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102話 裁きの時間

 久しぶりに再会した、アリサが怒っている。

 怒った上で、なんか問い詰められている。

 なんか、これは前に経験した事あるような、ないような。つい2、3日前にあったような、ないような。そんなピンチだ。


 というか、あれか?ダンジョンに泊ってから帰ってくると必ず、女性に怒られる星の下に生まれてしまたのだろうか。

 そんなのは嫌だ。誰か何とかしてくれ。具体的には過去の俺、女性を怒らせるような行動はとるな。いいな絶対だぞ、振りじゃないからな。絶対に怒らせるなよ。


 とまあ、そんな現実逃避していても始まらない。

 とにかく、この状況を何とかしないと。


 「それで? その女の人は何? どういう関係?」

 アリサが再び俺に問いかける。攻め継続だ。簡単に逃げられる雰囲気ではないな。覚悟を決めよう。


 「えーっと。あれです。メイドです」

 咄嗟に思いついた事を言う。


 「メイド!?また後先考えずに買ったの?」

 あまりいい答えではなかったみたいだ。アリサからの圧が増す。

 というか、クレアさんは職業メイドで、俺のお世話をしてくれるメイドなので、普段ならパーフェクトな答えなのだが、違うらしい。

 そもそも、買ったとはなんだ。人聞きの悪い。俺がそんな簡単に、人を買ったりするような人間に見えるのだろうか。心外だ。


 はい、すみません。よく考えたら、買った事ありました。


 「いや、今雇われている人の所で、働いているメイドさんだよ。雇い主が同じ、いわば同僚だね」

 同僚。そう同僚だ。咄嗟にしては、いい言葉が出たのではなかろうか。


 「同僚・・・、その同僚となんでダンジョンから出て来たの?」

 「それは、あれですよ。クレアさんがダンジョンを見たいって言ってたし、魔術も使えるから手伝って貰ってたんです。そうお手伝いさんです」

 メイドなだけに。それは言わないけど。

 後、なんで怒られている時って敬語になるんだろうね。不思議だね。


 「魔術・・・」

 そう呟きながら、クレアさんを見ている。


 「ワタルさんこの方は?」

 そんなアリサに見られたからなのか、アリサの方を見ながらクレアさんが、普通の感じで尋ねてくる。

 こんなにオコなアリサに見つめられながらも平然と会話に入ってこれるクレアさん、まじ凄いです。結構、ハート強い人なのかもしれない。

 

 「この方はアリサです。関係は・・・えーっと」

 俺とアリサの関係はなんだろうか。

 改めて考えると難しい気がする。

 友人? これは言っても言い過ぎじゃないだろう。

 恋人? これは言いすぎだな。まだ。

 という事は伝説の友人以上恋人未満? それって具体的には何て言うの?


 「姉よ」

 俺が考え込んでいると横からアリサがそう宣言する。

 なんだと!姉だったのか。


 しかしこの説には矛盾がある。

 俺のこの世界の始まりは道端だ。ポツンと一人、道端スタートだ。

 生まれ直した訳ではないので、姉はいない。

 元の世界では俺は一人っ子で、姉はいなかった。

 つまり、アリサという姉がいたという事実はない。

 という事はどういう事なんだ? どうしてアリサは俺の姉なんだ?


