プロローグ
初投稿です。
よろしくお願いします。
一体、何時からここにいるのだろう。
記憶を辿っても何故ここにいるのか思い出せない。
暗くされた部屋の中にはたくさんの長机と椅子が設置されていて、その中の一つの椅子にぽつんと座っている。正面にはスクリーン。プロジェクターからは絵とかは全く使われていない文字だけの映像が映し出されていた。
どうやらなんかのファンタジー世界の説明会らしい。世界の成り立ち、現在住んでいる種族種類、国、地域、宗教、貨幣単位、そんなことがずっと説明されている。しかもカタカナの地名だとかなんかの固有名詞だとか専門用語みたいなのがいっぱい出てくるから全然頭に入ってこない。
途中で魔法の系統だとか動作原理だとかやっていてちょっと面白そうだったがすぐに終わってしまった。
その後はまたなんかの地名、なんかの固有名詞の怒涛の文字列文字列文字列。
今は完全に飽きてぼーと文字列を眺めている。
と瞬間、「これで転移する異世界についての説明を終わります」の文章が表示された。
どうやらこれは異世界転移の説明会だったらしい。そして俺はこれから異世界に転移するらしい。それも中世ヨーロッパ的なところで魔法が発達している系の世界に。今までの説明はこれから転移する世界の説明だったらしい。
そういう事ならもっと早く言って。興味なかったから全然読んでないし。そもそもあの情報量を一度で覚えられるわけないし。
やばいやばい、なんか急に焦ってきた。今から異世界に行くのに情報がほとんどないとか。せめてこの情報だけはもう一回と思ったけど、そもそも何の情報があれば異世界に行っても大丈夫なのかも分からないし。じゃあ外国に行くと仮定して何の情報があればと思ったけど、そもそも外国に行ったこともないじゃん。
そんなことをうだうだ考えている間にもスクリーンの説明はどんどん進んでいく。
なんか「転移後の肉体について」とか「転移後の所持品について」とかの文字が見えた気がした。
やばい見逃した。転移する異世界の情報のこと考えてたら転移する異世界の情報を見逃した。一時停止ボタン、一時停止ボタンはどこだ。なんか次々に情報が来るから頭が追い付かない、追い付こうと焦れば焦るほど、どんどん説明においていかれる。これあれだ英語のリスニングの問題で回答を考えている間に次の英文が始まっちゃってどうしようもなくなっちゃったときと同じだ。
というかそもそも異世界に行くんだろ。なら何より大切なことがあるだろ、所持品より異世界知識よりなにより優先されるべきものそれは・・・
そう考えた瞬間、プロジェクターに「異世界に転移するにあたり付与される能力について」の文字が表示された。
来た。ついに来たチート能力の説明。これはごく一般的な生活をしていた日本人が、農作業もしたことがない簡単な日曜大工もしたことがない狩猟行為なんてもってのほかのごくごく一般的な俺みたいな日本人が、急に文明レベルが下がる世界に身一つで放り出された時にそれでも何とかしてくれる存在、それがチート能力。
この能力次第でこの異世界転移が楽勝のイージーモードになるのか超々楽勝のベリーイージーモードになるかが決まる超重要情報だ。この情報だけは何とか見逃さないようにしないと。
ここから先は待ったなし。どんな情報も見逃さない。そんな覚悟とともにプロジェクターに映し出される情報を読んでいく。
プロジェクターの説明によると異世界に行くにあたり、一人一つの能力を授かるらしい。これは当然。
その能力は異世界ではかなり強力で貴重なものであり、他に誰も持っていない能力らしい。これも当然。
その能力は強力故、転移直後にはかなり能力が制限されてしまっている。ただその使用者の成長に合わせて制限が解除されていくらしい。これはまあしょうがない、許そう。
その能力は『鑑定』、『転移』、『スキル強奪』の三つから選ぶらしい。なるほど続けたまえ。
しかし次にプロジェクタに表示された文字は「説明は以上です。能力については三人でよく話し合って決めてください。」だった。
え、説明終わりなの? 各能力の詳細は? 名前だけで決めるの? というかそもそも三人ってなんだよ。
