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2話 街の中、ギルドの中

 感情が高ぶったまま街の中を歩く。


 『料理』1.2

 『会計』2.6


 何建築に似ているのかは分からないが日本のビルとも古い家とも違った様式の家が立ち並ぶ。

 ほとんどの建物が灰色の石みたいな素材で出来ているため色彩がかなり統一されていて美しい。

 見るもの全てが新鮮に感じて楽しいが、何より楽しいのはすれ違う人の横に表示されているスキルを眺める事だ。


 『交渉』1.7

 『剣術』2.8

 

 時間帯が早いせいかあまり人は出歩いていないが、それでも大通りのため少なくない人数とすれ違っていた。


 『土魔術』1.8

 『計測』1.8

 『察知』2.9


 その結果分かったことは大体の人のスキルは1~3くらいの数値でスキルの種類自体はすでに数えきれないくらい確認できた。


 『採掘』3.4

 

 それはつまり、こんな短時間でも俺がその気になれば、さっきからちらちら見えているスキルを獲得することが出来るという事だ。よりどりみどり、選びたい放題取りたい放題ということで、こんな最初の街でもうすでになんでもできる無敵の超人になれてしまうということなのだ。

 

 やれやれ俺はもっと普通の能力でよかったんだが。

 にやにやが止まんない。

 やっぱチートって最高だわ。


 考え事をして歩いていたら一際大きな建物の前についていた。

 というかさっきまでの建物と大きさが全然ちがう。さっきまではでかい一軒屋みたいな大きさだったのにこれは完全に区役所だ。高さも3階建てくらいあり奥は見えないから分からないが、広さだけでいえば下手したらドーム球場くらいあるかもしれない。


 看板には「冒険者ギルド アルスター西門支部」と書いてある。

 ていうか文字も読めるのね。テンパってたから気が付かなかったけど言葉も通じるしあの睡眠学習すげえ。

 

 とりあえず冒険者ギルドに入りたいが建物が立派すぎて気後れしてしまう。入り口の扉も閉じているからやってるのかやってないのか分からないし、そもそも看板には冒険者ギルドて書いてあるけど嘘かもしれないし。考えれば考えるほど入りづらい。


 誰か入っていってくれないだろうか。そしたら開いているかどうか分かるのに。

 できればあまり立派な恰好をしてない人がいい、中に入った時に場違い感があったら嫌だから。

 見るからに冒険者ぽいよれよれの格好をした誰か、誰か中に入るやつはいないのか。ここにいろ。早くしてくれどうなっても知らないぞ。


 「どうしました。開いていますのでどうぞ中へ。」


 入り口付近でうろうろしていたら扉が開いて中から女の人が声をかけてきた。まじかよ想定外。


 「は、はい、入ります。」 


 返事をして何とか中に入り、声をかけてくれた女の人についていく。少し進んだ後で気が付いたが中から入り口が見えるようになっていた。どうやらずっと悩んでいたところ見られていたらしい。恥ずかし。


 少し廊下を歩いたあと大部屋に行き当たる。中には長いカウンターで仕切られていてカウンターの奥はよく見えないがこちら側には椅子がおかれており、区役所や銀行の受付みたいになっていた。


 大きな部屋だが他に冒険者はいなく、受付に座ったギルド員の女性が5人くらい暇そうに座っている。

 時間が早すぎたのかもしれない。これじゃあむかつく冒険者に絡まれて、相手が気づかないうちにスキルを奪って逆転天誅プレイが出来ないではないか。また今度な。


 そんなことより、ギルド登録がしたい。でもギルド登録するには話かけなきゃいけない。つらい。

 勇気を出して受付にいく。さっき入り口で声をかけてくれた女の人の受付にしよう。なんか優しそうだし一回会話したから多少、心理的ハードルが下がっているはず。


 「すみません。ギルド登録がしたいのですが。」

 ようやく話しかけられた。この間わずか5分。なかなかいい記録だ。


 「はい。でしたらこの用紙に必要事項を記入してください。文字の読み書きはできますか?」

 「は、はい。大丈夫です。」


 ちょっと厚めの紙とペンを差し出された。

 

 名前

 性別

 年齢

 出身地


 書く項目はこれだけらしい。とりあえず名前を書こうと思ってペンが止まる。せっかくこれから異世界最強の男になるのだから本名じゃなくてなんかかっこいい名前にしようかな。ジークフリートとかバルムンクとか天龍院覇夜斗とか。

 そう思って考え始めたがなかなかしっくりこない、ゲームでもプレイヤーネームを考えすぎて最終的に「みのむしぶらりんしゃん」みたいな変な名前になったりするし。


 「なにか分からないことはありますか?」

 

 名前に悩んでたら声をかけられてしまった。最強の男にふさわしい名前を考えていましたとは言えない。


 「大丈夫です。」

 そういって慌てて紙に記入する。


 名前:ワタル・ヒムカイ

 性別:男

 年齢:19

 出身地:サイタマ


 焦りすぎて本当のこと書いちゃった。出身地は見栄を張って東京にすればよかった。いや違う出身地て誤魔化なきゃいけなかった。

 

 「では少々おまちください。」

  

