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3話 地獄の季節①

 「それじゃあ案内しますのでこちらについて来て下さい。」


 そう言った受付嬢が歩き出した。しょうがないのでついていく。

 位置取りが悪かったのか受付嬢、俺、4人組の順番で歩いている。

 後ろの4人組がこっちをずっと見ている気がする。なんかひそひそ話してるしなんか悪く言われていないか不安になる。


 そうこうしているうちに二階の小さな部屋に案内された。机と椅子がいくつかあり、小さな教室みたいだ。


 「それでは担当教官を連れてきますので好きな席に座っていてください。」


 そう言って受付嬢が出て行ってしまった。

 そう言われてもどこに座ればいいんだ。

 本来なら4人組が座った後に残った後ろの隅っこみたいなところに座りたい。残念しかし今は先頭、俺が席を決めて座らないと邪魔な位置。

 しょうがない前列の端っこの席、君に決めた。ここは風水的に最悪の場所だからみんなはこの周辺に座らないように。


 つまりこう座れ。

 □□□自

 ■■□□

 ■■□□


 座らないように念じてるのに4人組は空気が読めてないのか俺の隣の席から詰めるようにして座っていきこうなった。


 □■■自

 □□■■

 □□□□

 

 なんでだよ。せめてこう座れよ。


 □■■自

 □■■□

 □□□□


 なんで取り囲んでいるんだよ。つまり挟み撃ちの形になったよ。ちくしょう。

 

 俺を取り囲んだまま4人は会話を始める。頭越しに会話をされるとどうしていいか分からない。

 地獄だ始まって早々地獄を味わっている。困っています助けてください。


 地獄の時間を耐えていると一人の冒険者が入ってきた。


 「おはようさん。今日からお前たちに冒険者の心得を教えるニールだ。よろしく。」

 「「よろしくお願いします」」


 ニールと名乗った冒険者はあまり大きくなくゴリゴリのマッチョという感じではないが鍛えられた体をしている。

 金髪で顔はどことなく優しそうに見えるおっさんだった。

 鬼教官みたいな人じゃなくて良かった。

 スキルを見ると。


 『剣術』4.5

 『盾術』3.1

 『警戒』2.2

 『指導』2.6

 

 今まで見た中で一番強そうなスキル構成だった。

 

 「お前たちは今日から5日間チームとなる。まずは自己紹介からだ。左端のお前から始めろ」


 いきなり自己紹介を振られてしまった。自己紹介なんてまず何を話していいか分からない超高難易度、さらにトップバッターで参考資料なしとか完全に地獄。何だ何を言えばいい。趣味も特技も出身地も何もかも向こうの世界の話でこっちじゃ言えないし。やばいやばい。


 「何もいう事がなければ、名前だけでもいいぞ。」


 「ワタルです。よろしくお願いします。」

 そう言って頭を下げた。


 自己紹介が次に次に行われている。少しおどけながら4人が自己紹介していくが自分の自己紹介への反省が頭の中をぐるぐる渦巻いていてそれどころではない。


 「じゃあ自己紹介も終わったところで早速、授業を始める。」


 全然、聞いていなかった自己紹介が終わったと思ったら、すぐに授業が始まってしまった。

 冒険者の講習というから何をするのかと思ったがまずは座学かららしい。


 「知っているかと思うがこの街はダンジョンの上に建てられている。そもそもの始まりは・・・」

 

 どうやらこの街は何百年も前に発見したダンジョンがもとになっているらしい。

 ダンジョンを攻略するために人が集まり、建物が出来てそれを繰り返していたら村ぐらいの規模になったらしい。その後、紆余曲折あってこの辺りを治める貴族が本格的に金を出して都市建設して今の街になったらしい。

 だからこの街の産業はほとんどがダンジョン関係のもので畑とかは一切ないなく食料は近隣からの輸入だよりらしい。

 このダンジョンは世界的に見ても古いダンジョンで相当大規模なのだが底が分からないので正確にはどれくらいの規模か分からないらしい。現在は10階が最高到達地点らしい。

 そんなことを雑談まじりに話す。聞いている方も気軽に質問しながら和気あいあいと進んでいく。もちろん俺以外。


 そんな話の中で鐘の音が聞こえてきた。

 