そんな疑問を抱いた瞬間、さっきまで一人だと思っていた部屋に他の人の気配を感じ、辺りを見回す。
右斜め前の長机に男が一人、左の後方の長机に男が一人、椅子に座っている人がいた。
部屋が暗いせいか顔も服装もははっきりと確認できないが確かにいるのが分かる。
「すみません、とりあえずこの能力選択について話し合いましょうか。」
「・・・そうですね」
右前方の男が提案し、少し間を開けて左後方の男が答えた。
「それではまずは・・・」
そう言って右前方男が話し合いを仕切り始めた。というか俺まだ返事してないんだけど。そもそもなんでお前が仕切るんだよ。そりゃ別に話し合いの仕切りなんて面倒くさいし、こういう話し合いになると言いたい事があっても言い出すタイミングが掴めないからずっと黙ってたらちょっとは意見だしてとか入れるくらい話し合いが苦手だからやりたくないけど。やりたくないけれどもなんかむかつく。なんかその俺が俺がの精神がむかつく。こいつは敵だな。
そう思いながら話し合いを聞いていると、この三つの能力がどんなものかを確認することから始めるらしい。そして右前方男はこういう事に詳しくなく、全然分からないから意見が欲しいらしい。
そういうことならしょうがない。ここは異世界系の小説、アニメ、ゲームを大量に読んで知識豊富、もはや知識チートといっても過言ではない俺の出番だな。俺は大人だからさっき無視された事は寛大な心で慈悲の心で滅私の精神で水に流して教えてあげよう。
まず『鑑定』、大抵の場合この世のありとあらゆる情報を見ることができる能力。そのため武器屋や道具やでどんな能力かわからないから二束三文で売っている武器を手に入れられたり、相手の能力や弱点を的確に見抜き無双できたり、奴隷商に売られている可哀そうな奴隷の中から実はお姫様ですみたいな子を救いだせたりする素晴らしい能力。
次に『転移』、この能力はこれだけだと色んな解釈ができるが、おそらく行った事のある場所に距離に関係なく瞬時に移動できる能力だろう。この能力を使えば簡単に後ろに回りこんでの奇襲ができるし、危なくなったら逃げればいいしで戦闘がかなり有利になる。戦闘以外でも安いところで胡椒を買って、高いところで胡椒を売って大儲けする大商人プレイをすることが出来る。なによりもしかしたら日本に帰ってこれるかもしれない素晴らしい能力。
最後に『スキル強奪』、これは異世界で無双するためだけにあるような能力。読んで字のごとく人や魔物から相手の能力を奪い取る能力。これによりありとあらゆるスキルを簡単に手に入れることが可能となり、全ての生物の頂点に立つことができる、昔のマンガやアニメならラスボスにしか許されない真のチート能力。チートの中のチート、それが『スキル強奪』なのです。
よし脳内リハーサルはばっちり、今考えた能力説明を言ってやろう。
と思った瞬間
「私も詳しくはないので推測にはなりますが・・・」
と左後方の男が話始めた。え、説明始めちゃうの? 詳しくないなら説明しなきゃいいじゃん。と思ったらすごい詳しいし、言ってること大体かぶってるし。なんだよ詳しくないとか自分、私生活が充実しているので異世界物はあまり興味ないんですよみたいなポーズいらないから。こいつも敵だ。
そんな敵二人が能力について話し合っているのを黙って聞いていると
「能力については大体どんなものか見当がついたのでそろそろ誰がどの能力にするか話し合いますか。まずはどの能力がいいとか希望はありますか?」
右敵男が聞いてきた。
来た。ついにこの質問が来た。
『鑑定』、『転移』の二つの能力は確かに強力でチート能力として申し分がない。だがしかし、『スキル強奪』に比べれば弱い、何故ならこの二つの能力は本人を強化する能力ではないからだ。無双しようと思ったら自分自身を異世界人よりも強くなるように鍛えなくてはならない。これは現代でトップアスリートになるために鍛えると同義なのでかなり難しい。だから『スキル強奪』なのだ。最初はスキルを手に入れるのに苦労するかもしれない、だがスキルの力で強くなれる。最終的に自身の力無双できるのは『スキル強奪』なのだ。だから俺は『スキル強奪』がいい。絶対にだ。
