58話 魔物使いはじめました
サチを買ってから6日経った。
まだ州都アルステラにいるし、奴隷商人さんの商売の方がうまくいっていないというか、うまく行き過ぎたというか、そんな訳でもう少しこの街に滞在しなきゃいけないらしい。
州都アルステラでずっと過ごしている訳だが、当初おもってたよりずっと忙しく過ごしている。
何故ならサチを買った翌日から、アリサが朝必ず迎えに来て、そのまま奴隷商人さんの本店の方で犬達の世話を手伝わされているからだ。
アリサ曰く、俺をほっておくとまた何か変な事をしでかすから、目の届く所に置いておくことに決めたとの事。
お留守番もまともに出来ない位小さな子供がいて、不安だから仕事場に連れていく母親のようだ。
こんないい歳をした成人の男性を捕まえて、それはないんじゃないかと思ったが反論することは出来なかった。
一つはアリサが凄い怖かったこと。
もう一つは事情を聞いた奴隷商人さんが大賛成したことだ。
複数の人にそう思われているとなると、もしかして俺って目を離したすきに危ない所で奴隷を買ってきちゃうようなどうしようもない人間なのかと思ってしまう。
まあ事実なんですが。
奴隷商人さんにその辺のベットが売っている店に入って、適当に奴隷を買ったという事を言ったら、凄い残念な物を見るような目で見られた。
奴隷を売っている所を紹介すると言ったのに、ちょっとの間も我慢できずにその辺を探し回って奴隷を買ってしまう残念な子扱いだ。
ぐぬぬ。あってるだけに何も言えね。
因みに奴隷商の店長さんが言ってた、ベットが売ってる場所で奴隷が買えるというのは太古からある定番のギャグらしい。
それを真に受けちゃう男の人って。
私です。どうもすみません。
とまあ、そんなこんなで信用がゼロになってしまったので皆のいう事を真摯に受け止める日々だ。
しょうがないので、あの日以来、奴隷商人さんの所でダンジョンの街から連れて来た犬の世話を手伝っている。
元々、この奴隷商の本店では魔物を取り扱っているため、魔物の世話をする魔物使いはいっぱい居る。
しかし今回連れて来た犬を世話する人材はいないためダンジョンの街から来た魔物使いチームで犬の世話をしていた。
ただ10頭もいるので3人で世話をするにはかなり大変なため、俺が手伝う事はかなり歓迎された。
基本的にやる事は3つだ。
1つ目は餌を作ること。
これは肉とか野菜とか穀物とかを混ぜて餌を作ってる。
2つ目は運動すること。
基本的に奴隷商の建物から出れないので、奴隷商の中庭みたいなところで遊ぶことで運動している。
本当は街の外に出たりして、広い大地を駆け回らせる事をしたいらしいが、既に売却済みで万が一の事があったら大変なので外に出さないそうだ。
街の外は大して魔物が出たりはしないのだが、急に強い魔物が出て襲われる事もあるらしいし、冒険者に間違って攻撃される事もゼロではない。
それを考えたら少し狭いがこの庭で我慢してもらうしかないな。
それでも小さい公園くらいの広さはあるけど。
そして最後の仕事は毛並みの管理だ。
体を洗ったり、ブラッシングをしたりして最高の状態を保って、いつ売ってもいいように準備している。
俺達も一通りの世話を手伝う。
俺達というのは俺とゴブリン達とサチとギンだ。
まあギンはお世話される方といっても差し支えないが、雰囲気手伝っていると言った感じだ。
