101話 クレアさんと行く、嬉し恥ずかしダンジョン旅行 なんかのポロリもあるよ⑦
半分、土の中に埋もれたまま横たわっている蛇の処理をする。
スキル石を回収したら、土の外に出ている部分の体を切って、ドンが背負っている荷物の中に積んでいく。
蛇の素材はまだ持って帰っていないので、今回は試しに持って帰る。もしかしたら、高く売れるかもしれないからだ。とにかくこの階層は、まだお金になる素材がないので、少しは足しになればいいな。
体を切り分けて、まだ残っている土の中に埋まった所に関しては、そのままにしておく。クレアさんやギンに頼んで掘り返しても良かったのだが、そんなに大量にドンに積めないし、なんか面倒くさいのでやめた。どうせまた狩るのだし、もう少し必要なら、その時に取ればいいやの精神。
蛇の後始末も終わったので探索を再開する。
探索の途中で遭遇した敵に関しては、オークは俺が殺し、蛇に関してはクレアさんとギンの魔術で拘束した所を俺が殺す。そのフォーメーションでサクサクと対処出来た。
蛇の拘束も最初の方は、ウナギを捕まえようとして捕まえられない動きを再現していたが、そのうちになれたのか、最初に土を被せた所で完璧に拘束出来るようになってた。
拘束出来るようになった辺りで、クレアさんにも笑顔が戻って来てた。
ギンの肉球をフニフニする余裕すらあった。あの感触ってちょっとくせになるよね。
とまあ、こんな感じで狩りを進めていく。
奥に行けば行くほど、敵の量が増えていき、オークも5人組とかで襲いかかって来るが、普通に水魔術の奇襲で倒していった。
5人組にもなると、後衛が2人に増えており、たまに途中で向こうに気が付かれると、向こうからの遠距離攻撃がうざかったが、クレアさんの土魔術で、盾を作って貰ったのでなんでもなかった。
後、死体は全部一か所に集めて、埋めようかと思ったが数が多すぎたので断念した。
何せ、100匹以上倒したのだ、死体の量はとんでもない事になる。そこまで行かなくても途中で30を超えた辺りで嫌になった。
持って移動するのも面倒くさいし、部屋ごとに一か所に集めておいても、最後、回収するのにもう一度、全ての部屋を回らなきゃいけないので、全部その場で埋めていく事にした。
4-2に魔鉄鉱石を埋めているのだが、その近くの部屋で置いてきた分に関しては、最後4-2に持って行って埋める。そういう段取りだ。
こうして、面倒くさくて時間がかかる事を止めて、狩りに集中した結果、全体の4分の3を行ったところで今日は終わりにした。ごめん、4分の3は言い過ぎた3分の2くらい。とにかくこの日で4階のかなりの部分を探索できた。
戦利品は物質的には蛇の死骸を持って来ただけだが、スキル石はそれなりに取る事が出来た。
『剣術』や『槍術』なんかの武術系を中心に大漁だ。
中でも今一番、嬉しいのは『怪力』だ。
前回の残りの分と今回ので合わせて、70を超えている。『怪力』は2分の1パターンなので、これだけあれば、大変な事になってしまう。皆、『怪力』3.0にしても大丈夫なくらいの量だ。
そうだ。狩りを手伝って貰ったんだし、クレアさんにも付けて上げようかな。
『怪力』を付けたらきっと、普段の仕事でも役に立つだろうし、損はないはずだ。
そう、これはあくまでも、手伝ってくれたクレアさんの仕事が楽になる為のプレゼントだ。決して、どさくさに紛れて、手を握りたいわけではない。断じて否だ。
まあ、思うだけで、自分から手を握らせて下さい、とも言えないんだけど。やっぱり無理か。
とにかく、もういい時間でもあるし、今日はもう撤収だ。
最短で4階の街に帰れるルートを選んで、帰る。途中、まだ埋めておらず、放置したままの状態だった死体を処理する。4-2に運ぶ分を分けて、残りをその場に埋めていく。
4-2に運ぶ分に関しては、俺の操作する水の中に入れて運ぶ。
大量のオークの死体を浮かべた水の塊を見たクレアさんが何か、言いたそうだったが、スルーする。