一言いうだけでいいのだ、「『スキル強奪』がいいです。」の一言をいうだけ。右敵男と左敵男の二人がそろって考えているこのタイミングしかない。言え。言え。
しかし勇気がでない。
この発言をすることで『スキル強奪』が強いことがばれてしまうかもしれない。いやそうじゃない『スキル強奪』みたいなあからさまな強スキルを選択してしまうようなやつ、自分自身では何も出来ないから厨スキルを選ぶしかないと思われたくないんだ。
ただこの選択だけは妥協しちゃダメなんだ。異世界に行く。文字通り新しい世界に行って新しい生活を始められるのだ。大学に行っても友達もいないからただ授業に出て家に帰るだけ、帰っても家で一人でずっと過ごす。友達が欲しいと思っても何も行動に移せない、この陰々滅々とした生活から抜け出すのだ。だから勇気を。
「す・・・すみません」
こちらに視線が集まるのが分かりすごく緊張する。
しかし今変わるしかない。
「僕は『スキル強奪』がいいです。」
言えた。声は小さかっただろうか。ちゃんと届いているだろうか。彼らはどう思ったのだろうか。心臓がすごいバクバクしている。
ただここで終わりではない、おそらく一番人気である『スキル強奪』である。きっと他のやつらも『スキル強奪』希望するに違いない、だから『スキル強奪』を自分のものにするためにやつらを説得しなくてはならない。議論しなくては、論破しなくては。
そう構えていたが
「私は別に『スキル強奪』でなくてもいいのですが。あなたはどうですか?」
「私も大丈夫ですが、一つだけ懸念点が、『スキル強奪』で私の選んだ能力が奪われないならそれでもいいですが・・・」
と二人から返事が返ってきた。嘘でしょ、なんかすんなり譲ってくれる流れと見せかけて実はみたいなやつじゃないの。この後なんだかんだいってやっぱダメですみたいな上げて落とすパターンなんでしょ。
「問題点は私たちの能力を奪われるかもしれないか。あんまり対応策は思いつかないですね、とりあえず自分たちの能力は奪わないと約束してもらうくらいですね。」
「絶対にあなた達の能力は奪いません」
少し食い気味で答える。
「とはいえそれだけでは、何か絶対に奪われない確証みたいなのが得られればいいんですが。」
そりゃそうだ。俺ならそんな口約束程度じゃ絶対納得しない。
そう思っているとプロジェクターに「『スキル強奪』では『鑑定』『転移』の能力を奪うことは不可能です」と表示された。
え、お前俺らの話聞いてたの? 質問に答えてくれんの?
「『スキル強奪』に他の能力を奪うことが出来ないなら『スキル強奪』は真ん中の人でいいですかね。」
「まあそういう事ならそれで大丈夫です。」
え、プロジェクタに驚いたの俺だけ? 君たち気になんないの? あとそんなにあっさり決まっちゃうものなの? え、本当?
混乱してる俺を置いて、彼らは自分たちの能力決めの会話に戻っていった。その際にプロジェクターに能力の詳細を聞いたりしていたが、大した情報は得られてないみたいだ。
というか本当にこれで『スキル強奪』は俺のものになったのだろうか、彼らはなぜそんなあっさり譲ってくれたのか、俺なら絶対に譲らないというのに。なにこの譲り合いの精神、神対応すぎる。なんだろうか神なのだろうか彼らは俺みたいな矮小な人間には到底理解できない高尚な存在なのだろうか。
どうやらそんなことを考えている間に彼らの会話が終わる。右神男と左神男も自分たちの能力を選択したみたいだ。
次の瞬間、急速に視界の色や形が薄れていく、自分の感覚もどんどん薄くなっていく、さっきまでの記憶がどんどんなくなっていく、どんどん思考がはっきりしていく、そしてさっきまであんなにワクワクしていた感情がどんどん薄れていく。これの感覚はあれだ夢から覚める感覚だ。やっと自分が欲しいものが手に入ったと思ったのに、それは夢で今から現実に戻される感覚だ。昔、欲しかったゲームを手に入れたと思った瞬間に目が覚めた時と同じ感覚だ。きれいなお姉さんにこれからって時に目が覚めた時と同じ感覚だ。やっぱり僕は何も手に入れていなくて、くそみたいな現実に戻っていくのだ。やだな。