 「だいたいキリがいいから昼の時間にするか。ちょうどこれからギルド施設の説明をしようと思っていたから皆で飯食べに行くぞ。」


 教官に案内されて1階の食堂に行く。食堂はかなり大きく100人くらいは入れるんじゃないかというくらい広い。その食堂に今まで何処にいたんだと思うほどたくさんの冒険者らしき人たちがいる。


 カウンターで食事を買う。メニューは一緒でなんかの芋をふかして潰したものがたくさんとなんかの肉を焼いたものそれとスープだけ、これでたったの500ディールらしい。

 一つのテーブルで教官を含む6人で食事をとるのだがとても居心地が悪い。

 4人組と教官はもう打ち解けたのか楽しそうに話しながら食事している。そんな中、俺は一人黙ってもくもくと食べている。気まずすぎて味も分からないと思ったらもともと簡素で薄味なだけだった。


 そんな地獄の昼食が終わった後、施設を巡って順に説明される。

 魔物の解体場、素材の買い取りカウンター、資料室、外にある訓練場、そしてなんと宿泊施設まであった。なんでも駆け出しの冒険者はとにかくお金がないので格安で部屋を貸してくれるらしい。ただし超汚くて超狭い。狭い部屋に二段ベットが2つあるだけの部屋でもちろん4人部屋。他の奴らは借りるらしいが俺は借りない。絶対に無理。

 

 最後に冒険に必要なものを売っているところに行った。

 ここには武器、防具、道具、素材、薬品などがあって、なんと買うだけでなく貸し出しも行っているらしい。まあ貸し出してくれるのは、かなり使い込まれてボロボロになっている武器や防具だけだが。

 ここで冒険に必要なもの一式を揃えるらしいがそれはまたあとの話で今は結構大きい紙となんかの小道具を買うのと道具セット一式みたいなのを貸してもらった。

 全部で1万ディールしたがなんか絶対必要なものらしい。

 お金がない奴には金を立て替えてくれるみたいだが初心者講習が終わった後に強制労働で返すらしい。


 荷物を抱えて最初の部屋に戻ってくる。

 席は迷ったが最初に座った場所と同じところにした。


 「とりあえず座学はこんなところで、後はいよいよ待ちに待った実習に入っていく。」

 「おお、遂に来たか。」

 「ようやくダンジョンに入れるんだな。」

 

 周りが騒がしくなる。遂にダンジョンに入っていくのだろうか。ちょっと緊張してきた。

 

 「今からダンジョン探索の生命線ともいえる地図を作ってもらう。」

 「ダンジョンじゃねえのかよ。しかも地図かよ。」

 

 周りが不満を言い出した。

 するとさっきまで穏やかだった教官の雰囲気が少し厳しくなる。


 「いいか冒険者にとって一番重要なのは準備だ。どんな強い冒険者でも準備を怠れば必ず失敗する、下手をすれば死ぬ。この仕事は準備をしてしすぎるということはない。あらゆる状況を考え、それに対処できるように入念に準備をしなければならない。」


 そういわれたが周りの不満げな雰囲気は変わらない。


 「じゃあこれからダンジョンに行くとして何を持っていく?まずはお前」


 そう言って俺を指さして来た。

 やめて不意打ちはまじやめて。

 少し気持ちを落ち着けて答える。


 「地図です。」

 こういう時、空気を読まずにこういう答えを出せるのが俺なんだよな。理由はさっき地図が大事っていてたから。


 「ほう、その理由は?」


 理由はさっき言っていたから。こういう時、空気を読まずにこういう答えを言えないのも俺なんだよな。


 「初めて行く場所は道が分からないから?」

 

 とっさに考えた答えをひねりだす。


 「その通り。ダンジョンの中はかなり複雑になっている。来た道を覚えておいてその通りに帰ればいいと考えていたらかなりの確率で迷う。最悪の場合、それで死ぬまで出れないこともある。」


 まあ言われてみれば地図は大事だわな。

 

 「ほかに持っていくものは?次はお前。」


 隣の奴が指される。


 「魔物と戦うための武器とか防具とか?」


 さっきの流れ的にこれは違うな。おそらくこういうぱっと思いつく正解ぽいけど実は違います的な答えを教官は望んでいたんだろう。 


 「それも正解だ。凶暴な魔物もたくさんいるからな、自分の身を守るためにもそういう準備が必要だ。」


 正解なのかよ。深読みしすぎた。


 「この他にもダンジョンに必要なものは山ほどある。山ほどあるが全部は持っていけないのでとりあえずこの講習では最低限持っていくものを教える。その中でも地図は1、2を争うほどに優先順位が高いものだ。それこそ武器防具よりも。これは俺たち冒険者の経験則で、お前たちも行けば分かる。とりあえず今は信じて黙って地図を作れ。」


