表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

100/105

99話 クレアさんと行く、嬉し恥ずかしダンジョン旅行 なんかのポロリもあるよ⑤

 朝、というか昼、目を覚ます。

 目を覚まし、横を見てぎょっとする。そこに女の人が眠っていたからだ。


 正確に言うと、自分が寝ているベッドと通路を挟んで、横にあるベッドで上で女性が寝ている。

 そうだクレアさんと一緒の部屋で寝ていたんだ。一気に目が覚めて昨日の事を思い出した。


 しかし、この距離は凄い。もの凄く近い。 

 これならば、クレアさんなら今、俺の隣で寝ているよ。と言っても決して嘘ではないだろう。正確でもないけど。

 しかし、クレアさんて寝るときも仮面付けてるのね。流石、本物。格が違うぜ。


 昨日は、部屋に入った事で完全に寝るモードになってたので、何も考えずに普通に寝てしまったが、よく考えればクレアさんと一緒の部屋で寝泊まりだったのだ。

 このくらいの急接近イベントもあるし、もっとムフフなイベントだって起こしたい放題だった。

 あんなにゴネて一緒の部屋になったというのに、何やっているんだ俺。もっとよく考えろよ俺。男の子だろ俺。


 良し、気合は入った。今日の夜は何かしよう。何も思いつかないけど。なんかムフフな事が起きるような事をしよう。宿題だな。

 えっ?今日も泊るのかって?当り前じゃないですか。元々ここには複数泊のつもりでしたよ。決してクレアさんと一緒の部屋だから追加で泊るわけじゃないですよ。本当だよ。


 そんな事を考えていたら服をサチに引っ張られた。

 クレアさんと一緒に寝てたはずのサチは先に起きていたのか、クレアさんの腕からもベッドから抜け出していた。

 なんと勿体ない。ずっとクレアさんとくっついていたら良かったのに。


 いや待てよ。

 俺は凄い事に気付いてしまったかもしれない。


 俺は慌てて起きてベッドから出ると、サチの前に立って、ばっと手を広げる。

 フリーハグの構えだ。

 サチは一瞬何をしているのか分からず、ポカンとした顔をしたが、何かを察したのか、同じように手を広げて来た。


 がしっとサチとハグをする。

 サチはちょっと前までクレアさんと一緒に抱き合って寝ていたのだ。そのサチとこうして抱き合うという事は間接的にクレアさんと抱き合ったという事になる。つまり間接ハグだ。

 間接は意味不明な言葉でノイズなので消す。するとハグになる。つまり俺はクレアさんとハグしていると言ってもいいだろう。きっとそうに違いない。


 サチとハグをしていると二階に居たゴブリン達が降りて来て、俺達に抱き着いてくる。

 やめろ、暑い。くっついてくるな。楽しそうだと思ったのか、ギンも近づいて来て、俺の足元で体をこすり付けてきている。やばい。なんだこれカオス。


 「なんか、朝から仲良しさんですね」

 クレアさんが起きたのか、横からそんな声がかけられる。

 やばい、見られた。クレアさんとハグしているのをクレアさんに見られてしまった。

 意味不明な事を思いながら、ゴブリン達を振り払いながら、ギンを踏まないように気をつけてサチと離れる。


 「いや、全然ハグとかしてないです。はい。何もしてないです」

 「?」 

 「すみません。うるさかったですか?」

 「いえ。私こそ、一番最後に起きてしまったみたいで、すみません」

 「いえ、そんな事ないです。僕も今、起きたところです」


 混乱しながら、そんなやり取りをする。

 次第に冷静になってきた。取り敢えず今日もダンジョンに行くので、その支度をすることになった。


 水を買って来て身支度をする。俺達の身支度なんて、あってないようなものなので、すぐに終わる。クレアさんにはサチの身支度を手伝ってもらった。

 それが終わったら次はクレアさんの身支度の番だ。これは俺達の前では出来ない事も沢山あるので、部屋の外で支度が終わるまで待つ。

 それなりに時間が経ってからクレアさんが部屋から出てきた。

 

 良し、じゃあ今日も頑張って狩りをしますか。そう気合を入れて外に出る。

 預けていたドンを引き取ったら、まずは腹ごしらえだ。

 その辺の屋台で適当に食べ物を買って食べる。

 大分食べてお腹が膨れたので、ダンジョンに向う。


 「ワタルさん、ちょっといいですか?」

 街を出て少ししてから、クレアさんにそう声をかけられた。


 「何でしょう?」

 「今日は私も戦います」

 「クレアさんが?」

 「はい」


 決意に満ちた目でクレアさんが、そんな提案をしてくる。


 「ワタルさんが一人でも十分戦える事は、昨日見ていて分かりました。私がいなくても皆さんで何でも出来るのも分かりました。私が昨日、全く何も役に立たなかった事も。・・・でも私も何かしたいんです。無理やりついて来てしまったけど、ちゃんと役に立って帰りたいんです」


