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100話 クレアさんと行く、嬉し恥ずかしダンジョン旅行 なんかのポロリもあるよ⑥

 さあ、この後始末をするか。

 結構な濡れ方をしているので、早くしないと風邪とか引いてしまうかもしれないし。

 そう思い、ドンに預けている荷物から、タオルを取り出そうと周りを見たら、気が付いた。


 なんかある。

 直ぐ傍に円形の小さなドームが出来ていた。


 よく見ると材質は土で出来ているし、近くにクレアさんとギンが居ないので、間違いないなくクレアさん達の魔術だ。

 水に濡れるのが嫌で防御したのだろうが、まさか、これほどまでに堅牢な防御壁を作るとは。

 後ろの方を見ても隙間らしい隙間がないので完璧に水は防げただろう。

 しかし、これ空気はどうしているのだろうか?あまり長い間、中に入っているのは危ない気がする。


 コンコン。ドームをノックして話しかける。

 「クレアさん、もう水は弾けて、流れてしまったので大丈夫ですよ」


 しーん。

 無反応だ。

 これはあれか、大丈夫だと言って開けたところに水をかけられるパターンを警戒しているのか?

 それとも単純に中に声が聞こえなかったりして。


 何度かドームを叩いて、声をかけてみる。

 するとようやくドームの一部が崩れて中が見えた。

 中にはうずくまっているクレアさんと抱かれているギンが居た。

 ずっとうずくまって動かないクレアさんを見ていると、なんだか不安になってきた。


 「大丈夫ですか?」

 そう声をかけると、ようやくこちらに気が付いたのか顔を上げる。


 「・・・・・・大丈夫です。それよりも皆さんは、皆さんは大丈夫だったんですか?怪我は?サチちゃんは?」

 さっきまで静かだったのに、急に勢いよく尋ねられたので、ちょっとビビる。


 「大丈夫です。誰も怪我してないです。ずぶ濡れにはなりましたが」

 ビビりながらもそう答える。


 「そうですか、なら良かった。すみません、皆さんを守る事が出来ず、自分だけ。それに私が共同魔術なんて見せなければ・・・」

 「あ、いえ。それは気にしないで下さい。あの位置で急には無理だと思いますし。あれ自体はこいつらが、はしゃいだのが原因ですし、気にしないで下さい」

 「でも・・・」

 そう言いながらクレアさんは落ち込んでしまった。

 これ以上は、何て声をかけていいのか分からないので、ずぶ濡れ姿をどうにかする作業に戻る。


 荷物の中にあるタオルを取り出そうとする。皆、こんなに濡れているのだから何枚あっても足りない気がする。

 ビショビショに濡れたものを、そのまま荷物の中に入れておいても乾かないし、臭くなるしでいい事がない。どこかで干したいが、ダンジョンの中では太陽が出ていないので微妙だ。

 

 とここで閃く。そうだ。水魔術で水を吸い出せないだろうか。

 水を操って、外にまとめて出せばいいのだ。これは良いアイディアではなかろうか。


 早速、杖の先端をビショビショの俺の方に向けて、魔力を流す。見ようによっては、自分に魔術を撃って、死のうとしている人に見えなくもないが、まあいいや。

 

 まずは革の装備の表面に着いた水に、リンクを通す。

 そのリンクを徐々に広げていき、表面から中に来た服。

 服から下着。

 下着から肌の表面。

 これらの水という水に対して魔力を通していく。イメージ。あくまでイメージなので本当に通っているかはしらない。


 良し、準備は完了。じゃあ、吸い出し開始。

 リンクを通した水を杖の先端に集める。

 徐々に水が集まっていく、そんな手ごたえを感じる。

 布はともかく、革は水を通さないので、装備の端の方から、集めた水を外に出していく。

   

 結構な量の水が出て来た。これは割と成功した気がする。

 布にしみ込んだ分とかを完全に吸い出せたわけではないので、まだかなり濡れてはいるが、先ほどの状態よりは大分、マシになった。

 この状態なら、動いているうちに、乾くんじゃなかろうか。じゃあ着替えなくていいや。


 魔術で後始末が出来るのが分かったので、次はサチやゴブリン達にも同じように水を外に出していく。

 全員に対して終わったら、一応、タオルでも体を拭いて後処理は終了。

 いよいよ、今日のダンジョン探索を開始する。

 クレアさんはまだ落ち込んでいるようで空気が重いが、時がなんとかしてくれると信じている。頼んだぜ、お前だけが頼りだ、時よ。


 とにかく、今日の探索をスタートさせる。

 今日は4-3から続く道を巡っていくつもりだ。部屋の番号は適宜、順番につけていく。前に全然別の場所に4-4、4-5を付けてしまったので、4-6から付けていく。

 番号が飛び飛びになってしまうので分かりにくいが、これでいく。面倒臭いから。

 後で間違えるような気がするが、俺に出来ることは、間違えないように祈る事しか出来ない。結局、人間とは最後は祈る事しか出来ない、そんな無力な生き物なんだな。うんうん。