この件に関しては、何も言い訳出来ない。そういうグロい見た目をしているのだ。これが普通、俺の地元ではこうするのが当たり前だから。そういう顔をして、質問を完全にシャットアウトした。
4-2の魔鉄鉱石スポットにオークの死体を埋めて、この日の作業は終了。
直ぐに、街に戻って冒険者ギルドに行く。
素材買い取り所に行って、蛇の頭部分を査定に出す。
結局あの後、仕留めた蛇のうち、3頭分の頭付近の素材を持ってきてた。
これが金にならなかったら、マジでこの階層で金策は無理だ。次の階層に行く事も視野に入れなくてはならない。
蛇の素材を置いたら、冒険者ギルドに他に用事も無いので外に出る。
後は、その辺で適当にご飯を食べて宿屋に帰った。
宿屋に帰ったら、速攻で店のおやじに、昨日と同じで一部屋借りる事を宣言する。
クレアさんには昨日、合意を取っているので、この行為には何の問題もないはずだ。完全無罪だ。
普通なら、今日も同じ部屋でいいかを確認する?馬鹿言っちゃいけないよ。そんな事聞いて、今日は別の部屋がいいですとか言われたらどうするの?責任とれるの?はっきり言って俺、泣いちゃうよ。
冷静を装い、一部屋宣言をした。
ちょっと待ったコールがかからないか、内心ドキドキしたが、誰からも異論はでなかった。
横目でクレアさんの顔を見たが、別段、嫌な顔もせず、普通の顔をしていた。と思う。
実際はわからん。そんな感情の機微がわかると思ってるの?ぼっちなめるなよ。
とにかく、異論なし、合法同部屋、継続だ。
このまま、部屋に帰って、クレアさんと一緒の部屋で寝るだけで大満足。めでたしめでたし。
そうなると思っただろうか?
実際、昨日の俺はそうだった。クレアさんと一緒の部屋に寝泊まりしても何もせず、寝てしまう。そんな男だった。
だが、違う。今日の俺は違うのだ。
俺は日々進歩している。最早、別人と言っても、過言ではないほど俺は進化した。
今日の俺には策がある。朝から考えていた宿題に、満点の答えを用意出来たと自負している。
先に、クレアさんに部屋の鍵を渡して、皆で先に部屋に行っているように頼む。
クレアさんが素直に皆を連れて、部屋に行った後、俺は宿屋のおやじに、こう言った。
「お湯を沸かして、部屋に届けてくれ、これで出来る限り頼む」
そう言って、5万ディールを置く。これは昨日、俺が値切ってしまった為に、儲けそこなった金額だ。結局、一部屋にしてもらったのだ、昨日の謝礼の意味も込めて払う。
「いや、こんなに用意、出来ねえよ。精々2万分だな」
そう言って、宿屋のおやじが2万ディール受け取って、残りを返してくる。
マジで?普通は貰わない?本当に欲のないオッサンだ。
釣りは要らないぜ、取っておきな的な恰好を付けたかったがまいいか。
「お湯が出来たら部屋に持って行くから、部屋で待ってな」
そう言って、おやじは奥に消えていく。
じゃあ、俺も部屋に行きますか。
部屋に入ると、既にクレアさんはサチと一緒に、昨日と同じベッドに腰かけている。
ゴブリン達はなんか、揉めているけど、どうせ誰が、一人のベッドで寝るかだろう。あんまり暴れて、ほこりを立てるなよ。
俺も昨日、自分が使ったベッドに腰かける。
俺が、帰ってきたからなのか、サチがこっちに来て、俺の隣に座る。向こうに居ても良かったのに。
「・・・・・・・・・」
ベッドに座ったはいい物の、何を話していいのか分からず、気まずい沈黙が流れる。
大して、広くもない部屋で一緒になると本当に何を話していいか分からない。
ダンジョンを探索している間は、ダンジョンの事を話せばよかったので、気にならなかったが、こんなに話題が見つけられないものか。
もしかしたら、昨日の俺はこれを見越して、寝る事に徹したのかもしれない。
そんな訳ないか。眠かっただけ出しな。
「お湯、持ってきたぞ」
気まずい沈黙を破って中に入ってきたのは、宿屋のおやじだった。
有り難い、この沈黙が続いていたら、俺は何もかも諦めて、寝るところだった。
「ありがとう。本当にありがとう」
「?まあいいや、部屋を濡らすなよ」
そう言っておやじは去っていく。
ここからは、待ちに待ったお楽しみの体ふきふきタイムだ。
