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21話 修行します

「お風呂気持ちよかったね~」


「また入りたいね~」


 ギルドに向かいながら昨日のお風呂を思い出しほんわかする。

 結局あの後、ちゃんとエリンさんに報告をし、ウルゴさんは青い顔をしながら部屋の奥へと連れて行かれた。部屋で寝ていたら時偶叫び声が聞こえてきたけど気にしないでおこう。


 さて、今日はギルドの地下を借りて修行をする予定だ。修行って言ったら大げさかもしれないけど昨日話していた通り、りんねえはウルゴさんに、私はケリーさんに見てもらえることに。


「「おはようございます」」


「二人ともおはよう」


「地下の修練場を借りたいんですけど……」


「えぇ、聞いているわ。今日は誰も使わないから思う存分使っちゃって」


 イメリアさんに挨拶をしさっそく修練場に向かう。


「あ、ハスナちゃん。ギルドマスターから伝言で、仕事があるから先に始めちゃって~、だそうよ」


 あらら。まぁしょうがないか。ギルドマスターだし、忙しいんだろうね。


「分かりました。ありがとうございます」


「それじゃあがんばってね」


「「はい!」」


 階段を下りると大きな部屋がありそこからさらに左右に分かれていた。右が魔法の修練場みたいだね。


「わたしは左だね! それじゃあはーちゃん、お互いがんばろう!」


「うん、がんばろう!」


 互いに鼓舞し、それぞれの部屋に入る。

 扉を潜ると、そこは何も無いだだっ広い空間が広がっていた。一応部屋全体に特殊な結界が張られていて、魔法をぶつけても大丈夫なようになっているらしい。ただ昨日ウルゴさんが――――


「いいか狐の嬢ちゃん。絶対に全力で魔法を放つなよ。あそこは結界が張られていて大丈夫だとは思うが、嬢ちゃんなら壊しかねん。いいか、絶対だぞ!」


 ――――って釘を刺されたんだよね。でも、あそこまで言われると逆にやりたくなっちゃう不思議。


「さて、それじゃあやりますか」


 まずはこの前覚えた複合魔術を試してみることに。まずは軽く、水と火でお湯とか出せるかな。そう考えてたら、目の前に水玉が出現した。


「温かいね」


 触ってみると温かかったので、成功したみたいだ。


「ってそういえばさっき何も詠唱してなかったよね……。という事は無詠唱が出来る……?」


 早速氷針で試してみることに。まずは何も発言せずにイメージだけで……は無理だった。なら、詠唱だけ破棄したらどうかな。


「氷針」


 すると、打つもの氷針が出現した。おぉ、詠唱しないでいいのは便利だよ。他の魔法はどうかな。


「風刃」「石壁」「水泡」「地縛」


 一節の魔法は、問題なく発動することが出来た。なら次は……。


「雷撃槍」「風塵」「烈風」


 うーん、さすがに二節の魔法は無理だね。


「敵を貫く稲妻よ、雷撃槍」


 一節に減らしたらいけるかと思ったけどダメだった。どうやら、規定の詠唱か破棄かのどちらかみたいだね。それでも一節の魔法の詠唱が破棄出来るだけだいぶ違うね。


 さて、ちょっと横道にそれちゃったけど複合魔術の実験を再開しよう。次はもっと実践的にしたもので……氷と風で吹雪みたいなものを。


「吹き荒れる風に、敵を蝕む氷よ、氷嵐」


 詠唱を完成すると、見事氷の混じった冷たい風が吹き荒れた。


「寒い! やりすぎて寒いよ!」


 ちょっと範囲を広げすぎたせいで私にまで冷たい風が襲い掛かってきた。


「あわわわ、とりあえずえーっと、炎よ、炎よ、温かくなーれ」


 物凄い適当な詠唱で手のひらサイズの炎をだして暖をとる。


「はぁ、あったか~い……ってあれ?」


 体がぬくもったことで冷静になり、目の前の炎が青いことに気が付いた。あれ、赤じゃなくて青?


「そういえば、青い炎の方が熱いって話を聞いたことがあるような……」


 でもなんで急に青くなったんだろう。あんな適当な詠唱だったのに……詠唱? そういえば炎よ、炎よって詠唱したんだよね。もしかして火と火を掛け合わせたことになった?


