てくれるだろう。
と言う訳でゴブリン達と久しぶりに4人で狩りを行う。
カエルの擬態は難なくゴブリン達が見破ってくれるし、今はこっちのも遠距離攻撃があるので簡単にカエルを倒してく。
唯一困ったことは、いつもカエルを運んでくれているドンを置いて来てしまったために運搬が面倒くさいという事だけだった。
そんな感じでカエルを3匹、ゴブリンを4匹ほど狩ってこの部屋のカエルがいなくなったところでこの日の狩りはやめた。
他の部屋にも行こうかと思ったがあまりサチから離れるのは不安なためやめた。
運んできた魔物を穴に入れて埋めたら後はやる事が無くなってしまった。
帰ろうかと思ったが何となくこのままサチを寝かせて上げる事にする。
静かにギンたちと遊んだりして時間を潰したらもうそろそろ帰る時間になる。
まだサチは起きる気配はないのでこのまま運んで行く事にする。
最初はドンの背中に乗せようかと思ったが、荷物を積む用の鞍があり案外寝かせたまま乗せるのは難しかった。
しょうがないので俺が背負って帰る事にする。
荷物をしまってサチを背負ったらそのまま出口に向かう。
サチを背負っている分かなり時間が掛かってしまったが大体いつもと同じくらいにダンジョンを出た。
外に出たらもう朝で完全に日が出ている。
そのせいか背中に背負っていたサチが起きだす。
このまま寝ていてもいいのだが折角起きたのでこのまま夕食というか朝食をとる。
サチは半分寝ぼけているが結構食べた。やっぱりサチは沢山食べるほうがいいな。
そんなこんなで新生ワタル隊の初出動は終わった。
後は帰って寝るだけだ。
是非ともサチにはちゃんとしたベットで寝なおしてもらいたい。
俺も一杯寝る。
そんな訳で意気揚々とお屋敷に帰る。
ダンジョンからお屋敷に帰るのはとても新鮮だ。どんくらい新鮮かというと一回間違えて宿屋の方に行ったぐらい新鮮だった。
そんな感じで少し寄り道をしながら、ようやく屋敷に着く。
まだ慣れていないせいかその大きさにビビりながら門を抜けて屋敷に入り、ドンを預けたら俺の部屋に帰る。
すると、俺の部屋の前に佇んでいる人がいるのが見えた。
クレアさんだ。
こんな朝早くからも働いているのか、えらいな。
そんな事を思いながら近づいていく。
すると向こうもこっちに気が付いたのかこっちに駆け寄ってくる。
だが様子がおかしい、なんか物凄い形相でこちらを睨みながらこっちに来る。
何だ何が起こっている。
あの温厚なクレアさんが見た事もない表情をしている。
訳が分からないよ。軽く混乱する。
だがこれだけは分かる。
これ怒られるやつだ。
俺が。