 4-2、4-3で順調にオークを狩っていき、4-6の中頃に来た時、奴は現れた。

 この階層の天敵、蛇だ。

 奴はまだこちらに気が付いてない。戦闘準備、先制攻撃、それらをする時間がこちらにはある。


 「クレアさん、蛇です。あいつの拘束をお願いできますか?」

 「・・・・・・」

 「クレアさん?」

 「っ、大丈夫です。出来ます」


 なんか様子が変だ。本当に大丈夫だろうか。

 保険としてこっちも麻痺毒薬の塊を用意しておこう。これがあれば蛇でも簡単に動きを止めることが出来る。

 スキル石を使う関係上、出来れば温存したいが、クレアさんの土魔術がダメだった場合はしかたない。

 背に腹は代えられないので惜しみなく使って行こう。


 クレアさんがギンを抱き上げ、共同魔術の体勢に入り、目の前の地面に対して土魔術をかけて砂状にしていく。

 この準備には少し、時間がかかりそうなので、こちらも戦闘準備をする。

 水水水-麻痺-水水水のバトルビーズを作り出した。これでこちらの準備は完了だ。


 「じゅ、準備出来ました」

 クレアさんが少し震えた声でそう宣言する。

 なんかちょっと不安だが戦闘開始だ。


 まずは俺の水魔術で水の塊を蛇に近づけていく。水をぶつけて、蛇にこちらの存在を知らせる。

 何故こんな事をするかと言えば、蛇がクレアさんとギンの土魔術の射程範囲より遠い場所にいる為、こちらにおびき寄せる必要があるのだ。


 狙い通り、蛇がこちらに気が付き、近づいてくる。

 ズルズルと這いまわって近づいて来るその様は、気持ち悪いし、怖い。これが、きも怖いという感情か。

 一人で戦慄している間にも蛇はドンドン近づいて来る。

 遠くにいるうちは分かりづらかったが、近づいて来るにつれて分かる。

 あいつ、結構速い。這っているくせに速いぞ、あいつ。


 もう射程範囲なのか?まだなのか?そろそろ良いんじゃない?

 迫りくる蛇に対して少しビビりながら、クレアさんの行動を待つ。

 待つが一向に魔術を撃つ気配がない。


 「クレアさんまだですか?」

 「あと、もう少しです」

 まだなのか。自分でタイミングを取れないというのが、こんなにもどかしいなんて。


 「行きます」

 そう言ってクレアさんが魔術を発動する。

 いつの間にか動かしていたのか、クレアさんがコントロールしていた土がはるか前方にあった。

 その土が急に盛り上がり、蛇に覆いかぶさる。

 やったか!?


 隆起した大量の土が、蛇を押し潰すように降り注ぐ。

 押し潰せなかったとしても、確実に拘束出来た。そう思える光景だった。


 がしかし、大量に降ってきた土の横から蛇の頭が出て来た。

 そして、蛇はそのまま土から這い出してくる。

 拘束が甘いのか、徐々に蛇の体が土の中から出て来てしまう。


 「まずい、もっと拘束を」

 「はい」

 クレアさんがそう答えると、蛇の進行方向に向かって土の一部が移動し、首根っこ部分を捕まえようと土が覆いかぶさる。

 が、やはり拘束が緩いのか、再び蛇の体が外に出て来る。

 それを見たクレアさんがまた、土を蛇の首の方にかけていく。しかし蛇はそれを抜け出す。これの繰り返しだ。


 なんか、ウナギを手で捕まえようとして、手で掴むけど、上手く掴めず。どんどん前に前に行く人のようだ。

 横に横に蛇が移動していくため、こっちに向かってこないからちょっと余裕も出て来たせいか、ちょっと笑えて来た。

 頑張れ。頑張れ。後少しだ。多分。


 魔術の射程範囲外に出そうなのか、クレアさんが小走りをして、移動し始めた。

 つられて俺も走りだす。サチやゴブリン達も走り出す。ドンは来ない。

 ドンはいないが皆で走る。前には隆起する土、這い出して来る蛇。なんか楽しくなってきた。


 しかし、そうは言ってもこれは何処まで続くんだろう。このままじゃ何度やっても捕まえる事は無理そうだ。

 それなら、ここは拘束は諦めて、蛇の進行方向に土の槍でも出して、蛇を貫いてはどうか?

 でも、今のクレアさんを見ていると、捕まえる動作と蛇を倒しに行く動作を同時にやるのは難しそうだ。どうしたもんか。


 そう考えて気が付く。俺がやればよくない?

 腰にぶら下げている短剣を素早く引き抜くと、魔力を込める。そして、蛇の首めがけて斬撃を飛ばす。

 首には当たらなかったが蛇の胴体に当たって、血が噴き出す。少し、蛇の勢いが落ちる。

 もう一度、短剣に魔力を込めて斬撃を飛ばす。当たる事は分かったので、今度はさっきより多くの魔力を込める。

 見事、蛇の首筋に命中して首を半分落とす。

 そしてそのまま蛇は動かなくなった。


 「クレアさん。やりました。倒しましたよ」

 「はい。でもちゃんと捕まえられなくて」

 「それは、まあそうですけど。結果、動きが制限されましたし、こうして倒せたんだから大丈夫です」

 「でも・・・」

 「わん!」

 まだなにか言いそうなクレアさんの言葉を遮って、クレアさんの腕の中に抱かれていたギンが答える。


 「ほら、ギンもこう言ってますし。それに一緒に頑張ったギンの手柄でもあるんですから、褒めてあげて下さい」

 「・・・そうですね。ギンさんサポートありがとうございました。おかげで魔術がまたちゃんと使えました」

 そう言ってクレアさんがギンの頭をなでている。


 っていうか最後、凄い事言ってなかったか。

 まあいいか、上手くいったんだし。細かい事は気にしないで行こう。


 とにかく、4階層で一番の悩みの種だった蛇も、こうして麻痺毒薬なしで、対処できるようになったのだ。

 後は、この階層の敵を倒して倒して倒しまくるだけだ。

 いつも、探索の半分以上の時間が取られていた移動時間を、今日は気にしなくていい。

 つまり狩りたい放題、探索し放題だ。

 待ってろよお前ら、駆逐してやる。


 そうして4階層の攻略を本格的に始めるのであった。 

 

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