68話 騒音
倒れている男がアンデット系の魔物でない事を知ってほっとした。
なんだよ、動く死体じゃねえのかよ。
リッチ系じゃねえのかよ驚かせやがって。
ただの死にかけか、ビビッて損した。
死にかけの人間!?
それはそれでまずい気がする。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫な訳ないだろ、早く何とかしろ!」
元気だから、まだ大丈夫かな。
ただ血が出てるからこのままだと死ぬ気がする。
しょうがない、足と肩に刺さっている短剣を引き抜き、ゴブリン達に返してやる。
その後、手に持っていた回復薬をかけてやる、これで直ぐに死ぬことはないだろう。
「それでいい、後はこいつらは早くどけろ!」
死にかけの男はそう言ってくる。
だが断る、ゴブリンやギンはそのままだ。
自由にしたらなんか襲ってきそうな感じで怒っているからな。
出来ればこのままの状態で話し合いたい。
「それで、あなたは誰なんでしょうか」
「はあ!?俺が誰だか分からず、あんなふざけた態度取ってたのか。俺は暁のさそりだ。いいか分かったなら直ぐに解放しろ」
暁のさそりか。
あれだ、サチが元々いた組織で暗殺者がいるとか言ってたところだ。
しかし、なんでその暁のさそりさんが来たんだろう。
サチを取り返しに来たのかな、だとしたらサチはもううちの子だから絶対に渡さん。
「いいか、ここで俺を殺してもお前は既に抹殺の対象だ。だからすぐに他の奴がやって来て殺されることになるだろう。今すぐ俺を解放しろ。そしたらお前の抹殺命令も取り下げる事も出来る、だから早く俺を解放しろ」
俺を殺しに来たのかよ。怖っ。
という事はこの部屋に居る奴らは全部、暗殺者でゴブリンとギンはこいつらを撃退してたのか。
すごいじゃん。
というか全然、気が付かなかった。
やば、なんか普通にゴブリンやギン達が気が付かなかった場合を考えたら、急に怖くなってきた。
「分かってんのか、うちの組織を敵に回すという事はいつでも、どんな時でも暗殺の恐怖に怯えて過ごす事になるんだぞ」
確かに、暗殺者って冷静に考えると怖いな。
今日は上手くいったけど次は上手くいくとは限らないし、もっと凄い暗殺者が出てきてもおかしくない。
むしろマンガやゲームだと最初に来るのは、四天王的な奴の中でも最弱な奴でどんどん強い奴が送られてくるもんだ。
やばいじゃん。
そもそも、今回なぜ撃退出来たのかも良く分かってないのがやばい。
ゴブリンやギンが頑張ったってのは分かるけど、こいつらのスキル値が高いから気が付いたのか、それとも本当に偶然気が付いただけなのか、その辺が全く分からない。
これがまぐれだとすると・・・やばい考えれば考えるほど怖くなってきた。
これってとってもまずい状況なんじゃ。
しかし、そうは言ってもこいつを逃がしても、こいつが約束通り俺から手を引いてくれるなんて絶対ない。
絶対、もっといっぱい部下とか強い奴を連れてきて襲って来るに決まっている。
間違いない。
しかし、それならそれでどうしたもんか。
そういえば、あのお嬢様が暁のさそりを潰すとか言ってたし、このまま拘束してあのお嬢様に差し出すのが良いのかな。
あのお嬢様が持ってたあの魔道具にかかれば、情報は引き出し放題だろうし、そしたら組織を潰すのが早くなるかもしれない。
それだな、そうしよう。
そうと決まれば、まずは奴を紐かなんかで拘束しよう。
今のまま、イチ、サン、ギンに拘束させ続けるのは大変だろうから、紐にチェンジだな。
荷物から紐を探し出して、男に近づく。
「お前、何しようとしてる」
「いや、縛っておこうかと」
「なんだそりゃ。いい加減に、ぐえ」
男が何か喚こうとしていたので上に乗ってたゴブリン達が、更に力を込めて押さえつける。
押さえつけられると苦しいよね、ソースは昨日の俺。
ゴブリン達が押さえつけている間に両足と両手を縛る。
縛る間に暴れたが何とかゴブリン達と協力して縛った。
めでたし、めでたし。
と言う訳でもう一度寝ますか。
ベットに入ってもう一度寝ようと布団を被った所で男が騒ぎ出す。
うるさい、けど面倒くさいから無視してこのまま寝ることにする。
こっちが無視しているのをいい事に奴はどんどん饒舌に、うるさくなっていく。
やつが言う事には、自分の組織は必ずお前を殺しに来るとか、自分には仲間がいるからこのまま騎士に捕まえさせても必ず脱出してお前を殺してやるとか。
うるさいし、なんかちょっと不安になってきた。
ちょっと黙らせようかと思案しているその時にその言葉が聞こえた。
「そうだ、お前、お前だよ!そこに居るんだろ早くそこで寝てる奴を殺してこの縄をほどけ。早くしろ。また前みたいに躾けられたいのか。散々教えてやっただろうが俺が言った事はすぐに実行しろ。このクズが」
この言葉が聞こえた瞬間同じベットで寝ていたサチの震えが目に見えて大きくなった。
ガチガチと歯を鳴らしながら自分の体を抱いて震えているサチ。
そうだサチの事があったんだ。
考えてみればあいつの声を聞いた時からサチは震えていた。
最初は魔物が怖いのかと思ったが違った。
あいつだ、あいつが怖いのだ。
「どうした、早くしろ。このクズ。また耳を引きちぎられたいのか」
サチの顔が一層、恐怖に染まる。
それを見た瞬間、決意した。
体はもうすっかり治っている。
心も声を聞かせてくれた事でだいぶ良くなっていると思う。
後は何も心配事はなく、笑って過ごさせてあげられると、普通の女の子として生きれると思っていた。
でも違った。
まだまだ全然治ってなかったし、何より彼女を恐怖させるものがいる。
まずはこの恐怖から、この恐怖を取り除いてあげたい。
サチをそっと抱きしめる。
そして震えるサチの頭を優しくなではじめる。
さっきよりももっと優しく、そして丁寧に撫でる。
サチの体の力が少しずつ抜けていくのが分かる。
「大丈夫?ちょっとは落ち着いた、直ぐに戻るからちょっと待ってて」
そう言ってサチの体から離れベットから降りる。
そしてベットの傍にあったメイスを手に取り、力を込める。
力の込め具合が難しい、あんまり力を入れすぎると床とかを壊してしまいそうだ。
冷静になりたい、冷静に冷静に。
そうな自分い言い聞かせながらあの男に近づいていく。
「お前、何もって来てやがる、いいからこれを」
無理だな。
地面を蹴って、その場から一気に男に近づく。
そうして手に持っていたメイスを振り上げ、一気にやつの背中に振り下ろす。
ドーン
手に何かが潰れる感触と硬い物にぶつかった感触がやってくる。
下にいた男は体をのけぞらせ、全身を痙攣させている。
もう一撃か?
そう考え、メイスに更に力を込めていくがその途中で男はピクリとも動かなくなった。
どうなったんだろうか?
なんかいろんな物を潰したし無事ではないと思うが。
そう思い、男の状態を確認しようとしゃがんだ瞬間、気が付いた。
『暗殺』2.8
『気配遮断』1.9
『恫喝』0.6
この3つのスキル石が男の傍に落ちていた。
そうか、こいつ死んだか。
そして、俺こいつ殺したんだ。
生まれて初めて人を殺したんだ。
そんな事をぼーっと考えていた。




