3話 魔法を使ってみましょう
「や…やりすぎちゃった…てへっ!」
「てへっ! ……じゃないよ! 私は吹っ飛ばすどころか、こっちがダメージ受けたのに……」
そう言いながら崩れ落ちる。
「元気出して! きっとはーちゃんはーちゃんだってできるよ………気合で!」
気合でこんなことできるのは、りんねえだけだと思うな。せっかくひ弱から脱却できるの思ったのに。うぅ、どうしてこの世界は私に厳しいのだろうか。
あぁだめだ、だめだ。どんどん悪いほうに考えが言ってしまう。いつもの悪い癖だ。よし!さっきのはりんねえだから、ということにしておこう、そうしよう。
落ち着いたところで顔を上げる、するとりんねえがすごいスピードで移動したり跳んだりしていた。
「はーちゃん、これすごいよ! 力だけじゃなく体もすごく軽くなってるよ!」
うん、もうりんねえだから、でいいや。
「あー楽しかった。はーちゃんはどう?」
「おかえり、結局だめだったよ」
結局あのあと私も走ったり跳んだりしてみたが、普段と変わりがなかった。
「んー、きっとはーちゃんにも何かあると思うんだけどなー。それこそ、はーちゃん頭いいし魔法とか使えるんじゃない? こうぶわっと」
ぶわっとって……しかし魔法。魔法か、なるほど。たしかに耳や尻尾が生えるし、りんねえもあんなことができるなら、魔法が使えてもおかしくないよね。んー、でもどうやって使うんだろう? 取りあえず火の玉でもイメージしてみようか。
そう思って手をかざしながらイメージするが出来ない。手に力をこめてみるが出来ない。あ、だめだ手がプルプルしてきた。イメージでだめだと後は詠唱とか魔方陣? 詠唱か……うぅ前書いていた妄想全開の小説を思い出してしまった。あれまだ処分してなかったんだよね。見つかったらどうしよう。
「魔法といえば詠唱だよ! ほら、前はーちゃんが書いていた小説にもあったじゃない」
…………え?
え!?ちょ、なんで、なんで小説のことをりんねえが知ってるの!?
「その小説の事を……どこで……?」
「いや、はーちゃんがすごい勢いで何か書いていたのを見かけたことがあって、つい気になって……読んじゃった、てへ♪」
てへ♪じゃないよぉぉぉぉぉぉ!!!! え、うそ、あれ読まれたの。あの妄想全開の! 黒歴史といっていいものを!?
「なんて……こと……」
そう言いながら崩れ落ちる私。本日二度目。
「だ……大丈夫だよ、すごく面白かったし! 施設のみんなも面白いって言ってくれてたし!」
「え……施設のみんな……?」
「あ……いや、その、ほら! 面白かったから……ついみんなにも呼んであげたの……てへっ!」
「うそ……でしょぉ……」
だから、てへっ! じゃないよぉぉぉぉぉぉ!!!! みんなにも知られてたなんて、あぁもうだめだ。元の世界に戻ったとき、どんな顔をしてみんなに会えばいいの……。泣きそう。
「えーっとたしかあの小説にあったのは……しんえんよりいでしほのおよー、われにあだなすものをやきほろぼせー! だっけ?」
もういっそ殺して。あぁ、なんであんな物書いたんだろう、というかちゃんと隠せばよかった、いやいや、それよりもすく処分すればよか「はーちゃん、みて見て!」ったって、あれ? りんねえの手から火の玉が出てる。あれ、うそ……本当に魔法使えるんだ。
「ど……どうやったの?」
「詠唱だけだとダメだったから、火の玉イメージしながら詠唱したら出来たよ!」
そうか、やっぱり詠唱なのか。うん、もういいや、どうせりんねえにはばれてるんだし。開き直ろう。
「ふふ……ふふふ…………」
「は…はーちゃん……なんか怖いよ……?」
「大丈夫だよりんねえ、うん。もうばれちゃってるんだし、思いっきりやってみるよ……ふふふ……!」
「笑顔が怖いよはーちゃん! ごめんよぉ、勝手に読んじゃってごめんよぉ!」
りんねえがガタガタ震えている。どうしたんだろう?
まぁいいや、それよりも魔法、魔法だ! ふぅ、落ち着いて深呼吸……まず手を前にかざして……火の玉をイメージして……詠唱する!
「来たれ、深淵より出でし黒き炎よ、我に仇なすものを包み込み……すべてを焼き滅ぼせ!」
詠唱が終わると、かざした手から火の玉が出現し少しずつ大きくなっていった。おぉ! できた……できたよ! 魔法だよ!
「りんねえ! 私にも出来たよ!」
「すごい! すごいよはーちゃん! さすが私の妹だよ!」
「私だってやれば出来るよ!」
やった、やったよ! 夢にまで見た魔法を使えるようになったよ!
そう喜んでいられたのは束の間。火の玉はどんどん大きくなり、それとともに体から何かが抜けるような脱力感に襲われる。あれ、これどうやって止めるの?
「どどどどうしようりんねえ、止まらないよどんどん大きくなるよ、これどうしよう!」
「ちょ、はーちゃんそれこっち向けないで! こわい、こわいから!」
二人してきゃーきゃー言いながら混乱する。そうこうしている間にも火の玉は大きくなっていく。
「はーちゃん! もう危ないから! ぽいって、向こうにぽいってしちゃって!」
「え、ぽい? ぽいって……えーっとえーっと、えいっ!」
分けが分からなくなった私は、りんねえの言う通り手を振りかざし火の玉をぽいっとした。
そして手から離れた火の玉は
目の前にあった木を飲み込みながら地面へと着地し
ドンッ! という轟音を撒き散らしながら私たち姉妹が見守る中
大爆発を起こした
「…………」
「…………」
爆風に晒されながら、私たち姉妹はその様子とただ呆然と見ていた。