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27話 大乱闘です

 ケリーさんと一時間後に東門で待ち合わせをした後、準備をする為にギルドを出る。が、よく考えたら特に準備する事もなかったので軽くご飯を食べてから東門に向かった。

 東門に付くとまだケリーさんが来ていなかったので、りんねえと話をしながら門の前で待つ事に。ケリーさんの雰囲気にのまれて疑問に思わなかったけど、こんなにのんびりしていてよかったのかな……?


「どのくらいつよいんだろうねー」


「オークもオーガも戦った事ないからね。でも少なくともジャイアントボアよりかは強いだろうね」


「でもあの時は不意打ちであの数で来られたから、そう思うと今回の方が準備もできるから楽なのかなー」


「だったら嬉しいけど……。今までの流れからするとまた大変な目に会いそう……」


「…………否定出来ないね…………」


 今までの事を思い出し、何とも言えない顔になってしまう。


 しばらくすると漸くケリーさんがやってきた。が、隣に誰かいる……。男の人みたいだけど見た事のない人だった。


「おまたせ〜」


「ケリーさん、あの、隣の方は……?」


「ああ、会うのは始めてだったな。俺はジークリードだ。ジークと呼んでくれたら良い。よろしくな」


 ジークさんがイケメンスマイルで自己紹介をし、大きな手を差し出してくる。私は戸惑いながらもその手を握り、自己紹介をする。


「私はハスナです。隣が姉のリンです。よろしくお願いします」


「よろしく、ジークさん!」


 ちょっと戸惑っていた私と違い、りんねえはいつも通り元気な挨拶をして、ジークさんと握手を交わす。


「ちなみに〜、私の旦那でもあるのよ〜」


「ついでに言えばこの街の領主でもあるな」


「そうなんですか、ケリーさんの旦那で領主って…………えぇぇぇ!」


「あわわ、はーちゃん! なんかすごい人が出てきたよ!」


「旦那が領主で領主が旦那……」


 爆弾発言二連発で混乱する私達。


「おいケリー、なにも説明していなかったのか?」


「だって〜驚かせたかったのよ〜」


「驚かせたかったのよ〜、じゃないですよ! 今から討伐に行くっていうのになんで混乱させるんですか!」


「……楽しそうだったから〜?」


 ケリーさんにペースを乱されっぱなしでなんかもう討伐どころじゃなくなってきた。りんねえはまだ隣であわあわしてるし。


「ハスナにリン、だったか。驚かせてすまなかった。てっきり聞いているものだと思っていたからな。まぁ、領主といってもそう畏まらなくてもいいぞ」


「えっと、じゃあいつも通りにさせてもらいます。正直まだちょっと混乱しているので」


 ジークさんの冷静なフォローのおかげて少し混乱がおさまる。ちなみに諸悪の根源はまだにこにこと私達を見ていた。


「まぁケリーのことは許してやってくれ。あいつなりに緊迫した雰囲気にしないよう気を使っている…………はずだ」


「断言は出来ないんですね…………」


「…………すまん」


「とりあえずこうしていてもしょうがないので出発しましょうか」


「そうだな」


 なんとも締りのない感じで出発することになった。ケリーさんがいる限り、シリアスな雰囲気にはならなさそうだね……。




 門を出て、目の前に広がる平野を目撃証言があった方向へ歩いていく。この平野、少し坂になっているせいであまり遠くを確認できないのが結構痛い。とにかく坂の上まで行かないことにはオークとオーガの群れは確認出来なさそうだね。


「そういえば、ジークさんが出てきて大丈夫なんですか? 領主なんですよね」


「あまり褒められた事ではないんだが……今回は戦力的にそうも言ってられなかったからな。街の方は優秀な秘書がいるから問題ない」


「ということはジークさんも強いんですね」


「あぁ一応Aランクだ」


「Aランク!? それってかなり強くないですか……?」


 思った以上に高ランクで驚いてしまう。Aランクって言えば達人急じゃなかったっけ。


「昔は冒険者だったからな。といっても最近は領主の仕事が忙しくて腕がなまってそうだが……」


「あらあら~そんなこと言って、素振りは欠かしたことないじゃない~」


「あれは日課だ」


 意外と仲が良いケリーさんとジークさん。最初は信じられなかったけど、こう見ると良い夫婦に見える。


「はーちゃん、もうすぐ坂が終わるよー」


 ジークさんたちと話していたら、先を歩いていたりんねえに呼ばれる。確かにもうすぐ坂が終わって、遠くが見渡せそうだった。りんねえの方へ向かい一緒に坂の上まで走っていくと、そこには大量のオークたちが遠くに見える森から出てくる光景だった。


「「うわぁ……」」


 あまりの光景に思わず二人同時につぶやく。ざっと見てオーク百体、オーガが十体ほど混じった大群だった。オークの大群って……ちょっと気持ち悪いね……。


「これはまた……大量に居るな」


「報告では聞いていたけど~いざ目にするとすごい光景よね~」


 後から追いついたジークさんはこの光景を見て渋い顔をし、ケリーさんはいつもと変わらないノリだった。


「さて、ここまで来るのにはもう少し時間はあるが……どうするか……」


 さすがにあの大群に無策で突入するのは無謀だろうね。ジャイアントボアのときは何とかなったけど、今回はそういうわけにはいかない。四人がうまく連携しないと防げないだろうからね。


