23話 決断の時
飛行ソリを使いながら遊んでいるゴブリンたちを見ながら考える。
そろそろ限界かもしれない。
4週間以上ゴブリンたちに戦術練習をさせたが一切無駄だった。
スキルも上げた。レベルも上げた。
ステータスだけ見るなら立派に育てたといってもかまわないだろう。
もうゴールしてもいいよね。
ステータスは高いがこのまま戦闘でやみくもに突っ込むだけだと強敵に当たった時にあっさり負けてしまうだろう。
それに最悪誰か死んでしまうかもしれない。
そんなことを考えているから、いつまでたってもこの1階で足踏みしている。
それに何が辛いって自分の時間がほとんどないことだ。
彼らの世話をする時間が多すぎて自分が自由に使える時間がほとんどない。
お金は回復薬を売ったお金で大丈夫だがこのまま一生こいつらとこの1階でトカゲを狩っていると思うともうゴールしたくなる。
ゴブリンを育てられないと思っている人たちを見返してやるためにここまで頑張ったがもう・・・
だめだ。ネガティブな思考がとまらない。
一回寝てまた明日スッキリとした頭で考えよう。
次の日の朝というか夕方。
いつものように起きて思う。
一回、一回だけ奴隷商でゴブリンを査定してもらおう。
もちろん売らない。
売らないけど、売らないけど、ここまで育てたゴブリンがいくらになるかそれだけ確認したい。
確認だけ。確認だけだけど、もし俺の口下手が発動してそのままうまくコミュニケーションできずに、うまく意思疎通ができずにそのまま売ってしまったらそれはもうミスしてしまったんだからしょうがない。
そんな感じでちょっとだけ確認しにいこう。
そうしてこの日はゴブリンを連れ立ってゴブリンを買った奴隷商のところに行く。
奴隷商の建物に入り、店員さんを見回す。
前回、対応してくれた人がいた。多分。1か月以上前だから確証はない。
「すみません。魔物の買い取りってやってますか。」
「やってますよ。もしかしてお客さんはこの前ゴブリンを3匹買って下さった方ではないでしょうか。」
「はい。」
なんか向こうもこっちの事を覚えていてくれたらしい。
「ゴブリンを3匹なんて珍しかったですから印象的でしたよ。買取でしたらこちらの方で対応します。」
そういって奥の部屋に案内される。
「では早速、買い取りの話をさせていただきましょう。もしかして後ろのゴブリンをお売りになりたいのですか?」
「そうです。3匹がいくらになるか見てもらいたくって。」
ドキドキしながら言う。
すると奴隷商はゴブリンの体をチェックし始めた。
装備を脱がせ、体をみたり。
手を開かせて指の先まで確認したり。
足の先を見たり。
頭の後ろや耳の裏なんかも確認した。
こう隅々までチェックされるとなんか難癖付けられて値段を下げられるような気がしてくる。
昔、カードショップでカードを売った時に壁に出ていた買取価格よりも低く査定された時の事を思い出す。
だが大丈夫。俺のゴブリンは完璧だ。
再生持ちで怪我しても傷が分からなくなるくらいまで回復するし。昨日体を入念に拭いたから汚くもない。
なぜ今日、査定を思いついたのに昨日体を拭いているかだって?言わせんなよ恥ずかしい。
ゴブリンの体を確認していた奴隷商が確認が終わったのかこっちを見て話しかけてきた。
「これは素晴らしい状態ですね。どこにも欠損どころか傷すら見当たらない。なのにかなり強く育っているしなかなかこの状態にはできないでしょう。この感じならクラスアップもそう遠くないでしょう。」
べた褒めだ。そうだろうそうだろう。
「これでしたら1匹10000ディールで買い取らせていただきます。」
変わってねえじゃねえか。買った時と。
なんだよすごい期待しちゃったじゃないか、あんなに褒めるから凄い高いのかと思ったよ。
「もっと高いかと思いました。」
「まあ元がゴブリンですからね。かなり強くなったとはいえクラスアップもしていませんし。」
