28話 真打ち登場です
「よし、これで最後だな」
りんねえとジークさんに追いついた後、残りの8体のオーガをさくっと倒した私達。ほとんどのオーガが魔法のダメージで動きが鈍くなり、かなり余裕だった。
「意外と余裕だったねー」
「そうね〜、まさか討伐までできるとは思っていなかったわ〜」
「ケリーさん、もう戻ったんですか……。でもこのぐらいの強さなら、ケリーさん達だけでも十分討伐出来たんじゃないですか?」
ちらっと見た限りでもジークさんはかなり強かった。大剣を持っていても動きが素早く、オーガの攻撃を全て避けて一撃てしとめていた。
「いやいや、ハスナが最初に撃った魔法がなかったらここまで簡単じゃなかったぞ。そもそもあの数相手だと普通は防戦をしいられるし、体力も持たない。最初にオークを一掃してくれたからここまで楽になったんだ」
「そうね〜私だと一掃は難しいし、出来たとしてもその後戦える余力は残らないだろうからオーガをジーク君一人で相手しないといけないわね〜」
「さすがにオーガ十体を一人は勘弁してほしいな。ま、そう言う事で今回討伐出来たのは二人のおかげだ。助かった」
ジークさんが笑顔でお礼を言って、私達の頭をなでてくれた。うわぁ、ジークさんの手……大きい……。それになんかこう、くすぐったいというかなんというか……。でも悪くない気分。
「「えへへ」」
頭をなでられて自然と笑みになる私達。
「さて、それじゃあいったん戻るぞ。西側の方ももう終わっているだろうからな」
「「はーい」」
無事オーガの群れを討伐出来、さてかえろうかと思ったその時――――
ズドン!
――――と大きな振動が起こった。いやいやいや、まさか、まさか……ね。
「なんだ……?」
「……はーちゃん」
「……言いたい事は何となく分かるけど……何?」
「前にもこんな事があった気がするよ……」
やっぱり同じ事を考えていた。なんだかさっきから汗が止まらないんだよね。りんねえもちょっと顔色悪いし。でもいくら私達があれでもこう何度も続く訳が――――
ズドン! ズドン!!
――――さらに音が近くなったよ……!
「何か心当たりでもあるのか?」
さすがに私達の様子がおかしいと気づいたのか、ジークさんが心配そうに声をかけてくる。
「……前にイノシシの群れに襲われて、無事討伐出来たと安心したらその後にジャイアントボアが出てきたんです。今回もその時と状況が似ているので、さっきから嫌な予感しまくりなんです……」
私の説明を聞き、渋い顔をするジークさん。
「という事は、今回はオークとオーガの群れだから……」
「オーガジェネラルとかかしらね〜?」
そうケリーさんが答えた瞬間――――
オオオォォォォォォ!!!
――――森の中から巨大なオーガが飛び出してきた。……もうやだ。
「あ、あら〜……。まさか本当にオーがジェネラルが出てくるなんて……」
さすがのケリーさんも、名前を挙げたモンスターがドンピシャで出てきて焦っている。
「まさかとは思ったが、本当に嫌な予感が当たるとはな……。気を引き締めろ! さすがにこいつは一筋縄じゃいかないぞ!」
ジークさんの叫び声で気持ちを切り替える。色々思う所はあるが、まずは目の前の敵を倒さないと!
「左右から攻めるぞ!」
「りょーかい!」
ジークさんとりんねえが同時に飛び出し、左右に分かれる。が相手の反応が早く、持っている斧でジークさんを牽制した後にりんねえに向かって腕を振り下ろそうとする。
「りんねえ! っ氷針!」
すぐさま無詠唱で魔法を放ったが、ほとんどダメージは与えられなかった。ただ注意はそらせたので、なんとかりんねえが下がる時間は稼げた。
「ありがと、はーちゃん! それにしても、オーガの早さとは比べ物にならないよ……」
「うん、反応が早すぎだね……。私の魔法もほとんど効いていなかったし」
雷撃槍も放ってみたがやっぱりダメージはあんまり与えられなかった。
「ハスナちゃん、ジーク君が首元を攻撃出来る隙を作るわよ。魔法はだめでも物理ならいけるかもしれないわ」
「分かりました」
いつの間にか真面目モードになったケリーさんの提案に乗り、魔法で隙を作る。
「敵を縛り、動きを封じて、地縛封」
「舞い散れ、舞い踊れ、火炎乱舞」
私が動きを止め、ケリーさんが炎を連発し注意をそらす。
「おおおぉぉ!!」
その隙にジークさんがオーガジェネラルを駆け上り、雄叫びを上げながら大剣を首元へと振り下ろす。
「ガァァァ!」
「ちっ、浅かったか!」
