29話 きつねっこ!
「お、見えてきたぞ」
オーガジェネラルを倒した後、モンスターの亡骸はそのままにして戻ることに。収納術で仕舞おうかと思ったけど、さすがに今回は一目が多すぎるという事で却下された。
「あれ、なんか門の前に人集りが……」
「ん? あぁ、たぶん西側の討伐隊だな。戻ってきてこっちの話を聞いたからウルゴあたりがすぐいけるメンバーを集めて討伐隊を組んだんだろう」
「へぇ、やっぱりウルゴさんって優秀なんですね。普段はあれですけど」
「あぁ、こういう時は優秀だ。普段はあれだが……っと、噂をすればほら、やってきたぞ」
散々な評価をされたウルゴさんらしき人がすごいスピードでこっちに向かってくる。あ、手も降り出した。元気だなぁ。
「おーい、無事かー!」
「おう、お前らが来るの遅いから倒してしまったぞ」
「悪ぃ悪ぃちょっと良い女を見つけちまってな……って馬鹿言うな! これでもかなり急いで準備したんだぞ!」
おぉ、ウルゴさんのノリツッコミ始めて見たよ。
「ってこんな事言う状況じゃねえな。でそっちはどうだったんだ? こんなに早く戻ってくるってことはたいした事なかったのか?」
「いや、むしろ報告以上だったぞ。オーガジェネラルがいたからな。まぁ倒したが」
「そうか、じゃあたいした事ないな…………ってはぁ!? オーガジェネラルだと! しかも倒したってどういう事だ!?」
まさかのノリツッコミ二回目。ジークさん、絶対ウルゴさんの反応で楽しんでるよね。
「はっはっは!」
「はっはっは……じゃねぇよ! はぁ、もうこっちがどんだけ心配したと思ってるんだ」
「悪い悪い、まだ戦闘の高揚感が抜け切ってなくてな。ついからかってしまった」
「まぁそれは分からんでもないが……な。それじゃあそっちはもう問題ないって事で良いんだな?」
「あぁ、大丈夫だ。ただ、倒したモンスターはそのままにしてあるから、それは回収しないといけないが」
「なるほど、じゃあ今集まっている奴らに回収させるか。結構な人数いるからすぐ終わるだろう」
「それじゃあ、私達は先にギルドに戻らせてもらうわね〜。詳しい話はそこでしましょう〜。お姉さん、さすがに頑張りすぎて疲れちゃったわ〜」
「お姉さんって年じゃあ「ウ・ル・ゴ・ちゃん?」っと俺はあいつらに指示出してくるから先に行っててくれ。じゃあな!」
余計なことを言ってケリーさんに睨まれたウルゴさんが逃げていった。ちょっと見直したらこれだからね、さすがウルゴさん。ケリーさんが黒いオーラを発しながら、逃げ出したウルゴさんを見て笑っている。御愁傷様だね。
「よし、それじゃあ戻るか」
「「はい!」」
ジークさんに促されて、セルカークの街へ向かってまた歩き始める。
「無事に帰って来れてよかったね、はーちゃん」
「うん、最初はどうなるかと思ったけど……無事に終わって良かったよ」
手をつなぎながら笑い合う私達。本当にみんな無事で良かった。さぁ、あとは報告が終われば終わりだから、あとちょっと頑張ろう!
