52話 商談
夜の道をアリサに連れられ歩く。
夜と言っても19時くらいだが、この世界では日が落ちると途端に辺りは暗くなり外に出る人たちはほとんどいなくなる。
そんな夜の道をアリサと歩いているのだが全く雰囲気というものがない。
どんなに頑張って夜のお散歩デート言い聞かせても無理がある。
何故なら先頭を歩いているアリサがバリバリ不機嫌だからだ。
アリサがなんで不機嫌なのか、気が小さい人なら絶対に話しかけられないくらいのオーラを出させてしまったのか分からない。
何故なら俺の気が小さいので話かけられないからだ。もう少しそのオーラ抑えていただけませんかね。
そんな状況のまま歩いていくと奴隷商の建物に着いた。
どうやら目的地は奴隷商のようだ。
アリサも働いているこの店は俺の従魔は全てここで買っていてとても馴染み深い場所だ。
というかなんかちょっと前にも同じように連行されてきたのを今思い出した。
アリサはそのまま建物には入らず裏の方から厩舎にロバのドンを預けた後、建物に入っていく。
そのまま建物の中を少し進むと1つの部屋に入った。
そこにはいつもの奴隷商人が中で仕事をしていた。
「連れて来た。」
「ありがとうございました。アリサさんはもう下がっていただいて大丈夫ですよ。」
「・・・私もここにいる。」
「すみません、大事な商談となるのでアリサさんには聞かせられない話もあるのです、ですのでお下がり下さい。」
「・・・・・・分かった。後で話、聞くから。」
そういうとアリサは部屋を出ていった。
最後の言葉は俺に向けて言ったいたので後が大変そうだ。
「ワタル様、今日は急にお呼びだてして申し訳ありませんでした。ここではなんですので別の部屋で落ち着いてお話をしましょうか。」
「いえ、ここで大丈夫です。」
そう言って立ち上がろうとするのを制した。
なるべく早く話を済ませてダンジョンに行きたい。
そうおれには魔鉄鉱石を掘り出して魔法の杖を作る使命があるのだ。『水魔術』が俺を呼んでいる。
「ではそちらで話しましょう。」
そう言うと部屋の隅にある応接用と思われるソファーがある場所に移り、対面で座る。
「単刀直入に用件を言いますと、今度大きな取引が州都アルステラであるのですがそこに行く際に護衛の一人として一緒に行ってくれないでしょうか。もちろん護衛は依頼ですのでお金はしっかり払わせていただきます。」
州都アルステラ、初めて聞く名前だ。
異世界に来た時に得た知識が頭をよぎるが普通に都市の名前としか情報がない。
「そこって近いんですか?」
「ここから大体3日の距離でとても近いです。道も整備されていますし宿場町もありますのでかなり楽な部類の移動となります。」
3日か、それは遠い。
この世界では近くなのかもしれないが俺の感覚だと遠い。
そもそも旅の移動はほとんど電車や車もしくは飛行機とかだから移動だけで何日も掛かるというのは旅行としてあり得ないくらい遠い所だな。
そもそもなんで俺に声がかかっているんだろうか。
「どうして僕なんですか?」
「実は取引と言うのがですね洞窟犬を買い取りたいというものなんです。しかも10頭をいっぺんにという話でしてこちらとしては非常にありがたい事です。ただうちでも10頭をアルステラまで運んだ事がありません。もちろん魔物使いを同行させますが少し不安がありますので魔物使いでもあり冒険者でもあるワタル様に一緒に行っていただきたいのです。」
そうかそうか、ゴブリンを2度もクラスアップさせている優秀な魔物使いでもあり亀を一撃で倒してしまう程の冒険者である俺に依頼をしたいそう言う訳か。
そこまでは言っていない?言ってないから自分で言っているんだろ言わせんなよ恥ずかしい。
「当然アリサさんも一緒に行く魔物使いの中に含まれてますし、後はその10頭の中にアリサさんが育てていた3頭も含まれていましてその子達がワタル様に大変なついているとも聞いてますのでその事も少し関係あります。」
なるほどアリサも行くのね。
それにあの3頭も売れたのか。良い人に買われて幸せになってくれると良いんだけど。
「具体的にどれくらい掛かるんですか。できれば早くこっちに帰ってきたいんですが。」
どうせ杖が出来るまで10日は掛かるんだからちょっと行って帰って来てもいいかもな。
「行きと帰りの移動で6日。向こうに1週間は滞在する予定ですがそれ以上かかる場合もありますので2週間から3週間くらいを見てもらえれば・・・。」
長っ。長すぎてやばい。
100歩譲って、2週間なら最悪、涙を堪えて、断腸の思いで我慢できるが3週間ともなると時間かかりすぎて無理。
俺の『水魔術』は、俺の魔法剣士デビューはもうすぐそこまで来ているんだもう誰にも止められないぜ。
「すみません。今回はちょっと止めておきます。」
「そうおっしゃらずに行きの護衛で5万、帰りで5万の10万を出しますから。」
「無理です。」
「では15万。15万でどうでしょうか。後はアルステラ滞在中はうちの商会でいつも使っている宿でしたら宿泊の費用もこちらで負担させて頂きます。それでどうでしょうか。」
料金が1.5倍、そして宿がタダになった。
