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※おまけに15禁要素があると思われます。
「おはようございます。御主人様。」
澄み渡る朝、透き通る声が聞こえる。
「あぁ、おはよう。ナディア。」
私は起きたばかりの頭で挨拶を返した。
壁掛けの時計を見る。
……8時か。
「御主人様。今朝郵便受けに依頼状が。」
「わかった。後で目を通すよ。」
…私を御主人様と呼ぶ侍女はナディア。私が造り出したアンドロイドだ。
何故私がアンドロイドなどを造るのか。それは私の仕事上必要になるからだ。
私は『掃除屋』を生業にしている。
掃除屋とは、警察の手伝いをする職業、と説明しても差し支えはない。要は賞金のかかった悪人を捕らえるのが主な仕事だ。
「…ナディア、その依頼状はどこにあるんだい?」
「はい。御主人様の机の上に。」
しばらく考える。
「ちょっと待て。今私の机いっぱいには段ボールが置かれてあったはずだが?」
「はい。邪魔だったので全て別室に保管しています。」
ナディアは顔色変えずにそう言った。
「……因みにその別室とはどこだい?」
「はい。御主人様の寝室です。床が散らかっていたので、ベッドの上に積んでおきました。」
「………もちろん後で片付けてくれるんだろ?」
私は頬を引きつらせながら言った。
「残念ですが現在聴力機能が低下しています。何も聞こえません。」
「そうかい。じゃあナディアの欲しがっていた蓄音機は聴力機能が回復するまでお預けだな。」
「何をおっしゃいますか御主人様。片付けは全てナディアにお任せ下さい。」
うむ。流石私の造ったアンドロイドだ。
「じゃ頼んだよ。私は依頼状に目を通すから。」
「逝ってらっしゃいませ。」
「……なんかおかしくなかったか?」
「いえ。何もおかしなところはございません。」
私は黙ってナディアを見ながら部屋にはいった。
「さて、本日の依頼は……。」
机の上に置かれてあった封筒に手を伸ばす。
「送り主は…マギソンか。」
マギソンは私の古くからの知り合いで、警察機関に属し私とは協力体制をとっている。
このように私に封書が届くのは今回だけには限らない。むしろ依頼はマギソンからが多い。
「今回はどんな依頼だ?」
私は胸ポケットからタバコを出し火を着けた。
「ターゲットは連続殺人犯『ジャギア・カーン』か。」
封書には指名手配書と似顔絵が綴じられていた。
「むぅ……20000$か。悪くはないだろう。」
指名手配書には報奨金20000$と記されてあった。掃除屋は報奨金の80%貰うことが出来る。
私は机に置いてある(おそらくナディアが置いた)電話機を取る。
そしてダイヤルを入力し、呼び出し音に耳を傾ける。
ワンコールでその音は途絶えた。
『はい、こちら特別捜査課。』
「どうも、掃除屋のヒューズ・トライアです。マギソン・マッケイン刑事をお願いできますか?」
私がそう尋ねると電話の主は怪訝そうに聞き返した。
『マッケイン刑事を?失礼ですが、刑事とはどのような関係ですか?』
「はい。ただの配偶者です。」
『えっ!?いや、あなた男……。』
『オイッ!ヒューズ!何適当なこと言ってやがる!俺に男っ気はねぇぞ!』
声の主が変わった。
その声の主は……。
「やぁマギソン。元気そうだね。」
『うるせぇ。ったく………で、連絡寄越したってことは依頼、見てくれたんだな?』
「あぁ。ジャギア・カーンの捕獲、だな。こちらは構わないけど……殺人犯なんだろ?ナディアが協力してくれるかどうか……。」
『…お前よぉ、アンドロイドなんか造らず、自分用の兵器ぐらい造れよ。』
「私は兵器を造らない。それにナディアも兵器として造った訳ではないし、最低限の装備しか施していない。」
『ま、それがお前の信条ならいいさ。…とにかくジャギア・カーンのこと、任せたぞ。』
マギソンはそう言って通話を断った。
「…さて、ナディアに話を通すか。」
私は受話器を戻し、部屋の扉を開けた。
「ナディア〜。話があるんだけど……。」
「はい。マシンガンの調整は出来ています。」
「いや、いやいやいや。話飛びすぎ。ていうか盗み聞きしてただろ?」
「いえ。電話機に盗聴器をつけて、そこから流れてくる漫談を聞いていただけですが。」
ナディアはヘッドフォンを手に持って言う。
「世間一般にそれを盗聴っていうの!いくら言い方変えてもそれは変わりません!」
私がそういうと、ナディアは少し考えた後…
「……これは私の落語集…。」
「やはり蓄音機は……。」
「はい。盗み聞きをしました。侍女としてあるまじき行為です。ここは私の最終兵器の自爆装置を作動致します。」
