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4話 地獄の季節②

 朝、お腹がすいたので起きる。

 宿には飯がないので外に食べに行く。


 この時間は朝市がやっていてそこに屋台がでているからそこで食べるのが普通らしい。

 屋台は席があって狭いところにぎゅうぎゅうに座って食べているところと手渡しされてそのまま歩きながら食べるところがあった。当然、歩きながら食べる。

 なんかの肉の串焼きと膨らんでないパンみたいな物を買って食べた。


 ギルドについて受付に行く。

 朝にここで集合と言われて来たのだが誰もいない。

 ずいぶん待ってようやく4人組が来て、最後に教官が来た。

 なんでも昼の鐘が鳴るまでが朝らしい。

 時計がなく、時間も分からないし何時とか指定されなかったからおかしいとは思ったがみんなそんなんでよくやっているなと思う。


 「よし今日から本格的な実践となるまずはついてこい。」


 と言って連れてこられた場所は昨日行った色々と物が売っている推定購買部だった。


 「お前らの装備を揃えるからそこに並べ。」


 そう言われて装備が配られる。

 手を肘付近まで覆うなんか籠手みたいなやつ。

 脛あて。

 胴体を覆う鎧みたいなやつ。

 そして頭を覆うヘルメットみたいな帽子みたいなやつ。

 すべて革製だ。ところどころ固いものが当たるので金属で補強しているのかもしれない。

 かなり年期が入っているのかよく見ると無数の傷跡みたいなのが見える。

 そしてとてつもなく臭い、心なしか目が痛い、鼻が馬鹿になりそうだ。


 「なんかボロいな。」

 「教官、俺は前衛の予定だからもっと硬くて全身を覆っているようなのがいいんですが。」

 「私は魔術師、希望なのでこんなに防具はいらないです。」

 「やば、手のひらめっちゃ臭くなってる。」


 不満が各所で出ている。


 「お前ら冒険者見習いは全員その格好で十分なんだよ。あとは背嚢を全員もてば装備は終わりだ。これから外に行くぞ。」


 そう言って、背嚢を渡され外の訓練場に行く。


 「よしまずは背嚢にその辺にある石をいっぱいに詰めろ。」


 しぶしぶ石を詰める。このためだけにあるんじゃないかというくらい石が隅に積まれている。

 詰め終えた背嚢はとんでもなく重い。背負ってこの重さとか尋常じゃない、やばすぎ。


 「詰め終えたな。じゃあまずは軽く歩くぞ。そして合図をしたら走れ、でまた合図をしたら歩け。その繰り返しだ。よし行くぞ。」


 そう言って教官が歩き出す。

 仕方なく全員ついていく。


 「よしお前ら走れ。」

 訓練場の周りを1周した段階で合図がかかる。

 先頭の教官が結構速いペースで走り出す。

 慌てて全員走り出す。


 1周してまた歩き出す。そして1周してまた走り出す。それを繰り返す。

 先頭だった教官がいつの間にか集団の後ろについていて遅れそうになるとせっつかれる。

 走るペースは最初より相当遅くなっているはずだがそれでも相当きつい。地獄だ。


 途中で昼食の休憩が入ったがそれ以外動きっぱなしだ。


 もう限界だ、もう走れないと何度も思いながら走ったり歩いたりする。

 最後は走ってるんだか歩いているんだか分からない状態だった。


 「よし今日はここまでだな。」


 そう言われた瞬間地面に倒れこむ。もう一歩たりとも動けない。俺は今ここで志半ばで力尽きて死ぬんだ。それくらい疲れた。

 他の4人も倒れこむように休んでいる。そうだろそうだろ。


 「よし、少し休んだら装備を返しに行け。石は元に戻しておけよ。そしたら今日は終わり続きはまた明日だ。」


 そうは言われましても全く動けません。とりあえず立ち上がれるようになるまでこのままいさせてください。


 どれくらいたっただろうか。かなり休んだはずだがまだ動ける気がしない。


 「なんだまだ立てないのか。」


 残っていた教官が話しかけてきた。

 いつの間にか他の奴らは帰ったみたいだった。女の子が一人いたがその子ももう帰ったらしい。女子よりも体力ない系男子とか。これはきっと現代が便利すぎて体力がつかないせい。俺が特別体力がないわけじゃない。悪いのは現代。現代社会の闇のせい。


