45話 亀の怒り
亀が頭を下げるようなしぐさをしたと思ったら再びこちらに突っ込んでくる。
「お前たち避けろ。」
そう叫びながら亀の突進をかわしていく。
かなりのスピードがあるがなりふり構わず全力で走ればなんとかかわせる。
今度はぶつかるような岩がなかったせいか、亀はかなりの距離を突進し湖の中に入っていった。
亀の高さはそれほどないがとにかく横幅がでかい。
それがかなりの速度でこっちに向かってくるんだからめちゃくちゃ怖い。
車高の低い車に追い回されている気分だ。そんな経験はないけど。
このまま湖に帰ってくれないかな。
そんな事を思いながら湖を見ていると亀は大きく弧を描きながら旋回しこちらへ向けて泳いできている。
そのままの勢いで陸に上がった、と思ったら止まらずそのままこっちへめがけて突進してくる。
さっきは陸に上がるときは止まっていたのにズルだよズル。
必死になって走って逃げる。
なんとか亀の突進をかわせた。
またしても亀はその辺にある大きな岩にぶつかり岩を割りながら止まる。
何回か突進をかわしていて気が付く。
亀は一直線に突進してくるだけで途中で曲がったりは出来ない。
そして通ったところが濡れている、ビショビショと言ってもいい。
湖から出てきた体で這っているから濡れているにしては水の量が半端ない。さっきまで渇いた地面だったところが泥でぬかるんでいる。
亀が遠すぎてスキル構成が見えないので正確な事は分からないが何らかのスキルであの突進をしているんだとするならあの技は一直線で曲がれない、水をまき散らしているという事が分かった。
後は明らかに俺の方を狙っている。やっぱり水をバシャバシャしていたのが相当、頭にきているのだろうか。
「お前たちは俺から離れていろ。」
そう叫ぶ。
俺が狙われているなら従魔達は俺から離れたほうが安全だ。
なんかちょっと冷静になってきた。
相手は亀だ。普通の亀より向きを変えるスピードが速いとは思うが人間のように瞬時にこっちを向くことは出来ない。
そして一直線でしか突進を出来ないのであれば相手の周りを常に回るように動いていれば・・・。来た。
亀が突進してくる。しかし今度は余裕をもってかわす。
突進の角度が悪くこっちをちゃんと向いていない状態で来たため簡単にかわせた。
これだ。これで回避は出来るようになった。
なら次は攻撃だ。
この状況で亀に近づくのは怖い。いくら相手の攻撃が回避できるようになって来たといっても至近距離で突進をされて避けられるかは分からない。失敗した時の事を考えるとあまり試したくはない。
という事で遠距離攻撃だな。
手持ちの武器での選択肢はそう多くないが今使えるのはメイスと魔鉄鋼剣の力を飛ばしての遠距離攻撃だろう。
魔鉄鋼剣による飛ぶ斬撃と行きたいがここはメイスだな。
今手に持っているというのもあるがメイスの方が力を込めるのがスムーズに出来るし何より込められる力が大きい。
今はとにかく攻撃力が欲しい。どうみてもあの敵は防御力が高そうだ。そんな敵を倒すには攻撃力がありすぎるという事はないのだ。
とにかく攻撃力全振りで行く。犠牲にしたもの?かっこよさに決まってるじゃないか。
遠くで岩にぶつかり止まっていた亀が再びこちらに向きを変えようとしているので自分の位置を変えていきメイスに力を溜めていく。
亀が突進して来た。
かわす。かわしながら力を溜める。
かわしながら攻撃なんて器用な事はできない。攻撃のチャンスはここじゃない。
亀は遠くで止まる。
力を溜めながら亀に近づいていく。
亀がまた突進をするためにこっちを向く。
ここだ。
一気に力を解放して亀の頭めがけて力を飛ばす。
バコーン。
いった。手ごたえあり。
亀はその場で止まったままだ。心なしかぐったりしているように見える。どうなんだ倒したのか。
