60話 上位裁判はじめました①
不当裁判をしてから3日経った。
俺たちはまだ牢屋の中にいる。
牢屋の中はとても不便だ。
早く外に出たい。
寝ると体が痛い。
ご飯が一日一食しかなくてひもじい。
後は暇だ。とにかくやる事がない。
ただこの暇問題はサンが持っていたゴムボールもどきで何とかなった。
どこに隠し持っていたのか分からないが、スライムの素材で出来たこのボールがあったことによって凄い助かった。
このボールで皆でキャッチボールなんかをして遊ぶ事によって、何とかなっている。
ボール一つでと思うかもしれないが、キャッチボールだけでもそれなりに面白いし、色んなルールを作ってボールを投げ合っているだけで時間を忘れる。
本当にボールがあって良かった。
一回ボールが鉄格子の外に行って完全に取れない位置まで出てしまった時は絶望した。
何とか取ろうと必死で手を伸ばしたが取れず、泣きそうになってたら、今度はニーがどこからともなくボールを取り出してた。
お前らいくつ持ってるの?
結局はイチも隠し持っていて、全部で3つあったみたいだ。
本当は奴隷商会の備品を勝手に持ってきているので叱る所だが、このボールが無かったら本当にやる事がないところだったので、あまり叱らなかった。
本当は駄目だからな。
とにかくそんな感じで3日も過ごした。
体は痛いし、お腹は空くし、体も臭くなって来たしで、本当にそろそろ出して欲しい。
そう思っていたら遂に騎士、もとい警備兵が来た。
「お前とお前。外に出ろ。」
今回もサチと俺だけ外に出される。
という事はまた裁判か。
またあの茶番をさせられるのか。
気は重くなるが、しょうがないのでついて行く。
ゴブリン達は少し騒いだが今回も大人しくしているよう言い含めていく。
ちらっと見るともうボールを手に持ってたので、案外俺がいなくても楽しくやってるのかもしれない。
そんなこんなで警備兵達について行く。
今回は今までいた建物を出て外に出される。
えっ、釈放?と思ったが違った。
外に出て庭のような訓練場のような所を抜けていくと、別の大きな建物に到着する。
さっきまでいた建物より小さいが、今度の建物は一言でいうと、とても豪華だ。
さっきまでの建物は大きいが、大きいだけで特に飾りとかもない、シンプルな造りだ。
それに比べてこの建物は造形自体がとても凝っており、きっと近くで見ればその装飾も見事な物に違いない。
圧倒的なその姿はあれだ、お金が取れるレベルだ。
ヨーロッパ旅行とか行って観光で見たらテンションが上がる、そういうレベルの建物だ。
近くに行くと分かるが、いくつかの建物に分かれており、そのうちの一つに入っていく。
建物の中も驚く位に豪華だ。
床の上の絨毯はふかふかだし、壁に飾ってある美術品もなんか高そうだ。
貴族の館。
勝手に想像する貴族の住む館が現実にあったらこうじゃないかと思う、そんな建物だ。
きょろきょろしながら歩いていくと、一つの部屋に通される。
中は廊下と同様にとても豪華だった。
高そうな家具や調度品で揃えられており、威圧感が凄い。
なんか入るのに凄い気後れする。
部屋の奥には高そうな椅子が3つあり、誰もまだ座っていない。
部屋の左手側には、太っちょ番頭と衛兵が2人立っている。
太っちょ番頭め、この裁判が終わったらただじゃ置かないぜ。
部屋の右手側には、高そうな服を着た男が3人いる。
うろ覚えで確かではないが、裁判で中央の席に座っていた3人のような気がする。
そして、部屋の中央部分にはなんか台座みたいなのが置かれている。
サチと俺はその台座の前まで連れて来られるとそこに跪かせられる。
そしてそのままの状態で暫く待たせられる。