 そんな事を考えていたら目の前に手が差し伸べられていた。


 「そろそろ大丈夫だろ。いい加減帰らないと夜になるぞ。」


 教官の手を取ろうとした瞬間、ある思考が頭をよぎる。


 これは『スキル強奪』を使う時なのではないか。

 条件が分からないが俺のスキルが発動すれば、この教官の『剣術』や『盾術』なんかの戦闘スキルが手に入る。そうすればこんなバカげた訓練をしなくても魔物相手に無双できるはずだ。

 この際、条件は考えなくていい。大切なのはつよい意志力だ、想像力だ。

 手に触れた瞬間だ、その瞬間にすべての力を注ぐのだ。

 

 さし伸ばされた手を握る。その瞬間ありったけの力と思いを込める。 

 

 スキルよ俺のものになれ。


 だが何も起きない。

 教官に引っ張られ立たされただけだった。

 さっきまでの熱が一気に冷めていく。


 そのまま装備を返し宿に戻る。


 宿に帰る道すがら考える。

 あの時、本当にスキルが発動した場合どうなるんだろうか。

 スキルを失った教官はその後どうなったのだろうか。

 もしかしたらスキルがなくなったことに気が付かず戦闘で死んでしまうこともありえるのではないか。

 そうなった場合、彼を殺したのは誰になるのだろうか。

 そんなことを考えると急に恐ろしくなってきた。


 宿に着いて自分の部屋に入った瞬間ベットに倒れこむ。

 心も体も疲れ切っていたのでそのまま寝ようかと思ったが体が臭すぎて気持ち悪い。


 宿の女将さんに言ったら、お湯とタオルで1000ディールらしい。

 宿泊が5000なのにと思いつつ頼む。

 体を拭いて少しスッキリしたらお腹が減ったので近くの料理屋に入り食事をする。 

 食事を終えるとすぐに眠くなったので泥のように眠る。



 寝ておきると心と体が少しスッキリする。

 

 この日も昨日と変わらず装備をつけておもりをつけての歩いて走るの繰り返しだ。

 昨日と違うのは歩きと走りの間隔が不規則になりいつ走りだすかいつ歩けるのか分からなくなったことだけだった。


 この日も精根尽きて倒れる。

 俺は一生このまま石を一生懸命運んでは元の場所に戻すそれだけの人生なのかもしれない。


 次の日、また石を運ぶのかと思いギルドに行くと。


 「今日からは装備に加えて武器を持って訓練するぞ。」


 そう言われて一気にテンションが上がる。

 遂に冒険者ぽいことが出来る。


 そう考えていた時期が僕にもありました。


 単純にいつもの装備に加えて武器を腰に下げて走るだけだった。

 ちなみに武器は短剣だった。


 それは昼飯を食べて少し走った後だった。


 「よしお前ら止まれ。この次から俺が構えと言ったらその場で立ち止まって武器を直ぐに抜いて構えろ。突けと言えばその場で突く。その時、絶対に周りの奴や自分にけがをさせるなよ。次に構えとけと言ったら武器を直ぐに鞘に戻す。分かったな。」

 「「はい」」

 全員で返事をする。

 最近は疲れすぎて頭が働かないのか教官のいう事には何も考えずに従うようになっていた。


 「よしまずは歩け」

 「「はい!」」


 「構え。」 

 「「はい!」」 

 「そこ武器を抜くのが遅い。もっと早く。」

 「はい!」

 「よし突け。」

 「はい!」


 「よし構えとけ。次走れ。」

 「「はい!」」 

 「よし構えろ」

 「「はい!」」 

 「お前、周りをもっとよく見ろ。それじゃ傍にいる奴にあたってけがするぞ。」 

 「はい!」


 そんな石を運ぶ作業から石を運びながら冒険者ごっご遊びをするにクラスチェンジし、今日も倒れるまで動いた。


 「よし今日はここまで、装備を返したら今日は解散。そうそう明日は最終日だ。いよいよダンジョンに入るぞ楽しみにしておけ。」


 そう言って教官が去っていく。

 明日はダンジョンとか言ってた。

 だがもう騙されない。

 これまでの傾向からいくと少し冒険者ぽい事をすると思わせた場合、必ず斜め下のくそ詰まらない作業をさせるに決まっている。そしてその作業をしている時もくそ重たい石を背負わされているに違いない、これは賭けてもいい。


 ただそんなことを思いつつも少しテンションが上がっているのかなかなかその日は眠れなかった。


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