63話 逆転裁判はじめました②
「ではそろそろ、本題に入りましょうか。」
そう少女が宣言する。
「なんか珍しい物を見たせいで話がそれちゃったわ。誰が暁のさそりの協力者か、はっきりさせましょうか。」
そういや、そうだった。
俺としては、サチや俺を嵌めようとしていた奴らが正当に裁かれればそれでいいや。
後、魔鉄鋼剣はちゃんと返せよ。
「まずは、そうね・・・あなたね。一番近いから。」
そう言って少女は俺の剣を腰に下げている警備兵を指名する。
どうやら少女は一人ずつ、暁のさそりに与しているか、聞いてくようだ。
まずは、この警備兵。
少し暴れそうになったが騎士が抑えて台座の前まで連れていく。
結果は青。
つまり、こいつは暁のさそりの協力者だ。
そして次々にこの裁判に出席していた者を台座の前に連れていき、尋問していく。
警備兵が2人、右にいた男たちから1人の計3人が、暁のさそりの協力者と判定された。
これにより、暁のさそりと判断された3人への尋問が始まる。
もちろん、少女が”真実の石”なるものを使って尋問するので向こうは言い逃れが出来ない。
それによると、この3人は金目当てで暁のさそりに協力している者達で、大した事は知らないらしい。
それでも連絡するための方法、接触した人、そして報酬を受け取るために会う事を暴露されていた。
ただし、”真実の石”はYES、NOの2択しか分からないため、詳細はこれから別に聞き出す必要があるらしい。
もちろんそれはいい子にはお見せ出来ない物らしい。
当然、そんなの見たくないし、この先、彼らがどうなるか興味がないしでかなり帰りたい。
嵌められたと思った時は絶対許さないと思ったが、いざあいつらが捕まったらその先の事はどうでもよくなった。
サチを含め、こっちが無事なのが大きいのかもしれない。
あいつらが普通に裁きを受けてもらえればそれでいいらしい。
きっと今俺として重要なのは、寝不足なので早く帰って寝る事、お腹いっぱいご飯を食べる事、そしてサチが声を初めて出せた事へのお祝いをすることだ。
後はどうでもいい。
嘘、俺の装備や所持品はちゃんと返してね。
それ以外はどうでもいいらしい。
そんな事を考えながら、この場で起こっている裁判?をぼーっと見ている。
今は、この場におらず、暁のさそりに協力しているものを片っ端から明らかにしようとしている。
あ、暁のさそり関係なく、お金で裁判の判定を売っている奴らに標的がシフトしている。
暁のさそり関係なく、賄賂を貰って不正をしている奴がいないか確認しだした。
この場にいる奴だけでなく、他の裁判官でやっている奴を知っているか聞き出している。
恐ろしい、この場だけでなく他に飛び火しちゃったよ。
奥座席左男が頭を抱えている。
どうやらあの少女は、この裁判の出来事をだしにして、裁判全体で腐敗している所を出したいらしい。
生き生きとしながら不正の証拠を作っていく。
これを元に綱紀粛正を図るつもりなんだろうが、投げっぱなしにされる下々はマジで大変だ。
お仕事頑張ってください。
そんな事を考えていると少女が聞く事が思いつかなくなったのか、どんどん尋問が少なくなっている。
裁判というか、少女が手当たり次第に悪いことをしていないかを聞き出す会もそろそろ終わりそうだ。
「とりあえず、聞きたい事は以上かしら、後は裁判官や警備隊全体の仕事よね。」
そんな宣言を少女がする。
とてもやり切った笑顔だ。
まぶしすぎて直視できない。
やばい奴に絡まれたくない的な意味で。
「今回のワルテーロ商会会長殺害事件についてはワルテーロ商会番頭と暁のさそりにおける殺害事件として番頭を死刑、暁のさそりに与し、裁判を操作しようとした者達も同様に死刑。暁のさそりは捕まえ次第裁きを行う。その他の犯罪者に関しては別途、裁きを行う。以上により裁判は終了する。」
今、奥座席左男がよろよろと終わりを告げた。
これで長かった裁判も遂に終わりを告げたようだ。
太っちょ番頭と警備兵の2人、そして右のグル男が他の警備兵と騎士たちに捕らえられて会場を出ていく。
その警備兵の剣、俺の何だけど後で返してくれるんだよね。
なんかちょっと不安になる。
後、俺はこれ何時出ていっていいの?
奥に座っていた少女とその左右にいた男たちが退出していく。
完全に出ていったのを見てから右にいた奴らも出ていく。
最後に残されたのは俺とサチと1人だけ残った警備兵のおっさんだ。
じゃあおっさん、俺達もそろそろ出よ。
そう思うが、おっさんが動かない。
どうしたんだと思っておっさんを見ているとおっさんも辺りをキョロキョロしている。
もしかして、おっさんもどうしていいのか分からないの?
そんな事ある?