誰もしゃべらないので、何か凄い緊張感がある。
暫くすると部屋の奥の扉が開いた。
そしてその中からメイドのような人たちが恭しく荷物を抱えてくる。
メイドさんたちは俺の目の前の台座までくると、そこに持っていた荷物を置いた。
置いたそれは大きな円柱の半透明な水晶のようなものだった。
メイドさんは設置が完了すると、部屋を出ていく。
そうするとまた部屋には沈黙が戻ってくる。
また待つのかと思っていたら、間を開けず奥の扉が開く。
まずは2人の高そうな服を着た男が二人入って来て奥にあった椅子に座る。
左と右の椅子に座ったので真ん中が開いている状態だ。
次に白っぽい金属製の鎧を着た騎士が2人入って来る。
前からいる警備兵の装備と比べるとその分かるが、白く輝くその鎧は綺麗でそしてとてもかっこいい。
それに比べて、警備兵の装備は鈍色でくすんでいるように見え、形も単純でかっこいいとは言えない。
きっとあれが騎士だ。そうに違いない。
騎士2人が奥の壁際に立つと、最後、白の金属鎧を着た騎士に先導され豪華なドレスを着た女の子が入ってきた。
金髪でウエーブのかかった髪型でかなり高貴な感じの子だ。
身長はそんなに高くなく、顔も幼い事からそんなに年齢は高くないだろう。
だから女の子が来たと思ったのだ。
こんな所に女の子がどうして?と思ったが、その子は何の迷いもなく真ん中の椅子に座る。
先導して騎士はそのまま女の子の真横に立つ。
今更気が付いたが、その先導してきた騎士は女性だった。
女の子の印象が強すぎて気が付かなかったが、背も高くすらっとした手足で着こなす、その鎧姿はなかなか絵になる。
長身の女騎士さんに幼い高貴な女の子。
この組み合わせはまさか・・・。
尊い関係の2人。
植物に例えると百合的なやつ。
あの組み合わせでイチャイチャするような作品があったら手に取っちゃうよね。
そんな事を考えながら2人を見ていると、中央の女の子と目があったような気がした。
女の子は少し驚いたあと、こちらに笑いかけてくれた。
だが、その笑みを見た瞬間、ゾクリとした。
やんごとない女の子と思えない位、邪悪な笑みを見た気がした。
ただ直ぐに彼女は笑みを引っ込めて、左に座っている男に合図をした。
「では、これよりワルテーロ商会会長殺害の裁判を行う。」
奥の席で左側に座った男がそう宣言をした。
なんか前も左側が仕切ってたな。
「ではまず、事件の状況を説明しなさい。」
「はい、まずは・・・」
右に立っている男の一人が答え始める。
まずはこの事件の発生。
そして目撃者の証言
それに伴って捕まえた俺達の説明。
サチの体を確認した際に、目撃情報と食い違った事。
ただ、それは俺達が何らかの偽造を行った結果であり、目撃者は俺達が犯人であると一定の確信を持っている事。
そして俺たちの偽造を暴くためにこの裁判を開いた事。
それらが順序立てて説明されていく。
偽造だなんて馬鹿馬鹿しい。
俺のサチの体は100パーセント天然由来の物だよ。
暴けるものなら暴いてみろ。
「ではまずこの娘が、暁のさそりの構成員である事を証明したいと思います。おいそこのお前、その娘は暁のさそりから買った暗殺者の奴隷だな。」
右側にいた男の一人が発言権を得て、偉そうに俺に言ってくる。
こいつ前に裁判にいて進行していたやつかもしれない。うっすらとしか思えてないけど。
仮にサチがその暁のさそりから買った奴隷であろうがそれを正直に言う必要はない。
証拠はないんだからな。
「お前は、立ってここに手を載せろ。」
隣にいた警備兵がそう言って、俺の右手を台座の上に乗せる。
なんかの金属なのかひんやりして気持ちいい。
「では質問に答えよ。その娘は暗殺者なのか。」