ここまで来たからには慎重に行く。
迂闊に近づかないでその場でまたメイスに力を溜めていく。
そしてもう一撃、一気にメイスを振り下ろし力を飛ばす。
当たったと思った瞬間亀が首を引っ込めたのが見えた。
ドコーン。
凄い音がしたが甲羅に当たっただけだ。
やっぱり生きていたか。
首だけでなく手足も甲羅の中に引っ込めている。
これだと甲羅にしか攻撃が出来ない。
さてどうしよう。
このまま亀を無視して帰るのも選択肢の一つだがここまで来たからには倒したい欲も出てきている。
とりあえずメイスに力を込めながら亀に近づいていく。
いきなり突進してきたら困るので正面ではなく横となる位置に周り込んでから近づいていく。
ある程度近づくと見えた。やつの能力だ。
『水魔術』3.8
『硬化』2.4
『水魔術』しかも3.8とかとんでもなく高い。
超欲しい。これ使えるようになったら名実ともに魔法剣士になっちゃうんじゃん。
絶対、倒す。
メイスに更に力を込める。
一番いいのは顔とか手足を出した瞬間叩き込む事だが、問題はどうやって顔を出させるかだな。
「この亀野郎、ビビってんのか。お前の住処を荒らした憎い相手はここにいるんだぞ。なのにそんなところでこもっていて悔しく無いのかよ。悔しかったらかかってこいや。」
挑発してみる・・・・・・が何の反応もない。
そりゃそうだ。
それに言っててなんか俺が悪い気もしてきた。
だが諦めない俺は『水魔術』が欲しいんだ。
更に近づいていく。
このまま甲羅ごと破壊するかとも思ったがそれは流石に出来ないだろう。
なんかさっきまでの出来事でかなり興奮しているのか考えが雑だ。もう少し冷静に考えよう。
まず思いつくのはあの手足とか首とかが出入りする穴というか隙間から攻撃を叩き込むことだな。
直接できなくても力を飛ばして当てればいいだけだから出来そうな気がする。
立ち上がっているとどうなっているか分からないのでしゃがんで亀の甲羅の隙間を見てみる。
地面というか亀のお腹の部分と甲羅のところに若干の隙間がある。かなり低い位置にある上に隙間が狭い。
出来るかどうか分からないがとりあえずここに打ち込んでみるか。
メイスを持って地面に伏せながら地面と水平にメイスを横に振って力を打ち出す。
バコーン。
亀の横に力がぶつかるが亀はびくともしない。隙間から肉体に直接ダメージを与えたかは微妙なところだ。
隙間というより甲羅の横に当たっているだけのようにも見えた。
あまり効果なさそうだし他の方法を考えるか。
メイスや剣以外の攻撃方法が他にないか考える。
・・・・・・・・・そうだ薬品を使おう。
荷物から『消化』1.0を入れた溶解液を取り出す。
隙間が小さいが液体なら簡単に入れることができるだろう。
容器の蓋をあけ左手に持ちながら、右手ではメイスに力を溜めながら近づいていく。
近づいてほとんど手が届く位置で薬を隙間にふりかける。
じゅ。という音が聞こえた。
あれって結構熱いんだよなとか自分の手にかかった時の事を思い出しながら様子を見る。
相変わらず甲羅の中から顔や手足を出さないがなんか身じろぎしている感じがする。
こりゃ効いてるな。
もう一本、溶解液の容器をとりだしかけようとした瞬間、視界が暗くなり何かおおきな力で吹っ飛ばされる。
上下左右なにも分からずもパニックになっているその瞬間背中に大きな衝撃が走った。
息が出来ない。全身が痛い。がその痛みも徐々に遠くなっていき視界も暗くなっていく何が起きたのかもわからないまま意識が遠くなっていく。あ、これ死んだな。そう思いながら意識を手放した。
かは。
ごほごほ。
なんかさっきまで凄い息苦しかった。
なんだ。ここは何処だ。
目の前にはロバの顔のアップだ。ドンだ。多分。
俺何してたんだっけ?