「お湯を作って貰ったので、これで体を拭きましょう。昨日、今日とずっと歩きっぱなしで汗もかいているだろうし、体を拭いた方がいいと思って」
「そうですね・・・」
「もちろん、クレアさんが体を拭く時には外に出てます」
クレアさんが微妙に乗り気じゃない感じなので、クレアさんの懸念点を潰していく。何としてもこのイベントは起こすのだ。
「折角、温めて貰ったお湯が冷めてしまう前にやりましょうか。もちろん、クレアさんが先にやって下さい。俺は外に出てます」
「・・・すみません、お願いします」
良し、言質を取った。じゃあ、ちょっと部屋を出ますか。
俺は、紳士だ。先、シャワー浴びて来いよ、の精神の持ち主なのだ。
お前ら出るぞ。今からここは、クレアさん専用の浴室だからな。さあ、出た出た。
そう思い、ゴブリン達やサチ、ギンと一緒に外に出て行こうとする。
「あ、待って」
来た。待ちますとも。ええ、待ちますとも。
これはあれか、怖いから残っていて下さい的なやつか?もちろんOKですとも。
「サチちゃん、私が体を拭いてあげる。一緒に体拭こう?」
でしょうね。分かってましたとも。現実はそういうクソゲーですよね。
フルフル。
サチは首を横に振って俺達と一緒に出て行こうとする。
それは、いけない。
「サチ。折角だからクレアさんに体を拭いて貰いなさい」
サチはえーという嫌そうな顔をする。
しかし、俺は心を鬼にして、サチにクレアさんに体を拭いて貰うよう、サチもクレアさんの事を拭いてあげるように言う。
何回か言われて、サチも諦めたのかクレアさんの方に向かって行った。
そう、それでいい。
サチは今、この事がどれだけ価値のある事なのか分かっていない。
クレアさんに体を拭いて貰う。出来れば、クレアさんの体を拭いてあげる。これが、如何に得難く、価値のある経験であるかという事を分かっていない。
大人になるとお金を払ってでも出来ないような、そんな黄金体験が今、ここにはあるのだ。
俺はそれを少しでもサチに経験させてあげたい。
大人になった時に、後悔しないためにも。
そして、サチが大人になって、この体験の素晴らしさが分かった、の時は、是非とも俺に、の経験を教えて欲しい。
ああ、早く、サチの口からクレアさんのとの黄金体験を聞かせて欲しいな。
そんな馬鹿な事を、部屋の外の廊下で考える。
廊下からでは部屋の中の音は、思ったより聞こえない。あの二人はあまりキャッキャッウフフを声に出さないタイプらしい。がっかりだ。
え?覗かないのかだって?
覗きは犯罪ですよ。犯罪。
「すみません、お待たせしました」
暫く外で待っていると、中から、ほんのり顔がしっとりとした、クレアさんが出て来て、声をかけてくれた。
「大丈夫です。じゃあ次は、俺達が体を拭くので外に出ていて下さい」
「分かりました」
そう言って、交代する。
サチは部屋の中にいたままのつもりだったみたいだが、クレアさんが強引に連れ出した。ちょっと仲良くなってるね。良い事だ。
部屋の中に入ると、中はしっとり湿った空気になっていた。
この前までクレアさんがここで半裸になっているかと思うとドキドキする。
「「ゲギャゲギャ」」
「わんわん」
そんな事を思っていたら、もう既に装備という装備、服という服を脱いで準備万端なゴブリン達と、別段、準備が要らないギンが待っていた。
今から俺はこいつらを拭いてやらなきゃいけないのか。なんか、先ほどまで行われていた事と比べると、なんだかなあ。
まあいいや。はいはい、お前ら並べ。一瞬だ、一瞬でピカピカにしてやる。
そうやって、ゴブリン達とギン、ついでに俺の体を速攻で拭いてく。
人数はいるが、毎回やっている事だ。直ぐに終わる。
終わったら服を着て、クレアさんとサチに声をかけて部屋の中に入ってもらう。
後は、何か喋る事も思いつかないし、寝る事にする。
やっぱり、事前に何か考えておかないと、間が持たない事が分かった。
今日はそれが分かっただけでも、良しとしよう。