なんだよゴブリンは人気商品じゃなかったのかよ。
もっとよく見ろよ14レベルだぞ。そしてスキルとかいっぱいついてるんだぞ。
「すみませんがこれ以上はこちらとしても上げることは出来ませんね。これでもクラスアップなしのゴブリンとしては最高の値段ですので。」
「そうですか。」
これじゃ売ったとしてもお金は戻ってくるだけ、そうすると俺の一か月間が全くの無駄だと言われているみたいだ。
やっぱこれじゃあ売れないね。もともと売る気もなかったしね。ちょっと見せびらかしたいだけだしね。全然悔しくないし。
「どうしますお売りになりますか?」
「やめておきます。」
まあこれで良かったよな。勢いでここまで来ちゃったけど結果的に売らなくてよかった。
ゴブリンたちにも愛着はあるし高く値段をつけられても結局売れなかっただろう、そういう事にしておいて。
「もし魔物を育てて売るような仕事をしたいのであればもっと売れる魔物を育ててみてはいかがでしょうか。」
「はあ。」
今でもゴブリン達で手一杯なんだからこれ以上の魔物は増やせるわけがない。
そう思い気のない返事になってしまう。
「これだけ丁寧にゴブリンを育てることが出来るのでしたらかなりの育成技術をお持ちとお見受けします。」
まあ、それほどでもない。
「今うちでかなり力を入れている商品がありまして、お恥ずかしい話、それを育成する魔物使いが足りてなくてですね丁度、腕の確かな魔物使いを探していたんですよ。」
「僕は魔物使いではないんですが。」
「大丈夫です。魔物使いでなくてもこれだけ育てられるのですから。」
まあ、あのゴブリンをこれだけ丁寧に育てられる者ですからね。
「とにかく一度物を見てもらいましょう。こちらへどうぞ。」
そう言ってまた別の場所に行く奴隷商にゴブリンともどもついて行った。
奴隷商に案内されたのは地下に作られた部屋でかなり薄暗く、地面などもむき出しになっていた。
「これが今、私どもが力を入れて繁殖させている洞窟犬になります。」
そういって見せられたのは銀色というか灰色の毛並みをした子犬だった。
体長は50センチもないんじゃないか、ちっちゃくてかわいい。
それが10匹以上はいてこちらを見ている。
「この洞窟犬というのは本来、洞窟に住んでいる犬の魔物全般を指していましてこの犬にも正式名称が・・・。まあそのような蘊蓄はいいですね。とにかくこの洞窟犬は他のダンジョンでは一般的に索敵用に使われていて、かなり人気がある魔物なんですよ。」
なるほど斥候役なわけね。
「もともと洞窟で暮らしている品種なのでダンジョンに長時間いても大丈夫ですし索敵も出来て、何より土魔術が使える。ダンジョン探索にはうってつけの魔物なんですよ。」
土魔術それは凄い。
「残念ながらこの辺に生息していないのでまだ馴染みはありませんが、今回遠くのダンジョンから輸入しまして、こちらで繁殖させて売り出そうとしている商品なんです。」
わざわざ輸入して繁殖させているのか。これは相当売れると踏んでいるんだな。
「この洞窟犬でしたら10レベル上げたら50万、クラスアップなら100万で買い取りますよ。おひとつ育ててみてはいかがですか。」
高、ゴブリンの50倍以上する。あとレベルアップって概念やっぱりあるんだ。
しかしな子犬とかどう考えても世話が大変な気がする。ただでさえうちにはゴブリンが3匹もいるのに。
「ちょっと触ってみますか?」
そういって1頭の子犬を連れてくる。
恐る恐る撫でてみる。
すごいふわふわだ癖になりそう。
「くうーん」
ちょっとくすぐったそうに眼を細める。
何これ超かわいいんですけど。
「「ゲギャ。ゲギャ。」」
周りにいたゴブリン達も興味をもったのか真似して一斉に撫でてきた。
「あ、おいこら」
ゴブリン達に注意をする。
「大丈夫ですよ。少しくらい撫でても賢い品種なので。」
「そうですか。」
