18話 3匹を斬る。
「すみません。ゴブリンていくらですか?」
「どれでも1万ディールです。」
安。ゴブリン君、回復薬より安いじゃん。大丈夫?
この部屋の中には12匹のゴブリンがいる。
全部、買っても12万だ。今の所持金は250万あるのでいたくもかゆくもない。
とりあえず全部貰おうかと思ったが一度に12匹はどう考えても処理が大変だ。
ないとは思うが1匹殺している間に他に反逆されたら多分負ける。
とりあえず何か一つのスキルを1.0以上になるように買おう。
武器に使って俺の想像通りの働きをしてくれるか分からないし。
そうなるとリーチが長い『槍術』がいいな。
そう思い『槍術』持ちを探す。
だが『槍術』持ちは1匹しかいないこれでは1.0に足りない。
というかゴブリン君、君たちほとんど『棍棒術』だね流行ってんの?
『棍棒術』はなんかかっこ悪いからやだな。
『剣術』は0.3、0.3、0.4の3匹がいてぴったり1.0に出来る。
「ゴブリンて他にいないんですか?」
「今、いるのはこれで全部ですが何日かしたら別のも入荷してますよ。」
それならとりあえず『剣術』で試してみて、いけそうなら『槍術』の奴をあとで集めてみるのもありか。
「この3匹のゴブリンをください。」
「えっ、3匹も。流石に3匹は大変だとは思うんですが。」
大丈夫だ、問題ない。一番いい装備にするから。
「大丈夫です。」
「そうですか。では3匹で3万ディールになります。」
3万ディールを払う。
「よし、じゃあお前たち今日からこの方がお前たちのご主人様だ。しっかりいう事を聞くんだぞ。」
「「ゲギャ!ゲギャ!」」
そう言って紐を外して俺のもとに導いてくる。
えっ?これだけ?契約の儀式とか隷属の首輪とかないの?
「これだけですか?」
「ああ、大丈夫ですよ魔物使いが調教済みなのでいう事は聞きますよ。一応。」
なんだその最後の一言。怖すぎだろ。
「従魔の印も刻んでいますしこのまま連れて歩いても問題ありませんよ」
そういって首元を示す。そこには確かに何かのマークが刻まれていた。
「他に何かありませんか。ないのでしたら出口はこちらです。」
そういって笑顔で出口まで案内される。
「またのお越しをお待ちしております。」
そう言われてしまっては出ていくしかないか。
3匹は俺の後をついてくる。
急に叫びだしたり、暴れだしたりしないかドキドキしていたが大丈夫そうだ。
全裸なのが気になるがすれ違う人たちは何も気にせず通り過ぎているのでこれが普通らしい。
上着だけでも買おうかと思ったがこの後、殺してスキル石にしてしまうのでやめた。
時間は夕方だがどうするか。ちょっと早めだが早いところこいつらを始末したいのでダンジョンに向かう。
後ろを振り返るとゴブリンどもがついて来てない。
逃げたか?と思って探すが直ぐに見つかる。
屋台の前でじっと串焼きを見てる。
どうやら肉を焼く匂いに釣られてしまったらしい。
「そこの従魔の持ち主かい?そいつらも食べたそうにしてるし1つどうだい?うまいぜ。」
そう言って屋台のおじさんが煙をこちらにあおってくる。
たしかに旨そうだ。
ゴブリンたちを見る。串焼きに釘付けでまったく動かない。
しょうがない、最後の晩餐として買ってやるか。
「4本ください。」
「あいよ。いいご主人様で良かったな。」
そう言いながら屋台の店主が串焼きを渡してくる。
受け取って串焼きをゴブリンたちに渡す。
「「ゲギャ!ゲギャ!」」
串焼きを食べてゴブリンたちは大はしゃぎだ。嬉しそうに食べている。
化け物みたいに醜い顔かと思ったが、こうしてよく見るとクリクリとした大きな目で愛嬌のある顔に見えてきた。
もし日本にいたらペットとして人気が出ていたかもしれない。
そんなことを考えながら自分も串焼きを食べてる。
「うまいな。」
ぼそっとつぶやく。
「「ゲギャ!」」
声を聴いていたのか同意されてしまった。
「じゃあもう一本食べるか。すみませんもう4本ください。」
「あいよ。」
こうして追加で注文した串焼きを食べて再びダンジョンに向かおうとするがゴブリンたちはまた別の屋台に引っかかっている。
今度こそ無視して連れて行こうとするが、なんか期待に満ちた目をこちらに向けられて立ち止まってしまう。
視線に負けたわけではないが、今日は最後なのでと思いそこでも食べ物を買ってしまった。
そんな感じでいくつかの屋台で買い食いをしているといい時間になってしまった。
こんなんじゃいつまでたってもダンジョンに行けない。
「お前たち手をつなげ。」
ゴブリンたちに手をつながせる。そして一番近くにいたゴブリンの手を握る。
手ちいさ。
まあよく考えれば身長が1メートルもないのでこれが普通だとは思うがなんか思っていたよりも小さく感じた。
そのまま3匹を引き連れてダンジョンに向かう。
こうして手をつないで歩いていると、小さい子供を連れているような気分になる。
足の長さが違うせいで歩く幅が合わない。
