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第7話 スローライフ路線

ちなみに。

俺が現代日本から女神の間に召喚され、異世界ティヤシュハラに降り立ってから、まだ10分くらいしか経っていない。


……10分で魔王と古竜と邪神を倒すって、どんなデタラメなスピードプレイだよ。TASさんが裸足で逃げだすわ。

とまあ、ひとりツッコミをしてても仕方がない。

ひとまず現状と現実を確認するとしよう。

称号「すべてを超えしもの」の説明を『ミーミルの脳髄』に求める。


「すべてを超えしもの」

魔王ネビロス・七大古竜・邪神サマエルを倒した者に贈られる称号。

神をも超えたティヤシュハラ最強の存在であることの証。


うん、予想どおりの内容だ。

となると、やはり邪神より強い敵はこの世界に存在しないということか。


〔解:存在しない〕


『ミーミルの脳髄』が太鼓判を押す。

これで確定。俺は名実ともに「すべてを超えしもの」になってしまったようだ。

さてさて。


「これからどうしようかね……?」


開始10分にして、倒すべき敵は皆無になってしまった。

俺と戦いになる相手はもはや――というより、最初からこの世界には存在しない。

そもそも、物理だろうが魔法だろうが、下手に「攻撃」をしようとすればとてつもない大被害が起きかねない。

そんな現実をふまえたうえで、俺はどんな行動をとるべきなのか?

そういえば――


「あの女神、『魔王を倒せば元の世界に帰れるかも』とか言ってたよな……?」


魔王どころか邪神を倒しても、そんな兆候はいっさいなかったわけだが。

あのゲス女神のことだから、テキトーに口からでまかせを言ったのか。


「――いや、待てよ?」


魔王と邪神を倒した際、武器スキルを習得したことを思いだす。

つまり本来の流れだと、「帰還の手段」であるスキルやか魔法もあの時点で習得できるはずだったのではないだろうか?

ところが俺の場合、最初から習得ずみなのでなにも起きなかった、と。

その推理が正しいとすると、ひとつ思いあたるフシがある。

女神が使っていた空間転移魔法『セラフィック・ゲート』だ。


「たぶん、時空魔法か禁忌魔法のどっちかだよな」


というわけで、魔法スキルを確認する。



■■■■■■■■■■■■■■■■■■


〈時空魔法〉

ディレイ・アクション MP100

シューティング・スター MP150

ラピッド・モーション MP300

ミーティア・フォール MP550

セラフィック・ゲート MP700

グラビティ・ブラスト MP800

クロノ・クワイエット MP1600

イベント・ホライゾン MP2000


■■■■■■■■■■■■■■■■■■



お、発見。時空魔法のレベル5か。

『ミーミルの脳髄』で魔法の詳細を確認する。


『セラフィック・ゲート』

■種別:時空魔法

■ランク:S

■基本消費MP:7000

■チャージタイム:0

■いちど訪れた場所に瞬間移動できる魔法。指定された2つの座標を亜空間路で連結し、その亜空間路を折りたたむことで擬似的な空間転移を実現している。


うん、俺が思っていたとおりの魔法のようだ。

さっそく試してみるとしよう。


「セラフィック・ゲート!」


ブゥン! 俺の足元に魔法陣が出現する。

さらにメッセージウィンドウに、現在転移可能な場所がリストアップされた。



■■■■■■■■■■■■■■■■■■


○元の世界

○女神の間


■■■■■■■■■■■■■■■■■■



おお、「元の世界」がリストにある。俺の推理は正しかったわけだ。

とはいえ。


「ここで帰るとか、ないわー」


……いや、だって俺、異世界にきてからまだなにもしてないに等しいし。

さっきの3連続バトルは意地でも「なにか」にカウントしたくない。

魔王は事故で、古竜は自爆で、邪神は……とにかく自業自得だったわけだしな、うん!


というわけで、今後の方針について考えてみる。

いや、実のところ、俺の頭にはひとつのプランがすでに芽生えていた。


「そうだぜ、剣と魔法のファンタジー世界にきたからって、絶対にバトルをしなきゃいけないわけじゃないんだよな」


村や町に居住し、戦うことなく日々の生活を送る者たち。そんな非戦闘員のひとりに俺もなってしまえばいい。

そう、いわゆるスローライフ路線だ。

この異世界ティヤシュハラなら、日常の端々にもちょっとした発見や驚きがあって退屈しないはず。


「よし、やるぜスローライフ! なんの変哲もない一般市民に俺はなる!」


そうと決まれば、さっそく最寄りの村か町を探さなくては。

俺は『メタトロンの眼』を起動。現在地を中心とした俯瞰マップが脳裏に表示された。

マップ上には地名が付記されている。

ちなみに現在地の地名はというと、


「『終焉と絶望の大破壊孔』って、これ……」


あきらかに俺が魔法ぶっぱした結果、地形どころか地名まで変わっちまった系じゃねーか!

