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25話 さぁ食べます

 バーベキューの準備をしようと行きこんで飛び出したものの、ここで大変なことに気がついた。私バーベキューしたことないや。


「ねぇりんねえ、バーベキューってしたことある?」


「わたしはないなー。ってもしかしてはーちゃん……」


「うん、私もないの……」


「「…………」」


 私たちの間に何ともいえない空気が流れる。


「まぁ、ほら、どんなものかは何となく知ってるし、あとはノリで乗り切ろう」


「だね! 道具自体もこっちにはないだろうから探したり作ったりしないといけないかな」


「とりあえずあれだよね。あの墨とか木とか入れられて上に網を置く入れ物」


「あと足もついていたよねー」


「そうそう、それ」


 イメージは沸くんだけど、名前が分からない物って結構あるよね。


「あとはお肉を刺す串に……テーブルとかもあったほうが良いね」


「とりあえずお店に行って色々見てみよう!」


 目的が決まったのでりんねえと売ってそうなお店を探す。お店を探しているとなんでもおいてありそうな……というかお店の名前がもう「なんでも屋」っていうお店があった。まずはここを見てみようか。

 このなんでも屋、店先には野菜や花が置かれていて、中をのぞくとお鍋や家具、服まで置いてあった。本当になんでもありそうだね。


「いらっしゃい、可愛いお客さん。何かお探しかな?」


 お店の奥から男の人が出てきた。ここの店員さんかな? それにしても、初対面でこんなこと思うのは失礼だろうけど……まさに奥さんの尻にしかれそうな雰囲気を出している。ものすごく腰が低そうだよ。

 男の人のイメージは置いておいて、探しているものを説明しないと。


「これぐらいの大きさの入れ物ってありますか?」


 手を伸ばしてサイズを教える。


「ちょっと待っててね」


 お店の奥に戻りごそごそを探してくれる店員さん。しばらく待つと丁度私たちがイメージしていた大きさの入れ物をもってやって来た。


「こんな感じでいいかな?」


「まさにイメージ通りです。あとこの幅に合う網とかありますか?」


「これかい?」


 目の前に入れ物にピッタリのサイズの網が出てきた。そうそう、これが欲しかったの…………っていまどっからだしたの!? というか言ってすぐ出てくるって……しかもサイズピッタリ。


「それで大丈夫ですけど……本当にピッタリですね」


「どんな要望にも答えられる。それが売りだからね、この店は」


 まさになんでも屋だね。じゃあ他の道具とかもあるのかな。ちょっと期待しつつ次々と欲しいものを伝えていく。


「包丁まな板、串にお皿にテーブルに椅子に鉄の棒……これで全部かな」


 本当に全部あったよ。確かになんでも屋だけどさ、ここまでくるとちょっと怖いよ。最初から知ってたんじゃないかって疑うレベルだよ。ちなみにトングみたいなものもあった。


「それにしても一体何に使うんだい?」


 店員さんに聞かれたので軽く経緯を説明する。


「なるほど、君たちがウルゴが言っていた子達なのか……」


「あれ、ウルゴさんの知り合いですか」


「えぇ、よく話し相手になってるんだよ。おっと、自己紹介がまだだったね。このなんでも屋を営んでいるサリエットだ。サリエって呼んでくれてかまわないよ」


「あ、ハスナです」


「リンだよ!」


 店員さんじゃなくて店主だったんだ。それにしてもウルゴさんの話し相手か……。仲が良いんだね。


「あ、もし良かったらサリエさんも参加しますか? お肉ならたくさんありますし、ウルゴさんも来ますから」


「いいのかい?」


「はい、サリエさんのおかげで道具を探し回らなくてすみましたし」


「それじゃあ参加しようかな。場所は若葉亭だったね?」


「はい、それじゃあまた夜に」


 無事サリエさんも参加することになった。どうせだったら賑やかにしたいよね。用意してもらった道具をしまい、店を後にする。

 さて次は調味料だね。できれば前屋台で食べた串焼きのタレ見ないなのが欲しいんだけど、なかったら色々組み合わせてみよう。

 食材屋が立ち並ぶ所に向かい、ついでに一緒に焼く野菜なども探してみる。


「はーちゃん、見てこれすごいカラフルだよ!」


 りんねえの方へ行くとそこには赤、青、黄色、桃色、黒とカラフルな葉っぱがあった。


「……戦隊?」


 色がまさに戦隊ものだった。しかも大量にある。


「いらっしゃい、どれも新鮮だよ!」


 お店のおばちゃんがやってきたのでこれが何か聞いてみる。


「おや、これをしらないのかい? 赤がカッラ、青がショッパ、黄色がスッパ、桃色がアッマ、黒いのがニッガと言って名前の通りそれぞれ辛い、しょっぱい、酸っぱい、甘い、苦いよ。どうだい、分かりやすいだろう」