「蝕む炎よ、焦がす炎よ、敵を滅せよ、蒼炎」


 すると目の前に蒼い炎が立ち上る。おぉ! 成功したよ! 同じ属性同士でも合わせることが出来るんだ! それにしても蒼い炎か……。


「まだ、ケリーさんは来ていないね……」


 誰もいないなら……そう、ちょっとだけ、ちょっとだけ昔に戻ってみようかな。


「フフフフ……さぁ来たれ、深淵より出でし神をも焼き尽くす蒼き炎よ、我に仇なすものを包み込み……その蒼き炎ですべてを焼き滅ぼせ! 煉獄蒼炎覇!」


 さっきよりもさらに大きい蒼い炎が轟音を上げて立ち上る。


「フフフ、アハハ!」


「ちょっとハスナちゃん! 凄い音がしたけど大丈……夫……?」


「アーッハッハッハッ……は?」


 テンションが上がりすぎて高笑いまでしてしまった所に、ケリーさんがやってきた。どうやら轟音を聞きつけてやってきたみたいだ。ってあれ……私……さっきまで……。


「え~っと、大丈夫そうね~」


「~~~~~っ! にゃぁぁぁぁぁ!」




 さっきまでの事を思い出し、あまりの恥ずかしさにうずくまる私。いくら一人だからってあんな事……。挙句の果てにケリーさんに見られて……。


「えっと、元気出して?」


「うぅ、さっきのは忘れてください……」


「……努力するわ~」


 顔を背けながら返事をするケリーさん。ダメだ、これは絶対忘れてくれない……。


「と、とりあえず、仕事のほうはちょうどひと段落着いたから始めましょうか~」


「ぐすっ、はい……」


「まずは普段使っている魔法を見せて頂戴~」


 ケリーさんに言われ、魔法を使う。まずは一節の魔法。


「氷針」「風刃」


 続いて二節を。


「風よ集まり、敵を吹き飛ばせ、烈風」


 最後に三節。


「天より来る稲妻よ、敵を貫く槍となり、その身を打ち滅ぼせ、雷神槍撃」


「これは……すごいわね~。この短さでこの威力。初級魔術にいたってはもう詠唱破棄できるのね~。ウルゴちゃんが全力は使うなって言った訳が良く分かったわ~」


 前のカリナさんの反応からなんとなく分かっていたけど、やっぱり凄いみたいだね。


「どうですか?」


「そうね~。たしかに詠唱も短く、威力が高い。ただ、ちょっと直線的ね~」


 そういわれると確かに、まっすぐ進むか上から落ちるかだもんね。


「普通の魔術師ならそれが普通なんだけど……ハスナちゃんならもう一つ上を目指しましょうか~」


「もう一つ上?」


「そう、もう一つ上。まずは手本を見せるわ~」


 そう言うと、詠唱を始めるケリーさん。


「ひらひらと、木の葉のように舞い踊れ、炎の舞」


 詠唱が終わると、ケリーさんの周りに木の葉のような炎がたくさん出現し、ケリーさんを守るようにぐるぐると周っている。


「そしてさらに~」


 ケリーさんが腕を前に振りかざすと、周りを舞っていた炎がその方向へ飛んでいく。上から下から、右から左からとさまざまな方向から、どの炎も違う動きをしながら飛んでいった。


「すごい……」


「さて~、見て分かったと思うけど何一つ同じ動きをするものが無かったわよね~。こんな感じで魔法を操作することに挑戦してみましょうか~」


 魔法を操作する。なるほど、確かに今まではイメージしやすいように動きは直線的だった。それにさらに動きを付けるんだね。それじゃあ……普段使わない火で……鞭のようにしなやかに動くイメージを。


「敵を打ち据える、しなやかな炎よ、火鞭」


 手に巻きつくように細長い炎を出す。そして、腕の動きに合わせて細長い炎が鞭のようにしなり、伸びていく。


「できた……」


「あらあら~、まさか一発で成功させるととわね~。しかも発想が面白いわ~」


 この調子でもう一つ。ケリーさんの魔法を参考にして……。


「ふわふわ、びりびり、雷泡」


 詠唱が終わると、雷を纏った泡が私私を守るようにたくさん出現する。


「これは……雷の泡、かしら?」


「はい、近づかれたとき用に身を守る魔法です。咄嗟に使えるよう詠唱は短めなので、威力は控えめですが相手を痺れさせます」


「なるほどね~、確かにこれなら有効だわ~。魔術師にとって接近は死に繋がるからね~」


 そうなんだよね、魔術師近づかれるとやばいからね。でも、やっぱり威力ないのが気になる……。それなら追加で詠唱とかしてみようか。短い詠唱で発動して敵を遠ざけ、それを追撃するようにさらに詠唱。うん、いけそうだね。


「更なる雷を纏い、敵を追撃せよ、雷爆泡」


 私の周りを回っていた雷泡がさらにびりびりと雷を放ち、目標へと飛んでいく。さらに、操作の練習として幾つもの泡を何度も行ったり来たりさせ色々動かしてみる。


「あらあら~、本当に凄いわね~。アイデアも良いし威力も操作も十分。完璧だわ~!」


「あ、ありがとうございます……」


 ケリーさんに絶賛され、さすがにちょっと恥ずかしくなる。でも成功してよかった。これでさらに魔法の幅が広がりそうだよ。




「そういえば、複合魔法ってそんなに特殊なんですか?」


 ケリーさんに見てもらいながら色々試していると、ふとそんな疑問がよぎった。二つの属性を混ぜるなら誰でも出来そうな気がするんだよね。


「そうね、そもそも魔法は各属性の魔力を使って発動するのよ。この各属性の魔力っていうのはみんな多かれ少なかれ、全属性分持っていて、そしてこの魔力が一定以上になるとその魔法が使えるの」


 急に真面目な顔になり説明をしてくれるケリーさん。へぇ、そうだったんだ。属性ごとに魔力が違うんだね。


「そして普通の人は一つずつしかその魔力を引き出せないの。だから複合魔法を使えない。ただ、二人でなら発動させることは可能だわ」


「なるほど、分かりました」


「よし、真面目な講義はこれでおしまい~」


 パンッと手を叩きいつものほわわんとした雰囲気に戻る。すごい、一瞬だ。


「それじゃあ、そろそろ仕事に戻るわ~」


「色々、ありがとうございました。私はもうちょっと頑張ってみます」


「はいは~い、あまり無理しないようにね~」


 にこにこと手を振りながら戻っていったケリーさん。

 さて、色々アイデアもあるし、もうちょっと頑張ろうかな。




 そして数時間後。


「……………………」


「あらあら~、だから無理しないようにって言ったのに~」


 魔法の使いすぎで倒れていたところを、様子を見に来たケリーさんに発見されるのであった。

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