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第1話 ビビる女神

気がつくと俺は不思議な空間にいた。


周りには見ず知らずの人間が10人ばかしいる。

ははあん、これは例のアレだなと、俺にはすぐ察しがついた。

若干16歳にしてマンガとアニメとゲームに精通し、ネット小説までカバーするこの日向マサキならではの洞察だ。


ここはいわゆる女神の間。

つまり俺と周りの10人くらいは、これから異世界へ行くことになるというわけだ。


「はいっ、全員ちゅーもぉーく」


空間の奥まった場所から声がひびく。

そこにはゴージャスな装飾の椅子があり、えらい美少女が脚を組んで座っていた。


「わたしの名前は、コノハナチルカムアタツサクヤヒメ。おまえたちがこれからいく異世界『ティヤシュハラ』を管理する女神よ」


コノハナチルカムアタツサクヤヒメ……長ぇ。通称はサクヤってところか。

日本っぽい名前なだけあって、身につけている衣装はどことなく十二単っぽい。

キラキラと輝く髪の毛は、桜の花をほうふつとさせるピンク色だった。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


と、サラリーマンふうの男が声をあげた。


「よくわからないけど、いますぐ俺を元の世界に戻してくれ! 今日の契約をフイにしたら会社に迷惑が――ッ!?」


突如、男の足元に魔法陣が現れ、男の姿がシュンッと消える。

あとには男が身につけていたスーツ一式(下着込み)だけが残された。


「な、なんだよいまのっ!?」「いきなり消えたぞっ!?」「なにが起きたっていうんだっ!?」

と、騒ぎだすモブたち。

いや、なにが起きたって、いまのは間違いなく魔法だろ。で、使ったのはもちろん女神だ。


「シャラァ~ップ! 黙りなさい、人間たち」


その女神サクヤが言った。


「先に言っておくけど、質問はいっさい受けつけません。抗議はもっとノーセンキューです。このさき騒いだりわたしに文句を言ったやつは、いまの男みたく全裸かつスキルなしで強制異世界送りするんでよろしく~」


ここでこの脅し文句とは、この女神になかなかゲスいな。

当然、静まり返る人間たち。


「そうそう、それでいいのよ。つうかおまえたちザコモブごときが女神のわたしと対等に口きくとか1兆年早いっつうの。最低限レベル5000にならないと発言権はあたえられませ~ん。プッ」


うわひでえ。俺の中でこいつのニックネームが「ゲスの極み女神」に決まった瞬間だった。


「元の世界に戻りたいなら『ティヤシュハラ』を冒険して自分で帰る手段を見つけてください。たぶん魔王でも倒せば帰れたりするんじゃない、きっと」


なんつーテキトーな説明。

まあ現実なんてたいがいクソゲーだし、俺はいますぐ帰りたいとか少しも思ってないからどうでもいいが。


「はいっ、説明は以上よ。それじゃおまえたち、いまからわたしの前に一列にならびなさい。女神からのありがた~い祝福として、潜在能力を解放して異世界で即戦えるようにしてあげるわ。ま、どーせゴミみたいなステータスとスキルしかないだろうけど。ププッ」


ビキビキッ。険悪な空気が場をつつむ。

各人の頭の上に怒りマークが実体化しそうな気配だが、誰ひとりとして文句は言わず女神の前に整列する。

まあ、全裸で異世界送りはキツいよな。

あのリーマン風の男は犠牲になったのだ……。


「リベレイト・ギフト!」


一人目の男の周囲に光の柱が立つ。これが潜在解放――リベレイト・ギフトのエフェクトか。

ちなみに潜在解放と同時に、男の服装もファンタジー的な格好に更新されていた。


「セラフィック・ゲート!」


男の足元に魔法陣が現れ、その姿が消失する。


「はいつぎー。リベレイト・ギフト! からのぉ~、セラフィック・ゲート!」


流れ作業で潜在解放→異世界送りが繰り返される。

どんなスキルを獲得したとか、その場での説明はいっさいない。

まあ、テキトーに「ステータスオープン」とか言うか念じるかすればわかるんだろう、きっと。


「はいつぎー」


そうこうしているうちに俺の順番がまわってくる。

ちなみに最後尾ではなく最後から2番目の位置だ。


「リベレイト・ギフト!」


サクヤの声に応じ、俺の周囲に光の柱が立った。

これで俺の潜在能力が解放されたわけだ。


「はい、いってら――ッッッ!?」


ガタンッ! 椅子を蹴倒し、サクヤがすさまじい勢いで後方へ飛び退った。


「アブソリュート・アサイラム!」


さらに間髪いれず、結界魔法とおぼしき透明な壁を多重展開した。

えっ? なに? 急にどしたのこの娘……?


「お、おまえ、いったい何者ッ!?」


いや、何者とか言われても。


「日向マサキだけど」


あ、ついしゃべっちまったけど、これってペナルティ対象にならないよな……?


「あ、ありえないわっ、こんなのっ! そ、そもそもわたしに責任なんてないわっ。わたしはルーチン通りに仕事をしただけなんだからっ!」


なにを言ってるのかはよくわからないが、とりあえずゲスい責任転嫁をしていることだけはわかった。


「なあ、俺がいったいどうし――」


「セラフィック・ゲート!」


俺の足元に魔法陣が現れ、俺の視界はホワイトアウト。

その後、落下しているような感覚が体をつつんだ。

……あのゲス女神、さては臭いものには蓋をしやがったな。

それにしても、なにをあんなにビビってたのやら……謎だ。


ん? もしかするとアレじゃないか? 俺にチートスキルが発現してビビッてたとか?

だとしたら――これは確認するのが楽しみになってきたぞ。


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