第6話 VS邪神
「どうしてこうなった……。俺の求めていた異世界ライフはこんなんじゃなかったはずだぞ……
ふたたび頭をかかえる俺。
異世界に来た直後に魔王とそれより強いドラゴン×7を倒しちまうとか、どう考えてもおかしい。絶対に間違ってる。
なにより面白くないのが問題だ。
「つか、さっきの古竜より強い敵がこの世界に存在すんのか……?」
俺が危惧しているのはその点だった。
早くも最強の敵を倒してしまった、なんてことになったら、バトル方面ではもうやることがないわけだが――
〔解:存在する〕
と、『ミーミルの脳髄』が俺の疑問に答えてくれた。
そうか、存在するのか。こいつは朗報だ。
俺は安堵して軽口をたたく。
「裏ボスのポジションに、封印された邪神とかがいるのかもな。ハッハッハ」
このとき俺は失念していた。
世の中には「フラグ」という概念が存在していることを。
ゾゥッ! あたり一帯の気温が急激に下がったような感覚。
二度あることは三度ある。またしても俺の背後には気配が出現していた。
油の切れたロボットのようにギギギとふりむく俺。
かくして俺の背後には、妙なやつがいた。
最初に目に入ってきたのは闇色のローブ。そこから2本の腕が生えている。
全体のシルエットは人間に近いが、足はない。また、指の数は左右ともに7本で、異様に長く関節の数も多かった。
顔はない。ローブの顔面がおさまるべき箇所には、漆黒の闇がうごめいているのみだった。
「……えーっと。なんつうか、その」
「…………」
「ま、まさか邪神さんってことはないっすよねー? さすがにそれはありえないっすよねー? アハハハ――」
「そうダ」
ぎゃーっ! そのまさかかよ! ついに裏ボスまで出てきちゃったよ!
「余こそハ、暗黒の化身にして負念の凝集体、邪神サマエルなリ」
またぞろ大仰な肩書きだな。
いっそ俺も、今度から名乗るとき真似してみようかな。「魔を滅せし者にして竜殺しの異名を持つ日向マサキなり」とかなんとか。
……うん、ないわ。
「感謝するゾ、人の子ヨ。そなたが古竜どもを滅してくれたおかげデ、余の封印は解ケふたたび顕現することが叶っタ」
俺が古竜を倒したせいで邪神が復活してしまった、と。
なんという悪循環。ドツボにハマってる気がする……。
「で? おまえが俺の前に現れたのは、やっぱ戦うためなのか?」
「違ウ」
ありゃ、意外にも否定したぞ。
「じゃ、なにしにきたんだよ?」
「話をするためダ」
「話って?」
「先にも触れたガ、余はそなたに感謝していル。そうでなくとも殺すには惜しい逸材ダ」
そんな前フリをして、邪神は言った。
「余の腹心となレ。さすれバ、世界の半分をそなたに与えよウ」
「…………」
なんというか、実に古典的なパターンだった。
ご存知、「はい」を選んだら即バッドエンドの選択肢である。
「つかさあ、ぶっちゃけおまえさあ」
ジト目をむけて俺は言った。
「俺と戦っても勝てないと悟って、口先でうまく丸めこもうとしてね?」
ビクッとフリーズする邪神。図星だったようだ。
「おーい、邪神さーん? 聞こえてますかー?」
邪神は固まったままだ。
もし顔があったら、間違いなく冷や汗をかいていたと思われる。
「……そ、そんなことはありえヌ! 妄言、虚言、偽言であル!」
邪神さん、動揺のせいか声がふるえてますぜ。
それにしたって……一体なんなんだよこの展開はっ!?
バトルマニアの魔王に、自称賢者(笑)の七大古竜ときて、今度は小物感満載の邪神てオイ!
つか、いまさら感があるけど、語尾だけカタカナ表記の時点でネタキャラ臭してたよなコイツ。
「闇に飲まれヨ!」
ズズズズッ! 邪神のローブから墨汁のごとき闇があふれだし、周囲の地面にひろがっていく。
戦闘態勢をとる邪神。まあ、当然こうなるよな。これでバトルは不可避になった。
邪神の小物ぶりには失望させられた俺だったが――いっぽうでこいつは最後の希望だ。
いや、邪神が俺と互角に戦えるだなんて、そんな高望みはしていない。
せめて「戦い」になってくれればと思う。
というわけで、ステータス確認をしてみよう。
どうか強くありますようにっ!