因みにドンは我関せずで、皆のそばで見守っている。
すべての世話を手伝うのだが、特に俺達が活躍したのが運動だ。
10頭もの運動となると、とてつもない重労働だ。
3人でやるにはとても大変だったらしく、運動のお手伝いはとっても喜ばれた。
素人な俺達でも一緒に遊んでいるだけでいいので、とても簡単な作業という事もあって、気が付いたら俺達の仕事になってた。
紐を繋いで引っ張られながら歩いたり、一緒に走り回ったりを1頭ずつやる。
1人だと大変だが、ゴブリン達とサチも一緒に出来るのでいっぺんに5頭出来るのだ。
それを2回繰り返せば10頭だ。
ギンは普通について来て他の犬と遊んでくれる。
最初のうちはこれで良かったのだが、犬達は何故だか元気が有り余っているのですごく時間が掛かる。
特に一緒に走り回っていたら俺やサチが大変だったので、別の方法を考えた。
自分が走らず、相手を走らせる。
そうボール遊びだ。
本当はブーメランがあれば良かったのだが、お嬢様に上げてしまって、新しいの作る前にこっちに来てしまったのでない。
仕方ないのでブーメランに代わるものを探した。
そこで登場したのが、ゴムっぽい素材で出来たボールだ。
こっちの世界ではゴムがなく、それでもって手のひらサイズのボールもなかった。
それなので、作ってもらった訳だ。
こちらにはゴムはないが、ゴムに代わる弾力性のある素材があった。
それはスライムだ。
スライムの死骸は加工の際に形と硬度を変えて固定することが出来るスーパー素材だった。
この世界ではその特性を生かして色んな物を作っている。
例えば、スライムを水を入れられる小型の容器の形にして、それを一番硬くしたらいつも使っている薬の容器の完成だ。
半透明でプラスチックぽいと思ってた容器の材料はスライムだったのだ。
吃驚だ。
更には、少し柔らかいままで固定すれば、いろんな所で衝撃吸収材として使われているらしい。
安い布団の中身はこれらしい。
俺の使っているベットも当然これらしい。
まじ吃驚だ。
そんな訳でこの万能素材を使えば、簡単にゴムっぽいボールが作れると思った訳だ。
スライムを加工するのは錬金術ギルドがやっているらしいので、奴隷商人さんにお願いして、手のひらサイズの球体で、握ると少しへこむくらいの物を作ってもらうようにお願いした。
便利な事に、スライムの加工は短時間で出来るらしく、形も単純な事もあって次の日には出来てた。
なんでそんな物が必要なのか、変な事に使うんじゃないだろうな、という複数の目線に見守られながらボール遊びをする。
効果は劇的だった。
みんな我先にとボールを取りに行く。
勢い余ってゴブリン達も走っていったぐらいだ。
どうだ見たか、これで自分が走らなくても犬達を走らせることが出来るんだ。
これぞ人間の叡智という物だ、と自慢げにしてたのも最初のうちだけだった。
1個しかないボールで全員が満足するまで投げると、俺はもう肩が壊れてこのまま一生腕が上がらないんじゃないかと思うくらい肩が痛くなった。
何度も回復薬を使ってヘロヘロになるまで投げているのを見て、奴隷商人さんは直ぐに新しいボールを大量に注文してくれた。
次の日からはゴブリン達とサチも加わって皆でボールを投げる。
投げていて気が付いた。
昨日も順番で投げれば良かったんじゃね?
最後の方は意地で投げ続けていたが、あれって皆でやれば良かったんじゃね?