体を起こそうとするがなんかうまく力が入らない。
というか徐々に体中が痛み出した。
なんだこりゃ。全身ずぶ濡れでそして全身が傷だらけだ。
擦り傷、切り傷、打撲。
いそいで背嚢から回復薬を取り出そうとする。
背嚢の中がぐちゃぐちゃだ。結構薬品の容器が割れたりしている。
その中から回復薬で割れていない容器を取り出して飲む。
直ぐには傷は治らないがこれで一息ついた。
冷静に思い返す。何していたんだっけ?
そうだ亀だ。亀に何かされて死にかけたんだった。
亀はどうなった。
急いで辺りを見回す。
いた。
かなり遠い。しかも俺の方じゃなく別の方を向いている。
良かった追撃はされなかったんだ。
そうほっとしたのもつかの間、見えてしまった。
亀が戦っている。
何と?
ゴブリンと犬だ。
小さなゴブリンが大きな亀の前に立って何かをしている。盾だ、盾を出して噛みつかれ振り回されながらも剣を出している。
亀の後ろからは他のゴブリンが後ろ脚や腕を狙って剣を振り回している。しかし亀が手足を振ると体格差のせいか直ぐに吹っ飛ばされている。それでも直ぐに立ち上がりまた亀に立ち向かう。
そしてその横には犬が走り回って噛みついたりしている。あ、吹っ飛ばされた。
小さい体のせいか、かなりの勢いで吹き飛ばされて地面を転がっている。
あれはまずい直ぐに治療しなきゃ。
しかし犬はよろよろと立ち上がりまた亀に向かって行く。
イチとニーとサンとギンが亀と戦っているのだ。
それも俺の方に行かせないように、その場に足止めさせるためにわざと接近戦を仕掛けているんだ。
しかも休みなく。
遠目でも分かる。みんなかなり傷を負っている。
亀の目の前でタンク役をやっているニーなんて持っているのは小さな木の盾だ。それもボロボロになってほとんど盾のていをなしていない。それでも亀の前から離れようとしない。
イチもサンも後ろから後ろから何度も何度も攻撃している。そのたびに吹っ飛ばされているのにそのたびに立ち上がって向かって行く。
ギンも同じだ。あんなに小さな体なのに亀に立ち向かっている。
みんな俺が前に教えた連携を守っているんだ。そして俺の事を守ってくれているんだ。
涙が流れそうになった。
自分が情けない。迂闊に亀に近づいて反撃を食らって死にそうになって。
それなのにそんな俺を助けようとみんなが頑張っている。
早く、早くみんなを助けなきゃ。
今度は俺がみんなを助けるんだ。
あたりを見回すと少し先にメイスが転がっている。
すぐさま立ち上がりメイスを拾う。その動作だけで体がバラバラになりそうなくらい痛い。どこがじゃなく全部。
だが構わない。今すぐ。今すぐ、あいつらを助けなきゃ。
メイスを両手で握りありったけの力を込める。
込める。込める。込める。込める。込める。
体の力が抜けていくのが分かる。力を使いすぎているのだ。
だが構わない。まだメイスには力が入るんだ。
だから更に力を込める。全部の力を込めてやる。
込める。込める。込める。込める。込める。込める。込める。込める。込める。込める。
込めながら足に力を入れて走り出す。
足に力が入らないのかうまく走れない。足がもつれる。
だが関係ないもつれながらも走る。
早く、早く、もっと早く。
あいつらを助けないと。
後ろからドンと何かにこづかれる。
ドンだ。ドンが後ろを指すように首を後ろに向ける。
後ろに乗れということか。
ドンの背中は荷物用の鞍がありそこに乗るようにまたがる。
俺がまたがったのを確認したのかドンが走り出す。
そういえばドンに乗ったのはこれが初めてだ。