 いや、どうだいって言われても。名前考えた人適当すぎないかな。そのまんまじゃないか。


「ちなみに、そのまま食べても良いけどすり潰して使うと調味料代わりにもなるよ」


 それじゃあちょっと多めに買っておこうかな。おばちゃんに欲しい量を言い、受け取る。まぁさすがに多すぎて驚かれたけどね。あ、ちゃんと緑色の普通の野菜もあったよ。


 その後ちゃんとした調味料を発見し、塩胡椒に砂糖、ソースも手に入れることが出来た。


「一杯買ったねー」


「だね。でも調味料があれば外でのご飯も心配要らないよ」


 いつでもお肉が焼けるし、味付けもばっちり。外での食事事情がどんどん豊かになっていく。


「それじゃあちょっと外に行こう」


「外?」


「うん、炭がないから変わりに森の木を切って薪にしようかと。あと鉄の入れ物と棒をくっつけたい」


「なるほど、じゃあ森へれっつごー!」




 さてさて森へとやって来ました。


「りんねえ、先に鉄の棒を切ってー」


「まかされたー」


 りんねえになんでも屋でかった鉄の棒を丁度良い長さに切ってもらう。それを今度は私が鉄の入れ物にくっつける。バーナーをイメージして火の魔法を発動。入れ物に棒をくっつけ、接着面を火の魔法であぶっていく。ふぅ、うまくいくか自信なかったけどちゃんとくっつけることに成功したよ。


「よし、完成」


 完成すると意外とさまになっていたので、ちょっとうれしくなる。工作も楽しいね。


「はーちゃん、切ってきたよー」


 りんねえが木を手ごろなサイズに切ってきてくれた。さて今度は炭を作らないと。りんねえが切ってくれた木を積み上げ、火で焼いていく。


「ファイヤー!」


 ごうごうと木が燃え……………………灰になった。


「はーちゃん…………」


「………………ごめん」


 りんねえが責めるような目を向けてくる。テンションが上がりすぎてやりすぎちゃった…………。


「ふぁ、ふぁいやぁ~」


 もう一度りんねえが集めてきてくれたので、今度はやりすぎないよう恐る恐る魔法を発動する。


「今度は……うん、大丈夫そうだよ」


「よ、よかったぁ~」


 確認したりんねえの返事を聞き、ほっと一安心。無事に出来てよかった……。


「入れ物の方はどうなった?」


「完璧だよ」


 入れ物の出来上がりを聞いてきたりんねえに、胸を張りながら見せる。思ったよりも良い感じに出来たから自信作だ。


「おぉ~、いいね! あとはお肉を焼くだけだよ!」


「時間的にも戻ったら丁度な感じだね」


「よし、それじゃあ帰って準備しよう!」


 外での作業は終わり、日も大分落ちてきたのでちょっと早足で若葉亭に戻ることに。


「おや、おかえり。今日のことは聞いているから存分に使いな」


「ただいまです。ではさっそく裏庭をお借りします」


「あ、ちょっとまちな」


 裏庭に行こうとするとエリンさんに呼び止められたので、立ち止まって振り向く。なんだろう?


「猪の肉が余分にあるなら少し別けてくれないかい? 焼くだけじゃあつまらないからあたしがスープ作って持っていくよ」


「あ、じゃあお願いします。お肉のほうは一杯あるので遠慮なく使っちゃってください」


「あいよ! 腕によりをかけて作るから楽しみにしてな!」


 笑顔で胸を張るエリンさん。エリンさんの料理は美味しいから楽しみが増えたよ。




 裏庭に着き、りんねえと今日買った道具を設置していく。バーベキュー用の台に今日作った炭をいれ網を張る。一応火がつくかも試したら問題なく燃えたのでいったん消しておく。

 あとはテーブルを置き、そこに猪のお肉を取り出し、まな板の上で丁度いい大きさに切っていく。


「おっにく~、おっにく~。おっにくの山のでっきあっがり~」


 横にいるりんねえが私が切ったお肉を串に刺していく。もうすぐ食べられるとあってものすごく上機嫌で歌いながら刺している。

 結構人が来そうなのでお肉の串の山を三つほど作る。一緒に野菜も一口サイズに切り分けておく。

 さて、後はタレだね。塩胡椒はそのままでいいとして、タレをどうしようか……。ソースは少し濃い目で甘みが少なかったのでとりあえず砂糖と混ぜてみる。混ぜ合わせたものを舐めてみると程よく甘みが出てきたけど、何か物足りない。


