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たゆたう

 なんにもない場所。


 私もいない。僕もいない。あなたもいない。


 でもここにいる。

 ああ、あれはなんだろう?

 暖かくて冷たそう。


 手を伸ばしてみるけど、手はどこ?

 ない、なんにもない。


 手ってなに?

 見えない。見えるってなに?


 ああ、私には、僕には、なんにもない。

 なんにもないから、なんにもできない。


 あれに触ってみたいのに。

 どうすれば手はみつかるだろう?

 見つけるってなんだろう?


 でも見つけないと。

 見つけないと触れない。

 どうやれば見つかるだろう?


 だれ?

 ああ、これは手?

 ありがとう、手を見つけてくれて。

 わからないけど手があった。


 ああ、これであれに触れる。

 触れると思ったのに。

 届かない。


 どうすればいい?

 そう、足。足がほしい。

 足ってなに?

 なんでもいい。


 あれに触りたい。

 でも届かない。

 だから近くに行きたい。


 ねぇさっきの人、足をみつけて。

 ねぇ?

 いないの?


 いないってなに?

 人ってなに?

 わからない。


 わからないけど、足を見つけないと。

 さっきはどうやって手を見つけたんだっけ?


 確か、誰かが私の、僕の、手をつかんだ。

 そう、掴まれたと思ったら手がでてきた。

 だからきっと足もすぐ近くにあるんだ。


 ああ、歩きたい。

 歩けばあそこにいけるのに。


 いやだ。

 また黒い何かがやってきた。

 痛い。

 腕に何かが刺さった。


 ああ、なんだろう。

 体がふわふわする。

 何も考えられない。


 今日はおしまい。もう何も考えられない。




 目が覚めた。

 ああ、頭がスッキリしている。

 頭ってなんだろう?


 今日こそあれに触りたい。

 何かを刺される前に、足を見つけないと。


 白い白い世界。

 真っ白な世界。


 あれ?

 何か音がした。

 ああ、足があった。

 見つけた。


 でも困ったな。

 足はあるけど鎖がついてる。

 ジャラリと音を立てる鎖。


 私は、僕は、ベッドから降りた。

 ベッド?


 ああ、歩ける。

 鎖は長いみたい。


 ああ、触れた。

 やっと触れた。


 でも、暖かくないし、冷たくもなかった。

 ふわふわしている。

 これじゃない。


 私が、僕が、探しているのはこれじゃない。

 見回してみるけど、なんにもない。

 ああ、みつからない。


 なに?

 大きな音がする。


 いやだ。誰かが私の、僕の、体に触っている。

 大きな音が私の耳に届く。

 いやだいやだ。


 見つけた手で私は、僕は、耳を塞いだ。

 耳ってなに?


 そうしてしばらくしたら、音が消えた。

 ああ、よかった。

 私は、僕は、鎖を引きずりながら歩く。


 ここは、四角い部屋みたい。

 真っ白な部屋。

 部屋?

 そう部屋。


 昨日までは何もなかったのに。

 ああ、どこにあるんだろう。


 見つからない。

 あったはずなのに、見つからない。

 どこにいったの?


 ああ、疲れた。

 鎖が重い。


 私は、僕は、ベッドに腰かける。

 ベッド、そう、これはベッド。

 私が、僕が、眠る場所。


 でも何かを刺される場所。

 あれが刺さると私は、僕は、何も考えられなくなる。

 とても嫌なもの。


 いつも、そう、いつも。

 黒い人がやってくる。

 あれがくると腕に何かが刺さる。

 黒い人はきっと悪いもの。


 逃げないと。

 どこへ?

 どこでもいい。

 でも、無理だよ。

 だって、足には鎖があるもの。


 唯一の出口は開かない扉。

 開かない扉なのに、黒い人はそこから入ってくる。


 ああ、いやだ。

 また何かが私の、僕の、体を触っている。

 手で払おうとしても、手が動かない。

 なぜ?


 ああ、手が消えた。

 また手がなくなった。

 せっかく見つけたのに。


 消えていく。

 足が消えた。

 部屋が消えた。

 またなんにもなくなった。


 ああ、私は、僕は、何を探していたんだっけ?

 わからない。


 ああ、なんにもなくなった。

 なんにも、なんにもない。


 せっかく何かをみつけたのに。

 もうそれも分からない。


 真っ白な世界を私は、僕は、たゆたう。

 委ねて、たゆたう。


 また長い眠りにつこう。

 眠りってなんだっけ?


 ああ、眠い。

 深く深く。


 私は、僕は、意識を閉じる。

お読みいただきありがとうございました。



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