こんな漫画やアニメみたいな派手な譲歩って初めてみた。
もしかしたらなんか向こうにもこんなに必死になる事情があるのかもしれない。
「無理です。」
だが断る。
俺はノーと言える日本人だ。
「・・・・・・・・・」
なんか奴隷商人さんが黙ってしまった。
まだ何か交渉材料を探しているのかもしれない。
しかしどんな好条件が来たって俺はイエスとは言わない。
もう魔法剣士になれると分かった今、鋼鉄の意思でどんな誘惑だって断って見せるよ。
「そういえばワタル様は以前、人間の奴隷を探していましたよね。それもおそらくは女性の。」
「・・・・・・・・・はい。」
「アルステラにはうちの商会の本店がございまして、この街にはない商品もご紹介することは出来ます。具体的には妙齢の見目麗しい女性の奴隷などです。」
「全く、興味はないですが・・・念のため詳細が聞きたいです。」
あくまで学術的興味として、異世界における女性の社会的地位とその改善に関する考察をするために必要な資料として奴隷を買う事もやぶさかでない。
大変、大変心が痛みますが科学の為には犠牲はつきものというかなんというか・・・。
ええいめんどくさいそれで処女の奴隷は手に入るのでしょうか。
「アルステラにある本店でも基本的には奴隷は各地から連れて来て、そのまま必要とする人に売るだけです。教育等はその売り先で行われますので実際にはそういう目的で教育された奴隷と言うのは取り扱っておりませんが、その売り先であり教育が施される場所はご案内出来ますのでそこでご購入する事は可能です。」
つまりどういうことだってばよ。
俺のちょっとエッチで何でも言う事を聞いてくれる処女の奴隷はいるのかいないのかはっきりしろ。
「つまり、あれな目的で売り買いされている奴隷はいて買えるって事ですか?」
「そうです。性奴隷を取り扱っている場所をご紹介できます。」
優勝。優勝しました。ついにこの異世界に来て初めて完全勝利することが出来ました。
いや、まだ完全勝利は早い。まだ肝心の言質とってない。
「それはあれですか。あれな子、つまりまだな子とかもいるんですか。」
「はい。もちろん処女も取り扱っております。」
完・全・勝・利。
みんな済まない俺は今日から真の人生の勝者となるようだ。
そうと決まれば話は早い、依頼は受けるしかない。
魔法の杖を受け取る時間は遅れるが、なに最大で10日ほどだ全く問題ない。
あれそう言えば、奴隷っていくらくらいなんだろう?
「すみません。あくまで参考までに奴隷ってどのくらいの値段ですか?」
「大して技術もなく、容姿もそれほどでなければ50万くらいというところでしょうか。」
安い。今すぐ買える。
「ただ処女である程度の容姿を求めるなら100万以上。そこに技術があるのであれば200万以上。あとは容姿や種族次第でどんどん上がっていって天井知らずになるでしょう。」
高い。最低限で満足したとしても100万。きっと最低限では満足できないからもっと高いだろう。お金がない。
あっ、お金がないで思い出したけど、魔法用の杖の代金は220万だ。
今の手持ちは300万にちょっと届かないくらいしかない。
幸いまだ手付金も払っていないのでお金は減っていないが魔法の杖を注文したらそれだけで残りが80万以下になってしまう。
これでは最低限にも届かないではないか。
つまり究極生命体である処女様を買えないではないか。
現状、俺の収入源は回復薬を売るのとダンジョンの素材を売る事だから他の街に行ってしまうとそれが出来ず、お金を増やすことが出来ない。
こっちで魔法の杖を注文してから向こうでお金儲けができる何かがある事に期待するという方法がないわけではないが・・・ないな。
魔法の杖を作って魔術を使えるようになるか、奴隷を買って潤いのある生活を求めるか2つに1つ。
なんて究極の2択。
「その依頼受けます。」
うん。考えるまでもなく奴隷だよね。
魔法剣士デビュー、君も素敵な響きだが奴隷には勝てない。すまないな。
「それは良かった。では出発は明日の朝、門が開くと同時に出発しますのでそれまでに西門に集合してください。」
早っ。もう明日の朝には出発って早すぎだろ。
何にも用意出来てないし、そもそも昼間って俺寝てる時間だし。寝て起きる時間をリセットするにも何日か必要なんですけど。
「馬車はこちらで出しますし食料や水などの旅に必要なものもこちらで用意しますのでワタル様はそのままの格好・・・、ダンジョンに行く時の格好で来てください。」
「分かりました。」
用意するものも無さそうだし、馬車があるなら多少寝不足でも寝ていけば大丈夫そうだから明日の朝でもいいな。
何より早く奴隷を手に入れなくてはならない。
それを考えるとむしろ好都合とも言える。
待っていろ俺の奴隷ちゃん。
そう思いながら部屋を出る。
頭の中は既に奴隷の事で一杯だ。
しかしの浮かれ気分も部屋に出た瞬間に一気に吹っ飛ぶ。
アリサだ。
アリサが部屋の前で待っていたのだ。
それもとてつもなく不機嫌な顔をして。
そう言えばアリサさんオコでしたね。
そしてアリサさんがいる前で奴隷って買えるんでしょうか。
そんな事を思いながらアリサと対峙するのであった。