「う~ん、これはこれで美味しいけど……ちょっと物足りない感じがするね」


 りんねえも同じ感想だった。よし、それなな調味料にも使えると聞いたアッマを入れてみようかな。桃色の葉っぱを取り出し、細かくみじん切りにする。それをさっき混ぜ合わせたタレに投入。このままだと甘すぎるだろうからソースの方を少し足していく。


「おぉ、これだ!」


 混ぜ合わせたものを早速舐めてみると、アッマのお陰で、野菜の甘みが出ていてうまみが増していた。砂糖だとただ甘さが追加されただけだったから思った以上に違いが出ている。


「うん、これなら美味しいね!」


 りんねえのOKも出たので多めにこのタレを作る。ついでにこのタレを少し別にとりわけ、今度はそこにカッラを混ぜてみた。


「おっ、良い具合にピリ辛になったよ」


 そう、なぜかこの街には甘辛いタレはあるものの、ピリ辛のタレがなかったんだよ。色々露天を見て回ったけど、どれも甘辛いタレばかりだった。この街だけなのかこの世界なのかは分からないけど、せっかくカッラって食材があるんだから作らないとね。


「あぁ、ご飯が欲しい味だね……」


 ピリ辛のタレが掛かったお肉を頬張り、そしてご飯を食べる……。あぁ、想像しただけで生唾が……。


「いつかお米を見つけたいね」


「だね!」


 この世界にあるかどうかすら分からないけど、日本人ならやっぱり探したいって思うよね。


「お、もう準備は出来てるか」


 りんねえとご飯の想像をしていたら、後ろからウルゴさんの声が聞こえてきた。振り向くとウルゴさんと宵の風の4人がやって来た。


「今日はお招きに預かりありがとうございます」


「こちらこそ急なお誘いに来て頂きありがとうございます」


「おまえらはなんでこう、堅苦しいんだよ」


「「つい癖で」」


 オルランドさんと見事にはもった。普段から敬語を心がけてるとついこうなっちゃうんだよね。


「で、今日はバーベキューっていう食事会らしいがどういうのなんだ」


「バーベキューって言うのは外で外でやる見解みたいなものですかね。色んな食材をみんなで焼いて食べるんです」


 クーランドさんに聞かれたのでざっくりと説明し、準備しているものを見せる。


「おお、変わった道具があるな。これに炭を入れて網で焼くのか。ちゃんと足があるから立ったままでも焼けるのは便利じゃねえか」


「こんな道具見たことないけど、確かに便利かもしれないわね。もしかしてハスナちゃんが作ったの?」


「あ、はい。といってもこの入れ物に足をくっ付けただけですけどね」


 クーランドさんたちが私が作ったバーベキュー用の台を食い入るように見ている。思った以上に好評価だね、これはちょっと予想外。


「もうちょっとしたらケリーのやつも来るはずだ」


「あ、来れるんですね。良かった……」


 ケリーさん忙しそうだから心配してたけど来れるなら良かったよ。あ、そうだウルゴさんに伝えておかないと。


「あとサリエさんも誘いましたよ。ウルゴさんの知り合いみたいだったので」


「なんだ、あいつもくるのか。店にでも行ったのか?」


「はん、ここにある道具は全部サリエさんの所で買いましたよ。あそこ何でもありましたから」


「あそこはなぁ……。なんでも出てくるからいまだに謎だ」


「たしかに、冒険者の間でもけっこう有名だよね」


 みんなが、あぁあそこかっていう顔をしていた。たしかにあれだけ品揃え良かったら有名にもなるよね。それにしてもウルゴさんでも謎なんだ。


「あそこでハスナちゃんを頼めば売ってくれるのかしら…………」


「…………カリナさん、怖いこと言わないで下さい…………」


「ごめんなさい、冗談よ」


 といいつつも顔が笑っていないのでちょっと怖い。絶対頼む気だこの人。


「あいつなら……やりかねんな……」


「だから怖い事言わないでください! カリナさんも絶対頼まないで下さいね!」


「おや? 私の話かな」


「ぴっ!」


 今まさに話の中心人物であるサリエさんの声が後ろから聞こえてきて、背筋がヒヤッとした。ちょっとなんでこのタイミングで来るの!


「皆さんこんばんは」


「こ、こんばんは……」


 引きつりながらもなんとか挨拶が出来た。


「どうせ、さっきの話全部聞いていたんだろう? でどうなんだ」


「ちょっと、ウルゴさん!?」


「今ここで仕入れましょうか?」


「サリナさんも!?」


 え、なに、なにこの流れ!?


