64話 秘密のお茶会
「それで?あなたはどうしてあそこに居たのかしら?」
お嬢様からそう聞かれる。
どう答えたものか。
正直に答えると、女の子の奴隷が欲しくてアルステラまで来て、売ってる場所を紹介してもらうまで待てなかったからその辺の店でかまかけていたら犯罪組織から奴隷の少女を見せられて、買わなきゃ殺すぞと脅されたから買いました。
そしたら、無実の罪を着せられて気がついたら捕まってました。
こうなる。
この説明はうら若き少女には刺激が強いし、教育上よくないからもっとマイルドに、もっと俺がかっこいい感じにしよ。
冒険者として依頼でアルステラまで来て、ちょっとした買い物をしていたら、いつの間にか犯罪組織の店に入ってました。
そこでこのサチが売られていたのです。
サチは傷だらけだったので、とても見ていられない状態だったのですぐさま買って助け出したのです。
ここにまったくの他意はありません。
あくまで人命救助です。それ以外の何物でもありません。
後日、何故か何の罪もない俺とサチが捕まり、サチが犯人だと嘘をつかれたのです。
これだな。
これをお嬢様に説明する。
「ふーん」
なんか少しお疑いのようだ。
こちとら、なんのやましい所はない。
ただR18版でお送りしただけだ。
嘘、偽り、大げさ、なし。規制あるだけ。なんか片言になっちゃった。
「そういえば」
お嬢様はそう言うとサチに目線を移す。
可哀そうにサチはそれだけで固まってしまう。
ようやくお菓子を食べようと口に運ぼうとしている最中だったのか、お菓子を手に持ったまま固まってしまった。
「ちょっといいかしら」
そう言うとお嬢様は立ち上がりサチの目の前まで来る。
そしてそのまま、サチの髪に触りだす。
なんでしょうか、ちょっといいですね。
お嬢様はそのまま髪をかき分けて耳を出すと、耳を入念に触っていく。
サチの耳は先端が尖っているのだがそこをなぞるように撫でていく。
あの先っぽってつるつるしてるし、ちょっとこりこりした感じが触り心地がいいんだよね。
わかる。
サチは、どうしていいか分からず、されるがままだ。
耳の先が少し赤くなっている事から、恥ずかしいらしい。
そりゃそうだ。見てるこっちもドキドキしてしまう。
「ちょっと、立ってもらえるかしら?」
お嬢様は耳から手を放すとそう言う。
サチは言われるがまま、勢いよく立ち会がる。
サチが立ち上がると2人は見つめ会う位置関係となる。
お嬢様はその状態で、サチの顎に指を置き、そのまま指でサチの顎を上げる。
いわゆる、顎クイの形だ。
そのままお嬢様はかがむようにしてサチの顔に近づいていく。
きゃ、やだ。嘘。
そんな大胆。
お嬢様はそのまま、サチに。
と見せかけてサチの喉を覗き見るだけだった。
なーんだ。つまらん。
その後、お嬢様はサチの喉の辺りを触ったりして、一通りサチの喉の辺りを確認するとサチから手を放す。
「じゃあ、今度は後ろを向いてもらえるかしら?」
またもサチは言われるがまま、素早く後ろを向く。
サチが後ろを向いた瞬間、お嬢さまはサチの服を捲り上げる。
そんなふしだらな。
お父さんまだ2人の関係を認めたわけじゃないんですからね。
大胆すぎ、まだ昼間なのに。
そんな思いも虚しく、お嬢様はサチの背中をさすって確認していく。
まあここまでやられれば分かる。
お嬢様はサチが暁のさそりに付けられていたとされる個所を確認しているのだ。
「なるほどね、これなら本当に傷があったのかどうかも怪しいわね。大したものだわ。でこれどうやったの?」
お嬢さまはサチの確認が済んだのか、サチを解放すると今度は俺の方にそう投げかけた。
「・・・さ・・・秘密です」
何か言う直前にこの怪我を治すのは大事件だ、と誰かが言っていたのを思い出して誤魔化す。
「まあ、そうよね。これってあなたなら何度でも出来るのかしら?」
「・・・・・・それも秘密です」
なんか質問を全部、秘密で返してるのってちょっと可愛くない?