右に居た男から質問がとんでくる。
「いいえ、この子は俺の妹です。」
決まった。
完璧な、妹理論だ。
ハイ論破。
するとなんか台座の中央に置かれた水晶が赤く光ってる。
よく水晶をみると『真偽鑑定』3.0となっている。
ん?『真偽鑑定』?なんか嫌な予感がするんですけど。
「見ろ。やはりあいつらは嘘をついている。」
太っちょ番頭が喜んでいる。
「黙れ。ここは高貴な人がいる場所だ。」
太っちょ番頭が怒られている。
ざまあみろと言いたいところだがこの状況はまずいかもしれない。
「赤。この証言は嘘と判定された。このウォーレン家に伝わる魔道具"真実の石"の前では虚言は意味をなさない。真実だけ述べよ。」
奥座席の左側の男からそんな事を言われる。
やはり、これは嘘発見器だ。
それも魔道具とかいうなんか凄そうなやつ。
「もう一度、質問に答えよ。その娘は暗殺者か。」
「・・・・・・・・・はい。」
中央の石は青く光る。
嘘は赤、真実は青。
俺、覚えた。
さっき怒られたので声には出さないが太っちょ番頭が凄い喜んでいる。
だがまだだ、まだサチが暗殺者だとばれただけだ。
この嘘発見器が優秀であればあるほど、こちらに有利だ。
なぜならサチはやってないんだから、やったかどうかの質問が来れば即座にひっくり返せる。
「では、その少女は暁のさそりであったのだな。」
「・・・はい。」
石は青く光る。
「では、その少女の紋章は何らかの方法で隠した。」
「・・・はい。」
石はまたも青く光る。
隠してないんだから青く光るのはおかしくない?
まあ隠したと言えば隠したんだから青なのか?微妙だ。
だがまあいい、次の質問をくれ。
サチがやったのかやってないのかの質問だ。
「以上の事から、この少女が暁のさそりであり、目撃者の証言と一致する犯人だという事が証明されたと思います。これによりこの男とこの娘に審判をお願いいたします。」
右側の男がそういう。
ちょっとまて、その理屈はおかしい。
聞くなら最後まで聞け。
やったのか。やってないのかをだ。
「ではこれより、ワルテーロ商会会長殺害の犯人である、この娘と男に処罰を・・・」
「待ってくれ、この子はや、ぐえ。」
そう言いかけた所で、隣にいた警備兵に押さえつけられる。
またこのパターンか。
「お前には、発言権はない黙っていろ。」
右側の男がそう言い放つ。
その際に、うっすらと笑っている。
こいつもグルだったのかよ。
「では改めて、ワルテーロ商会会長殺害の犯人であるこの娘と男について、死刑とする。」
奥座席の左側の男がそう言った。
嘘だろ。
そんなあっさりと。
サチはやってないのに。
周りを見ると、番頭も周りにいる警備兵も喜んでいる。
右側にいた男の1人も喜んでいる。
嵌められた。こいつら全員グルだったんだ。
寄ってたかってサチに、俺達に罪を着せるつもりだったんだ。
許せない。
そう思うとここにいる全員がグルのような気がしてきた。
表情を変えていないやつもいるがきっと全員喜んでいるに違いない。
許さない。
絶対にプリズンをブレイクしてここにいる全員に復讐してやる。
そう思ってこの場にいる全員の顔を見渡して顔を覚えようとする。
すると中央に座っている少女と目があった。
ゾクリとした。
彼女は笑っていた。
それもとてもいい笑顔だ。
今から何かとても楽しいことが起きるのを待っているそんな笑顔だ。
だが怖い。
あの少女の笑顔が怖い。
直観的に感じた、あの笑顔は見てはいけないものだ。
見る者に恐怖を与えるそんな何かがあの笑顔にはあった。
完全に彼女の笑顔にひるんでしまったのだ。
先ほどまで感じていた怒りも忘れて、ただその少女の笑顔を見ていた。




