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104話 新しい朝

 周りが騒がしい。

 きっと朝が来たのだろう。朝と言うか昼か。

 とにかくそろそろ起きる時間だ。

 だが、断る。

 起きたくない。

 今日これから起きる事を考えると起きたくない。

 なんかちょっとダジャレぽくなってしまったが、ちっとも楽しい気分にならない。

 何故なら今日これから色んな人に怒られそうな気配があるからだ。

 特にアリサ。なんでかは知らないけど。

 俺の勘が、俺の空気を読む能力がそう告げている。


 嫌だ嫌だ、怒られるのは嫌だ。

 このまま永遠に寝ていたい。

 寝て過ごして、全てなかった事にしたい。


 布団を被りながら起きる事を拒否する。起床拒否だ。

 ウェイクアップストライキと言ってもいい。略してウェストだ。うおおお、何かが細くなる。


 そんな事を考えていたら、ゴブリン達に体を強く揺すられる。

 起きろという事らしい。


 いや、まてまだ早い。

 俺のウェストは始まったばかりだ。まだ何も要求してないし、受け入れられていない。


 そう思って無視しているが、ゴブリン達による体揺すりが激しくなる。


 たまらず、布団から顔を出す。

 ゴブリン達と目が合う。

 すかさずゴブリン達がお腹を押さえてアピールを始める。


 これはあれかウェストの公式ポーズを考えたので見てくださいよというジェスチャーか?


 そんな訳ないか。

 単純に腹減ったのポーズだ。

 普段はそれなりに遅く起きてもこういう事はしないが、今は相当遅い時間なんだろう。これをするという事は相当腹ペコなのだろう。

 

