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進化


「……」『……』


 主人と使い魔は、茫然と目の前の光景を見ていた。

 

 二匹のオークとシリアスな空気を消し去った雷球は、そのまま地面を数メートル抉り、漸く消えたのだった。


『……なぁ、主人マスター雷撃波エレクトリックって、地面抉る術だっけ……?』


「……いや、抉らないし、そもそもあんなにデカイ術じゃ無い……」


『……だよな……』


 そう言って再び黙る二人。先程の術は、強力極まり無かった。慎太郎の知識の中にある初級魔術とは、基本的に簡易かつ低出力の術がメインであり、これ程の破壊力を持つ術では無い。しかし、目の前の光景は間違い無く自らの初級魔術が作り出した光景だった。

 暫く茫然と眺めていた二人だったが、思い出した様にプロメテウスが声を上げる。


『あっ、そうだアストラル体を回収しないと!』


「そうだった!」


 “アストラル体”とは、肉体から魂が離れた時に残される、霊的な残滓の事だ。

 アストラル体には、生前の知識や技術、魔力等が豊富に残っており、プロメテウスはそれを吸収する事で自らの進化の糧とする事が出来る。

 

 慎太郎はプロメテウスの言葉でその存在を思い出し、慌てて二匹のオークが居たであろう場所へと近付いた。


 これだけ魔力が豊富な世界なのだ。残されるアストラル体もさぞ多いのだろう。そう思った慎太郎だったが、結果は真逆だった。


『……主人マスター。アストラル体が全く無い……』


「……マジか」


 その場所には、アストラル体が全く残っていなかったのだ。地球では魔力量が極端に少く、その存在を立証する事は出来なかったが、それでもアストラル体は確かに存在していた。

 でなくば、慎太郎はこの世界へ来る事は出来なかった筈だから。

 これだけ魔力豊富な世界なのに、それは考え辛い。

 そう思い更に詳しく周囲を見ていると、視界の端に小さな光を見つけた。


主人マスター、なんだそれ?』


 拾い上げたその欠片を見つめていると、プロメテウスが話し掛けて来た。


 慎太郎が手にしたのは、直径2㎝程の小さな宝石の欠片の様な物だ。赤く半透明なそれは、慎太郎の知識には無いが、僅かに魔力の波動を感じさせる。


「分からない……。だけど、魔力の波動を感じる。これは、さっきのオークに似た波動だな……」


『まさか……!ちょっと見せてくれ!』


 そう言うと、プロメテウスの金属板がズレて、内部の空間が覗く。これは慎太郎がプロメテウスに組み込んだ機能の一つで、調べたい対象を中に入れると、より詳しい情報を知る事が出来るのだ。

 慎太郎は先程拾い上げた欠片をその中に入れてやり、蓋をする。


『……………………………………』


「……なんか分かったか?」


 無言で調べ続ける使い魔に、そう言って声を掛ける慎太郎だったが、答えは返って来ない。

 もどかしくなった彼は、若干の苛立ち混じりに再び声を掛けた。


「おい!プロメテウス!どうしたって聞いてるだろ?」


『……もうちょっと待ってくれ!……これは……!!』


「!?」


 そこまで言ったプロメテウスが、急に眩い光を放ち始める。


「……なっ!?まさか!?」


 そう言って驚愕の表情を浮かべる慎太郎。彼はプロメテウスが光を放つ、この反応の事を知ってはいたが、それでも()()()()()()()為、思わず声にしてしまったのだ。


 やがて、光はプロメテウスを包む様に集束し、ゆっくりと形を変えていった。


『は、ははは!』


 そう言って笑うプロメテウス。その姿は先程までの金属の箱とは変わっていた。

 その体には両手両足、頭部が現れ、そして胴体にして本体である金属の箱を覆う様に鎧が出来ていた。

 サイズはまだ小さく、精々が80㎝程のずんぐりむっくりな体形だが、それでも先程までとは違う印象を見る者に与える。

 

 そう、それはまごうことなき“ロボット”。


 “自己進化型魔導械兵プロメテウス”の進化した姿が、そこには在った。


『ヒャッハー!!イェェェェイ!!ジャスティィィィス!!』


 狂った様に踊りながら、喜びを口にするプロメテウス。

 慎太郎は、そんな自らの使い魔に、若干引きながら疑問をぶつける。


「ぷ、プロメテウス。お前なんでいきなり進化したんだ?確かに自己進化機能を搭載してはいるけど、相応のアストラル体が必要な筈だろ?」


 そう、プロメテウスの進化には、アストラル体が必要不可欠。あのオーク達のアストラル体が手に入らなかった現状で、何故進化したのか慎太郎には分からなかったのだ。


()()()()()だよ主人マスター!!さっきの欠片、なんと結晶化したアストラル体だったんだ!!』


「!?」


 困惑する慎太郎。彼の知識では、アストラル体が結晶化する事等無い筈だった。

 しかし、目の前のプロメテウスは間違い無く進化しており、彼の言葉が事実なのは疑いようも無かった。


『いやぁ、アストラルサーチをかけたら、さっきの欠片から反応があってさ!まさかとは思ったんだけど、かなり濃厚なアストラル体だったぜ!!お陰で一発で進化した!!結晶化してた理由は分からないけど、これで歩けるぜ主人マスター!!』

 

「……」


『……どうしたんだ主人マスター?』


 先程とは違い、慎太郎が黙り、プロメテウスが声を掛けた。

 

「……いや、何でも無い。詳しい事は後で聞くとして、取り合えずもう片方の分の欠片を探そう」


『了解!』


 慎太郎はそう言って、結晶化したであろうもう一体のオークのアストラル体を探し始めた。

 自分の中に浮かんだ、一つの可能性に蓋をする様に。



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