ジークさんの攻撃でやっとダメージは与えられたものの、体勢が悪かったためか浅かった。
ダメージを与えられたオーガジェネラルは痛みで叫び、私の地縛封を破って暴れだしてしまった。持っている斧をめちゃくちゃに振り回し、着地したてのジークさんに襲い掛かった。
「っ!」
「ジークさん!」
それに気が付いたりんねえがとっさに神速を発動してジークさんの腕を取り、その場を離脱した。
「ま、間に合ってよかったぁ」
「す、すまん、助かった……」
さすがに肝が冷えたのか、二人ともその場にへたり込む。見てるこっちも冷や汗ものだったからね。正直間に合わなかったかと思ったよ……。
「しかし、あれじゃあ近づくに近づけんな……」
「あそこに飛び込むのはさすがに怖いよ……」
依然暴れまわっているオーガジェネラル。怒りのせいかこちらには気付いていないけど、それも時間の問題だろうし……なんとか対策を考えないと。
「もう一度魔法で動きを止める?」
「さすがに同じ手は無理だろう」
「魔法じゃあダメージは与えられないし……同時でもだめかしら……?」
「同時ですか…………ん、同時?」
ケリーさんが言った同時という言葉を聞いて一つ思い浮かぶ。複合魔法ならいけるかな……。それも同属性同士なら火力は上がるはず。
「ちょっと思いついたことがあるんで試してみます」
さっそく試してみる。まだ暴れまわっているから、落ち着いて……。
「蝕む炎よ、焦がす炎よ、敵を滅せよ、蒼炎」
蒼い炎を出現させ、顔めがけて放つ。暴れまわっていたせいで少し狙いがそれたものの、腕には命中した。
「ガァァァ!」
「おぉ、はーちゃん効いてるよ!」
オーガジェネラルが叫び声を上げ、命中した腕を見てみるとそこは焼け焦げていた。よし、これならダメージを与えられる!
「蒼い炎……そういえば前ギルドで修行していたときに見たわね」
「はい、異なる属性じゃなくて同じ属性を掛け合わせたら威力が上がったんです」
「なるほどね……。よし、それじゃあここは私とも合わせましょうか」
「ということは三つ合わせるんですね」
なるほど、今の私だと二つが限界だけど、ケリーさんと協力すれば三つも出来るんだ……。一つで赤、二つで蒼なら……三つだと白なのかな?
「それじゃあ私からいくから、合わせて頂戴」
「分かりました!」
ケリーさんと並び詠唱の準備に入る。
「舞い散り舞い踊る炎よ――――」
「――――すべてを破壊する炎よ、邪悪なものを浄化する炎よ、白き炎をもって焼き尽くせ、白炎」
「ガ、ガァァァァァァァ!」
詠唱が終わり、魔法が完成すると白い炎がオークジェネラルを包み込む。その炎を消そうと暴れまわるも、白い炎はその体をどんどん焼いていく。徐々に抵抗も弱くなり、ついに膝を付くオークジェネラル。
「……これは、すごいな……」
「言い出したのは私だけど……正直ここまで効くとは思わなかったわ……」
「私もです……」
「でもきれいだったねー」
あまりの威力に呆然とする私たち。りんねえだけが違う感想だったけど、白い炎はたしかに綺麗だった。
白い炎が消える頃にはもうオークジェネラルの声も聞こえなくなっていた。これで倒せたのかな……?
「グ……ガァ……」
「まだ息があるんだ……」
生死を確かめようとしたら微かなうめき声が聞こえてくる。あれだけ全身黒こげで煙まで出てるのに……。
「リン、止めを刺すぞ。合わせろ!」
「りょーかい!」
ジークさんとりんねえが武器を構えて、弱点である首下へ駆け出していった。
「おぉぉぉ!」「一乃型、一閃!」
二人同時に武器を振り下ろし、首を切り落とす。そして首のなくなったオーガジェネラルの体はそのまま地面へと倒れ伏せた。
「終わった……な」
「そうね……」
「りんねえ、お疲れ様」
「はーちゃんもお疲れ様!」
倒れて動かなくなったのを確認して、ようやく倒せたと実感できた。安心したせいか一気に体の力が抜けて地面に倒れこむ。
「は、はーちゃん!」
「き、緊張の糸が切れたみたい……」
「そっか、びっくりしたぁ……じゃあ私も一緒に寝転がる!」
「ちょ、りんねえ……ふぎゃ!」
地面に寝転がっていた私に向かって飛び込んでくるりんねえ。ちょっと……勢い付けすぎだよ……い、息が……。
「あらあら~」
「あっはっは、噂どおり本当に仲がいいな、お前ら」
ケリーさんとジークさんがじゃれあっている私たちを見ながら笑う。ま、なにはともあれ、長かった戦いがようやく終わりを告げた。