見なかったことにしつつ、地図の縮尺を変更。カメラを引くように表示範囲を拡大させていく。


お、あったあった。ここから東に1000キロばかしいったところに、城壁に囲まれた都市があ

地図上での名称は、交易都市カトラーグとなっていた。

よし、ここに決めた。けっこう大きい町みたいだし、生活に不便することはないだろう。

移動距離は1000キロ。日本でいうと、東京から山口県下関市までの距離とだいたい同じだ。

まあ、べつに遠くはない。音速なら約50分でつくし、光速なら一瞬だ。

と、いうわけで。


ドォウッ! 俺は地面を蹴って、都市の方角へとジャンプした。

名づけて弾道ミサイルジャンプ。俺のステータスをもってすれば、1000キロをひとっ飛びするのはわけなかった。

ただし、都市には直接着陸しない。これから一般市民をよそおう予定なのに、いきなり目立つことをしては本末転倒だ。


着地地点は都市の正門から1キロ先。

すでに俺は自由落下の慣性飛行に入った。みるみる地上が近づいてくる。

ふわっ。慣性を操作して、落下のエネルギーを霧散させる。

こうして俺は、隕石のごとく落下し、綿毛のごとく着地したのだった。


「さて、ここからは歩きだな」


都市を囲む城壁はもう見えている。俺は平原の道を歩きだした。

心機一転というやつだ。いままでのことは綺麗さっぱり忘れて、新たな生活のイメージをふくらませるとしよう。


「まずは今日の宿を探さないとな」


根拠はないが、安くてメシがうまくて居心地のいい宿屋が見つかりそうな気がする。

で、宿屋の娘がなぜか俺に懐いちゃったりするわけだよ。まいったね。


「っと、考えてみたら俺、金持ってなくね?」


ステータス欄にも所持金の項目はなかったし、金貨の入った袋なんてものもない。

ついでに言うと、魔王も古竜も邪神も金目のものは落とさなかった。

まあ、あいつらは文字どおり完全消滅しちまったわけで、普通に倒せば換金アイテムなんかをドロップしたのかもしれないが。


「しかたない、町についたらバイトでも探して日銭を稼ぐか」


この世界でなら、単純な仕事だってきっと楽しく感じられるはずだ。


「でもそうなると、バイト以外にも金を稼ぐ方法を考えないとなぁ」


安定した収入源の確保。

スキル『錬金』を使えばそこらへんの土塊を金塊に変えられるだろうけど、さすがにそれは禁じ手だ。

スキルや魔法には頼らず、現代知識を武器に稼ぐ方法を模索するのがベターだろう。

たとえば、元の世界のボードゲームとかカードゲームとかを再現して販売するとか。大ヒットしてがっぽり稼げちゃうとか、あるかもよ?


「あとは自分ルールとして、正真正銘の緊急事態のとき以外は戦わない、ってのを徹底しないとな」


緊急事態。たとえば、都市にモンスターの群れが攻めてきたときとかだ。

そのときは、俺の力がバレないように先回りしてモンスターを駆逐したいところだな。


「そういや、町にいけばほかの冒険者とかもいるはずだよな」


冒険者は当然、他人の強さに敏感なはずだから、接触するときは細心の注意をはらわなければ。

たとえば、町に滞在していた勇者候補(美少女)に戦ってるところをうっかり目撃された、なんてアクシデントは絶対に避けなくては。

パーティーに入ってくれと熱烈に勧誘されるなんてことになったら、うれしいけど困っちまうからな。


「ムフフッ。なんかイベント目白押しだな! これから楽しくなりそうだぜ!」


際限なく夢がひろがる。スローライフ万歳だ!

とかなんとか言ってるうちに、交易都市カトラーグの正門が目前に迫ってきた。

あの門をくぐった瞬間、俺の異世界ライフは本格的にスタートするのだ。

さあ、記念すべき一歩を踏みだそう!

俺は正門をくぐって、交易都市カトラーグに入った。


シーーーーーーン…………。


都市は、死に絶えたように静まり返っていた。


「…………?」


断っておくが、いまの時間帯は夜ではない。活動が盛んなはずの真っ昼間だ。

それなのに静かすぎる。これはいったい……?


「!」


正門からつづくメインストリートには、倒れて動かない人々の姿があった。


「なっ……! こ、これはっ……!?」


肉眼で確認できる範囲だけではない。『メタトロンの眼』でざっと確認してみたが、人口2万人を超す都市の中で倒れていない者はひとりとしていなかった。

さいわい気絶しているだけで息はあるようだが、あまりにも異常すぎる状況だ。


「いったいなにが……。まさか、モンスターの仕業かっ!?」


だとすればかなりの緊急事態だ。場合によっては俺が戦わざるをえないだろう。

まずは『ミーミルの脳髄』を使って状況を性格に把握しておこう。

この事態はモンスターの仕業なのか?


〔解:否〕


「え? そうなの? それじゃなにが原因なんだ?」


〔解:原因はヒュウガ・マサキのスキル。具体的には『威圧』および『覇気』〕


「え……? お、俺のスキルが原因っ!? ちょ、ちょっと待ってくれよ、マジかよそれっ!?


〔解:マジ〕


律儀に答える『ミーミルの脳髄』だった。


「……………………」


愕然として言葉もない俺。

……や、でも冷静になって考えてみると、それがいちばん腑に落ちる答えだ。

なにせ邪神を指一本で完全消滅させちまえるヒュウガ・マサキさんなのだ。

オーラとか威圧感とか覇気だけで、一般人なら気絶してしまうのも無理はない。

俺は歩く広域精神攻撃兵器ってわけだ。


「とにかく、原因になってるスキルをとめないとな」


どうすりゃいいんだとたずねるが、


〔解:不可能。上記のスキルはパッシブ型で常時発動する〕


げっ! マジで? マジでどうにもならないの!?


〔解:不可能〕


「な、なんてこったい……」


ガックリとうなだれる俺。

ヒュウガ・マサキの異世界スローライフは、始まる前から終わっていたのだった。



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