後、寝る時にクレアさんが、サチをベッドに引っ張り込んで一緒に寝ていた。サチは少し諦めた顔をしていたが、そんなに抵抗していなかった。やっぱ仲良くなってるね。
と言う訳で寝ます。おやすみなさい。
次の日、やっぱり昼過ぎに起きる。
クレアさんが居る事にも大分、慣れて来たのか、そこまでドギマギする事もなく、朝の支度をして出かける。
ご飯を食べたら、冒険者ギルドに行く。
蛇の素材の鑑定結果を聞くためだ。
結果、持ち込んだ蛇の素材は12万になった。
これは結構な高値だ。これで4階でも資金調達が出来る事になった。
まあ、でも毎日、回復薬を売った方が儲かるんですけど。
さて、今日はこれからどうするか。
また今日もダンジョンで泊るか、それとも一旦、帰るかそんな事を考える。
結局、この日は4階を少し探索して、帰る事にした。
ダンジョンの中にずっといると、疲れがたまって来るし、精神的にもあまりよろしくない。
クレアさんもそんなに、お屋敷の仕事から離れていても、良くないだろうという判断からだ。
決してクレアさんと一緒の部屋で寝泊まりしても、そんなに楽しいハプニングが起きなかったからじゃない。本当だよ嘘じゃないよ。
帰りは登り坂である為、行よりも時間がかかるので、十分な時間を見て、引き上げる事にする。
出来れば、4階層の残りを部分を、全て回っておきたいが、微妙なところだ。
本日の計画も立ったし、早速、本日の探索を開始する。
昨日やって分かっていた事だったが、特に苦戦する敵もおらずスムーズに攻略は進んだ。
出現する敵の量は相変わらず多いが、それだけだった。
敵の死骸に関しては、、蛇の素材を少し取っただけで、後は全部その場で埋めていく。今日は地上に帰る為、あまり時間がかかる作業をしたくないからだ。
そんな感じで、探索を続けていると、あっさりと残りの4階層を探索し終わった。まだ少しだけ時間がありそうだったが、欲をかかずに地上に帰る事にした。
5階層を少し覗いても良かったが、情報も持ってないし、何かあったらいけないのでやめた。面倒くさかったとも言う。だってもう完全に、帰る気分だし、ここから次とか、ちょっとやる気でない。
と言う訳で探索モード終わり、後は家に帰るだけ。真っ直ぐ地上を目指して帰る。
帰りは登り坂なので辛いが、休憩をこまめに挟みつつ帰る。
4階層の街で寝泊まりしている時は、何の問題もないので、ここでずっと寝泊まりしていてもいいと思っていたが、帰れるとなると、早く帰りたいと強く思ってしまう。
やっぱり、何らかのストレスがかかっているのだろう。これからも移動時間をケチらず、こまめに帰ろう。そう思った。
何回かの休憩を挟みつつ移動する事、5時間くらい。ようやく地上に続く坂が見えて来た。
帰ってきた。俺は地上に帰ってきたんだ。
そう思いながら最後の坂を上っていく。
「ワタル!」
やり切った。そう思った瞬間、声がした。
ダンジョンの入り口として冒険者ギルドで管理されている建物の中なので、ここには冒険者はそれなりにいる。
そこで俺を呼ぶ声を確かに聞いた。
声がする方を見るとそこには、懐かしい顔がいた。
アリサだ。
アリサがそこにいた。
アリサはこっちに駆け寄ってくる。
なんか懐かしい、思えば、1か月以上、会ってなかったかも。
久しぶり。そう言いかけた言葉が止まった。
なぜなら、近づいてきた、アリサの顔が完全にオコだったからだ。
「その女、何?」
アリサは後ろにいたクレアさんを見ながらそう聞いてきた。
その声を聞いた瞬間、思った。
今度こそ、俺、死んだかも。
いつも読んで下さりありがとうございます。
皆さんの応援のおかげで、少しずつではありますが更新出来ております。
ブックマーク、評価、感想をくださった方、本当にありがとうございます。
そして、OSARUBOYさん、鸛さん素敵なレビューをありがとうございました。
この喜びは、私の語彙が足りないため上手く言い表せませんが、とても嬉しかったです。
本当にありがとうございました。
以上、これからも少しずつではありますが、更新していこうと思ってますので、よろしくお願いいたします