ユーリア姫、大地に立つ
?「昔むかし、そのまたむかし… かつて巨大な龍が世界を支配していた時代。 ある1人の女の子が、1頭の龍を手懐けたそうな…。忽ちの内に混沌の国を平らげ、女王として祀り上げられた少女の名はブリュンヒルデ。我々王家に伝わる名字や街の名前には…」
「って!?起きてください!!寝てもらっては困りますぅ!!姫さま…!ユーリア様!!」
「ふわぁ……ごきげんよう、アル。大変申し訳ないのですが、もう少し寝かせてくれませんこと?」
アル…アリア・フォン・ブリュンヒルデもれっきとした女王の血を引く王族である。もっとも、分家である彼女の一族は学者として代々姫の教育係をやることとなっている。
「武術の鍛錬がお好きなのはわかりますが、あなたも一国の女王となられるお方!もう少しこの国の歴s…って、ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」
「ふふふ、国一番職人に三ヶ月かけて作らせましたのよ!?どうかしら…そのカエルの人形、」
「ははは…よ、よく出来ていますね…。」
その言葉を最後に、アルは気を失ってしまった。
このお姫様、言葉と身なりはそれっぽいが…中身はそこらの悪ガキといい勝負なのだ。
「それにしても退屈ですわ…アルも見ていない事ですし、少し街の様子でも覗いて来るとしましょうか…。ふふっ」
頻繁に城を抜け出しては、三つ上のアルの胃袋をいつも痛めつけているのはこの十二歳の悪ガキであることは言うまでもないだろう。
「よいしょっ…と」
ベッドの横にある棚を手前に引くと、小さな子どもにしか入れないような小さな抜け道が現れる。
訓練用の服に着替え、帽子を深く被り、ナイフも忘れずに腰に携げる。
「さあ、出発ですわ!」
床下からそのまま続いている石の階段をおりていく。
中は意外と綺麗で、多少古びているが長年の間に整備された跡が見える。暗くて前が見えないが、壁に備え付けられたランプにマッチで灯りを灯せばなんとか見渡せるぐらいにはなる。
ボッ…。
ユーリアはこの瞬間がたまらなく嬉しいようだ。
辺り1面を微かな光が照らすその瞬間には、わかる人にはたまらない冒険の快感が詰まっているのだ。
普段は1人でいることが怖いくせにこの時ばかりはへっちゃらなようで、すっかり冒険者の気分でずんずん進んで行くと、やがて出口の扉が見えてくる。
…今日は一体どんな冒険がまっているのだろう。
自分の世界が広がってゆく快感を知ってしまった少女は少しもためらう素振りをみせない。
不安と期待に胸を踊らせながら少女はドアノブに手をかける。
ギシギシと軋無音を立てながら、ゆっくりと、今ドアは開いた_______。