「いや、待て!誰もそこまでは……!」
「ナディア、愛してる。と御主人様の肉声があれば起動のキャンセルが発動します。」
「えぇい!ナディア、愛してる!」
「ついでに蓄音機もあげよう。と肉声があればナディア特製唐揚げをプレゼント致します。」
「…ふー、おふざけは終わりだナディア。出発は正午。準備は抜からないように。」
私がそう言うとナディアははっきりと返事をした。
「Yes.My Master.」
私の回りには人、人、人ばかり。
私は殺人犯ジャギア・カーンを追って、毎日人で溢れかえっているマーケットに赴いている。
「しかし…人が多いなぁ。」
「そうですね御主人様。邪魔なので排除しても……。」
「良い訳ないでしょ!まったく……今は見回りなんだから。活動は夜だぞ。」
私は目に入った屋台で、アイスクリームを注文した。
「まぁ、それまでは楽しみながら待つんだけど。」
店員はコーンの上にバニラアイスを乗せる。
「御主人様、私も何か欲しいです。」
店員はバニラアイスの上にオレンジアイスを乗せる。
「時に何が欲しい?」
店員はオレンジアイスの上にチョコレートアイスを乗せる。
「右腕にラージスタンガンが欲しいです。」
店員はチョコレートアイスの上にヨーグルトアイスを乗せる。
「ん〜……スタンガン程度なら護身用に持っている人もいるしなぁ。」
店員はヨーグルトアイスの上にレモンアイスを乗せる。
「…だけど、そんなでかいスタンガンは持たせられないな。」
店員はレモンアイスの上にメロンアイスを乗せる。
「君は戦闘用アンドロイドじゃないんだ、ナディア。私は君を人殺しの道具にしたくないんだ。」
店員は私の手の上にアイスを乗せる。
「……御主人様。」
私は店員の手の上にお金を乗せる。
「アイス、落とさないようにご注意下さい。」
「わかっているさ。夢の六段重ねは重いなぁ。ははは。そして私の良い話をアイスでスルーですか。」
「今現在アイスがスルッと落ちそうですが。」
「あまり私をなめないで貰おうか。この程度のアイスなど。」
「とにかくさっさとアイスをお舐め下さい。」
ナディアの言うことを無視し、私はアイスを持ったまま人込みの中に笑いながら紛れ込んだ。
空は闇に支配された夜。
私は行動を開始した。
「情報では少しマーケットから離れた港で現れるとあったな。」
「しかし大丈夫ですか?御主人様は武装を全くしていませんが。」
ナディアが確認のように尋ねる。
「護身用のピストルがあるから大丈夫だ。それにいざとなったら君が助けてくれるだろ?」
私は拳を握り親指を上に立てた。
「はい。承知しております。」
ナディアは拳を握り中指を上に立てた。
「おいナディア。その形、何を意味するかわかっているのか?」
「はい。てめーをファッキングするぞコノヤロー。という意味だと記録しております。」
「そうかそうか。じゃあなんで私にそれをするんだ!?」
「はい。御主人様が私に地獄に落ちろこのゴミヤロー。と合図したからです。」
私は自分の手を確認する。
「これは頼りにしてるぞナディア。という意味でやったんだ!あと、君が言ってるのは親指が下向きのときだ!」
「御主人様。囲まれています。」
「……何?」
私は回りを見渡した。
見たことのない武装集団が私たちを取り囲んでいる。
「ナディア、仕事だ。」
「はい。なんでしょう御主人様。」
「この場をなんとかしてくれ。」
「Yes.My Master.」
直後ナディアは私を抱えて飛躍した。
「喧嘩っ早いな。ナディア、倉庫の屋根の上だ。頼む。」
「Yes.My Master.」
ナディアは脚のアポジモーターを展開し、私が指示した屋根に着地した。
「ナディア、5mmスナイパーガンの弾はゴム弾にしてあるな?」
「はい。目等に当たると失明の恐れもありますが、命に別状はありません。」
「よし。こちらに狙いを付けさせるより早く始末だ。制限時間は……30秒だ。」
「Yes.MY Master.」
ナディアは隠し持っていた小型スナイパーライフルを構える。射撃体勢になり、狙いを付ける。
これで3秒。
次に敵の固まっている所を捕捉し引き金に指を掛ける。
これで7秒。
そして……。
「Good bye. And,welcome to Eden.(さようなら。そして、ようこそ楽園へ。)」
瞬間、視界に光が咲く。
サイレンサーを着けたライフルから微かな銃声が聞こえる。
その数、16発。
あの時私が確認した敵の数は、
「人数ピッタリか。ナディア、成果は?」
ナディアは射撃体勢を解くと私に振り向いた。
「はい。全弾命中内3発はクリーンヒットです。所要時間は15秒でした。」
「上出来だ。ナディア。よし、下に降りよう。」