 地図は大事だとは思うがそこまで言うほどのものかと思うがそういわれたら作るしかない。

 他の奴らも半信半疑だがとりあえず黙った。

    

 「まずこの地図を配る。これはダンジョンの1階の地図だ。お前らにはさっき買った紙にこの地図を写してもらう。」


 そういって地図が一人一枚配られた。

 かなり曲がりくねった複雑な形をしている。なんかかってにゲームの正方形や長方形で表せるような整ったダンジョンを思い浮かべていたが全然ちがった。


 「見本をよく見ながら借りてきた道具を使って丁寧に写せ。間違ったらペンの後ろでこすって消すように。終わったらこっちで定着させるから。今日は終わった奴から帰っていいぞ。」


 地図はかなり大きい、A3より大きいと思う、こっちは正方形だけど。かなり時間がかかりそうなので急いで取り掛かる。

 とりあえず買ってきた紙を広げる。よく見るとうっすら縦と横に線が入って正方形のマスがある。これ方眼紙ですね。

 地図の見本の方にもマスがあるのでこのマス目をうまく使って書けということなんだろう。

 

 借りてきた道具類も見てみる。

 その中には直線の木の板がでてきた。これはどう見ても直線定規として使うんだろう。

 あとはなんか曲線で作られた定規がいっぱい出てきた。

 何に使うのかと思ってたら、曲線を描くときにこの定規のなかから同じような曲線の物を探してそれをなぞって曲線を描くものだと教えられた。教えてもらっている人のを見ていたとも言う。


 お手本の地図のマスに描かれた図形を自分の地図のマスに写していく。

 すこしでも線の位置、角度がずれるとそのあとのマスで大変なことになるので丁寧に丁寧に描いていく。こういう細かい作業は好きだ。


 「えっ、そんな細かくやってるの?」


 隣の男が話しかけてきた。どうやら俺の地図をのぞき見したらしい。

 

 「まあ、一応」


 無難に答える。

 どうやらもう書き終わって提出するらしい。

 あたりを見回すと他の奴も全員できたのか手に持っている。

 もうみんな帰るらしい。ワイワイ騒ぎながら教室を出ていく。


 集中していたせいで相当時間がたっていたらしい。まだ半分もできていないので焦る。焦って描くと失敗してしまいさらに焦る。


 「そんなに焦んなくていいぞ。丁寧にやることが大事だからな。」


 教官から声をかけられる。僕のために残ってもらって申し訳ない気持ちになりながら残りを描いていく。

 

 できた。最後まで描き切った地図を持っていく。


 「これはまた丁寧に描いたな。新人でここまで綺麗に描いた奴は初めてだ。さすがだな。」


 褒められてしまった。素直にうれしい。


 「これは預かってこっちで線を定着させておく。ダンジョンに行く時までに返すから今日は帰りなさい。」  

 「分かりました。ありがとうございました。」

 「そういえばお前はギルドには泊まらないんだったよな。宿はあるのか?」

 「いえ。まだ決まってないです。」


 そう答えると初心者を脱したような冒険者が泊まる安い宿を紹介してもらった。


 ギルドの外に出るともうすっかり日も落ちていてかなり暗くなっていた。

 なんかの道具なのか照明装置が家の壁などにつけられていて薄ぼんやり光っている。

 かなり暗くなった路地を抜けて教わった宿に行く。


 宿屋にいたおばさんにしどろもどろ話しかけて何とか一人部屋を用意してもらう。

 一泊飯なしで5000ディールだったがこれはかなり安いそうだ。飯はその辺の店で食べるものらしい。

 ギルドの施設は30日で20000ディールだというからギルド施設はとんでもなく安いみたいだ。


 一日で資金がかなり減ってきているし、これから5日間はこのまま初心者講習で収入もありそうにないから所持金が心配になってきたがギルド施設に泊まるのは絶対嫌だ。

 汚くて狭いけどあの4人部屋なんかより全然ましだ。


 そんなことをベットで考えていたら眠くなってきた。

 晩飯も食べてないが疲れがでたのか動く気にもなれなかったのでそのまま寝る。


 明日こそは『スキル強奪』が使えるといいな。おやすみなさい。


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