5話 ダンジョンにて①
次の日、いつもより早く目が覚める。
今日、ダンジョンに入るということは魔物と戦うということだ。
もし魔物がスキルを持っているとしたら何の気兼ねもなしにスキルが奪えるということだ。もちろん『スキル強奪』の条件が相手を攻撃したり殺したりだったとしても。
遂に俺の異世界無双生活が幕を上げる。
と思ったがあの教官のカリキュラムの事だ、どうせひねくれているに違いない。
ダンジョンに入るとか言っても先っちょだけとか魔物がでないなんちゃってダンジョンとかそういうやつに違いない。もう騙されない。
いつものような時間に冒険者ギルドの受付に着くと他の4人がもう来ている。
そうか君たちは今日が楽しみで仕方なかったのか。
俺はもう見切っているから。今日は想像したダンジョン探索みたいなことは行われないし、絶対石は背負わされる。
それなのに期待しちゃってるのか残念。
まあ俺も昨日は少しばかり寝つきが悪かったし今日も少しばかり早く来たけど全然期待してないんだよな。
それにしても教官は遅い、もっと早く来て早くダンジョンに案内すべき。
それから少しして教官が現れて、みんなで購買部(仮)に行っていつもの装備を受け取った。
「今日はダンジョンに行くからな荷物も石じゃなくダンジョン用の荷物になる。各自荷物を受け取れ。」
そう言われて、いくつかの袋に分かれた荷物を受け取る。
中身は回復薬、毒消し、水をいれるための袋、携帯食料、ランタンの魔道具、ピッケル、シャベル、そしてからの袋。
空の袋は素材を入れるための入れ物らしい。
そして最後に初日に描いた地図が返ってきた。
回復薬なんかの消耗品は返せないと買取になるらしい。
「よし、じゃあダンジョンに行くか。」
そう言ってギルドの中にある訓練所の近くに行く。
やっぱ石入れてくのかよ。さっき石じゃないって言ったじゃん。
そう思ったら違った。井戸で水を汲んでいくだけだった。
さあいよいよダンジョンの中に行くのかと思ったらなんかギルドの建物の中に入っていく。
やっぱりダンジョンに行くとか言ってダンジョンじゃないじゃないか。
建物の中の一際大きい扉を開けるとそこには、巨大な穴が斜めに地面に穿たれていた。
その周りには武装した冒険者が何人もいる。
「よしここからはダンジョンだからな気を引き締めて行けよ。」
「「はい!」」
ダンジョンかと思ったらダンジョンじゃないと見せかけてダンジョンだった。
なんとダンジョンはギルドの建物の中にあった。
「まずはお前たちが描いた地図と初日に買ったマーカーを取り出せ。」
マーカーてなんだと思ったけど、初日に地図の紙と一緒に買った道具のことだった。
そういえば存在を忘れてた。左右のズボンの収納から探して取り出す。
細長い円柱で、持ち手が長いハンコみたいなやつだ。
「よし、じゃあ地図の左の真ん中あたりに二重丸の印があるだろう。マーカーに魔力を通しながら、マーカーの底の部分を押し付けろ。」
魔力を通せと言われてもどうやれば、そもそも魔力なんて俺にあるのだろうか。
しょうがないので心なしか強く握ってうまく行けうまく行けと念じながらマーカーを地図に押し付ける。
するとマーカーを押し付けたところに赤い印が付いていた。これがこの道具の効果らしい。
そんなことよりもっと重要なことに気が付いた。
『測量』 2.1
『共有』 1.0
道具からもスキルが見えるということだ。どうして今まで気が付かなかったんだろう。
ともあれ見えるということはこれも『スキル強奪』の対象なんだろうか。まだ一度も強奪できたことないが。もしそうなら・・・
「どうしたぼーとして、マークは付け終わったのか?付け終わったら地図をしまってこっちにこい。」
教官の声に思考が中断される。
とりあえず考えるのは後回しだな。
「よし全員マークは付け終わっているな。ならこれからダンジョンへ行く。ついてこい。」
そういって教官がダンジョンへと降りていく背中を追いかけて初めてダンジョンに足を踏み入れた。
なだらかな斜面を下っていく。
ダンジョンは昔、旅先で入った洞窟のようだった。
道の幅は結構広く、2車線くらいの道路くらいの幅がある。
高さも最初は低かったが徐々に高くなり今では5メートル以上はあるように見える。
壁は薄ぼんやり光っており、ランタンを使わなくても問題なく見えている。
かなり曲がりくねっているがまだ一本道なので迷うことはないだろう。
そうして結構歩いたなと思ったところで開けた空間にでた。