 よく見たらサチも一緒になって腹ペコポーズをやっている。

 もしかしてギンも?と思ったが、ギンは舌を出しているだけだ。

 しょうがない起きるか。

 ちゃんと起きて。ちゃんと怒られるか。


 そう思い起き上がり、身支度を始める。

 少しするとどうやって察知したのかしらないが、俺が起きたので部屋に朝食が運び込まれてくる。

 当然、食事を運び込んでいる人の中にクレアさんもいる。

 というか何時ものようにクレアさんとアマンダさんだ。


 クレアさんと会うのは気まずい。

 何故なら俺が今日怒られる人リストの中に入っているからだ。

 昨日と言うか今朝というかは疲れと眠気でうやむやにしたが、今朝の途中まではアリサと一緒にクレアさんもなんか怒っていた。

 原因は分からないが怒られている事は分かった。俺は賢いからな。

 そして、その怒りが今も継続している、そういう事態もあるのだ。

 女の人の怒りは長い。

 俺くらい賢くて人生経験が豊富だとそういう事も知っている。ネットで散々見たからな。


 と言う訳で恐る恐るクレアさんの様子をうかがう。

 ぱっと見では怒っているようには見えない。

 いつも通りの厨二仮面をつけたクレアさんだ。


 「何ですかワタルさん? おかわりですか?」


 こっそりクレアさんの方を見ていたのがばれたみたいだ。


 「いえ、何もないです。その仮面今日も格好いいですね」

 見ていたのがばれたのと、急に話しかけられたのでテンパって変な事行っちゃった。

 厨二患者への禁句ワード、格好いいを使ってしまった。


 「……なんですか急に。それにしてもこの仮面格好いいですか? そんな事言われたの初めてです。ふふふ、そうですか格好いいですか。そういう感想もあるんですね」


 やばい喜んでいる。完全にやってしまった。

 厨二病患者に装備を褒めるとか。しかもそれを喜ばれるてるし。

 これは本当にまずい。専門家の俺に言わせれば相当にまずい事態だ。


 厨二病患者が自分の格好を褒められるとどうなるか。

 答えは簡単、厨二病患者はその装備をエスカレートさせてもっと痛い格好をするか、厨二病の発病期間が延びてしまうかのどちらかだ。


 どちらにしても良い事にならないのは明確的に明らか。もう詰んでるなこれ。


 私の不用意な発言により、クレアさんが真人間への道が遠のいたことについて、本人並びに関係各位の皆様には謹んでお詫び申し上げます。


 「あっ、サチちゃん。もう食べちゃったの? おかわりいる? いるでしょ、いっぱい食べてね」


 もう目に見えてクレアさんの機嫌が良い。

 今まで見た中で一番と言ってもいい。


 まあ、これはあれだな。クレアさんの真人間への道は遠のいたが、機嫌は限りなくいいからこれはこれでいいな。

 俺が怒られなさそうなのが最高だ。グッパイ真人間なクレアさん。ウェルカム怒られない未来。


 程なくして食事が終わる。

 食事が終わったという事は次の行動をしなければいけない。具体的に言うとアリサに会いに行かなきゃいけない。憂鬱だ。


 「そうだ。クレアさんはこの後どうするんですか?俺はアリサに会いに行きますけど」

 「私ですか? この後は仕事です。休んでいた分、みっちりやる事が残ってます」

 「そうですか……」


 なんだ、クレアさんは仕事か。

 なんか今日も一緒にダンジョンに行くような気がしてたけど、普通に仕事か。そりゃそうか。本来はメイドさんだもんな。

 という事はあれだ、クレアさんと一緒の部屋に寝泊まりしたりするのも昨日が最後だったという事か。

 もう何だかんだのラッキースケベハプニングも期待できないという事か。


 控えめに言って最悪だな。

 生きる希望がない。

 ただでさえアリサに会いに行きたくないのに、5倍くらい会いに行きたくなくなった。

 ああ、本当にガッカリだよ。


 「あっ、そうだ。ワタルさんダンジョン内で立て替えて貰ったお金です」

 そう言ってクレアさんがお金の入った袋を渡してきたので受け取る。


 お金なんて良かったのに。このお金を返すから、また一緒の部屋に泊ってくれないかな。無理か。そんな事言えないし。


 「クレアあなたいつの間にそんな……」


 俺とクレアさんのやり取りを見ていたアマンダさんがそんな事を呟いので、なんとなくそっちの方を見た。

 するとそこにはびっくりした顔のアマンダさんが居た。

 普段、ほとんど感情を顔に出さないアマンダさんが驚いている、その事に驚いてしまってギョッとしてしまった。

 会話は既に止まっている。周りで騒いでいたゴブリン達やサチの声もしなくなった。恐らくみんなアマンダさんの珍しい表情を見ているのだろう。

 