「二人とも無事!? 怪我はない!?」
ギルドに入って早々イメリアさんに詰め寄られ無事を確認された。あまりの勢いにしばらく反応出来なかったよ。
「怪我はないので大丈夫です。ちょっと魔法を使いすぎて体がだるいぐらいですね」
「わたしも怪我はないから大丈夫だよ!」
「そう、ならよかったわ。お帰りなさい二人とも」
私達の返事を聞いて安心したのか私達の前で崩れ落ち、そのまま抱きしめてくるイメリアさん。そして完全にスルーされたジークさんとケリーさん。
「イメリア、二人が心配だったのは分かるが……俺たちに一言もないのはどうなんだ?」
「あなたたち二人は心配するだけ無駄だと学習したので」
すごい辛辣な発言がイメリアさんから出てくる。学習って今までに何があったんだろう……。
「ジークさんって領主なんですよね……? ウルゴさんといい、イメリアさんといい、領主に対する対応じゃない気がするんですが……」
「いいハスナちゃん。日頃の行いが悪いとこんな扱いになっちゃうんだからね。ハスナちゃんは二人みたいになっちゃだめよ」
「おいこらまて、さすがにそれは酷いんじゃないか?」
「それじゃあ今まで行いを全て話しましょうか? それに今回の討伐だって誰にも言ってなかったでしょう?」
「……すまん」
ジークさんが反論したが、イメリアさんの一言で撃沈してしまった。いったい何があったんだろう。聞きたいような聞きたくないような。
「おう、待たせたな……って何があった?」
なんともいえない空気になった所でウルゴさんがギルドにやってきたけど、まぁそんな反応になるよね。
「よ、よしウルゴも戻ってきた事だし、お互い報告しないとな!」
「……そうね、それじゃあ二階にいきましょうか」
これはチャンスとばかりにジークさんが話題をそらした。イメリアさんはまだなにか言いたそうだったけど。
「さて、お互い無事でよかったが詳しい被害はどんな感じだ?」
二階に上がると早速今回の件について話し合う。さっきまでのノリが嘘のようにみんな真面目になる。この切り替えの早さにはなかなかなれないなぁ。
「こっちは報告通り数は多かったが、ゴブリンやウルフみたいな低ランクのモンスターばかりだったから死者までは出なかった。怪我をしたものも初めて大繁殖を経験する若手ばかりで、経験者はうまく連携して捌いていたからほとんど被害はなかったな。どっちかって言うと武器の消費が激しかったから当分鍛冶師たちが大忙しだろうな」
「なるほどな。まぁ死者が出なかったのは良かった。若手の方は良い経験になっただろうし、次あったときは被害を減らせるだろう」
「だな。俺らも初めてのときはそりゃあ悲惨だったしな」
ウルゴさんの言葉を聞き、ジークさんも一緒に笑う。どうやら昔のことを思い出しているみたい。ウルゴさんの若い頃か…………だめだ、想像出来ないや。
「で、そっちはどうだったんだ?オーガジェネラルとかありえねぇ事言っていたが…………いやよくよく考えると嬢ちゃんたちがいたからありえるのか……?」
「ちょっと、私たちが原因みたいに言わないで!」
「……今までのことを踏まえて……否定できるのか?」
「うっ……」
それを言われるとつらいのが私達なんだよね。やっぱりなにか呪われているのかな……。
「まぁそんなに責めるな。今回の討伐は二人がいなかったら出来なかったんだからな」
「そうなのか?」
「そうよ~、オークが百体ほどとオーガが十体いたのだけれど~、ハスナちゃんの魔法のお陰でオークを一掃出来たのよ~」
「オーク百体を一掃って……一体何したんだよ……」
ジークさんたちにフォローしてもらったものの、オークを一掃したことを聞いたウルゴさんがまた何ともいえない表情になっっていた。やっぱりそろそろ本格的にこの世界の基準を覚えないと毎回あきれられそうだよ……。
「ま、そのお陰でオーガに専念できたし、オーガ自体もかなりダメージを負っていたから俺とリンで簡単に倒すことが出来たんだがな。それで思った以上に楽に終われて安心したんだが……」
「その後にオーガジェネラルが出てきた……と」
「その通りだ。どうやら二人が同じような経験をジャイアントボアのときにしたらしくてな。前にもこんなことがあったと話をした矢先に現れた」
「やっぱり嬢ちゃんたちが原因じゃねぇか!」
「違うよ! ………………違うよ?」
「おいこらそこで首を傾げるな!」
ウルゴさんの突っ込みに対して反射的に返事をしたりんねえだけど、数秒考えた後首をかしげながら疑問系に直していた。ちょっときょとんとしながら首をかしげるりんねえはそれはもう可愛らしかった。