また一つ賢くなってしまった。
そういう事にした。
そんなこんなで、ずっと犬と遊んでいる日が3日くらい続いていると、奴隷商の中も何だか慌ただしくなっていった。
外からメイドさんや使用人みたいな人たちが来て、犬の世話の仕方を習っていくのだ。
最初のうちは2人くらいだったが、そのうちドンドン増えていって、最後は何人か分からない位、大所帯になっていた。
俺達が遊んでいるのも、真剣に見てくれるので張り切ってボール遊びや追いかけっこを披露していった。
ボールを空中で取ったり、ボールを持って戻ってくると結構、キャーキャー言ってくれる。
犬を見ていると分かっていたが、かなり調子に乗ってしまい、かっこいいポーズで投げたりしていたらアリサにキモイと言われてしまった。
ショック大。
日によっては犬を何頭か連れて馬車で出ていくので、遂に売れてしまったのかとしみじみしていたら、夕方くらいには帰って来てた。
奴隷商人さんの話では、お披露目会をやって、それが大成功だったらしい。
大成功すぎて、犬の引き取りはもっと後になるらしい。
なんじゃそりゃ。
後、そのお披露目会で、ボール遊びなんかもかなり楽しんで貰えたみたいで、ボールなんかも譲って欲しいと言われたようだ。
もしかしたら、こういうペット周りの物も案外、商売になるかもと奴隷商人さんも珍しく興奮している。
ただ、このボールは貴族に渡すには少々、みすぼらしいのが問題らしい。
そりゃ、どっからどう見てもスライムを固めた物だからな。
なら色を付けたり、ボールにマークを入れたりしてちょっと高級そうに見せれば、と言ったら凄い感謝された。
またつまらぬ知識チートを披露してしまったか。
俺の溢れ出る知性が怖い。
仕事関係はこんな感じで順調にやっていた。
サチについてはもう大分、周りに溶け込んだ。
最初、一番心配していたアリサについても、今では一番世話をしてくれるんじゃないかというほど世話を焼いてもらっている。
服や下着なんかもアリサと一緒に買いに行ってもらった。
俺ではどんなのを買っていいのか分かないので助かった。
むしろ、どんな店に入ればいいのかすら分からない。
高そうな店に行ったら追い返されるし、ちょっとランクが落ちた所に入れば奴隷を買わされるのだ、全く買い物ってやつは大変だぜ。
そんな事を言ったら、アリサに白い目で見られた。
普通は店構えで入っていい店か、いけない店かは分かるものらしい。
それは田舎で育ったアリサにだって出来る、極々当たり前の事だと言われた。
つまり、俺は一般の常識を超えたスペシャルな存在なんだなと言ったら更に怒られた。
お願いだから常識を身に着けてくれとも言われた。
うん、なんかすみません。
あと、サチについてはとにかく食べるようになった。
最初はかなり遠慮していたが、ゴブリン達が沢山食べるのでそれにつられてドンドン食べるようになった。
元々、ゴブリン達は1日3食とかいう概念がなく、ご飯を食べた直ぐ後でも倒した魔物を食べたりしてた。
ダンジョンにいた時は気にもしてなかったが、こっちに来てからはちょっとでも屋台の前を通ると直ぐに欲しがる。
ご飯を食べた直ぐ後でもそうなので、何回間食したか分からない位、間食している。
そして、それにサチも引っ張られて、なんか沢山食べてしまっている。
当然、ゴブリン程は食べず、一口二口分けてもらうだけだが、常に何か食べているような状態だ。
ゴブリンは魔物だからそういう物かと思うが、サチは人間なのでどうなのかとは思った。
ただ、お腹も壊さないし、美味しそうに食べる姿を見るとついつい買い与えてしまう。
今では屋台の前を通ると、ゴブリン達と一緒にお腹ぺコリンのポーズでおねだりされてしまう。
可愛いので直ぐに買ってしまう。
そんな姿を見てアリサは呆れているが、何も言わないので大丈夫なんだろう。
とにかく、良く食べているおかげか、サチはみるみる間に血色も良くなって、ガリガリだったのも少しは改善されているように思う。