はい、すみません。可愛くはないです。
「なるほどね」
そう言うと少女は自分の席に戻って座る。
サチももう座っていいぞ。
サチを座るように促す。
サチは席に座ったが自分の手のひらに握ってぐちゃぐちゃになったお菓子を見ていた。
あんな事されたら緊張して手に力は言っちゃうよね。
それはここに置いて別の物を食べなさい、えっそれも食べるの?まあいいけど。
「あなたこの後どうするの?」
サチとそんなやり取りをしていたらお嬢様はそう聞いてきた。
「えっ、帰って寝ますけど」
「そうじゃなくて、今やっている仕事が終わったらどうするかって事」
「それは普通にあの街に帰って、またダンジョンに潜ったりしてると思いますけど」
「そう。それならうちで働かない?」
お嬢様の所で働くか。
それもいいかもしれないけど、何せさっきの裁判のやつを見てるから、きっとお嬢様の部下は大変な気がする。
美少女の元で、美少女にこき使われる。
これはある人種にとってはご褒美で、至極の時間ではありそうだが、いかんせんまだその境地にはたっしていない。
「すみません、止めておきます」
「あら、理由を聞いてもいいかしら」
「え、大変そうだから」
「ぷっ」
なんか横に控えていた女騎士さんが噴き出す。
思えば失礼な返答だ、つい正直に答えてしまった。てへぺろ。
「ちょっと、エルザなに笑ってんのよ」
「すみません、つい」
「まあいいわ。何が大変そうと思っているか分からないけど・・・別にあなたに何か特定の仕事をしてもらおうと思っているわけではないの。ただ、この家に居て私が困った時に、あなたが出来る範囲で手伝ってくれればそれでいいから」
うーん。
なんか、何もしなくていい。時々手伝ってくれればいい。やる事は簡単な事だけ。
聞いてるといい条件のようにも思えるけど、これってこのお嬢様のさじ加減でやる事と忙しさが変わるって事だからな、絶対やべえやつだろこれ。
「すみません。お断りします」
「そう・・・残念ね」
お、なんか割とあっさり断れた。
もっとしつこくされるかと思ったが、そうでもなかった。
なんか拍子抜けした。
「じゃあ冒険者として依頼を出したら、受けてもらえるかしら?」
「・・・それはまあ、内容によりますけど出来る範囲でなら。」
「あら、それは良かった。ではお名前を教えて頂けないかしら?」
名前もご存じなかったのか。
そういや裁判で一度も呼ばれてなかったわ。
「ワタルです。ワタル・ヒムカイ」
「ワタルね。覚えたわ。念のため冒険者カードを見せて貰えないかしら?」
「冒険者カードですか」
そう言いながら冒険者カードを探す。
そして思い出す。
「冒険者カードは没収された荷物の中です」
「あらそうなの。没収された荷物は今こちらに運び込ませているのだけれど、何分色々な所と人に分散しちゃったみたいなのよ。集めるのにもう少し時間が掛かるのですって。もしかしたら今日中は無理かもしれないわ」
「はあ」
それはあれか、さっきの警備兵みたいに懐に入れちゃった系ってことか。
なんかお嬢様が全員しょっ引くって息巻いてたけど全部出来るんだろうか。
まあこうなったら気長に待つしかないか。
「後はそうね、アルスターからこっちに移ってくる気はないのかしら?」
「アルスター?」
「ダンジョンがあるあの街よ、私たちが会った」
ああ、そんな名前だったかも、最初のうちに聞いた記憶がかすかに。
「移る気はないですね。ダンジョンがないし」
ダンジョンがないと新たなスキル石が手に入らない。
何より回復薬が作れないからお金が1ディールも入らない。
これが本当にでかい、お金が増えることがないから買い物をするにもつい値段を気にしてしまい買わないこともしばしばあった。
常にお金が無くなる事の恐怖と戦っていたと言える。
どんだけダンジョンがないと困るかがこの1週間で実感した。
本当にこの世界に来た最初の街があの街で良かった。
「そうなのね、ダンジョンがあったらこの街でもいいのかしら?」
「・・・それは、そのダンジョンを見てみないとなんとも。というかダンジョンあるんですか?」
「ないわよ」
ないのかよ。
「なるほどね。そうだ、これを聞いておかなくちゃいけないんだった。あなたを嵌めた暁のさそりだけど、今捕まえている関係者の口を割らせ次第、組織を潰そうと思っているのだけれど、あなたも参加するかしら?」
「参加というとどんなことをするんでしょうか?」
「多分、今捕まえているやつらからだと大した情報は持ってないでしょうから、聞き出した場所や人を捕まえたり差し押さえたりして組織を弱らせることが最初の目的かしら。あなたに参加してもらうとしたら騎士と一緒に拠点に行ってもらって構成員を捕まえたり、捕まえられなかったら殺したりすることね」
「はあ」
相手のアジトへのカチコミ要員ってことね。
あまり、気が乗らないな。
「最初は違うかもしれないけど、続けていけばそのうち会えるかもしれないわよ。あなたを嵌めるように指示した奴とか、そっちの子に傷を負わせた奴とかに」
そういってサチを指さす。
サチはビクッと身を震わせる。
単にビックリしただけか、それとも何かを思い出してしまったのか。
その瞬間、頭に血が上るのを感じる。
サチにあの仕打ちをした奴。
そうかそういう奴もいたか。
そういう奴に復讐をする、そういう事もあるか。
「止めておきます」
「理由を聞いても?」
「まあ、サチに傷をつけた奴は憎いですけど・・・それだけですね。なんというか、そいつを探しだして何かしようって気にはあまりなれないですね。それをするくらいなら、サチと一緒にいてサチに何かしてやりますね」
自分の思ったことを整理しながら言葉にする。
言葉にしてみて思ったが、そんなものかと自分でも思う。
もちろん目の前でサチが傷つけられれば、話は別だが今ここにいない人物について何か行動を起こそうとは思わなかった。
なんだろう俺って冷たいのかな。
行動力が足りないのか。
それとも想像力が足りないのか。
まあいいか。
結局、選択肢は変わらない。
「そう、復讐はしなくてもいいのね」
「はい」
「・・・そう、ならいいわ」
そう言うとお嬢様は複雑な表情をした。
落胆、不安、困惑、安堵、どんな感情かは俺には分からなかった。
しかし一つだけ分かる事は、俺にはもうこの事件に対しての思いはないという事だけだった。




