2話 力がみなぎってくるようです
モフモフモフ
とりあえず今の状況を整理してみよう
え、なんで尻尾をモフモフしているかって?
自分の尻尾ながらすごい触り心地がいいんだよ! ちょっと癖になりそう……。
まぁ、尻尾があるなら当然耳もあるよねっ、と言うことで生えてました。頭に耳が。
触った感じからどうも狐っぽい気がする。尻尾もモフモフだし。
後びっくりしたのが髪の色。黒色だったはずが、尻尾とおそろいの綺麗な銀色になっていた。気のせいか、前よりさらさらしてるし。
あとりんねえがいました。隣に。
さっきの私はどれだけ混乱してたんだろうね。隣にいるりんねえに気がつかないなんで。
あ、もちろんりんねえにも生えてたよ。耳と尻尾が。りんねえの方は猫耳だね、さわり心地もなかなかだ。見た目は変わってなくて髪の色が赤っぽくなっていた。これだと私も同じような感じなのかな。
さて、りんねえの寝顔を見るのは好きだけど、このままじゃあまずいしそろそろ起こそうかな。
「りんねえ、りんねえ、おきて」
「ん~……あとごふん~……」
むぅ、やっぱりおきないか。しょうがない。
「早く起きないとご飯全部食べちゃうよ」
「っ! それはだめー! ……っは! ここどこ!」
ちょっと心配になるぐらい単純だね。そのうち食べ物で釣られて誘拐とかされるんじゃないかな。
「おはよう、りんねえ」
「おはよう、はーちゃん……はーちゃん!? なんか耳と尻尾生えてるよ! しかも銀色だよ! そしてここどこ!」
りんねえは混乱している!
ちょっとまえの私を見ているようだよ。
「落ち着いて、りんねえ。取りあえず寝る前のことは覚えてる?」
「寝る前? んー確か縁側でお昼寝しようとして……、茂みから猫と狐がこっちにやってきて……、そしたらすごく眠くなって……、猫を抱いて寝転んだね」
「私と同じだね、んー猫と狐かぁ。やっぱりその二匹が何か関係してるのかな……。あ、ちなみにりんねえにも生えてるよ。耳と尻尾が」
「え、うそ! あ、本当だ、生えてる! ちゃんと尻尾も動くよ! おぉーこれは面白い」
りんねえの尻尾がすごいパタパタしてる。さっきの混乱がうそのように、すごい楽しんでる。
「りんねえ、私の見た目ってどうなってる? 前と変わらない?」
「見た目? 髪の色と耳と尻尾以外はいつものはーちゃんだよー。ふわぁ、こうしてよく見ると綺麗な銀色だねー。さすがはーちゃん!」
いきなり褒められた! でもりんねえに褒められるのはうれしい。そっか、綺麗なのか……ふふふ♪
……
…………
………………
「はーちゃん?」
っは! うれしくて思考が……
「なんでもないよ、りんねえ」
「そう? でもどこだろうねここ、森の中みたいだけど」
「まだ信じられないけど……異世界かもしれないね……耳と尻尾があるし」
「異世界って、最近はーちゃんが最近はまってたあれ?」
「うん、神様とかによばれて、魔物や魔法があるところに飛ばされるやつ」
「おぉ、魔物や魔法かぁ、ファンタジーだね、わくわくしてきたよ! でっかいドラゴンとかもいるかなぁ」
モンスターや魔法って聞いてりんねえがはしゃいでいる。りんねえも好きだもんね、こういうの。
しかし、もし異世界だとして神様や女神様には会わないし、何の説明もないし、か弱い女の子を呼んどいてちょっと不親切すぎやしないかな。もし神様が出てきたら文句言ってやる。
「んー……」
りんねえがそわそわしながら唸っている。
「どうしたの、りんねえ?」
「なんか、体がおかしいというか、すごい軽い感じがするというか、力がみなぎるろいうか、んー……なんだろう?」
軽い? 力がみなぎる? たしかになんか体が軽い気がする。あれか、異世界ものでよくあるチートというやつかな。モンスターをばったばったとなぎ倒して、あそこにある太い大きな木だって素手でふっ飛ばしちゃったりして……。そう考えると、わたしもなんかわくわくしてきたよ。日本ではひ弱だった私も、これが異世界きっとすごい力が! ……よし、手始めにあの木からだ。そう思いながら木の前まで歩いていく。
「はーちゃん? どうしたの?」
目をつぶって、深呼吸をして……よし!
「えいや!」
目の前の木に向かって思いっきり拳を振る。
……
…………
………………
「~~~っっっっ!!!!」
「ちょ、はーちゃん!」
ごめんなさい、ごめんなさい、調子に乗りました。
痛い! ものすごく手が痛い! そりゃそうだよね、思いっきり殴ったもんね!
日本でひ弱な私は、異世界でもひ弱だったよ。ちくしょう。
「大丈夫はーちゃん?」
「うん、だいぶ収まってきたよ」
手をプラプラさせながら答える。我ながらアホな事をしたなぁ。
「よかったぁ、でもびっくりしたよ、いきなり木を殴るなんて。いくら異世界だからってだめだよ、そんなことしちゃあ!」
「うぅ、ごめんなさい」
りんねえに怒られた。いつもなら暴走するりんねんを私が止めてたのに、立場が逆に……。だめだ、だめだ、異世界だって思って浮かれすぎた。
でも私を怒りながら、りんねえがちらちらと木のほうを見る。うん、あれだね、りんねえも試してみたいんだね。だけど私を怒こっちゃった手前、やりたいって言い辛いんだね。
「りんねえ?」
「な、なにかな!? 別に私も試してみたいなんでこれっぽっちも思ってないよ! でも、はーちゃんがどーーしても見てみたいって言うなら試してみないこともないよ!」
どれだけ試してみたいの、りんねえ。しょうがない。
「りんねえ、私りんねえのかっこいい所見てみたい」
「!? しょ…しょうがないなー、はーちゃんがそういうなら、おねーちゃん頑張っちゃうよ!」
そういいながら木の前に立つりんねえ。目をつぶって拳を構える。おぉなんかすごい気迫が、ってあれ? ちょっとまって、なんかすごい嫌な予感がする。いやいやいや、りんねえからゴゴゴゴッっていう効果音が聞こえてきそうだよ。やばいやつだよこれ。
「りんねえちょっとまっ……」
そんな私の呼びかけも空しく、りんねえは拳を放った。
「せいやぁぁぁぁぁ!!!」
すごい風圧を起こしながらりんねえの拳は木の中心を捉え
その後一瞬静寂が訪れて
ドンッ!!という音を出しながら
目の前に聳え立っていた太く大きな木は、根元から折れて
勢い良く吹っ飛んだ。
「…………」
「…………」
私たち姉妹はその様子とただ呆然と見ていた。