みるとゴブリンたちは気に入ったのかかなり興奮した様子で撫でている。
一方の子犬も先ほどと同じように少しくすぐったそうにしているだけだった。
「どうします飼ってみます?」
でもなどうしようかなそう考えて子犬を見る。
子犬と目が合う。クリクリの黒目だ。
こりゃだめだ。
「すみません買います。」
「何頭必要でしょうか?」
「いや1頭で十分です。」
ここを即答しておかないと何頭押し付けられるかわかったもんじゃない。
「では25万ディールになります。」
高っ。まあいいんだけどまたお金は500万くらいあるし。でもなんか騙されているような気がしなくもない。
25万ディール払ってさっきまで撫でていた子犬を買う。
首輪と紐はおまけでつけてもらった。
食事やトイレなどの事を簡単にレクチャーしてもらい、奴隷商を後にする。
時間も時間なので準備や日課をすべて済ませ、ゴブリンと犬を連れてダンジョンに入る。
「坊主、今日はゴブリンだけじゃなく犬まで連れているのか。」
「はい。今日、買いました。」
「そりゃまた大変だな。」
ダンジョンの入り口で待機している冒険と軽く挨拶を交わす。
毎日同じ人ではないがこの時間にいる人はだいたい顔なじみだ。
ダンジョンに入り少し行ったところで犬と向かい合う。
犬にスキルをつけるためだ。
とその前に犬に名前がないことに気づき、名前を付けることにした。
名前のセンスはないのは分かっているので単純に名前をつけよう。
イチ、ニー、サンとしているので順番に行けば、ヨンだがそれはあまりにも単純すぎて可哀そうだ。
そんな数字をそのままつけるなんて愛情のない事、俺にはできない。
こいぬ座の星の名前からとってプロキオンとかどうだろうか。なんか言いづらい。
同様におおいぬ座の星の名前からシリウス。かっこいいけどちょっと似合わない。
銀色にも見えるからいっそしろがねとか日本語ぽいのにするとか。
そんなことを考えていたがなかなか決まらない。
やっぱりこうなるから単純な名前をしたかったんだ。
もう銀色にもみえるからギンでいいか。
「今日からお前はギンだ。」
「わん。」
そうか嬉しいかめんどくさくなって付けた名前だけど呼びやすいしいいような気がしてきた。
ではまず、『抗病魔』と『再生』をつけていく。
病気になったり怪我したりしたら可哀そうだからな。
後は『音探知』をつけるかだが既に『嗅覚探知』を持っているしスキル容量の関係もあって上げなかった。
様子を見てからだが『嗅覚探知』が自然に伸びてくるならつけなくてもいいかもしれない。
ということでギンの能力はこうなった。
ギン
『嗅覚探知』0.6
『土魔術』0.2
『威嚇』0.1
『抗病魔』1.0
『再生』2.0
『3.9/5.0』
ギンは最初から3つも能力を持っていた。
さすが25万だ、その辺のゴブリンとは大違いだぜ。
さっそく狩りを始めてみる。
今日は初日だし、子犬なので無理はさせないつもりだ。
まずはスライムで様子を見てみよう。スライムなら万が一もないしな。
さっそくスライム発見。と思ったらすぐにゴブリン達が駆け出して倒してしまう。
まあいいや何時もの事だ。
このスライムの匂いをギンに覚えさせていく。
「よしギン。これがスライムだ。匂いを覚えろ。」
「わん」
そうなくとギンは一生懸命匂いを嗅いでいる。
なんかいちいち可愛くて癒される。
ギンが一通り確認がすんだところで次はスライムを探すように指示をする。
「次は今のスライムを探すんだ。」
「わん!」
力強く鳴くと地面に鼻を近づけて匂いを嗅ぎながら探し始める。
これこれこういうのでいいんだよ。
うちのゴブリン達も手の横に耳を当てたり、地面に耳を近づけたりしろよな。
「わんわん。」
暫くすると見つけたみたいで走りだしていく。
紐は手に持っているのではぐれることはないが慌てて後を追いかけていく。
暫くするとスライムを発見した。