 その時、俺に電流が走る。

 あれだ。前世で姉だったというやつだ。

 前世で姉だったアリサは、その因縁力を駆使して俺と奇跡の再会をはたしたというパターンだ。

 そして、前世での記憶を取り戻したアリサは俺の世話を焼いてくれている。そういうやつだ。

 姉でそういうのはケースは聞いた事が無いが、妹なら知ってる。昔ゲームでやった事があるから。

 魔界みたいな所から来てるゴスロリの子。

 つまり、前例はあるという事だ。なんという事だ。アリサは姉で確定だ。


 そうだったのか。衝撃の事実を知ってしまった。

 俺は全く前世の記憶がないが、アリサ姉さんがそう言うのだ。絶対にそういう事なんだろう。

 心苦しい、アリサ姉さんは俺との思い出を全て覚えていて、愛する弟として扱いたいのに、俺は全くの他人のようにふるまっていたなんて。

 不覚だ。一生の不覚。

 アリサ姉さんの為にも、早く前世の記憶を取り戻してあげたい。


 「えっ、ワタルさんやサチちゃんのお姉さんなんですか?」

 純真なクレアさんがそう尋ねる。


 「・・・違うけど」

 違うのかよ。ていうか、なんで最初に姉って名乗ったんだよ。

 ちょっと期待しちゃったじゃないか。

 違うと分かっていたけど、変な設定作って、何とか自己洗脳しようと頑張ってたのに。

 そんな直ぐに否定するなんて、あんまりだ。責任取れ、アリサ姉さん。


 「違うけど・・・違わない。私は二人の姉的存在よ。本当の姉ではないけど、姉でもあるのよ」


 姉的存在!?

 つまり、どういう事なんだ? アリサ姉さん呼びは継続でいいって事なのか?


 「姉的存在!だったら、私も姉的存在です。姉です。」

 なんかクレアさんも張り合ってきた。何だこれ?


 「姉? あなたメイドでしょ?」

 「普段からメイドとして接して、今では姉なんです。それよりあなたはどんな事をして来たんですか? 何が出来るんですか?」


 何か二人が凄い、険悪になっている。それも俺を取り合って。

 もしかして修羅場? 俺、起因の? マジで?

 という事はあの名台詞が言える状況という事だ。


 やめて、私の為に争わないで。


 「はあ!? 私は・・・そうよ。サチが最初に来た時からお世話してる。色んな事を教えた。体を洗ったり、食事をさせたり、一緒に寝たり、買い物したり、色んな事を一緒にしてお世話した。だから姉なの」

 「それなら、私も一緒に遊んだり、穴掘ったり、水を汲んだりしました。ダンジョンだってずっと一緒だったし、体を洗ってあげたし、一緒に寝ました。だから私の方がサチちゃんの姉なんです」


 と思ったら違った。サチを取り合っての争いだった。

 いつの間にかサチを間に挟んで言い争いをしている。


 やめて、私の為に争って。


 「私がサチの姉よ」

 「私の方です」

 なんか本格なサチ争奪戦になってきた。

 真ん中に挟まれたサチから助けてと言わんばかりの顔でこちらを見ている。


 助けて欲しいのか?

 よろしい、ならば仲裁だ。

 仲裁は俺に任せろ。バリバリ。バリバリやるぜ。


 「ジャッジメントですの」

 左の袖当たりを引っ張りながらそう宣言する。

 急に大声を出したせいか、皆こっちをポカンとした顔で見ている。

 大声のせいだけじゃない気もするが、そこはスルーだ。このままジャッジメントとしての職務を果たす。いくぜ。


 「話は聞かせて貰った。その争い、俺が預かった」

 この世界の法律はイマイチ分かっていないが、ここは俺が仕切らさせて頂く。

 なあに、法治国家たる日本で長年過ごした俺だ、こういう時にどうしたらいいかも熟知している。

 裁くのは俺の知識チートだ。


 「まずはアリサがサチの右手をクレアさんはサチの左手を持ちます」

 皆があっけに取られている間にドンドン進行していく。

 アリサもクレアさんもサチも言われたままに手を握る。


 「良し、手を握りましたね。じゃあその状態でお互いに引っ張り合う。そしてサチは勝った方のものだ」

 「「!?」」

 その言葉を聞いて、全員が驚いた顔でこちらをみる。

 特にサチの反応が劇的だった。今にも泣きそうな不安そうな顔でこっちを見ている。


 不安か。痛そうだもんな。だが、安心して欲しい。

 これは俺の国できちんと実用性が証明されている裁き方で、何の問題もない方法なのだ。

 サチが痛そうにしていたら、直ぐにどっちかが手を離してくれるから。

 そうじゃなくて、引っ張り合っていても直ぐに俺が止めるから。

 きっと大丈夫だから。と言う訳で行くぞ。


 「良し、じゃあ始め!」

 そう俺が声を上げた瞬間、二人の手に力が入り、全力で引っ張・・・らない。

 えっ!? なんで引っ張らないの?