「まあオーガジェネラルが出たときはかなり焦ったが、それもハスナの機転のお陰で何とか倒すことが出来た」
「機転ってなんだ?」
「複合魔法ならダメージを与えられたから、ケリーと協力して複合魔法を放ったんだ…………三つ混ぜてな」
「…………三つってなんだ? 俺の耳がおかしくなったか」
「…………正直俺も目を疑ったが、間違いない。三つだ」
「…………そうか、三つか。俺はもう驚きつかれたから…………後は任せた」
そう言って頭を抱えるウルゴさん。え、そこまでの話だったの!? 複合魔法だし人数がいればどんどん混ぜれるものだと思っていたのに。
「複合魔法って二つまでなんですか?」
「一般的にはそうね~、私も今回が初めてだったのよ~」
もう少し早く教えて欲しかった。だんだんやってることが化け物じみてる気がするよ。
「とりあえずあれだ。早急に二人には常識を知ってもらわないといけないな」
「私からもお願いします。このままだと怖くて下手なこと出来ないです……」
ああ、平穏な日常に戻りたい。そう思いながらがっくりと肩を落とす私であった。
「それじゃあ今日はこの辺にしておきましょうか~。二人も疲れてるだろうし今日はゆっくり休みなさい~」
細かな報告も終わったところで解散することに。りんねえと二人で階段を下りると一回にはたくさんの冒険者が集まっていた。そのなかにはオルランドさんたちもいた。向こうも私達に気付いたみたいでこちらにやってくる。
「お二人とも無事だったんですね。オーガの群れに向かったと聞いて心配していたんですよ」
「心配してくれてありがとうございます。なんとか無事に帰って来れました」
「無事ならよかった。それに聞いたぜ、オーガジェネラルを倒したらしいな。ジークさんやギルマスが一緒だったとはいえ、よくやったじゃねえか。二人はこの町の救世主だな!」
クーランドさんがいきなり大げさなことを言い出した。救世主ってさすがにそれはなんか恥ずかしいよ。
「大げさよって言いたいところだけど、今回はクーに同意ね。そもそもオーガジェネラルに立ち向かうこと自体すごいんだからそれを倒したとなると余計にね」
「そうですね。私達が同じ状況だと正直立ち向かえたかどうか……。だからお二人は今回のことを誇っていいんですよ」
「そうよ、さすがハスナ様だわ!」
まさかのキャロさんやオルランドさんまで同意してしまった。そしてカリナさんには様付けされてしまった。どうしてこうなった。
「あわわ、なんかそんなに褒められると恥ずかしいよぅ」
りんねえもちょっと顔が赤くなって恥ずかしがっている。それを見たクーランドさんが目をキランとさせた気がする。ちょっとまって、いやな予感がする。
「クーランドさ……」
「よし、みんな聞け! 今噂になっているきつねっこシスターズがこの町を守るためにオーガジェネラルを倒したぞ!」
ほらいやな予感が当たったよ! クーランドさんがここにいる冒険者達に聞こえるよう大声で呼びかけ、私達を前にやってくる。その声を聞いた冒険者達の視線が全部こちらに向きものすごい恥ずかしい。だれか助けて。
「これガ噂の……」「オーガジェネラルだって……!?」「あんなに小さいのに……」「あの子達恥ずかしがってて可愛い……」「狐耳……!」「猫耳……!」「「はぁはぁ」」
「あわわわわわ」
「ちょっと、クーランドさぁん!」
「あっはっは!」
「笑い事じゃないですよぉ。これどうするんですか! というかきつねっこシスターズってなんなんですかぁ!」
クーランドさんに非難の目を向けても笑って誤魔化されてしまう。それにそう、きつねっこシスターズってなに!? そんなに私達噂になっていたの!?
「あら、二人とも知らなかったの? 結構有名になってるわよ小さいのに強い狐耳と猫耳の姉妹がいるって。だからきつねとねこを掛け合わせてきつねっこシスターズってみんな呼んでるのよ」
「なんですかそれぇ!」
私、もう、涙目。
「そうね、もういっそパーティ名にしたら?」
「イメリアさぁぁぁぁん!」
そんな叫び声をあげながら騒がしく今日も過ぎていく。
結局、その名前が定着してしまうことをこの時の私はまだ知らない。
あぁ、りんねえと二人でただ編凡な日々が送れたらそれでよかったのに、いつの間にか色んな騒動に巻き込まれて、ほんとにもう……どうしてこうなった、だよ。
でも…………こんな日々も、これはこれで楽しいかな。