「ぐるるぅぅぅぅ。わん!わん!」
しかも襲い掛からずスライムのそばで威嚇し吠えているだけだ。
これだよ、まさにこれ。俺が求めていたのはこれ。
いきなり走ったと思ったらそのまま襲い掛かる。何度、注意しても同じことを繰り返す。
そんな奴らに比べれば何て頭がよくて賢くて聡明なんだ。
そんな風に感動している横を通り過ぎスライムに襲い掛かるゴブリン達。
まあ君たちも元気があって大変いいね。
なんかギンが可愛くて賢くて癒されるせいでなんでも許せるような気がしてきた。
また別のスライムを探そうとするとゴブリン達が俺が持っているギンの紐を持ち始めた。
どうやらゴブリン達もギンの紐を持って獲物を探してみたいらしい。
しょうがないのでこのまま皆で探すことにする。
ただこいつらに任せたらどうなるか分からないので俺も紐をもったままにする。
フォーメーションはこうだ。
ギン---------イチ-ニー-サン-俺
なんかこうしてみんなと紐を持って歩いていると保育園児と散歩している保育士さんになった気分になる。
さっそく見つけたのか、ギンが走り出す。
そのままゴブリンも俺も走り出す。
「わんわん。わんわん。」
ギンはスライムの前で止まって吠え出す。
ゴブリンたちはそのまま走ってスライムに襲いかか・・・・・・らない。そのまま止まった。
「「ゲギャ!ゲギャ!」」
そしてそのままギンと一緒に吠えているだけだ。
嘘だろ。
あんなに何回も何回も何回も何回も何回も言ったのに一向に止まらなかったあいつらが止まっている。
遂に今までの苦労が報われて戦術を理解したんだ。
目頭が熱くなり視界がぼやける。
「イチ、ニー、サン。スライムに攻撃だ。」
するとすかさずスライムめがけて襲いかか・・・・・らない。止まったままだった。
そりゃそうか。
ギンの真似をしたいだけだったのね。
涙も一瞬で渇いた。
そのままスライムを自分で倒す。
その後、ダンジョン内を移動し獲物を狩り続ける。
スライム、ネズミ、コウモリを倒したので最後はトカゲだ。
トカゲを見つけたのでまずはギンをけしかける。
「よしギン牽制しろ」
「わんわん。わんわん。」
ギンに牽制させているもののどれくらい効果があるかは分からない。
トカゲは危険なのでギンのそばを離れるわけにも行かないしどうしたもんか。
そこでゴブリンたちに指示を出してみる。
どうせ駄目だろうけど一応やってみる。
「イチ、ニー、サン回り込んで攻撃しろ。」
「ゲギャ!」「ゲギャ!」「ゲギャ!」
3匹が別々に動き3方向から攻撃を加える。
トカゲはなすすべなくそのまま誰に噛みつくこともなく倒されてしまった。
今度こそ泣いた。
この1か月間の苦労がようやくようやく報われたのだ。
そう思うと涙が止まらなかった。
何がきっかけかなんてわからない、もしかしたら俺のした事は一つも影響を与えていないかもしれない。でも今、現に俺の指示を聞いて動いているという事実が本当にうれしい。
成り行きで始まって周囲への反発から育てて来たゴブリン達だったがこうして成長する姿をみると本当に感動する。
何度くじけそうになったか分からないし実際、折れて売りそうになったがあの時売らなくて本当に良かった。
「お前たち良くやった。」
トカゲを食べていたイチ、ニー、サン、ギンにそういうと彼らは俺のことを見ながら嬉しそうに笑った。
これでようやくパーティーの形になった。
ゴブリンたちがある程度指示に従う仲間となったという事は、ようやく次のステップに進めるという事を表している。
いよいよ次の階に進む、そう決心して宿に帰るのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
第3章はこれにて終了です。
次は他人視点の短い話を1話。
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