 クレアさんが真っ直ぐ俺の目を見てそう言う。俺と話してくれないどころか、まともに目を合わせてくれなかった、あのクレアさんがだ。


 「気持ちは分かりました。クレアさんにも何か手伝って貰いましょう」

 ならばその気持ちに応えるしかないでしょう。


 「はい。ありがとうございます」

 こちらこそ。


 「ところで、クレアさんは何が出来るんですか?」

 「はい。実は私、魔術が使えるんです」

 それは知ってます。スキルを見れますし、昨日から自分で何回か言ってますしね。


 「具体的には?」

 スキルを見る事が出来るので、土魔術と火魔術が使える事は知っているが、本人から聞いてない気がするので確認する。


 「具体的にですか・・・。一応、土魔術と・・・」

 「土魔術と?」

 「土魔術が使えます」

 何か火魔術を使えることを誤魔化された。これはあれだな、とっておきの切り札は見せない系のやつだな。

 じゃあ、知らないふりをしていて、どっかで満を持して使った時に驚いてあげるか。


 「分かりました。土魔術ならギンと一緒に穴を掘るのを手伝ってください」

 本当は穴掘りなんてギンがいれば十分なのだが、クレアさんがここまで言ってくれているのだ、手伝って貰おう。ここでギンで間に合ってますとか言うのは野暮ってやつだな。


 「それなんですが、ギンさんと一緒に魔術を、共同魔術でならきっと戦闘も出来ると思います」

 共同魔術?またなんか素敵なワードが出て来た。

 そこからクレアさんの共同魔術についての説明と戦闘参加のプレゼンが始まった。


 なんでもクレアさんの説明によると、土魔術と土魔術などの同系統の魔術であれば、複数の魔術師で一つの魔術を行う事が出来るらしい。

 それを共同魔術とか合体魔術とか言っているらしい。合体魔術、なんか響きがアレだよね。あなたと合体したい的な。まあ、それはいいや。


 とにかくギンと一緒なら一人でやるよりも大規模な魔術を行えるらしい。

 それは複雑な魔術が使えるのではなく、威力が上がったり、範囲が広がったり、速度が上がったりする程度らしい。だがその上昇が戦闘においては重要で、随分と有利になるらしい。

 昨日の戦いとギンの魔術レベルを見て、共同魔術ならオーク相手でも勝てると思ったらしい。



 説明だけではどんな事が出来るのか、本当にオークに通用するのか分からなかったので、実際に使って見せて貰う事にした。

 

 まずは術者同士はお互いに魔力を同調させるらしい。

 色々方法はあるが、一番簡単なのは接触して魔術を使う事らしい。

 と言う訳で、今目の前にはギンを抱っこして持ち上げているクレアさんがいる。

 見た目は散歩に行ったけど、途中で疲れてしまったので抱えて持って帰る人だ。正直羨ましい。もちろん、ギンが。


 「準備は出来ました。では、いきます」

 そう声をかけクレアさんが土魔術を使い始める。

 ちなみにクレアさんがずっと持ち歩いている杖は、まだ腰にぶら下げたままだ。両手が塞がっているから今回は使わないらしい。


 そんな事を考えている間に変化があった。

 クレアさんの前にある地面が震えている。暫く震えていたと思ったら次に、その土を移動させる。

 何時ものギンの土魔術とあんまり変わらないなと思ったら違った。土の移動がとても速いのだ。何時もはもぞもぞと動くのだが、今日は素早くシャカシャカ動いている。明らかに速い。


