6話 ダンジョンにて②
スライムを探して部屋の中を彷徨う。
部屋は起伏もあるし何より大きな岩なんかがたくさんある。
壁の光石からの光もあまり明るくないので、死角となる場所はたくさんある。
どうせこういうのは端っこの方にいるんだろうと端の方から虱潰しに探していく。
するといた。
岩の陰だ。
慎重に近づいていく。
相手に動きはない。
既に足が届く範囲だ。
意を決して思いっきり踏みつける。
少しバランスが崩れたので慌てて岩に手をついて踏み続ける。
やったか?
かなり踏みつけているんだからもう死んだろ。どうなんだ。
踏みつけを止めてスライムを見てみる。
暗いので白く濁っているか分からない。
とりあえず明るいところへ持っていき見てみる。
やっぱり分からない。元の色が分からないからな。
でもまあ動かないのでそのまま袋に詰めていく。
なんだかちょっとすっとした。
この調子でスライムを探しては踏みつけるを繰り返す。
なんだか楽しくなってきた。
異世界に来てから今日までのストレスが少し解消された気がする。
さらなるスライムを探しに岩場を探していると影が動いているのを見つける。
スライムはそこか。踏んづけてやる。
そう思って足を上げようとした瞬間、何者かが飛び出してくる。
四本脚で地を這うように進みながら口を開けている。
トカゲだ。噛みつかれる。
とっさに足を引いて後ろに飛びずさる。
「シャアアア」
相手はその場で口を開いて威嚇している。
すごいでかい。俺の知っているトカゲとしてはありえないくらいでかい。
「トカゲが出ましたーーーーー。」
ここで思い出して叫ぶ。
すぐに教官が駆け付ける。
教官はトカゲとの間に割って入り、手に持っていた小さな盾で牽制する。
「お前は後ろに回り込んで剣で刺せ。」
後ろ?教官の?もういるけど。刺すってなにを。
一瞬何を言っていたか分からなかったが直ぐに理解した。
急いでトカゲの後ろに回り込む。
そして剣を勢いよく抜きそこで躊躇する。
刺すっての怖い。
「早くやれ!」
教官の言葉に咄嗟に体が動く。
両手に持った剣を勢いよく体ごとのしかかるように胴体に刺す。
ぶつという手ごたえとともに剣がささる。
トカゲは大きく暴れるが剣から手を放さずにそのまま体重をかけ続ける。
「よしもう大丈夫だ。よくやった。」
そうしてトカゲが動かなくなったあたりで教官に声をかけられる。
安心して剣から手を放そうとするが手が剣から離れない。
指に力が入りすぎて指を開くことが出来ない。
なんか自分の体じゃないみたいだ。
周りを見渡すといつのまにか他の奴らも集まってきていた。
「ちょうどいい。よし今からトカゲを切り分けるからそこで見ていろ。」
剣が離せないので剣をトカゲから引きぬく。
そのまま教官がトカゲを解体するのを見ていた。
トカゲはもっととんでもなく大きいかと思っていた。下手したら牛ぐらいの。
だがこうしてみると大したことはなく全長1メートルもないだろう。
それに何よりしょぼいのはトカゲもスキルを持っていなかったことだ。
トカゲは頭、手足、尻尾を切り落とされた。
頭は捨てていくらしい。
胴体は内臓を取り出した方がいいらしいがここじゃ時間がかかるのでギルドでやるらしい。
素早く切り分けた部分をそれぞれ袋に詰めていく。
大きくて一人では持てないので他の人に分担して持ってもらう。
捨てていくものは穴を掘って埋めていく、こうしておくとダンジョンが吸収してしまうそうだ。
ちなみに体の中にある荷物も同様だ。
「よしじゃあ次の場所に行くか。」
少し休憩してようやく落ち着いたところで次の部屋に移動するらしい。
教官を先頭にして歩き出し次の部屋に行く。
そしてその部屋でもスライム狩りをする。
これを繰り返していくらしい。
ただ3つ目の部屋では変化があった。
それはコケだ。
3つ目の部屋の一部の壁にびっしりと緑色のコケが生えているところに案内された。
「これは回復ゴケといってな。回復薬の原料になる。だから結構いい値段になる。お前たち見習いは必ずお世話になるものだ。ただ全部を採ったらだめだ。少し残しておけばそのうちまた復活するが全部とるといずれなくなってしまう。もし来た時に少ししかなかったらあきらめてまた次の日にとりにこい。」