 「いえ何でもないです。私に構わず、話を続けて下さい」


 一瞬にして静まり返った空気の中、アマンダさんがそう言葉を発した。

 注目されている事が気まずいのだろう、アマンダさんが強引にこの流れを断ち切ろうとした。

 だが、このシーンとした空気の中で誰もしゃべり出さない。

 みなアマンダさんを見ている。


 いつもの通り冷静な顔をしているアマンダさん。しかしよく見ると耳の先が真っ赤になっている。

 みんなに見られて恥ずかしいらしい。なんかちょっと可愛い。

 ニヤニヤするのが抑えられない。そのままアマンダさんを見続けてしまう。


 「……食事も終わりましたし、これで失礼させて頂きます。クレアも話が終わったら直ぐに仕事に戻りなさい」


 そう言ってアマンダさんが空の食器を運びながら出て行ってしまった。

 この空気に耐えられなかったか、あのアマンダさんが逃げるとは。


 いやあ、なんか珍しいものを見た。普段クールな人の意外な一面を見てほっこりしてしまった。

 まあそんなんじゃ俺のクレアさんロスが癒える事はないんですけどね。でもまあ凄いほっこりした。アマンダさん、有難ういい薬になりました。


 アマンダさんが出て行った後、再び部屋は騒がしくなる。

 ゴブリンやギン、サチは遊びを再開してドタバタしている。


 俺もクレアさんとのお金の清算を再開した。

 受け取ったお金の袋の中身を確認し、多すぎるので返したり返されたりのやり取りをする。

 最終的に、持ってきたお金の半分だけ受け取った。


 そんなお金のやり取りが終わったらクレアさんも部屋を出て行く。

 こうなれば仕方ない、やる事もなくなったのでアリサに会いに行くか。


 いいや、まだ早い。

 まだ、俺にも出来る事があるはずだ。

 何かやり忘れたことが。時間稼ぎとか、行きたくないから先延ばしにしているとか、そういうあれではなく。純粋にこれからする冒険に対する準備がまだあるはずだ。

 考えろ、考えるんだワタル。



 そうだ、薬を作ろう。回復薬だ。

 最近、回復薬をいつもの薬屋に持って行けてなかった。だから作って売りに行こう。

 これは大変大切な作業だ。慎重に作らなければならない。回復薬というのは冒険者の命に係わるものだ。これが万が一粗悪品であった場合、最悪命を落としてしまうかもしれないのだ。

 だから、少しのミスも許されない。

 慎重に慎重を重ねて重ねて、慎重にしすぎるという事はないのだ。

 だから丁寧に丁寧に時間をかけて作る。絶対にだ。



 はい。直ぐに作れてしまいました。

 まあ、水を汲んできて『薬効』のスキル石を入れるだけだからね。敢えて無駄に時間をかける工程がほぼほぼなかった。

 水をゆっくり、丁寧に運ぶくらいだった。


 だめだ、まだ早い。まだ俺にはアリサに怒られる覚悟が出来てない。覚悟未完了。


 他に、他にやる事を……


 そうだ、4階で手に入れたスキルについて考えよう。

 基本的に得たスキル石は『剣術』とかの武術系、後は『怪力』だ。


 武術系は付ける武器がないので保留。

 『怪力』についてはゴブリン達を3.0にしても余るくらいにはあるが、さてどうするか。


 まあ折角だから少しはゴブリンを強化するか。

 ニーが『怪力』2.0でイチとサンが『怪力』1.0だから、イチとサンも『怪力』2.0に上げよう。そうしたら皆お揃いでバランスがいいだろう。


 という事で早速、『怪力』のスキル石を取り出しイチとサンに入れていく。良し『怪力』2.0になったな、これでよし。

 もうちょっと上げてもいいが、今はその必要性を感じないからなし。

 現状、ゴブリン達の戦力で不足している部分はないからな。というか俺の『水魔術』が強すぎるので他の攻撃手段がほとんど要らない。

 いやあ、強すぎるというのも困ったものだ。敗北を知りたい。


 と言うわで今回の4階ツアーで得たスキル石の処遇もこれで終わった訳だが、随分とあっさりと結論が出てしまった。

 思ったより時間がかからなかったな、もっと時間がかかると思ったのにこれは良くない。


 じゃあ、次だ。次にやる事を探すんだ。次は、えーっと……

 と考えたが、もうやる事が本当に思いつかない。


 散々あがいて来たが本当にもう何もないんだな。

 もうこの引き延ばし時間は終わって、俺も人生と向き合う時が来てしまったんだ。


 しょうがない。行くか。アリサに会いに。


 そう思い、ようやく俺は部屋を出るのであった。

皆さんお久しぶりです。

早めにといいつつもこんなタイミングになってしまいました。

本当にすみません。


少しずつ頑張りますので、今年もよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 名前を変えてどこかで書いているのでしょうか? 更新待ってます
[良い点] これでこの小説を4周した。やはり面白いものだと楽しく読める。 [気になる点] さて、怒られるのか、叱られるのか、説教されるのか、どれだろう?
[一言] 楽しみにしてるぞ!! 傷が再生した時の続きだな、前回読んだとこ覚えてる
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