35話 滅び
無言で歩く少女について行く。
前に連れていた犬は今日は連れてない。
あの子達はどうなったのだろうか。テンションに任せて適当に治療してしまったが病気は治ったのだろうか。
そんな事を考えながらついて行くと一軒のボロい宿屋に入っていく。
ゴブリンやギンも一緒に入って行っても何も言われないのでそのままついて行く。
ちなみにドンは冒険者ギルドの預かり所に置いてきている。
1つの部屋の前で少女が立ち止まる。
「入って。」
おとなしく部屋に入ろうとする。
「その子たちは駄目。」
みんなで一緒に入ろうとしたが、どうやらここから先は俺一人で行かなきゃいけないらしい。
嫌だ心細いみんな来てくれと思ったがみんな空気を読んだのか少女のいう事を聞いたのかおとなしく廊下で待っているようだ。薄情じゃね?
とにかく少女に促されて部屋に入る。
部屋の中にはほとんど何もなくベットが1つあるだけだった。
部屋の扉が閉められ遂に少女と二人きりになる。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
部屋に連れてきたのに少女は何もしゃべらない。ただ部屋の中で二人で見つめ合っている。
嘘、いい風に言い過ぎた。超睨まれている。
気まずい。気まずすぎる。
これはどうするのがベストチョイなんだろうか人生経験が少なすぎて分からない。
1.ハンサムな俺は突如謝る。それも土下座。
2.仲間がきて一緒に謝ってくれる。俺は土下座。
3.土下座する。現実は非常である。
うん、やっぱ土下座しかない気がする。
土下座じゃなくても一気に謝って謝って謝るしかない。
言え。言え。言うんだ。俺。
言います。言います。今から言います。
だからそんなに睨まないでください。覚悟決まんないっす。
「・・・・・・・・・・・・・・・すみま」
「!!!」
謝ろうと動き出した瞬間、少女は後ろにビクッとして少し後退る。
なんかめっちゃ警戒している。
そりゃそうか急に襲おうとした前科があるんだから当然か。
「この前はすみませんでした。」
頭を下げ謝る。
「・・・・・・・・・・・・」
相手は何も言ってこない。
こういう場合、やっぱり土下座なんだろうか。
「こっちこそごめんなさい。」
何故かあっちも謝ってきた。
顔を上げて少女を見る。
相変わらず彼女はこっちを睨んでいる。
これって本当にどういう状況なんだ。
「・・・・・・・・・助けてくれてありがとう。」
なんだこれ、ありがとうて言われちゃった。
もしかしてデレたの?
でも向こうの表情は一ミリも変わっていない。相変わらず睨んだままだ。
「本当に助かりました。」
今度は向こうが頭を下げてきた。
これは確定でデレただろう。完全にフラグ構築からのルート直行だろ。
まさか。これは。まさか。部屋に来たってことは前回の続きが・・・ゴクリ。
「今はお金はない。・・・けど何時か何かで返すから。」
何かという事はつまり・・・、何時かとは5秒くらい後とか。
「・・・そういう事はできない。」
ばっかそんなこと考えてないし。本当だから、やましい事なんて一つもないから。本当です信じて下さい。
やっぱ駄目かそりゃそうだこれはエロゲじゃなくて現実なんだから。
とりあえずこれで向こうが何処かに訴えでたり捕まったり死刑になったりしないってことだ。
一気に力が抜ける感じがする。心配しすぎたやっぱり直ぐに謝ればよかったんだ。
マリーさんは正しかったんだ。この状況を作ってくれたマリーさんありがとう。やっぱりマリーさんは天使だったんだ。
マリーさん大勝利で大天使昇格だ。
「私はこの宿にいるから何かあったら。来て。」
まじかよ。こんな美少女のアドレスをゲットするなんて。それもメールアドレスとかラインアドレスとかじゃないやつだぞ。アドレス(物理)だぞ。やっぱ時代はしょぼめの錬金術師だわ。
「分かりました。ありがとうございます。」
なんかテンパって敬語になっちゃった。
それから少し、少女と話て冒険者ギルドに帰る。
彼女の名前はアリサとというらしい。駆け出しのテイマーだそうだ。
この前の犬達の病気は治ったみたいだ。今は無理させないために休ませているらしい。もう少ししたらダンジョンにも連れていくらしい。
名前を交換して相手の住んでる所を知っていて何時でも来ていいとかこれもう恋人だろ。言いすぎだろ。
なんかテンションがおかしい。銀髪碧眼の美少女と知り合ったというのもあるし、昨日までの懸念事項が一気に解決されたというのもあってテンションがおかしな程高い。
冒険者ギルドの受付に行ってマリーさんにお礼を言う。
マリー大天使のおかげで今日も俺は生きてられます。ありがとうございます。
そうやってマリーさんにお礼を言っていると後ろから声をかけられた。
「ワタルやっと会えたな。」
「ワタル君、久しぶり。」
初心者講習を一緒に受けた4人だ。
そう言えばなんか用があるとか言ってたな。
「その後ろのゴブリンが噂のクラスアップしたゴブリンだろ。」
噂になっているのか。
「多分。」
「俺達もゴブリンを買って育てたんだけど直ぐに死んじゃってさ。どうやって育ててんの?」