ナディアは私を抱え屋根から飛び降りた。
「ジャギア・カーンはいるはずなんだが…。ナディア、私はあちらを探す。君は向こうを頼むよ。」
「はい。お気をつけて。」
ナディアは素早く私が指示した場所へ向かった。
私も自らが指定した範囲を探すことにした。
「……どこに隠れているんだ。奴は……。」
「御主人様。」
「っ…ナディアか。早かったな。どうだった?」
「はい。異常はありませんでした。」
ナディアはそう告げた瞬間、私の胸にマシンガンを向けた。
「お前が消えりゃあなぁ!!」
「!!!」
ナディアの姿を写し取ったそいつは私に全弾撃ち込んだ。
「っぁ!!!!」
「……へっ、死んだか。次はこのナディアって奴を殺せばTHE ENDだな。」
ナディアの姿をしたそいつは私の、ヒューズ・トレイアの姿に変化した。
「この魔術士ジャギア様に、殺せん奴などいないんだよ!」
「銃声?まさか、御主人様?」
ナディアは先程ヒューズが向かった方向から響いた銃声に振り向いた。
「……そんなことはないでしょう。」
ナディアは振り向き直すと言った。
「もしそうなら私も同じ運命を歩んでいることでしょうから。…………殺人犯ジャギア・カーン。私の御主人様は死んでいませんよ?」
「ナディア、どうした?」
物影からひょこっと出て来たのはヒューズだ。
「……………。」
「私の方には奴はいなかった。ここからは……。」
「私の目をごまかすことは出来ません。ジャギア・カーン。あなたと御主人様では基礎代謝のレベルが違います。」
ナディアは小型スナイパーライフルを構えた。
「ちっ、何者だよてめぇ!」
ナディアはその問いに答えた。
「御主人様のために働く侍女でございます。」
「…いたたた。さすがに至近距離でマシンガンは堪えるなぁ。」
ヒューズは鉛玉を喰らった胸を押さえながら、立ち上がる。
鉛玉はヒューズのベストに食い込んでいた。
「ふー、特殊合金を着込んでてよかった。」
パッパッと砂埃を払い、腰のピストルに手をかける。
「……さて、仕返しをしますか。」
ヒューズはいつもの声でそう言い、ナディアのもとへ駆け出した。
「死になぁっ!!」
ジャギアはマシンガンを片手に乱射していた。
ナディアは銃身を見て、発射角を判断し回避する。
「無駄です。人間が私に勝つことは出来ません。」
刹那、超加速。
ナディアは右腕を腰に溜め、ジャギアに向かって飛び込む。
「っ!は、はや………」
「終わりです。」
懐に入り込んだナディアは、右腕をジャギアの鳩尾に叩き込む。
「…がっ!!」
ベキョッという破砕音がナディアの耳元で生まれた。
「Mission complete.」
その一言が引き金となったのか、ジャギアはその場に倒れる。
「ナディア!」
直後、ヒューズが駆け付ける。
「御主人様、どちらで油をお売りになっていたのですか?」
「少し気を失っていたの!…それはそうと、ジャギア・カーン。恐ろしい男だ。」
ヒューズがそう言った刹那、ジャギアは高速でナディアの背後に回った。
「!判断ミス…迎撃に…」
「させ、ねぇよ!!」
叫んだジャギアはナディアにスタンガンをぶつけた。
「しまっ…!」
ナディアの唯一の弱点は高圧電流による攻撃だ。
スタンガンを喰らったナディアは一時的に行動不能に陥る。
「ハァ、ハァ!…おら、武器を捨てろ!この娘が死ぬことになるぞ!」
ジャギアはナディアを盾にするように、ヒューズと向き合った。
「仕方ない、か。」
そう言ってピストルを地面に放り捨てる。
カシャン、と金属音がする。
(今後の課題だな。ナディアの弱点は。)
「ジャギア・カーン、人質を離してくれないか?」
「ふざけろ!お前は今ここでGo to Hellなんだよ!」
マシンガンをヒューズに向ける。
ナディアは未だ機能停止したままだ。ヒューズは深呼吸した。
「よし。私たちの負けだ。降参だ。」
ヒューズは両の腕をあげ、お手上げのポーズをとる。
「それでいい。変な気を起こすんじゃないぞ。」
「あぁ。頼んだぞナディア。」
「なに?」
ナディアの瞳に翠の眼光が煌めく。
「Power clear.」
直後、身を沈めジャギアから逃げ出す。その動きは滑らかで鮮やかだ。
「なめるなよ!」
「聞こえていませんでしたか?」
ジャギアがマシンガンを構えるより速く、ナディアはブースターを作動し拳を上に突き上げる。
「ぶっ!?」
拳は見事顎に命中、ジャギアは高く吹っ飛んだ。
ナディアはパッパッと砂埃を払うと、仰向けに倒れているジャギアに言った。
「You can'not win me. Do you understand?」(貴方は私に勝つことは出来ません。ご理解頂きましたか?)