 よく見ると土が砂みたいにサラサラになっている。

 どうやら、土を砂にして操作速度を上げているみたいだ。

 しかも、この魔術はここから更に変化する。

 素早く動かしていた砂は塊で自由自在に形を変えていく。壁だったり、槍だったり、枷に変化させる。

 硬さも硬くしたり柔らかくしたり自由自在だった。

 これで防御や攻撃や拘束を行うらしい。


 なるほど、これならクレアさんが、あそこまで自信を持って戦えると言う訳だ。

 ただ少し、操作できる範囲が20メートルくらいなので、少し射程距離が短い気がする。遠距離攻撃のオークなら距離次第では届かないように思う。

 ただそれも、戦い方次第だな。壁は作れて防げるので、その間に俺が仕留めればいいだけの話だ。

 とそこまで考えて気が付く。


 「これなら十分、戦えますね」

 「はい。じゃあ」

 「でも、オークは俺が倒します。その方が早いので」

 まあ、そうなのだ。戦えそうだし、やれば勝てるとは思うが、如何せん俺のウォーターデスマスクが便利すぎるのだ。あれを使うとオークはサクッと殺せてしまう。

 何も手段がなければ、クレアさんに頑張って貰う所だが、こっちでもっと素早くお手軽に出来るのであれば、こっちでやった方がいい。


 「そうですか」

 クレアさんが落ち込んでしまっている。でも。


 「オークはこっちで対処します。ですが、クレアさんには倒して欲しい、別の敵がいます」

 「えっ」

 「この階層に出るもう一種類の魔物、蛇と戦ってください。奴らは僕の水魔術で上手く捕らえる事が出来ないんです。水の中を泳いで抜け出してしまうんです。ただ土なら、土で拘束したらきっと奴らも動けなくなるはず。クレアさんには拘束の作業をしてもらいたんです」

 「はい。分かりました。任せて下さい」


 そう言ってクレアさんが元気に返事をする。良かった良かった。これで俺は蛇対策が出来る。クレアさんは活躍できるWIN-WINだな。


 ちなみに。共同魔術を使う事については「昨日、サチちゃんと一緒に寝ている時に思いつきました」との事らしい。そうかあの行為はそんな効果もあったんだね。


 そんな事を考えていると、サチが横から抱き着いてきた。

 どうした?と思ってサチを見ると、サチは俺の杖を指さして、杖を振るジェスチャーをする。

 どうやら、サチが抱き着いたこの状態で水魔術を放って欲しいらしい。


 おそらく、ギンを抱きかかえながらクレアさんが魔術を放ったから、抱き着きながらだと一緒に魔術が使えると思ったらしい。

 いや、あれはクレアさんだから出来るのであって、俺にはちょっと。


 そう思ったが期待しながらこっちを見ているサチに負ける。一回だけだぞ。

 杖と水袋を取り出し、水魔術を開始する。


 どうせ共同魔術なんて出来ないし、どうやっているか分からないのだ。このまま水魔術を使って、一緒に操った事にすればいいや。  

 そう思い、水を操り始めたその時、ゴブリン達も一斉に抱き着いてくる。

 お前たちもか。


 急に抱き着いて来たので、よろけた。よろけたが、なんとか踏ん張る。しかし踏ん張る事に意識が取られたせいで、今度は水の操作が疎かになってしまった。

 だが、まだ問題ない、リカバリーできる範囲だ。水の操作が俺から離れそうになるのをぐっと堪える。堪えたのだが、未だに操作が安定しない。思った通りに動いてくれないし、反応が鈍い。


 こんな事は今までになかった。焦りながら杖の方を見ると、杖にサチもゴブリン達も皆触っていた。

 これか。操っている間に他の人が杖に触れると、操作が難しくなってしまうのか。もしかしたら、こいつらの操作も受付てしまっているのかもしれない。


 しかし、このままだとまずい。俺の操作から離れてしまうと、昨日みたいに水が塊を維持できなくて、弾けて水がばら撒かれてしまう。

 ちょっと、お前ら離れろ。まじでまずい

 そう思い振り払うとするが、誰も離れない。皆、キャッキャッして喜んでる。

 「やばい、本当にお前ら離れろ」

 そう叫ぶが、時すでに遅し、水の操作が俺の手から離れる。その瞬間、目の前にあった水がはじけた。盛大に俺達を濡らしながら。


 冷たい。ずぶ濡れだ。パンツの中にも水が入ってきた。気持ち悪い。

 そう思うのだが、ゴブリン達もサチもなんか楽しそうに笑っている。

 まあ、良いんだけどね。


 良いんだけど

 「もう二度とお前らとは、共同魔術はやんない」

 良いんだけど、俺の怒りゲージはMAXだった。


 俺の宣言にサチやゴブリン達がしゅんとする。

 なんかその姿を見てると、ちょっと可哀想になってきた。

 まあ今日は二度とやらないけど、いつかはやってもいいかもしれない。


 でもまずは、そんな事よりも、この惨状をどうにかしないと。

 ずぶ濡れになったサチやゴブリン達を見ながらそんな事を考えるのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