「とりあえず、私とケリーさんの魔法で出来るだけ一掃ですかね」


「そのあとの打ち漏らしを私とジークさんで叩く!」


「まぁそうなるだろう。広範囲魔法でオークの方は問題ないだろうが確実にオーガは残るだろうからな」


「オーガはどんな感じなんですか?」


「動きはそこまで早くないが、攻撃力は高い。それに巨体だからな、攻撃が届きにくい。セオリーとしては魔法で足止めしている間に足を攻撃して膝を付かせ、首元を一刀両断だな」


「早さには自身あるから任せて!」


「よし、それじゃあそれでいくぞ」


 作戦も無事決まり、オークの群れも近づいてきたので、私とケリーさんは広範囲魔法の準備に入る。この広さなら嵐を起こそうか。


「ハスナちゃん準備は良い?」


「いつでも撃てます」


 さすがに真面目モードになったケリーさん。ケリーさんのほうも準備は出来ているみたいだ。


「それじゃあ先にお願いね、思う存分やっちゃいなさい」


「分かりました」


 ケリーさんのお墨付きを貰ったところで、全力でいってみようか。なんだかんだで全力で魔法撃ったことなかったんだよね。こんな機会滅多にないだろうし、余力は残しつつ……今撃てる最大魔法を!


「渦巻く風よ、轟く稲妻よ、すべてを吹き飛ばす嵐となり、敵を切り裂き討ち貫け、雷嵐!」


 詠唱が終わると、オークの群れをすべて包み込む竜巻が発生し、轟音を轟かせる稲妻とともに敵を蹂躙していく。うわぁ、我ながらちょっとやりすぎた感があるよ。結構離れているはずなのにこっちまで風が来てる。


「思う存分とはいったけど……ここまでとはね……。これ、私いるのかしら?」


「誰だ強さはBランクぐらいだって言ったやつは。これは普通にAランク級の魔法だぞ……?」


「おぉー! さっすがはーちゃん! 敵がどんどん一層されていくよ!」


 目の前の光景にケリーさんとジークさん夫婦がそろってドン引きしていた。いや、思う存分って言ったのケリーさんじゃない。ナノにその反応はちょっと傷つくよ…………まぁ、やりすぎたのは自覚してるけど…………。私の癒しはりんねえだけだよ。


「それじゃあオークはほとんど残っていないけど……降り注ぐ業火よ、さぁ舞いなさい、さぁ踊りなさい、私とのワルツを楽しみましょう、華炎演舞」


 ケリーさんの詠唱が終わると空から花びらのような炎が敵に降り注ぎ、燃やされている敵は炎の熱さにのた打ち回る。な、なかなかにえげつない魔法だね。さすが腹黒魔女と呼ばれるだけのことはあ……


「あらハスナちゃん、なにか失礼なこと考えていないかしら?」


「い、いえ気のせいデスヨ……」


 なぜばれた。いやもう本当に心の声読めてるんじゃないかな!


「おーさすがだ。粗方片付いて、オーガのほうもかなりのダメージを負っているな」


「それじゃあ私たちの出番だね!」


「そうだな……って早速向かってきてるな、右は任せたぞ」


「りょーかいです!」


 ジークさんが言ったとおり、比較的ダメージの少ないオーガ二体が同時に突っ込んでくる。りんねえとジークさんがそれぞれ武器を構えオーガを迎え撃つ。


「りんねえ、援護は任せて!」


「はーちゃん、よろしく!」


 オーガはジークさんが言ったとおり、体は大きいがそこまで早くはなかった。ゴブリンジェネラルに比べれば、どうってことはないよ!

 りんねえへと手に持っている斧を振り下ろすオーガ。それを難なくかわし、振り下ろされた右腕を切り落とすりんねえ。


「ガァァァァ!」


 右腕を切られたオーガは叫び声をあげながら暴れだす。動きが激しくなったせいでりんねえが近づきにくくなったので、魔法で動きを止めることに。


「敵を縛り、動きを封じて、地縛封」


 オーガの足元の地面がオーガを絡めとる。さすがに力が強く、そう長い間動きを止められないが、その少しの時間があれば――――


「一乃型、一閃、やぁぁ!」


 ――――りんねえが問題なく倒してくれるよ。りんねえは動きの止まったオーガの首を一薙ぎで切り落とす。さすがだよ、りんねえ。


「ほぉ、リンのほうもなかなかだな。オーガの首を一発か」


 気付くとジークさんが戦闘を終わらせ近くまで来ていた。ジークさんたちが戦っていた方を見ると縦に裂かれたオーガの死体が転がっていた。縦って……さすがAランク。


「早いですね」


「なに、ハスナの魔法のお陰だ。あれだけ弱っていたら問題ないさ」


「腕がなまっているって言っていたけど、むしろ鋭くなっていた気がするわよ」


「はっはっは、久々だったからつい楽しくてな」


 本当に楽しそうなジークさん。なんだろう、やっぱり領主の仕事はストレスが溜まるのかな……。


「よし、この調子で残りのオーガもさくっと倒すぞ!」


「りょーかいです!」


 ジークさんと同じように楽しそうなりんねえ。この二人、意外と気が合うのかな。似たもの同士の二人はまたオーガの方へと向かっていった。笑顔で。


「ねえ、ケリーさん」


「なに、ハスナちゃん?」


「ギルドで報告聞いたときは結構な大事だった気がするんですけど、この光景見てるとそんな大事に見えなくなってきました」


「そうね、これなら私も何時もの調子に戻しても良いかしら」


「ダメです」


 ケリーさんまで何時もの調子に戻ったら、もうどうしようもないよ。


「ハスナちゃんのけち。それじゃあとりあえず追いかけましょうか」


「そうですね」


 ケリーさんと一緒に、笑顔で暴れている二人を援護しに行く。さて、残りのオーガも片付けようか。

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