ヒューズはただ、それを見ていただけだった。
……二日後
「御主人様、いかがなされました?」
ソファに体を預けているヒューズは、声のしたほうに顔を向ける。
「そうだね。あれからジャギア・カーンの賞金も手に入ってしばらくは安泰なんだけど…。」
う〜ん。とうなったあと、ヒューズはソファから起き上がる。
「ナディア、時に君は何が欲しい?」
「はい。蓄音機も頂いたことですので、これといって特に…。」
「…うむ、君はわがままを言わないね。それじゃ上手く立ち回れないぞ。」
「いえ、私はアンドロイドですので。」
「なら、アンドロイドらしく久々にメンテナンスをしてみるか。」
ヒューズは心底嬉しそうに言った。
「メンテナンス、ですか。前回は17日12時間43分前に行われましたが…。」
「それほど君は耐久性に富むんだよ。さ、始めるよ。」
「Yes.My Master.」
〜〜了〜〜
〜おまけ〜
「どうだいナディア。気持ち良いかい?」
「はい、御主人様。あ、もう少し優しくお願いします。」
「ん、わかった。」
ヒューズは手の早さを緩める。
「このほうがいいかい?」
「ふ、ぁぁ…。はい、良好です。」
ナディアは心底気持ち良さそうに、ヒューズに身体を預けている。
「しかし、久々だというのになかなか凄いな。」
ヒューズはナディアの腹部を見ながらそう口にした。
「ん、傷があるな。」
腹部にある一本の引っ掻き傷を指でなぞる。
「ひゃぁあん。ま、御主人様…そこは表面装甲が薄くなっています。あまり触れないで下さい。過敏に反応してしまいます。」
「…ふーん。ま、後で付け替えておくか。あれ?よくみると至る所に切り傷が…。」
引っ掻き傷は、ナディアの腹部の他に、胸部、内股、背中と付けられていた。
ヒューズは一体いつの戦闘だろうか、と考えそして、悔いた。
(もっとはやくメンテナンスするべきだったな。)
そう思いながらヒューズは引っ掻き傷をなぞる。
まずは背中。
「あっ。んんぁ。御主人様、止めてください。」
次は胸部。
「ぅぁっ、ふぁっ。…御主人様ぁ、早く装甲を付け替え…」
ナディアが言い終わる前に内股。
「ぁん、ぁぁぁあ…。」
「…ナディア。」
「何でしょう?」
「私は君をそんな娘に育てた覚えはありません!」
「御主人様、さっさと表面装甲を替えなさい。ぶち抜きますよ。」
「はいはい。わかってるよ。ははは、ナディアも可愛いところがあるじゃないか。」
ヒューズは引っ掻き傷をとりあえず触りまくった。
「あん、うぁ…ひゃん!…はんっ、ぁぁん…はぅ。」
「よし、表面パラメータはどうやら正常だな。あと、ナディア声がエロい。」
ヒューズは表面装甲を取り出し、引っ掻き傷にそれを宛てがった。
「はい。メンテナンス終了。お疲れ様、ナディア。」
ナディアは立ち上がると、身体を動かした。
「…反応速度が0.4秒上昇しました。有難うございました、御主人様。」
「よし、ナディアのメンテナンスも終わったし、ピクニックに行こう。準備だ、ナディア。」
ナディアは言われ、すぐに答えた。
「Yes.My Master.」
〜〜完〜〜
読んでくださいまして有難うございます。短く、また内容も薄いものでしたが、感想など御意見がありましたら是非ともお願いしますm(__)m