「はっはっは、冗談だ。びびりすぎだろう狐の嬢ちゃん」


「さすがに私でも人攫いはしませんよ」


 二人して仲よさそうに笑っている。あぁ完全にからかわれた。


「うぅ~、りんねぇ~」


「よしよし~大丈夫だよ~」


 この傷ついた心をりんねえに癒してもらうために胸に飛び込む。あぁりんねえのなでなで……癒される。


「あらあら~楽しそうね~」


 りんねえになでなでしてもらっていると、ケリーさんもやって来た。あれ、コーネリアさんもいる。


「お、コーネリアも来たか」


「ええ、マスターから目を離すわけにもいきませんよ」


「ちょっと~それどういうこと~」


「ケリーさん、コーネリアさんこんばんは」


「どうも、こんばんは」


「こんばんは~、今日は面白そうなことをやるって聞いてがんばって仕事終わらせてきたわ~」


「頑張ったのはわたしですよ……」


 眼鏡を押さえながら溜息をつくコーネリアさん。あぁ大変だったんだろうね。


「スープ出来上がったよ! って勢ぞろいかい」


 エリンさんもスープを持ってやって来た。さて、これでようやく全員そろったかな。


「えー、今日は来ていただきありがとうございます。食べ物はたくさんあるので思う存分食べて下さい。それじゃあ今日は命一杯楽しみましょう!」


 私の挨拶が終わると歓声が上がる。さて、それじゃあ早速焼いていきますか!




「おぉ……良い匂いが……」


 炭に火をつけ網を敷き、準備していたお肉を焼いていく。一緒に焼いていたりんねえはさっそく匂いにやられている。


「お、もうこれいけるんじゃないか?」


「それ、まだタレ付けてないですよ」


 クーランドさんが取ろうとしたお肉にさっとタレを塗っていく。すると香ばしい良い匂いがしてくる。


「よし、焼けましたよー」


 ひとまず全員に行き渡るよう焼いていたので一本ずつ渡していく。


「これは……うまい!」


「ん~おいしいわ~」


「普段こういう食べ方はしないのですが……これはなかなか」


 みんながそれぞれ感想を良いながら食べていく。一番心配だったコーネリアさんにも好評みたいなので一安心だよ。


「っかぁ~、酒にもあってうまいな!」


「うん、美味しいね」


 ウルゴさんとサリナさんはもうお酒飲んでいた。ってどこに持っていたの!


「ん~! 美味しいよう!」


 りんねえは念願のお肉が食べられ満面の笑みだ。


「よし、じゃんじゃん焼いていこう」


 みんな食べるスピードが早いのでどんどん焼いていかないと追いつかないよ。さっきはタレだったから今度は塩胡椒で。ついでに箸休めのお野菜も一緒に焼いていく。


「手伝いますよ」


「あ、ありがとうございます」


 一人で焼いているとオルランドさんが手伝いに来てくれた。こういう気遣い出来る人って良いよね。


「はーちゃん、あ~ん」


「あ~ん」


 りんねえにあ~んをされ、焼きながら食べる。うん、美味しいね。

 次はピリ辛タレを焼きたいけど……


「辛いのが駄目な人っていますか?」


「おれは大丈夫だぞ」


「私も大丈夫よ」


 みんな大丈夫そうなので、さっとタレを塗り焼いていく。


「なんだこれは! ピリッとした辛さが……うめぇ!」


 ピリ辛タレの串焼きを食べたウルゴさんが叫ぶ。よかった、口にあったみたいだね。街で見かけないからもしかしたら……と思っていたけど杞憂だったみたいだね。


「へぇ、これはうまいねぇ。ハスナちゃんが作ったのかい?」


「はい、ソースに砂糖とカッラを混ぜました」


「なるほど、カッラを使ったのかい」


 ケリーさんに感心されるとちょっとうれしいね。

 そうこうしているうちに、最初に準備していたお肉がもうなくなりかけていた。また切らないとダメだね。


「おう、狐の嬢ちゃんちょっと貸してみろ」


 猪のお肉を出して切ろうとしたらウルゴさんがやってきて、包丁を奪い取っていった。


「男ならなぁこう豪快に切って、豪快に焼くんだよ! はっはっは!」


 ドスンとお肉をでっかく切り、それをそのまま網に乗せて焼くウルゴさん。あぁもう酔っ払っているよ。


「うちのがすまないね……」


「いえ、楽しいなら大丈夫ですよ」


 ウルゴさんにつられ、クーランドさんも同じように焼いている。あぁどんどん酔っ払いが増えていく。気付いたら私とりんねえを除いたみんながお酒を飲んでいた。あらら、意外なことにオルランドさんやコーネリアさんも混じり始める。なんかもうカオスだね。でも……


「楽しいねはーちゃん」


「うん、楽しいね」


 みんなで笑って、みんなで騒いで、お肉も美味しかったし今日は大成功だよ。


「よーし、私も焼くぞー!」


「ちょっと、りんねえ!」


 りんねえも混ざりにいってさらにヒートアップ。あぁ、まだまだ今日の夜は長そうだ。

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