こいつらもゴブリンを育ててんのか。まじお疲れ様です。
「しかし本当に3匹も連れているんだな。それも3匹全部クラスアップさせたんだろ凄いなワタル。」
いやあそれほどでもない。もっと褒めてくれても良いんだよ。
でもまじで大変だったから。
「「ゲギャゲギャ」」
みんなに褒められていると思ったのかゴブリン達も嬉しそうだ。
「それで良かったらコツを教えてくれないだろうか。また今度ゴブリンを買って育ててみようて話をしていて今度こそは立派に育ててアグーみたいにしたいんだ。」
こいつらもアグー知ってるのね。相当有名なゴブリンなのね。
「いや、普通のことをやったまでです。」
「?普通にやってもなかなかいう事聞かなくてな。気が付いたら敵に突っ込んでいってすぐ怪我をしてしまうんだ。ワタルはどうやってたんだ。」
やっぱゴブリンてみんな頭ゴブリンなのね。
「言う事は全く聞かないから好きにさせて、普通に怪我したら回復薬使って治してた。」
「え?怪我したら回復薬使ってたの?ゴブリンなんて直ぐ怪我するじゃない。それもかなりひどい怪我するよ。」
「だから毎回戦闘のたびに回復薬使ってたよ。」
「なんだそりゃ、滅茶苦茶金掛かるじゃん。全然参考になんねえ。」
そうか回復薬は本来買ったら1本2万だからなそんなに気軽に使えないよな。そう俺以外はね。
「だめだな。ワタルならなんかコツ知ってるかと思ったけど想像以上に馬鹿なやり方してたわ。」
気分よくドヤ顔してたらディスられてしまった。馬鹿なやり方とはなんだ馬鹿なのはゴブリンのほうだ。
「まあしょうがない。こっちはこっちで地道に頑張って見るか。」
「えー、もう頼りのワタル君の話が駄目だったんだからゴブリンなんて諦めようよ。」
「それは駄目だぜニナ。ゴブリンを育ててアグー伝説の再現をするのは男のロマンだぜ。諦めるなんて論外だぜ。」
「なんで男の子てそんなにアグーが好きなのよ。ワタル君もなんか言ってあげてよ。」
「まじでやめた方がいい。・・・ゴブリンは本当に地獄だから。」
俺ももう一回あれをやれと言われれば絶対嫌だ。
「何か凄く実感がこもった言葉だったな。凄い大変だったんだな。まあとにかく後、一回は挑戦してみるよ。お互いに頑張ろう。」
こいつはいつも無駄にかっこいいな。名前忘れちゃったけど。
そうだついでだから聞いておこう。
「そう言えば。えーと君は『剣術』スキル使えるよね、『剣術』て使うとどうなるの?」
「あれ『剣術』スキルの話ってしたっけ?」
「なんとなく聞いた。」
そう言えば聞いたことなかったけ。こっちはスキル情報が見えるからそれで得た情報だったかも。ちなみに今彼の『剣術』は1.6だ。
君、俺の剣より『剣術』スキルが低いよ。物に負けるとか悔しくないの?まあ俺もそうなんだけど。
「そうか。『剣術』はギルドの技能講習でやって身に付けたんだ。俺はまだ大して使えないけど『剣術』について知りたかったらあの教官に聞いたらいい。ほら俺たちの初心者講習の教官だった人。」
あの人かそういえばあの人は今まで見た中でも一番『剣術』スキルが高かったな。
「技能講習もあの人が担当だったんだがとんでもなく強かったよ。」
なるほどね。
「ニール教官に聞くなら朝早くか夜がいいですよ。あの人も忙しい人ですから。それに聞くだけならお金は取りませんが何か教えてもらうならお金を貰わなきゃいけませんからね。」
マリーさんが会話に参加してきた。
そうか教わるにはお金が必要なのか。『剣術』がどんな事が出来るか聞くだけだから大丈夫だとはおもうけど。まあ別に料金が発生してもお金はあるからいいか。
今日はまだニール教官の仕事は終わってないのでこのまま待っているか次の日にした方がいいと言われたのでみんなと別れてダンジョンに向かう。
この日も2階での魔物狩りと魔鉄鉱石を育てているところに肥料やりをして終えた。
2階は行っていないところが多いが出てくる魔物は簡単に倒せてしまうのでもう3階に行って新しい魔物を倒しに行ってもいいかも。ただ魔鉄鉱石に肥料やりをしたいし3階に行くには移動時間が倍になってしまい魔物を狩る時間が減ってしまう。
一度、どんな魔物が出るのか3階へ見に行くのもいいがやっぱり当面は2階で『剣術』集めと魔鉄鉱石育てでいい気がする。
そんな事を考えながらこの日は眠った。
次の日、いつものように全部の支度を終えてから冒険者ギルドに行く。
今日は教官はいるだろうか『剣術』の事で何か分かるかもしれない。
そんな事を考えながら受付に行く。
すると今日はなんだか人が一杯いる。
冒険者には見えない人で一杯だ。
なんかの手続き祭りなんだろうかマリーさん大変だな。
「来た。彼だ。」
誰かが俺を見てそう言った。
よく見るといつもお世話になっている奴隷商人だ。
後ろにはアリサも一緒にいる。
「お待ちしていました。このアリサさんにしたことについてお話があります。ついて来てくれますよね。」
そう奴隷商人が言うと周りにいた男の人たちが俺を取り囲む。
嘘でしょ。
昨日、許して貰えたんじゃなかったの?
安心させてから捕まえる、そういう作戦だったのかよ。
死んだ。
そう思いながら奴隷商人の後を黙ってついて行く事しかできなかった。