第11話 ゲス女神リターンズ
そして、また俺はひとりになった。
「…………」
ほかにすることもないので、これまで起きたことをおさらいしてみよう。
異世界に転移したと思ったら、いきなりぶっちぎりで最強無敵だった。
最強すぎるので、魔王を事故で倒してしまった。
最強すぎるので、七大古竜が勝手に自爆して死んでしまった。
最強すぎるので、邪神を指一本で完全消滅させてしまった。
最強すぎるので、町にいったら全住民が気絶してしまった。
最強すぎるので、倒錯した性癖を持つ不死のリッチに目をつけられてしまった。
以上。おわり。
……なんだ、これは。なんなんだ、これは。
ロクなことがなにひとつねえ。せっかくの強さが悪いことにしかつながってない。
第三者にこのエピソードを話したとして、うらやましがるやつは皆無だろう。
なによりクッソつまらん。ぜんぜんまったくこれっぽっちも面白くない。
しかし――そこで俺は、天啓をえたようにピコンとひらめいた。
「って、ちょっと待てよ? 強すぎるのが問題なら、弱くなればいいんじゃね……?」
そうだ、その手があった。俺にはまだ希望が残されてるじゃないかっ!
というわけで、教えてミーミル先生!
「俺が弱くなる方法はっ!?」
〔解答不能〕
「えっ……? ちょっ、いや、またまたぁ、もったいぶちゃって。なんか1個くらいあるでしょ、ふつうにさぁ」
〔解答不能〕
「いやいやいやいや、まじめに答えてくれよ。おまえ『世界の全知集積体』なんだろ?」
〔解答不能〕
「う、うそだろ、なあ? 裏ワザ的なもんとか、実はあったりするんじゃないの?」
〔解答不能〕
と、何度きいても答えは一緒だった。
「あぁぁぁぁぁっ! もうやだこの強さッ!」
冷たい現実を突きつけられ、ついに俺の中でなにかがプッツンした。
「なんなんだよこれ! 最強すぎてつまらないとかどうなってんだよっ! ふざけんじゃねえ! 責任者でてこいやゴルァラァッ!」
叫んでみてもスッキリなんてしない。ただひたすらにむなしいだけだった。
「はぁっ、はぁっ……。そもそも、どうしてこんなことになった? 悪いのは誰だ? 俺かっ? 俺なのかっ!?」
いや待てその理屈はおかしい。どう考えたって俺は被害者だ。
起きたことを時系列順にならべてみればわかる。
まず、現代日本でごくふつうに暮らしていた俺は、ある日突然、異世界ティヤシュハラに強制的に召喚された。
そこで潜在能力を解放する魔法をかけられ、思いがけず世界最強の力を手に入れてしまった。
そう、悪いのは俺を召喚したやつであり、俺の潜在能力を解放したやつだ。
ぜんぶそいつがわるい。ぜんぶそいつの責任だ。
つまり――
「あのゲス女神じゃねえかっ!」
結論はでた。と同時に、俺の中に怒りがムラムラとわいてくる。
……だけど、待てよ? 神であるあの女なら、もしかしてこの現状を変えることもできるんじゃないか?
具体的には……俺をもう少し弱くするとか。
よし、それなら直談判だ。
「セラフィック・ゲート!」
ブゥン! 俺の足元に魔法陣が出現し、転移可能な場所がリストアップされる。
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○元の世界
○女神の間
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「ゲス女神め、責任者は責任とるためにいるってことを教えてやるぜ……!」
女神の間を選択すると、魔法陣からあふれた光が俺の体をつつみこんだ。
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女神の間。
その名のとおり、異世界ティヤシュハラを管理する女神サクヤが座す空間だ。
「な、なんなのよアイツっ! なんなのよ、なんなのよ、なんなのよぉーっ!」
そのサクヤは、ホログラムに映しだされた地上の光景を見て声をあらげていた。
「魔王だけならまだしも、古竜と邪神まで瞬殺しちゃうなんてありえないわっ! あんなの放置してたらわたしの世界が滅茶苦茶になっちゃうじゃない!」
「……いや、そもそもおまえが召喚したのが悪いんじゃね?」
「わ、わたしはなにも悪くないわよっ! あんなのが来るなんて聞いてないし想定外だもの!」
「……つか、さっきからいったい誰のこと言ってんの?」
「決まってるじゃない! ヒュウガ・マサキって人間のことよっ!」
「呼んだ?」
「えっ?」
ここでようやく背後をふり返るサクヤ。
そこには『セラフィック・ゲート』で転移してきた、俺ことヒュウガ・マサキが立っている。
「ギャーーーーーッッッ¥×◯△□◇※〓♂♀☆!?」
耳をつんざくような悲鳴をあげ、バッと俺から距離をとるサクヤ。
「ア、アブソリュート・アサイラムッ!」
さらに俺とのあいだに、結界魔法を幾重にも展開する。
美少女が悲鳴をあげて俺を避け、あまつさえ「こっちにこないでバリヤー」を張るとか、ナチュラルに傷つく状況だが……いまはそんなことを気にしてる場合じゃない。
「いようゲス女神ぃ。よくも俺をこんな目にあわせてくれたなぁ?