どうしよう、「この後どうしたらいいですか?」ってこのおっさんに聞こうかな。
でも明らかにこのおっさんも分かってなさそうだし、そんな事したら、「俺、無実の罪で捕まった上に長い事拘束されて疲れてんのに、いつまでまたせんだよ。ちっ、使えねえな」って煽ってるように思われないかな。
まあ、そう思っているのは事実なんだけど、でもこの人にそう言うのもなんか違うし、うーん。
そんな事をサチの手を握りながら考える。
考えていると部屋の外から身なりのいい格好の男がやってきて警備兵に耳打ちをしている。
「了解しました。」
そう言うと警備兵はついてこいと言って先頭を切って歩き出す。
よかったこれで帰れる。
そう思いながら警備兵について行く。
まず警備兵と一緒に行った場所が牢獄だ。
まじかよ。
また獄中生活かよ。
と思ったらゴブリン達を連れて帰るためだった。
お前たちすまん、決して忘れていたわけじゃないんだ。
あと、お前たちが今やってた、ニーの盾にボールを当てて跳ね返す遊び結構楽しそうね。
俺達がなんだかんだ大変な目にあっている間も君たちはずっと楽しそうな事してたのね。
なんかちょっと、イラっとするの半分、ほっとするの半分で変な気分だ。
ゴブリン達も合流したので、いよいよ帰れる。
そう思いながら警備兵について行く。
そうして連れて来られたのは出口ではなく、豪華な応接間のような部屋だった。
「ここで暫く待つように。」
そう言うと警備兵は部屋の入り口付近で立ったままだ。
しょうがないので、中央にある大きくてふかふかのソファーに座る。
めっちゃ沈み込む、なにこれちょっと面白い。
ゴブリン達も真似して座ると沈む感覚が面白いのか、立ったり座ったりを繰り返している。
こいつらあほだな、それに引き換えサチは俺の隣で黙って座ったままじっとしている。
これが正解だぞお前たち。
もっと大人しくしていろと思う。
まあ俺も小学生くらいの時ならゴブリン達みたいにはしゃいでただろうけどな。
席に座って少しすると、メイドさんぽい人たちがお茶やお菓子なんかを運んでくる。
ソファーの前のテーブルにどんどん並べていく。
そんな事をすれば、後の結果は火を見るよりも明らかだ。
ゴブリン達がめっちゃ、お菓子食う。
お皿にもられた状態で個別にお菓子が出てくるのだが、自分の目の前に出された瞬間、お菓子をむさぼり食う。
なくなるとメイドさんが他のお菓子を出してくれるのだがそれもめっちゃ食う。
3回ほどそれを繰り返したらお菓子が出て来なくなった。
持ってきた分を全部食べたからだ。
普通、こんな早さでなくなる事はないのだろう、メイドさん達も慌てて奥に引っ込んだとおもったら、他のお菓子を持ってきた。
なんかすみません。
凄く、恥ずかしくなった。
恥ずかしくはなったが、これは食べていい物なので、叱らない。
だから、サチも我慢してないでそのお菓子は食べていいんだよ。
なんなら俺のお菓子もお食べ、ご飯が少ししか出てないからお腹空いているだろ、沢山お食べ。
お前ら、ゴブリンにはいってねえんだよ。
だからやめろ、俺のお菓子は取るな。
これは、俺の分だ。
よせ、3人がかりで手を伸ばすんじゃない。
そんな感じでゴブリン達とお菓子の取り合いをしていたら、奥の扉が開いて人が入って来る。
さっきの裁判に居て、大暴れしたあの少女とその隣にいた女騎士の2人だ。
「なにやら楽しそうね。」
「はい、お邪魔しています。」
何言っていいか分からなくて変な返事になってしまった。
これは、友達の家に行って友達の母親が部屋に入って来た時にする返事だった。
ちょっとしたミスチョイだな。
まあでも大体あっているか。
少女が向かいのソファーに座って女騎士は立ったままだ。
改めて、この距離で少女を見ると分かる。
この少女はとても綺麗だ。テレビやゲームの中でしか見ないような完璧な美少女だ。
あまりに現実感が無さ過ぎて人形のように思えてしまう。
そんな美少女がここにはいた。
そうだ思い出した。
今日、裁判中に彼女に助けて貰ったんだった。
裁判が終わりそうになったのを無理やり止めて、”真実の石”を使わせて貰ったんだった。
あれがなかったら今頃どうなっていたか、きっと今頃プリズンをブレイクする算段を立ててたに違いない。
「今日はありがとうございました。」
助けて貰ったお礼を言う。
「どういたしまして、今日はあなたが行き成り裁判にいるから驚いたわ。それも犯罪者として。」
「はあ、それはどうも。」
なんか向こうが凄い、フレンドリーだ。知り合いみたいに話しかけてくる。
知り合いなんだろうか、でもこっちの世界に知り合いはほとんどいないし。
そうか。あれだ。
生き別れになった妹でこっちの世界でたまたま再会したそんな感じの子だ。
お互いに顔は覚えてないけど、有り余る妹力で俺の事が分かるとかそんな感じだな。
うんうん。大きくなったな。妹なんていないけど。
「もしかして、気づいてないの?」
「・・・嫌だな、もちろん気づいてますよ。」
妹でしょ?その一言を飲み込む。
なんかこの子の前で失言をするととんでもない事になりそうなので、ギリギリで踏みとどまる。
「はぁ。ちょっとあれを出して。」
少女はため息をつくと、メイドさんに指示を出す。
暫くしてメイドさんは仰々しく手に何かを持ってやってくる。
ブーメランだ。
しかも『飛行』3.0。
「これでも気が付かない?」
「「あ」」
お嬢様の傍にいた女騎士さんと声がはもった。
しかしこれで気が付いた。
このブーメランって俺ので、しかもダンジョンの中で他の人に上げたやつだ。
つまりそれを持っているという事は、この子はあの時のお嬢様。
そして傍にいるのはあの時の女騎士さん。
「ちょっと、エルザ。あなたも気が付いてなかったの?」
「すみません。」
「まあいいわ。改めて。久しぶりね。」
そう言ってお嬢様が微笑む。
その微笑みはとても美しく誰もが見とれてしまうような笑みだった。
しかし、同時にどこか猛禽が獲物を狙っているような目にも見えてゾクリとしてしまった。
そうだった。
この子はあの裁判で大人相手に暴れに暴れていた子だったんだ。
そして、この子にはあまり近づかない方がいい、そんな事を思っていたのを今更思い出すのであった。