自然と遅い方に合わせてしまうのかかなり歩くペースが遅くなってしまった。
ようやくダンジョンの入り口にたどり着く。
「おいおい、今日は連れがいると思ったらゴブリンじゃねえか。しかも3匹も。いきなり3匹とか大変だぞ大丈夫か?」
よくこの時間に入り口で待機している顔見知りの冒険者に話しかけられた。
「大丈夫です。」
どうせこの後殺すし。
「まあ何事も経験だな。頑張れよ。」
なんか生温かい目で見られてしまった。
準備をしたらそのまま手をつないでダンジョンの中に入っていく。
この時間はほとんど人が通らないので人に見られる心配はないが一応、奥の人が来ない場所でやるか。
「ゲギャ!ゲギャ!」「ゲギャ!」「ギャ。」
なんか3匹は楽しそうにはしゃいでいる。
どこで入手したのか聞いていなかったがおそらくこのダンジョン産だろう。
もしかしたら故郷に帰ってきて喜んでいるのかもしれない。
8の部屋を経由して回復ゴケ牧場を作った2の部屋の崖の上に行く。
途中、ゴブリンたちは獲物を見つけると握っていた手を放し、叫んで走り出す。
スライムだったりネズミだったりするのだがどっちもお構いなしに引っかき噛みつき倒した後は食べだす。
さっきいっぱい食べたのにこいつらの胃袋はどうなっているんだと思う反面、最後なんだから好きにやりなさいとも思う。
なんかしんみりしてしまった。
崖の上の回復ゴケ牧場の前につく。
そのまえのコウモリにさんざんやられて傷だらけのゴブリンたちがぜえぜえ言いながら座り込んでいる。
最初は勢いよく向かって行ったのに勝てないとなると一目散にこっちに逃げてきてた。
それもすごい必死に。
その姿を見ていたらなんだか可笑しくなって笑ってしまった。
お前らコウモリに勝てないのね。
まあ俺も倒せないけど。
じゃあそろそろいいか。
自分の持っている短剣の鞘を抜く。
座り込んでいるゴブリンに向かって刺す。後はそれだけ。
しかし長い事苦しむのはかわいそうだからせめて苦しまずに殺してあげたい。
その場合はどこを刺すのがいいのか。心臓か。首か。前からなのか後ろからなのか。
そんなことを考えながら近づく。
ゴブリンがこちらに気付き振り向いた瞬間、ゴブリンと目が合う。
クリクリとした大きな瞳がこちらを見ている。
他の2匹も気づいたのかこちらをじっと見ている。
すまんお前たち、俺のために死んでくれ。
握ってた短剣に力を入れる。
いやこれ無理だろ。
どう考えても。
自分になついている、ちょい不細工な小さな生き物を殺せるやつとかやばいだろ。
いくらアウトローになった俺とはいえ無理だわ。
握っていた短剣を鞘にしまう。
壁に生えている回復ゴケから回復薬を作ってゴブリンたちに振りかける。
「「ゲギャ!ゲギャ!」」
傷がふさがってくのが気持ちいのかかゆいのか。大騒ぎしている。
さあこれからどうするか。
取り敢えずは回復ゴケからスキル石を採っていく。
回復薬も今日は売りに行かなかったけど明日は売りに行こう。
そんなことを思いながら採っていると、ゴブリンたちも手伝ってくれるのか回復ゴケをむしっている。
と思ったら食べ始めた。
やめさせようかとも思ったが回復ゴケ牧場も一昨日と比べてかなり回復してそうなのでそのままにさせる。
回復ゴケを採ったらやることがなくなってしまった。
特にやることが思いつかなかったので宿に帰りたかったが今帰っても開いてないだろうし無理だな。
こういう時、夜は不便だ。
仕方ないのでゴブリンたちを連れまわしながら時間を潰していく。
日が昇るころダンジョンを出て宿に帰る。
ゴブリンを連れてきてしまったが大丈夫だろうか、魔物なんて入れてもらえるのだろうか。
そう思い恐る恐る扉を開ける。
宿屋の女将さんがこっちを見ていう。
「ワタル、あんたゴブリンなんて連れてきたのかい。しかも3匹も。どうするんだいそれ。」
「い、一応飼おうかと。」
「全く若い子は生き物を育てることがどんなに大変か分かってないね。その大きさなら3匹でもベット1つでいいね。宿代は追加で1人分貰うよ。」
どうやら宿に泊めてもらえるらしい。
追加の宿代を払う。
「今の部屋じゃベットは運び込めないから別の場所に移ってもらうよ。」
そう言われて部屋を移る。
荷物なんてそんなにないかと思ったが結構あって移るのが結構大変だった。大量の水瓶とか。
部屋に入るとゴブリンたちは大はしゃぎだった。
ベットが珍しいのか飛び跳ねている。
やめさせるのに苦労した。
そんなことをしているうちにゴブリンたちは眠くなったのか3匹で固まって寝てしまった。
そんなゴブリンたちを見ながら思う。
今更、返しに行けないしまして殺す事も出来ない。
育てるしかないか、『スキル強奪』があれば凄い強い魔物になるかもしれないし。
まあこうなったらしょうがない。
本当は可愛い奴隷の女の子がよかったがこいつらを育てて最強の魔物使いになるしかないか。
まあそれも明日からだな明日。
そう思い眠りにつく。おやすみなさい。