「ま、待って! まずは話しあいましょう! 話しあって相互理解を深めることが大切よっ! 争いじゃなにも解決しないわっ!」
急に平和主義的なことをぬかすサクヤ。
保身まるだしの言葉。つかこの女、俺たちを召喚したときはいっさいの発言をゆるさず強制的に異世界送りにしたくせに、なにが話しあいじゃボケが!
と、ツッコミたいのはやまやまだったが、ここは冷静にいかねば。
こちらの要求を伝えることが先決だ。
「いいぜ、俺もおまえと話をしにきたんだ。まずは状況のおさらいをしておこうか。俺を召喚したのはおまえで、俺の潜在能力を解放したのもおまえ。ここは間違いないよな?」
「そうだけど……っていうか、そのくらいいちいち確認しなくてもわかるでしょ。バカなの?」
イラッ。この女、いちいち人をムカつかせる天才だな。
しかし俺はグッとこらえて言った。
「つまり、俺が最強になって魔王や古竜や邪神まで倒しちまったのも、元をただせばおまえのせいだ。だから責任をとれ。責任をとって、俺をいまよりも弱くしろ」
「はっ……?」
きょとんとするサクヤ。
「弱くしろって、そんなのできるわけないじゃない。おまえやっぱりバカなのね。ぷぷぷっ!」
イライラッ。この女、いまだに自分の立場を理解できていないようだ。
衝動的にぶっ飛ばしたくなるが……待て待て、俺がそれやったらシャレにならんぞ。
そういや、女神の強さってどんなもんなんだ?
俺はステータスを確認してみることにした。
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《コノハナチルカムアタツサクヤヒメ》
クラス:女神
レベル:90000
HP:78900000/78900000
MP:98700000/98700000
攻撃:6540000
防御:5430000
敏捷:4320000
魔力:9990000
精神:9990000
〈武器スキル〉
光の波動【EX】
〈魔法スキル〉
火属性【9】
水属性【9】
風属性【9】
土属性【9】
雷属性【9】
光属性【EX】
闇属性【8】
時空【9】
禁忌【6】
〈汎用スキル〉
HP自動回復【8】
MP自動回復【8】
MP消費軽減【8】
全ダメージ減少【9】
全属性強化【7】
全属性吸収【5】
全状態異常無効【9】
多重詠唱【9】
魔法射程強化【9】
魔法範囲強化【9】
物理ダメージ反射【7】
オート魔法反射【7】
クリティカル率強化【8】
クリティカル威力強化【8】
魔力探知【9】
精神耐性【9】
重力遮断【9】
慈悲【9】
カリスマ【9】
不老不死【9】
千里眼【9】
鑑定【9】
〈固有スキル〉
『ウルズの制約』
神は過去において自らに制約をかけた。ゆえに神は地上への干渉を許されず、降臨の際は能力を大幅に制限される。
『ヴェルザンディの契約』
神は現在において世界の管理者である。ゆえに神の名において契約した事柄は、必ず履行されなければならない。
『スクルドの確約』
神は未来においてすでに存在している。ゆえに神は決して死なず、いかなる攻撃をうけてもHPが必ず1残る。
〈称号〉
世界管理者
ノルニル
メイガス
光の織手
セイントマスター
禁忌を明かす者
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ふむふむ、さすがは女神。レベルもステータス値もスキル構成も邪神を上回ってるじゃないか。
なにより俺の興味をひいたのは、固有スキル『スクルドの確約』だ。
もしかするとこいつなら、俺の攻撃に耐えられるかもしれない。
それでもし完全消滅しちまっても、
「ってか、用がすんだら帰ってくれるぅ? わたしこう見えてもいそがしいんだから、モブ人間とムダ話してるヒマなんてないのよね~」
……うん、こいつの場合はだいたい自業自得だろう。
つかこいつがいなくなったほうが、地球の人間にとってはいいんじゃね?
「おいゲス女神」
「なによ? ってか、さっきからそのゲス女神ってなんなのいったい? 不愉快きわまりないからやめて――」
びしっ! 俺はその場でデコピンをした。
サクヤとの距離は10メートルばかし離れていたが――
バギギギギィンッ!
デコピンの衝撃波が多重展開された結界魔法をまとめて叩き割り、サクヤ本人に直撃した。
「ぐぎゃべェーーーッッッ!?」
ドッ! ガッ! ドガガッ! ゴムボールのように床を跳ねながら後方へぶっ飛んでいくサクヤ
女神の間は広大無辺であるため、サクヤの姿は地平線の彼方に消えていった。
まあ肉眼で見えなくなっても『メタトロンの眼』には関係ない。
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《コノハナチルカムアタツサクヤヒメ》
HP:1/78900000
MP:0/98700000
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おおっ、固有スキル『スクルドの確約』の効果でHPがちゃんと1残ってるぞ!
「つーと、俺の『アダマスの鎌』より『スクルドの確約』のほうが優先されたってことか」
そういやアンネの『無限再生』も『アダマスの鎌』を実質無効化してたっけ。
となると、固有スキルどうしで効果がかちあった場合は、防御・回復系スキルが攻撃系スキルより優先される仕様なのかもな。