 そう思ったが何の心配もなく受理された。


 それから結構待った。受付の前で待ってないで椅子に座ればよかったかな?でも勝手にここを離れないほうがいいんじゃないか?を結構繰り返してた頃に受付嬢が返ってきた。


 「こちらが冒険者ギルドのカードになります。手をだしてください。」


 そう言われたので右手をだす。

 受付嬢が右手に触ったと思った瞬間、右手を引きそして注射針みたいなのを指に刺した。


 「痛っ」


 反射的に手をひっこめようとするが、結構強い力で引っ張られているのでひっこめられない。

 次に針から採取した血かなにかをギルドカードの右隅にある窪みに垂らして少しカードを振ってからこちらにカードを差し出してきた。


 「ギルドカードの再発行には1万ディールかかりますので無くさないようにお願いします。」


 そういってカードを差し出しているが、先ほどの不意打ちのせいで怖くて受け取るのをためらってしまう。


 「大丈夫ですよ。魔力の採取は済みましたので先ほどのようなことはもうありません。」

 

 怖がっているのがばれていたようだ。しょうがないのでおずぞずとカードを受け取る。

 受け取ろうと手を近づけた瞬間、相手の左手がすっと動く。体がビクッと反応してしまう。

 相手の表情はずっと笑顔だが心なしかより笑顔になっている。これ遊ばれてるね。


 「次にギルドの初心者講習の説明をさせていただきます。」


 カードを受け取った後、平然と受付嬢が話を進める。

 どうやら初めてギルド登録した冒険者はほとんどが受けるもので、冒険者の基礎の基礎からみっちりやるらしい。期間はなんと5日間。

 そんなに待てない。早く『スキル強奪』を使ってみたいしダンジョンにだって入ってみたい。そもそもチート能力持ちなんだからそんなのは必要ないと思ってたら。


 「この街には多くの人がダンジョン目当てでやってきて冒険者になります。そしてこの初心者講習会を舐めて真面目に受けない人はまず間違いなく死にます。」


 そう断言されてしまった。どうやら不満が顔に出てたみたいだ。

 別に受付嬢の迫力にビビったわけではないが、断じて違うが先人の知恵を学んでも悪くないかなと思い。しょうがないから受けることにした。


 受けることにしたが講習は5人一組で行うらしく、他の冒険者見習いが後4人来るのを待つらしい。

 例年この時期は冒険者志願者が多いのでだいたい2日も待っていれば集まるらしい。

 じゃあその間、街でも見回ってようかと思ったがそろった時点で始めるから必ずここで待ってなきゃいけないらしい。集まらない場合は、夜ギルドが閉まるときに帰って朝ギルドで集合して残りのメンバーを待つらしい。


 というわけでしょうがないから椅子に座って待つ。


 まずはさっき貰ったギルドカードでも見ている。


 名前:ワタル・ヒムカイ

 性別:男

 出身地:サイタマ


 これしか書いてない。記入したやつより情報減ってるし。

 ランクとかそういうのないの?

 

 しかし慌てない。俺は一人で時間を潰すプロだ、2日くらいは余裕で暇を潰せる。


 そう思っていた時期が私にもありました。

 待つだけというのが相当辛い。


 スマホがあれば何時間でも一人で暇を潰せていたので何でもないと思っていたがスマホがないと本当にやることがない。スマホがない古代昭和人の人たちはどうやって暇を潰していたのだろうか。ぼーと生きてたんだろうな。というか時計がないからどれくらい経ったか分からないし本当に辛い。


 しょうがないので『スキル強奪』について考える。

 相手の能力を奪う系の能力は古今東西あらゆる物語で登場する超メジャーかつ超わくわくする能力だ。

 今現在、自分の『スキル強奪』で確認出来ている事は相手のスキルを見ることだけでこの能力の肝であるスキルの奪い方が分からない。


 過去の作品の知識からすると奪い方には、たくさんのパターンがある。

 相手に能力の質問をして奪う。

 相手に触れて奪う。

 相手の攻撃を受けて奪う。

 相手を攻撃して奪う。

 相手を殺して奪う。

 相手を食べて奪うというのもあった。

 とにかくたくさんのパターンがあるが、出来れば『スキル強奪』は簡単な条件で奪えないだろうか。ソフトタッチくらいのやつ。


 そういえば受付嬢に触ったんだった。彼女のスキルを奪ったらどうなってしまうのかなんて妄想しながら時間を潰す。ちなみに受付嬢のスキルは

 『話術』1.7

 『採取』2.1

 だった。

 

 椅子に座ることが数時間。一向に冒険者が来ない。冒険者見習いどころか普通の冒険者もこない。来るのはなんかの申請をしている人だけ。なぜ分かるかというと暇で暇でずっと見ていたので分かる。

 なんなのこの世界の冒険者は勤労という言葉を知らないの?朝は寝ていて夜は酒を飲むだけなの?というかもしかしたらここは偽の冒険者ギルドで田舎から出てきた純朴な冒険者志望の人を騙して、いつ気が付くか見ながら裏で笑っているとかそういうやつなの?


 そんな被害妄想をしているとき入り口の方から大きな声で楽しそうに話しながら来る4人組がやってきた。男3人、女1人の男女混合のカルテットだ。

 そいつらは受付に向かって行って何やら話し込んでいる。


 やめてくれそいつらだけは冒険者見習いであってくれるな。普通の冒険者であれ。


 何やら紙に記入し始めた。


 やめてくれなんかの申請をしに来たやつであれ。


 そしてギルドカードが出てきて、例の針をぶっ刺されてわーきゃー言っている。


 まじでやめて下さい、お願いしますなんでもしますから。


 そんな願いも虚しく受付嬢が手招きする。

 しぶしぶ行ってみると。


 「ラッキーでしたね。これでちょうど5人揃いましたので初心者講習へ案内します。」


 と言われてしまった。


 ラッキーなものか、ちょっと想像してみてくれスーパー仲良しで地元じゃ負け知らずな4人組の中に行き成り放り込まれる会話不自由者とか地獄以外の何物でもないじゃないか。


 こうして地獄の5日間が幕を開けるのだった。



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