なんかそういうものらしい。
スコップで壁からコケを剥がして袋に入れていく。
高い天井にまでびっしりとあるので全部なくなることはないだろうが1袋満たしたところでやめておく。
この場所は重要っぽい。
部屋に入るたびに自分の地図で場所を確認していたのでこの場所にくるルートをよく覚えておくことにする。
コケを採り終わると少し遅めの昼食を食べる。
携帯食料はなんか硬いビスケットみたいなやつに干し肉だった、この肉もトカゲ肉なんだろうか。
それにしても喉が渇く。
水袋の残りを確認しながら少しずつ飲んでいたがこのぱさぱさ地獄により結構飲んでしまった。
残りを最後までもたせるより一層の節水を心がけるが次の部屋に行ったときにあっさり解決した。
湧水が出ている場所があったのだ。
湧水を汲んで一息つく。
しかしこのルートはかなり考えられて作られたルートだ。
きっと初心者用に考えて設定したルートに違いない。
このルートは黄金ルートとしてよく覚えておこう。
その後もスライム踏み行脚をしていく。
午前中は気づかなかったが結構冒険者とすれ違うことが多い。
午前中は余裕がなかったから気が付かなかったのか、この時間に冒険者が多いのか。
まあその両方なんだろう。
そして本日8部屋目が終わった時だった。
「よし今日はこんなもんだな。お前ら持ってきた光石を出せ。」
スライムの死骸とトカゲの肉で荷物もすでに背嚢いっぱいになっていた。
そんな中で文字通り荷物でしかなかった石を下の方から引っ張り出す。
「じゃあその辺の適当な壁で光石がないところに穴をあけてそこに埋めろ。」
言われたままピッケルやスコップを使って壁に穴をあけ光石をねじ込む。
なんかカパカパしてるのですぐに取れてしまいそうだがこれでいいらしい。
穴をほって穴を埋める。結構な量を持ってきた光石を持ってきていたので、かなり重労働だ。
なんかの拷問に違いない。
「よしできたな。光石をこうやって壁に埋めとくとなそのうちダンジョンが壁を自分で修復したさいに固定されるんだよ。固定されてしばらくたつと無くなるんだけどな、それを繰り返し光石を埋めていくとダンジョンもここには光石があるのが普通なのかと勘違いしてなくならないようになんだよ。」
なるほどダンジョンは元の環境に勝手に修復されるのか。
そしてそれは完全ではない。
「そうすると今度はそこにある光石をとってもある程度したら光石込みで復活するようになる。そういう事を繰り返し繰り返し行ったから今、1階はほとんどの壁に光石があってランタンなしでも歩けるんだ。」
そうかダンジョンが明るいのも元からじゃなかったんだな。
「それは光石だけじゃない、回復ゴケも途中の湧水もみんな先人の冒険者が少しずつダンジョンを冒険しやすい環境に作り替えた結果なんだ。だからお前たちもダンジョンに入る際にはまず光石をとって帰る前にどこかの暗い壁に光石を埋めていく、そうすることが将来の自分、後輩たちみんなの役に立つ。だから俺たちは光石を持って歩く、回復ゴケは取りすぎない、湧水は汚さない、それこそが冒険者の使命だ。」
なるほど黄金ルートだと思ってたけどそれは本当に作られた黄金ルートだったんだな。
サンキュー昔の人、今日から俺も使わせてもらうよ。
「というわけで長くなってしまったがこれにてダンジョン探索は終了。長かった初心者講習も終わりだ。と言いたいところだが最後に試験をだそう。内容はこの5人全員で無事帰ること以上だ。」
そういって教官はいつの間にか手にしたランタンをこちらに向ける。
うおっまぶしっ。
薄く明かりがあるとはいえ暗闇になれた目に強烈な光が入ってきて咄嗟に目を背ける。
そうして目がまた暗闇になれた時、気が付いた。
教官がいない。
しまったやられた。
「何するんですか教官。」
「なんだったんだ今のは。」
「うお、教官がいない。」
他の4人も気づく。
どうやら俺たちは置いて行かれたらしい。
そして俺たちだけでこのダンジョンを出なければいけないらしいという事に。