第3話 はじめての魔法ぶっぱ
っと、スキルの前にステータスの詳細をいちおう確認しておくか。
ミーミルの脳髄の使いかたはすでに理解した。
ウィンドウ上の詳細を知りたい項目に意識をフォーカスする。それだけだ。
『クラス』
職業・身分・地位・能力・実績などを総合し、「存在のありかた」を端的に表す。
『レベル』
総合的な強さの目安。人間族の場合、初期上限は999。
『HP』
ヒットポイント。0で瀕死状態となり、瀕死状態で攻撃をうけると死亡する。
『MP』
マジックポイント。魔法を使うたびに消費する。時間経過で自動回復する。
『攻撃』
物理攻撃力。武器や体術で攻撃した際のダメージに影響する。
『防御』
物理防御力。物理攻撃をうけた際のダメージに影響する。
『敏捷』
移動速度や攻撃速度に影響する。さらに素早い敵の動きも見切れるようになる。
『魔力』
魔法攻撃力。魔法の威力・成功率・持続時間などに影響する。
『精神』
魔法防御力。魔法に対する全般的な抵抗力を表す。
ま、おおむね想像したとおりの説明だな。
しかしレベルの初期上限が999って……約10億の俺は何回限界突破してるんだコレ。
次は魔法スキルにフォーカスしてみる。
『魔法』
魔力を媒介として世界を限定的に改変する技術。火・水・風・土・雷・光・闇・時空・禁忌の9つの属性があり、各属性のレベルが上がると新たな魔法を習得できる。
となると、全属性がレベルEXの俺はすべての魔法を使えるということか。
とりあえず火属性から見てみる。
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〈火属性魔法〉
ファイヤ・ボール MP1
フレイム・アロー MP1
バーニング・フィスト MP1
イグニス・カノン MP2
ブレイズ・マイン MP4
プロミネンス・ソーン MP7
スピキュール・スパイク MP15
メギド・フレア MP50
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というラインナップのようだ。
消費MPが異様に低いのはスキル『MP消費軽減【EX】』の効果ゆえだろう。
全8種類というのは少なく感じるかもしれない。
が、たとえばファイヤ・ボール1つとっても、魔力とMPの許す範囲で威力・連射速度・弾速・射程・貫通力といったさまざま部分をアレンジできるようだ。
自分好みの魔法を自分でつくりだせる。これはなかなか胸が躍るシステムだ。
まあ、魔法が実在してるってだけでテンション上がるんだけど。
「まずは試し撃ちをしとくか」
ゲームとは違うのだから、非戦闘時に使えないということもない。
「まわりに村とか町とかはないし、人もいないみたいだな」
メタトロンの眼で周辺情報を確認。近くにあるのは地下50階層からなるダンジョンのみだった
とはいえ俺の魔力やスキルを考慮すると、流れ弾がどんな影響をおよぼすかは未知数だ。
ここは安全策として、地面にむけて放つのがベターだろう。
というわけで、俺は右手を地面に突きだして唱えた。
「ファイヤ・ボール!」
直後、俺の手のひらの先にこぶし大の火球が生まれた。
――そこから先、すべては一瞬のできごとだった。
カッ! 亜光速で射出されたファイヤ・ボールが地面に着弾。
瞬間、閃光と爆炎が俺の五感を埋めつくした。
ゴォオオオオオオッッッ!
核兵器のごときすさまじい熱エネルギーの解放。
「のぉおおおおおおっっっ!?」
大地が激震し、巨大なキノコ雲が天を覆い、超高熱・超高圧の爆風が半径数キロにわたって破壊を撒き散らす!
爆心地付近にあったモノはなにもかもが融解を通り越して蒸発。草木はもちろん鉱物も例外ではなかった。
ヒュォオオオオオッッッ!
爆風が拡散しきると、今度は真空状態となった爆心地に強風が吹き荒れた。
そうして、灼熱と破壊の嵐が完全に過ぎ去ったあと――
「……………………!」
とてつもなく巨大なクレーターの中心部に、俺は呆然と立ちつくしていた。
クレーターの表面は黒いガラス質の層に覆われている。これは高熱によって溶けた砂が再固化したためだ。
クレーターの周囲には炭化した森林の「残骸」が延々とひろがり、そのさらに外縁はいちめん火の海となっている。
たった一発の、こぶし大のファイヤ・ボールで、世界から森がひとつ消えてしまった。
ちなみに、近くにあった地下50階層からなるダンジョンも根こそぎ消滅していた。
俺自身に被害はない。固有スキル『アイギスの盾』によって産毛の一本も焦げてはいなかった。
しかし、これは――
「シャ、シャレになってねえ……!」
魔力約100億は伊達じゃなかった。そして俺は認識が甘かった。
そう、ゲームとは違うのだから、魔力が高くても敵にあたえるダメージが上がるだけ、なんてわけはなかったのだ。
その結果がこの有様だ。周囲に人家がないことを確認しておいてつくづくよかった。
それにしたって、我ながらひくほどの威力だ。
ファイヤ・ボールでこれなら、火属性最強魔法のメギド・フレアをぶっぱなしたらいったいどうなってしまうのやら。
大陸ひとつが消し飛ぶ……ていどじゃすまない気がする。
夢がひろがる話だが、さすがに気軽には使えないな。