「ここで一旦、休憩にする。がその前に各自、自分の地図を開いて今の位置を確認しろ。」
自分の地図を開いてみる。
すると付けた赤い印が最初の二重丸の場所から離れたところについている。
印が移動したのだ。これは元の世界の地図アプリみたいに自分の場所を表示する機能があるらしい。魔道具すげえ。
今印が付いているところは小さく部屋みたいになっているところの入り口付近だった。
地図上では小さく見るが実際には見てみると相当広い空間だ。
そういえばこの地図の縮尺を聞いていなかったがどのくらいなんだろうか。
「なんか何も描いてないところにいるんですけど。」
「俺もだ。石の中にいる。」
「お前らがいい加減に地図を描くからだ。」
どうやら他の奴らはうまく表示されていないらしい。少し誇らしい。
「よしそろそろ移動するがその前に少し1階に出る魔物の話をしよう。」
1階にでる魔物の説明が始まった。
1階に出る魔物はスライム、洞窟オオトカゲ、灰色ネズミ、黒コウモリの4種類らしい。
狙いはスライムと洞窟オオトカゲで積極的に狩る。
スライムはなんにでも使える万能な素材らしく安いが必ずお金になる。
洞窟オオトカゲは肉がいいお金になるらしい。ギルドの食堂の肉もこれらしい。
逆に灰色ネズミと黒コウモリは襲ってこない限り無視するらしい。
どっちらも金になる部位がなく、黒コウモリに至っては上の方にいるので狩りにくいらしい。
灰色ネズミなんかは繁殖力も高いので増殖しすぎると駆除のクエストが出てその時、大勢で狩るものらしい。
「とりあえず説明は以上だ。それじゃあ出発するか。と思ったが忘れていた、お前らピッケルを出してその辺の壁で光っている石を取り出せ。」
そう言われて壁に穴をあけて石の塊を採っていく。
「それは光石と言ってまんま光る石だ。光る強さによって呼び名は違うらしいがよくわからん。とりあえず光る石はだいたい光石だ。あとあと使うから素材袋一個分くらいは埋めておけ。」
そう言われて小分け袋に詰める。袋は伸びる素材なのか結構入る。
「よし詰めたな。じゃあ今度こそ出発だ。」
そう言って歩き出す。
くそ石を運ぶのを卒業したと思ったらやっぱり石を運ぶのかよ。どんだけ石が好きなんだよ。
この開けた空間にはいくつもの人が通れる穴が開いていて、これが道となって続いている。
先ほど自分の地図で確認したが道は全部で5か所ある。
最初の分岐で5か所もありその先の空間でも道はいくつにも分かれていて複雑な迷路を形成していた。
これは地図が重要重要と口を酸っぱくしていうわけだ。地図がなかったら直ぐに迷子になってしまう。
黙々と教官について行くわけだがそれにしてもダンジョンは歩くだけでも疲れる。
道はデコボコしていて歩きづらいし、緩い下りの傾斜が続いている。かと思うと急に上りになったりしていちいち疲れる。
ダンジョンてもっと平坦なものだと思っていた。
しばらく歩き続けると急に教官が止まる。
「道の右隅をよく見てみろ。あの壁でうねうねしているのがスライムだ。」
指さされた方を見ると確かに右の壁に半透明の何かが動いている。
あれがスライムか。
「まずは俺がお手本を見せよう。」
そう言って教官が近づいていく。
そして蹴った。前蹴りだ。最終警告壁ドンの蹴りだ。
それを食らってスライムは地面に落ちる。
そのスライムを教官は勢いよく踏みつける。何回も踏みつける。ストレスでも溜まっているんだろうか。
「よし見てみろ。ちょっと白く濁ったら死んでいる証だ。あとは回収して終わりだ。」
見てみる。言われてみれば白く濁っているかも。
というか魔物との戦闘てそんななの。そんな怒りを発散するサラリーマンみたいなやつなの?
剣は?剣とかはつかわないの?
「スライムはなんにでも弱いが打撃で倒すのが一番だ。切ったら中身がこぼれるし、焼いたら溶けてなくなるからな。この辺のスライムは弱いからな倒すにはこれで十分。」
そう言われてしまった。
なんだかしまらない初戦闘に落胆した。
もっと落胆したことはスライムにはスキルが見えなかったことだ。これでは『スキル強奪』が使えない。がっかりだ。
その後、少し歩くと次の開けた空間に出た。
今度の空間先ほどよりさらにでかい。天井なんて何メートルあるか分からないくらいだ。
もう面倒くさいから開けた空間の事を部屋と呼ぼう。
「よしここで各自散らばって狩りを行え。あまり遠くに行くなよ。ネズミは無視でスライムを狩れ。
トカゲがいたら大声で呼べ。分かったな。」
「「はい!」」
遂にこの世界で初めての戦闘をする時が来たようだ。