なんというか凄い乗りにくい背が低いのもあるし掴まるところもないし足をかけるところもない。
しかしそんな事を気にしないのかドンは更にスピードを上げていく。結構速い。
とにかくメイスを落とさないように握り。全身で振り落とされないようにしがみつく。
そうしてしがみ付きながらもメイスに力を込めていく。しがみつくのに力を入れているのかメイスに力を入れているのか分からなくなる。
すぐにドンが速度を落としていく。どうやら着いたようだ。
ドンにしがみついてた力を緩め転がるように飛び降りる。
直ぐに体を起こす。
もうすぐそこに亀とみんながいた。
近くで見るともっとひどかった。みんなボロボロだ。
装備も体もボロボロすぎて泣けてくる。
ちくしょうよくもやってくれたな。
メイスを振りかぶり亀に向かって走る。
メイスに溜まった力がどれくらいかはもうよく分からない。
とにかくこの力を俺の力の全てを亀にたたきつける。それだけを考えて亀の目の前に行く。
頭だ頭を狙う。
メイスを振り下ろそうとした瞬間、亀が俺に気が付いたのか噛みついていたニーを離し首を引っ込める。
まずい、首が引っ込んでしまった。
だが構うものか、振り下ろし始めたメイスはもうとまらない。甲羅ごと粉砕してやる。
そのまま一歩踏み込んで首があると思しき甲羅めがけてメイスを一気に振り下ろす。
バキィーーーン。
とんでもない音と手から衝撃が走る。全身がしびれたんじゃないかという衝撃が全身を駆け抜ける。
しかしそれも気にならない。
なぜなら目の前で甲羅が砕けているんだ。そしてその勢いのまま全部潰してしまえ。
そう思ったが甲羅を叩いた反動で俺はメイスと一緒に後ろに吹っ飛ばされて倒れてしまう。
やばい。もう一度だ。まだ頭を潰していない。
そう思い再びメイスに力を込めようとする。
しかしまったく力が入らない。
メイスに力も入らないし全身から力が抜けて立ち上がる事もできない。
やばい。やばい。やばい。
「「ゲギャ!ゲギャ!」」
「わんわん。」
あいつらの声が聞こえる。
騒ぎながらこっちに向かってきてるのだろう。
くそ。倒れている俺をかばってくれる気か。だがもう駄目だあんな姿は見たくない。
「お前たち逃げろ。俺の事はいいから逃げろ。」
そう叫ぶのが精一杯だった。
「「ゲギャ!ゲギャ!」」
「わんわん。」
しかし更にあいつらの声は近づいてくる。
逃げろって言っているのに。
いつの間にかドンが傍まで来ていたのか俺の顔を覗き込んでいる。
さっき目覚めた時と同じ構図だ。
ドンまですまない。
「「ゲギャ!ゲギャ!」」
「わんわん。」
ついにみんなこっちに来てしまった。
しかもなぜか俺の周りをぐるぐる回っている。
何の儀式?守りの結界でも張ってくれてるの?
なんか表情を見ると嬉しそうだし。
亀の攻撃もないし、なんかおかしい。
暫くして少し力が入るようになったので体を起こす。
そして亀の方を見ると甲羅の前の方が割れていた。
そしてその中から大量の血も出ている。
そうか倒せたか。だからこいつらこんなに騒いでたのね。
なーんだ、そっかそっか良かった良かった。
そう思ったらふいに涙がこぼれているのに気が付いた。
やば、かっこ悪。
そう思い涙を拭こうとしたが、止まらない。涙が次から次に出てくる。
やば、なんで泣いてるんだろう。
そう思うが一向に涙は止まらない。
横を見るとゴブリン達とギンが笑いながらなんか俺の横をぐるぐる回っている。
それを見て俺は笑いながら泣いた。
良かったこいつらを誰も死なせずに済んだ。
そう思いながらその光景をずっと見ていた。