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《邪神サマエル》
クラス:邪神
レベル:70000
HP:55000000/55000000
MP:50000000/50000000
攻撃:6300000
防御:5400000
敏捷:3600000
魔力:8100000
精神:7200000
〈武器スキル〉
闇の手【EX】
〈魔法スキル〉
火属性【8】
水属性【8】
風属性【8】
土属性【8】
雷属性【8】
闇属性【EX】
時空【8】
禁忌【5】
〈汎用スキル〉
HP自動回復【7】
MP自動回復【7】
MP消費軽減【8】
全ダメージ減少【8】
全属性強化【6】
全属性吸収【3】
全状態異常無効【9】
多重詠唱【8】
魔法射程強化【9】
魔法範囲強化【9】
物理ダメージ反射【6】
オート魔法反射【6】
クリティカル率強化【7】
クリティカル威力強化【7】
魔力探知【9】
精神耐性【9】
重力遮断【9】
威圧【9】
重圧【9】
不老不死【9】
千里眼【9】
〈固有スキル〉
『暗黒領域』
自身を中心に闇のエリアを展開。エリア内において自身のステータスを大幅に強化し、敵対者のステータスを大幅に弱体化させる。
『絶望への誘い』
レベル10000以下の相手の精神を強制的に支配し、みずからに隷属させる。
『致命の一触れ』
指先で触れた者に確実な死をもたらす。
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おおっ、やるじゃん。俺以外で初のEXスキル持ちだぜ。
固有スキルも「バフ・デバフ系」「精神操作系」「即死攻撃」とかなりの充実ぶりだ。
うん、内面には失望させられたが、実力的には邪神の名は伊達じゃない。
つか古竜たち、このステータス差でよく邪神を封印できたな。
「死ネッ!」
わりとベタなセリフを発して、邪神は攻撃を開始した。
ゾゾゾゾッ! 地面にひろがった闇から無数の手が生え、俺めがけて殺到してくる!
なるほど。これが武器スキル欄にあった『闇の手』ってわけだな。
さて。ここで攻撃を喰らってしまうと、またぞろ『アイギスの盾』が発動して相手が勝手に死にかねない。
なので俺は回避を選択。タッと軽く地面を蹴った。
瞬間、世界の時間が停止した。
断っておくが、俺がスキルや魔法を使ったわけじゃない。
高速で移動する物体は、時間の流れが相対的に遅くなる。そう、特殊相対性理論というやつだ。
俺の敏捷は9999999999なわけで、たぶん光速ぐらい軽くチギってるんじゃないかと思う。
邪神にとっては一瞬でも、俺にとっては永遠に等しい時間というわけだ。
さてと。
俺は邪神の目の前まで移動する。相手は固まったまま微動だにしない。俺の動きをまったく認識できていないようだ。
「頼むから、耐えてくれよ……!」
祈るような気持ちで、俺は人差し指を動かす。
細心の注意と最上の慎重さで、少しずつ少しずつ邪神に指先を近づけていく。
これは俺がくりだせる最小最弱の攻撃だ。
頼むぞ邪神! 暗黒の化身だか負念の凝集体だかの名にかけて耐えてみせてくれッ!
ぴとっ。ついに、俺の指先が邪神の体に接触した。
そして時が動きだす。
ドゥッ! 直後、邪神の体に直径30センチほどの風穴が空いた。
「がっ……! ば、馬鹿ナッ……!?」
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《邪神サマエル》
HP:0/55000000
MP:0/50000000
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ぅあっちゃー……。あれだけがんばって最小最弱の攻撃をだしたのに、結局即死かよ。
固有スキル『アダマスの鎌』、いくらなんでもチートすぎだろ。
「コNo邪神さまえるGa、暗黒ノ化身タRu余ガ闇ニッ、闇ニ飲マレルゥUuuuuuuuッ――!?」
バギバギバギンッ! 地面にひろがった闇の層が薄氷よろしくことごとく割れ、邪神の本体とともに光に還っていく。
さすがに裏ボスなだけあって、派手な最期だった。
……あー、その、なんつーか、アレだな。
「おお、邪神よ! 死んでしまうとはなさけない!」
……言ってみたかっただけです。すんません。
ピロンッ。
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武器スキル『闇の手』を習得しました。
称号「イビルコンクエスター」を獲得しました。
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もはやおなじみとなったスキル習得&称号獲得メッセージ。
と思いきや、今回はつづきがあった。
ピロンッ。
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称号「すべてを超えしもの」を獲得しました。
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……うわ、この称号、うわ……。
合掌。いろんな意味で。