 そう思って二人の顔を見る。

 二人はとても冷たい目でこちらを見ていた。

 「ワタル。それはない」

 「私もそう思います。それじゃあ、サチちゃんが可哀想すぎます」


 なんと、俺が二人に責められる。

 おかしい。大岡越前様のやった通りにしているのに、俺が凄い責められている。

 理由はサチが可哀想だからだ。


 いや、俺も薄々そうじゃないかと思っていたよ。

 小学校の朝礼で聞いた時から、変だとは思ってたんだよ。

 普通、全力で引っ張り合うか? どう考えても子供が可哀想だろう。俺もそう思ってましたよ。

 越前様、まだまだだね。


 そう弁解したかったが、二人の怒涛の説教にそれも難しい。

 俺はすみませんを連呼して、二人の怒りが収まるのを待っていた。


 ていうか、二人とも息ピッタリじゃない?

 さっきまで、あんなに険悪なムードだったのに。

 こういう時て女の子ってズルくない? なんで責めるときに限って息ピッタリなの? おかしくない?


 そんな考えが顔に出ていたのか、二人の説教は更に激しくなる。

 はい。すみません。余計な事でした。

 すみません。反省はしているんです。本当です。余計な事はもう言いません。全ては俺が悪いです。


 暫くの間、怒られてようやく、二人の怒りが収まってきた。

 最終的にはサチをきちんと最後まで面倒を見る事を約束させられた。

 そんなの言われなくても、そのつもりだ。


 というか、君たち、どっちが姉かはいいの?

 そう思ったが、いくら無鉄砲な俺でも、それが完全な地雷だと分かっていたので言わなかった。


 二人の怒りが収まり、冷静になったのか、ここがダンジョンの出入り口で、人通りが激しい事をようやく思い出してくれた。

 朝早いとはいえ、もうそれなりに人は通っていく。

 結構、多くの人に奇異の目で見られていたのを俺は気が付いてた。

 気が付いてはいたが、俺にはどうする事も出来なかった。

 何故なら怒られていたからだ。とにかく謝っていたからだ。


 二人も大分、冷静になり、ここではまずいと思ったので他の所に移動する事にする。


 何処か落ち着いて話せる所に移動しようという話にもなったが、俺達はダンジョンから帰ってきたばかりで、疲れているので今度にしてもらった。

 

 アリサとは明日というか今日の夕方に会う約束をして別れた。

 アリサは、州都で別れてから、今までの事を聞きたいらしい。

 何か、長くなりそうだし、怖い気もするがここで逃げたらもっと怖いので覚悟を決める。

 明日の事は明日の俺が対処するのだ。頑張れ俺。俺の代わりに頑張ってくれ。


 そうして、アリサと別れたら、その辺の屋台で食事を済ませてお屋敷に帰る。


 お屋敷に帰る間、ずっとサチが手を握って来ていた。

 心なしか何時もより強く手を握られている気がする。

 もしかしたら、さっきの俺の発言を気にしているのかもしれない。サチが誰かのものになるとか言うやつ。

 ジャッジメントになったのと、皆に変な目で見られて、やっちまった空気になったから無理やりテンション上げたせいで、あんな事を言ってしまった。

 でも本気じゃないから、ちゃんと成長するまで見守るから。

 手を強く握り返す。大丈夫、この手を離したりはしないよ。安心しな。そんな気持ちを込めて握り返す。


 お屋敷に帰ると、一気に今までの疲れが襲ってきた。

 思えば、ダンジョンに3日もいたのだ。そりゃ疲れるわ。

 クレアさんの方を見ると、クレアさんも心なしかぐったりしている。


 早々にクレアさんと別れて、部屋に戻る。

 戻ったら直ぐに眠気が襲ってきたので、そのままベッドに入ってバタンキューだ。

 色々、考える事もあるが、今は寝る。

 と言う訳でお休みなさい。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] クレアさん良かったな! 主人公良くやったあ!
[気になる点] 92話でゴブリンの最大スキルが46になってます。 ということは、主人公の最大スキルも・・・ いよいよ無双がはじまるのかな(@^^)/~~~
[一言] 色々、考える事もあるが、今は寝る。  と言う訳でお休みなさい。 この言葉に作者の今の心情がが全て入ってそうですね とはいえ次話がそろそろ欲しいとです まる
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