まあ、1週間そこらなので、気のせいだとは思うが。
後、スキルについては『再生』の他に『抗病魔』を1.0入れただけだ。
その他のスキルを入れようかとも思ったがまだ子供だし、スキル容量も小さいので止めておく。
もう少し大きくなったら、その時になったらまた考えよう。
とにかくそんな訳で、健康そうに見えるサチは、新品の服を着ているとその辺にいる子供と何ら変わらない、普通の子供に見えるようになった。
少し周りと違うのは褐色の肌と黒い髪くらいだ。
ただ、それも少し珍しいというだけで褐色の人もいるし、黒髪の人もいるのでそれほどおかしい訳ではない。
このまま、何の変哲もない普通の子供として育って欲しい物だ。
犬達と一緒に笑いながら遊んでいるサチを見てると特にそう思う。
後は声だけだな、それも徐々に良くなるだろう。
そう信じるしかないな。
そんな感じで皆で犬のお手伝いをしてこの日も終わった。
奴隷商人さんの話では、そろそろ貴族の方に犬を渡せそうだが、いつになるかはまだ決まってないので明日以降もこのままらしい。
大分、お金も減って来たのでそろそろダンジョンに戻りたいのだが、そういう事ならしょうがない。
明日も魔物使いとして、犬と遊ぶ仕事を全うしよう。
そう思い、みんなで夕飯を食べてから宿に戻る。
すると何故か宿の前が騒がしい。
宿の前の通りが人で溢れてる。
金属の鎧を着た騎士みたいな人も沢山いるしなんかあったんだろうか。
まあ、なんかあったとしても俺達には関係ない、早く宿に入って休もう。
そう思い、宿の中に入ろうとする。
「待て、止まれ。」
騎士に呼び止められる。
「・・・何でしょうか。」
「ゴブリン3匹と褐色の子供を連れている。間違いないこいつだ。お前ら捕まえろ。」
そう言われた瞬間、騎士たちに取り囲まれる。
いち早く、反応したのはゴブリン達で武器を抜き戦闘態勢に入っている。
ギンも唸って威嚇している。
「ちょっと、待ってください。捕まえるって?俺、何もしてません。」
「それは後で聞く、お前にはワルテーロ商会の会長を殺した疑いがある。大人しく捕まれ。」
なんだそりゃ。
全く身に覚えがない。
完全に無罪だ。本当の誤認逮捕だ。
騎士がじりじりと迫ってくる。
ゴブリン達はいつでも迎撃出来る態勢だ。
まずい、このままだとどうなるんだ。
騎士に捕まったらどうなるんだ?問答無用で死刑?
騎士と戦ったらどうなるんだ?その場で死刑?
逃げるだけならいけるのか?その場合は騎士は何処まで追ってくるんだ?ダンジョンの街まで?
分からない。
分からないことが多すぎて判断が出来ない。
「・・・ワタル。戦うのはまずい。この騎士は本物。逆らえばこの辺では生きていけない。」
やはり騎士に逆らうのはまずいのか。
「おそらく、捕まっても裁判があるはず。そこで無実が証明できれば。ただ・・・なんでこうなったのかが分からない。」
裁判があるのか。
ただその裁判がどれだけ公平性のあるものか分からない。
だからアリサも迷っているのかもしれない。
「分かりました。行きます。お前たちも武器を下ろせ。」
ただ、このまま戦ってしまってはお尋ね者になるのは確実。
それなら裁判にワンチャンかけるしかないか。
「賢明な判断だ。よしお前たち連れていけ。」
「隊長。どいつを連れていけば良いんですか?」
「・・・聞いてた話だと、ゴブリン3匹と黒髪黒目の男、褐色黒髪の子供だ。それ以外は連れていかなくていい。」
サチもか。
でもしょうがない。
大人しく捕まる。
ギンとアリサは捕まらないのが、不幸中の幸いと言ったところか。
「アリサ。ギンを頼む。」
「分かった。こっちも何とかする。」
アリサがいればギンは大丈夫だろう。
「別れは済んだか。よし連れていけ。」
そう騎士の隊長ぽい人が言うと、俺達の腕に縄をかけられ、装備も没収される。
そしてそのまま引っ張られるようにして連れていかれる。
これから俺達はどうなってしまうんだろうか。
そんな事を思いながら騎士たちについて行くのであった。




